ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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ヒーローのいない世界

 

 

 

 

 裏通りのちいさな交差点の角を曲がると、青いビニールシートやタープが見えた。広げられた品物の数々。日曜の公園のフリーマーケットみたい。人だかりの喧騒と音楽が聞こえる。

 むき出しの鉄骨そびえるステージでパフォーマンスするアイドル。

 

『セーコちゃあああんっ』『セーコぉぉおおおっ』『うおおお!』

 

 野太い声援を送る集団の後ろを通り広場を抜け、巨大な工場のような建物に入り込む。

 先ほどのステージとは別種の野太い怒号や呼子、モンスターの体液で汚れた運搬車両が行き交う。

 ここは街にいくつかあるダンジョンの入り口の一つで、大物を仕留めた際の帰還ルートであり、軍などの大部隊を送り込む際にも使用される出発ゲート。

 どんな感じか見るために今日はこっちに来てみた。

 

 戦車さえ載せてダンジョンに侵入することができる巨大な昇降機で、一人ぽつんとトンネル内を斜めに降り続けている時に気づいた。

 あれ、おれ学園に通ってるのにぼっちじゃね? と。

 

「…………なんということでショー」

 

 

 

 

 

 

 今日は2クラス合同でのダンジョン実習。

 

「Fは端を行けハシを」

「俺らの邪魔すんなよ」

 

 Eクラスのそんな声と、慌てて道を開けるFクラスの少年らの姿。

 

「美すぃーニッポンの心はどこにいったんだろうね」

 

 とおれは通りがかった禁制物兄弟に言った。

 

「なに言ってんだ?」

「そんなモノは最初(ハナ)っから無ぇ」

「あんな全力で小物臭を撒き散らすんじゃなくて、どうせならヒーローになればいいのに。そっちの方がよくない?」

「ヒーローなんていないと決めたのはこの世界だろ」

「うん? あー……魔人(デモニック)の問題か」

 

 およそ20年前。ダンジョンやテロリズム、不可解な災害。

 危険に巻き込まれる確率は激増し、その流れの中で、特殊能力保持者の身元を暴こうとする動きが加速した。犯罪者であろうがなかろうが、ヒーロー活動していようがいまいが関係なく。

 

 建物の崩落から助けられた者が、助けたヒーローに壁やドアを破壊したとして賠償を求めた。

 5km先の事件に対しての救助義務違反が適用され逮捕。

 テロに巻き込まれて亡くなった人の遺族が、身元が割れている能力者を訴えた。なぜ助けなかったのか、テロの犯人だからに違いない。

 助けられても「あ、どうも」。

 家に勝手に上がってきたと思ったら、テレビのニュースを指さし「何をやってる! 早く行けっ‼︎」

 家にコンクリブロックを投げ込まれ家族が怪我しても、家族も守れないヒーローなどと嗤われる。

 なのに、いざ危険が迫ると大挙して押し掛け助けてくれと迫る。

 君はヒーローなんだからと。

 そんな人々に、ある元ヒーローは涙を流して言ったという。

 

「あなた方にこの上ない不幸が訪れんことを、心より願います」

 

 彼は娘を亡くしたばかりであった。

 

 

 ヒビトとイリヒトがさっさと横を通り過ぎていく。ふと、ヒビトが振り返った。

 

「まあ、仮面ライズは好きだけど」

「特撮ヒーロー見たことあんの?」

「親父のコレクションの中にあった」

 

 今度はEクラスの連中が二人に道を開け、忌々しそうな顔で見送っていた。

 

「なんだかなー」

 

 

 E、Fの各一班ずつを一組とし、教師に代わり上級生が数名引率につく。

 数が少ない教師は順繰りに見て回るようだ。

 上級生は学年が上のEクラスなので、基本的にFクラスは無視されるが、それはまだ良い方だ。黙ってついてくるなら何も言われないから。

 上級生によっては殴ったり、エーテル値の暴力で脅かしたり。

 

 この街は鎌仲組という超武闘派の非合法組織が主体として在り、それに対抗するように学園という組織がある。教育機関でもあるし学園は良識ある組織かと思いきや、どうもそうではないようだ。

 元々は鎌仲組、学園、商店会の三大組織がバランスを取りつつ都市を運営していたが、いつしか鎌仲組が頭一つ抜け出して、商店会は力を失った。

 都市のほとんどの仕事は鎌仲組のグループ企業であり、学園を卒業すれば多くが自然と鎌仲組の傘下に入ることになる。学園は自身が統括する探索者を確保し勢力の拡大を図ろうと躍起になっている、とセワシが教えてくれた。

 

「すごく簡単に言えばだけどね。持ちつ持たれつであることはもちろんだし、ほとんどの人はそんな権力争いとは無縁に過ごしてるけど。キョースケ先生だって探索者で学園の講師で『迷宮チャンネル』の番組パーソナリティだけど、所属は鎌仲組官衙(かんが)の広報部だし」

「へー。ミルクティ響介なんてふざけた名前してんのにお役所勤めか。ってか詳しいんだな」

「まあ、それなりにね?」

「街での生活より学園での生活の方が権力者の意向を感じ取り易いんかな」

「そうだね。ランキングとかあからさまなのもあるし、教育の現場っていう性質上、若年層が多いから影響されやすいってこともあると思う。あとはブランディングかな」

 

「テメーらFのくせにくっちゃべってんじゃねえぞ! 黙って空気のように存在を消してただ着いてくりゃいいんだよ!」

「まあまあ、怒ってくれるのはありがたいけどね。そのくらいにしてくれ」

「し、しかし、チカト先輩」

「だって時間の無駄だろう?」

 

 嗜められたEクラスの生徒が途端に顔を輝かせた。

 

「ですよね!」

「これから僕がFのお前たちにも特別にスキルを見せてあげよう」

「え、先輩スキルオーブをゲットしたことあるんスか⁉︎」

「フ、まあね」

「すげえ! もうすでにスキルを習得してるなんて! ほとんどいないんじゃないですかっ⁉︎」

 

 なんだろう。ゴマスリと鼻が伸びていく様をただ見せられているコレは。

 

 得意満面のチカト先輩はぴょんとジャンプすると、空中でもう一回ぴょこんと跳ねた。

 はじめのジャンプ自体が大して高く跳べてないせいか、ものすごくショボく見えた。

 

「……あ、す、すげえッス! チカト先輩!」

 

 大丈夫か? 間があったぞ。あ、とか言ってたぞ。

 

「フ、これが僕のスキル【二段ジャンプ】さ」

「……二段……?」

 

 おれはこそっとセワシに聞いた。

 

「一回空中で跳ねるだけ? 名前が【二段ジャンプ】ってだけで実は何度も跳べるとかでなく?」

「ちがうよ」

「じゃあこの間の『迷宮チャンネル』で出てきた【空中ステップ】の完全下位互換ってこと?」

「そうだね。最近になってこの手のスキルが結構見つかってるらしくて、下級より下の低級スキルなんて言われてるよ」

「マジんがー? 知らんかった」

「なにそれマジんがー? ふふふ」

 

 ツボにハマったのかセワシがころころと笑った。

 

「こるるるるるるるぁああああ゛あ゛あ゛────Fぅぅぅっ‼︎」

 

 

 

 

 実習が終わると現地解散。

 俺はその足で市立図書館に向かった。

 受付でタブレット端末を借り、適当な席に着く。

 時間一万円になるという公開されている探索記録の一覧を眺める。

 日付順におおよその場所。たまにパーティ名が記されていることもある。

 テキトーに選んで視聴するが、レンタルした『超小型偵察機(マイクロ・リコン)』を後ろに飛ばして、本当にただ延々と記録するだけの映像だ。

 

「資料だっつうからこれでいいのかもしんないけど、眠くなるぅー」

 

 

 

 

 

 

 山田あろうの後ろの席から立ち上がり、そのまま図書館を後にする。

 小柄な壮年の男性の姿が一瞬ブレると、顔形だけでなく服装まで変化する。

 セワシは小走りでその場を離れ、野外ステージがある広場に着くと、裏に回りつつ、再びブレた。

 スタッフに挨拶しながらヒラヒラの衣装を着た少女は、マイク片手にステージの中央へと飛び出した。

 

「みんな────ッ」

『セーコちゃあああんっ』

 

 

 

 

 

 

 

 

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