「おい! どけ!」
エーテル値の差から恐怖を感じ慌てて道を開ける生徒に、探索者が冷たい目を向け通り過ぎていく。
他クラス合同の実習で、クラスごとに動くとしても一学年150人からの集団がいる。通行の邪魔になっていたのはわかるが、あまりにも暴力的雰囲気を隠しもしない態度に、おいおいと思わずつぶやく。
近くのEクラスだかDクラスだかの生徒が「のろまが」「Fはもっと端に行けよ」「ってか別の日にこそこそと来た方がいいんじゃね?」なんて言ってるのが聞こえて、もしかしてこんな見下した感じが標準なのかと考える。
そんなこと考えてる間にあれよあれよと解散に相なった。
実習てこれで終わりかと肩すかし。
ダンジョン入り口前で中に入ってすらいないんだけど。
少し早いからパーティ組んでダンジョンに潜ってみるなり好きにしろとのお言葉。
これはどうやらFクラスならではの、お有り難いご待遇であるようだ。ほっほーぅ?
一学年にクラスは特進のSからFまであり、成績順に振り分けられている。
ランキング付けもされていて、特進Sは学年40位以内にないと即クラス落ち、ということらしい。AからFクラスにおいては成績優秀者の意思確認がなされて、それ次第で上下の入れ替わりが起こる。上に行くほど優遇され、それは卒業後も続くため、みんなそれはもう必死に上を目指すし、選民意識も根差そうというもの、なのか?
ガラガラとガラスの引き戸を開け、玄関に入る。
「ただいまー」
靴を脱ぎ、すのこに上がって靴を下駄箱に。
おれの懐から飛び出したハムスターとスズメが後からついてくる。
廊下に出て洗面所でうがい手洗い。
廊下を渡り、リビングに入るとテーブルで女の子がご飯を食べていた。高等学校の生徒のはずだ。ぱっと見、クール系の美人。ハムスターとスズメがチョロチョロ。
お疲れちゃん、とおれは女の子に声をかけつつキッチンへ。冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注ぐ。
リビングに戻り廊下を通って自分の部屋に。
街には学園と提携している学生寮が点在している。大きさは様々で、おれのとこは六人の寮生が暮らしていて、一階が男子、二階が女子。数十人規模を受け入れているところもあるようだ。
街の子供たちは学校に通うようになると、ほとんどが寮生活を送る。子供を寮に入れるのは子育ての負担を減らし、次の子供を産んでもらいたいがため。街側はとにかく人口を増やす政策を進めている。補助金支援金もガンガン出す。将来の労働力の確保という意味もあるのだろうが、生存戦略の一環という意味合いが強いよう。
部屋に入るとハムスターとスズメが部屋の中をころころと転がる。
〝
本来はバスケットボールくらいの青と赤の人魂のような姿をしてる。大きさの割にゆらめく
元は天使だか堕天使だか悪魔だか神だかいう話だがホントかどうか知らない。今はもう会話が成立しないので。
赤い方のアポが子グマに変わってごろんごろん。青い方のウォーダンがレッサーパンダに変わって立ったりしゃがんだり。意味はわからない。
しばらく使い魔たちの奇行を眺めてから、空のコップを持ってリビングに戻る。
まだ女の子がメシを食っていた。空いた皿の数がえぐい。どんだけ。
流しでコップを洗い、とりあえず街の様子でも見ようと寮を出た。
大通りに出ると、瓦礫はキレイに脇にどけられている。
自動車は多くないが走ってる。トラックか屋根なしの軍用車。
人々の足としては路面電車が使われているようで、結構な頻度で行き交っている。
革鎧や一部金属の防具をまとい武装した人たちが、通勤電車よろしく車両に揺られている姿はなかなか面白い。
おれも路面電車に乗って街の外縁の方に向かってみる。
平らにならされただけの道路。そこから一段高い石敷きの小島のようなホームに降りた。
目についた階段をのぼり、ビルの屋上に上がる。木のベンチと物干し竿。
見渡せば、隣りは通りを左右に割って軍艦のようにそびえる元は百貨店の雑居ビル。屋上の金網の向こうに、百円で三分がたごと揺れるパンダとパトカー、そびえ立つ高射砲。
街の最外縁に、堆く積まれた瓦礫のバリケード要塞が左右に延々続いてるのが一望できる。
要塞と街の緩衝地帯の廃墟に緑が広がり、家畜が多数放牧されている。食糧であると同時に
そんなことを木のベンチで賭け将棋に興じていたガタイのいいホームレスとサラリーマン風の男が教えてくれた。
「ん?」
空に羽ばたく複数の影が急速に近づいてくるのを見つけた。
数は八。
「けっこうデカイ」
「あー? どした?」
盤面を見ながら無精ヒゲを撫でるホームレスに「あれ」と空を指し示した途端、緊急警報が鳴り響いた。
「うおっ⁉︎ やべっ」
そう言ってホームレスはごわごわした上着を放り出すと走り出し、10メートル近い跳躍を見せ、高射砲がある隣のビルに飛び移った。ええー……。ホームレスは金網に張り付くとがしゃがしゃと乗り越える。虫みたいだった。
「ええー……」
「あの人、領土防衛軍のそこそこえらい人だから」
「へー……あなたは?」
行かないでいいの? と聞けばサラリーマン風の彼はうなずく。
「僕は情報偵察班だから」
「へー……ダンジョンの」
「も、あるね。君は……学園生?」
「はい」
「いわゆる一般の、外部生だろ?」
「そうですね」
「卒業後の進路に防衛軍はどうかな?」
「考えておきます」
「うん」
そんなやり取りをしつつ空を見上げる。
「エアロサウルスだな」
サラリーマン改め、偵察班の人が言う。
羽毛の恐竜が空を飛んでる。というか、恐竜じみた鳥ってニュアンス。
一番デカイ個体でたぶん6から7メートルくらい。ただ翼開長で20メートルはあるので、かなり大きく見える。
デカイということはエーテル値もデカイということだ。その異能に対して、火砲とはいえ通常火器がヤツの防御を上回ることができるのか。
しかし一撃必殺とはいかずとも、痛打にはなるはず。攻撃を集中させれば倒すことはできるか。でもそれだと敵の数がネックになってくる。どのくらいの火砲が配備されてるか知らないが、八体を相手取れるんだろうか。
つらつら考えていると、バリケード要塞からの砲撃が始まった。
三体がバラバラになって肉片が大地に降り注ぐ。
「うえっ⁉︎」
二体が連続する爆発の余波で叩かれ、空中で何度かバウンドするように地面に墜落。ゴロゴロと転がり瓦礫を蹴散らして起き上がると、ヒビ割れた鳴き声で威嚇する。そこに砲弾が直撃して半身を吹き飛ばした。
威力が高すぎる。
「通常火器じゃない……? 魔法が付与されてるのか?」
「あれはね──魔法的防御貫通弾(SPMP)、通称スパムが使用されてるんだ」
「特別製の弾を作ってるわけか。ってことは錬金術師のジョブ持ちがいるんですね」
「さすが、よく知ってるね」
「まあ。……その人に話聞くことって……?」
「誰がそうなのかは秘匿されてるからなあ。難しいと思う」
「そっかー」
「軍で昇り詰めれば会えるかもよ? それに、怒られるかもしれないが正直な話、一般探索者はやめた方がいい。ダンジョンに潜りたいならウチがオススメだよ? どうだい? 君も、防衛軍に、入らないかっ」
おどけたように再び勧誘してくる偵察班の人におれは笑顔を向けた。
「あ、じゃあ帰りますね」
隣のビルから響く砲撃音と、怪鳥の断末魔を背に帰路についた。