ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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一蓮托生バディ

 

 

 

 

 ダンジョン内で得られる最重要アイテムの一つにポーションがある。

 等級による優劣はあれど、万能の回復薬たるポーションの価値は計り知れない。

 ポーションはダンジョンで現物が発見されるだけでなく、作り方が記されたレシピも見つかっている。現段階では下級ポーションの再現が可能になったという話を聞く程度だけれど。

 

 ダンジョンで発見される武器防具・薬品類を魔法の道具──魔道具などと呼ぶ一方で、わざわざそれらとは区別して、アーティファクトと呼ぶものがある。

 唯一無二の品々。

 その制作者をアーティフィサーといい、優れた技量を持つ職人を指すこともあるが、もう少しわかりやすく言うならば、彼らは発明家や芸術家に近い。

 

 錬金術師のジョブがあるように、その知識やそれを行うための魔法がセットになったアーティフィサーのジョブスフィアがあるのかは知らないし、ジョブを得たわけでもないが、おれを──おれたちを分類するならそこだろう。

 

 おれには〈使い魔(ファミリア)〉が三体いて、ダンジョンを安定して進むことができるようになった後に最大の敵として出会ったアポとウォーダンと違い、最初の一体はおれが命の危機に瀕したとき、あいつが消滅の危機に陥っていたとき、一蓮托生、命を預け合った相棒だ。

 

 おれたちがダンジョンで生き残るために、戦闘技術うんぬんの前に、まずは周囲のモンスターに対抗できるだけの()()が必要だった。

 強大なエーテル値が。

 しかし必要だからといきなり増えるはずもなく、おれたちは道具や装備にそれを求めた。

 幸い急場を凌ぐ最低限の設備は整っていた。

 死にかけのおれが、消えかけのあいつの声に導かれ、ダンジョンに融合した建物の中──拷問部屋と見紛うような、実際は錬金術師の研究所。

 そこでおれは消えかかった瓶詰めの光──名も無き人工精霊に出会った。

 おれたちは文字通り命を預け合う契約を結び、命脈を保つ。

 

 ──エディ、聞こえる?

 

 念話で呼びかけると、すぐに繋がった感覚があった。

 

 ──はい、こちら〈富を守るもの(エドワード)〉。いま忙しいので後にしてください。

 

 接続を切られた。おい。なんでだ。

 ダンジョンは入り口で地上との間に空間的な断裂があるようで、電波も届かない。魂で繋がっているはずのファミリアへの念話さえかろうじてといったところで、ほとんど会話も聞き取れないほどノイズがひどい。

 なので今ダンジョン内部におり、数日ぶりに正常に会話できるというのにいきなり切られた。

 

 ──おい、こらエディ!

 ──はい、こちらエドワード。今、蛮族を相手に拠点防衛中。静かにしてください。

 ──あ、はい。

 

 最初、錬金術の薬品から始まったおれたちの生存戦略は、今や要塞の如き拠点を得るまでになっている。

 はじめは錬金術の薬品でお腹をタプタプさせ、吐き戻しながら戦っていたものだ。そのうち、ダンジョンにめり込んだ遺跡や施設から武具を得て、さらに魔道具を造る工作機械的なアーティファクトを回収し、亜人型蛮族からヤツらの城を奪い取って拠点にした。

 どうやら今、城を取り戻そうと襲いかかってきてるようだけど。

 

 ──あろう、聞こえますか?

 ──あ、もういいんスか。

 ──見てみますか?

 

 ヘルムのディスプレイに小窓が立ち上がり映像が映し出された。

 要塞から突き出た長大な二又や三叉の槍から絶え間なく炎や光線が吐き出され、城壁下の蛮族たちを盛大に爆破し、空中に打ち上げている。

 

 ──あ、もういいっス。

 ──そうですか?

 ──まあ、変わりないようでよかったよ。にしても地上に出るとまともに繋がらんのはなんとかしないと。

 ──そうですね。『ガルムヘルム』に増幅機を増設しましょうか。

 ──うん。近いうちに作業の時間を取るよ。貯蔵器は? 転移門(ポータル)を開けるだけのエーテルは確保できてる?

 ──問題ありません。

 ──わかった。そろそろ地上に出る。またな。

 

 ダンジョン入り口付近の煌々と灯る照明が見えてきた。

 ヘルムの耳あたりにあるパーツを一部スライドさせる。ヘルムが半実在の光の線に置き換わり、折り畳まれるようにして耳裏の『耳環(イヤーリンク)』に収納された。

 照明の光に目を細め、地下街の喧騒の中に踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「ヘイHEYへーい! 今日の講師は──俺だZEっ?」

 

 そんな自己紹介とも言えない挨拶から始まった講義。

 ピンクと黄緑の迷彩ジャケットに左側頭部を刈り上げた紫髪の男が先生だという。どうかしてるZEッ。

 

「俺の名前はミルクティ響介。夜・露・死・苦・NE!」

 

 正気か?

 そう思ったが講義自体はわりとマトモだった。彼は普段、夜間や大人のみの学生クラスを受け持っているらしい。

 テーマはダンジョンの何がどう金になるか。

 

「キミらもすぐに探索者として活動を始めるんだろう? そこDE一つ稼ぐ方法を教えYO。素材やアイテムの売却の他に映像記録の提出ってのもあるんだZE。査定に少し時間がかかるが、一時間千円は保証されてっからYO、覚えておくといい」

 

 千円は二十年前の価値に直すと一万円相当。

 この都市ではお金は端末でやり取りされている。

 

「え、一時間同じ場所で動かなくてもですか?」

「イエースっ! 検証資料として価値があるからNE。ただし入り口から250メートル以上離れていないとダメだYO」

「なんでスか? 楽すんなってこと?」

「その辺は職員が定期的に実施してっからだYO」

「へぇ」

「でも撮影機材片手に探索はけっこう厳しいのでは?」

「心配ゴムYO! 事前予約DE小型ドローンの『超小型偵察機(マイクロ・リコン)』を貸し出してもらえるからNE! 利用するといい」

「先生、いくらFクラスといっても、まだ若い子もいるんですセクハラですよ」

「OH⁉︎ シット! すまNEえ、つい」

 

 Fクラスは大人も子供も混合のクラス。

 大人の学生の指摘から急にそんなやり取りが始まったことで大半の学生たちが「え、なんのこと?」と顔を見合わせた。

 

「『心配ゴムYO』が商品名だからじゃないか?」

 

 インテリメガネっぽい少年がそう言うと、隣の席のふわふわ髪のヒロイン力高めの女の子が首を傾げた。

 

「へー、そうなの? なんの商品かな?」

「それは避に──」

「せんせえーッ‼︎」

 

 インテリメガネくんの言葉を、女の子の前の席の元気系男子生徒が大声で遮る。

 

「OH⁉︎ なんだい?」

「講義の続きを! すぐに!」

「はいYO、脱線させてごめんNE?」

 

 悪い大人だなあ、とおれはセクハラを指摘した男を見て思った。言わなきゃ誰も気づかなかったのに。言った本人さえ。

 

「映像記録は研究資料という他に、探索者が参考に視聴することもあるYO。市立図書館に保管されてるからNE、ヒマなら見てみてもいいかも。何を観たらいいかわからんちんというヤツは、『迷宮チャンネル』を進めるZE!」

「迷宮チャンネル?」

「あっ」

「OH! 知ってるヤツもいるみたいだな。映像記録をエンタメに寄せて使おうって試みでNE。エンタメといってもあくまで探索者向けってことで最近始まったんだが、探索者以外にもわりと人気DENEっ。いろんな意味DEオモシロイ探索動画を、ゲストと共に視聴者とコメントをやり取りしながら観ていこうって番組だ‼︎ 公開収録も企画してっから期待してくれYOなッ」

「企画、してる?」

「知ってたヤツも気づくの遅えけどMCはー……俺だZEッ?」

 

 

 

 

 

 

『ヘイHEYへーい! どいつもこいつもこんばんわ。俺だZEっ? 迷宮チャンネル! はじ、める、ZEぃ!』

 

 

:きちゃ!

:へいへーい

:へへへーい

:待ってたー

:ZE

 

 

 

 

 

 




次話 『配信、迷宮チャンネル』 予定
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