念能力教師は世界を変える   作:kakarotto

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第12話 タシカ×ナ×キボウ

 

あの後、マリアには念能力の基本技術を一通り試してもらった。纏に加え、絶、凝、そして練も、完璧とは行かないまでも、問題なくやってみせた。そして、練ができたということは⋯

 

「姉さん。水見式、やってみよう」

 

俺は、水の入ったコップにそこらで拾った葉っぱを乗せながら言った。

 

「⋯うん⋯!」

 

マリアは緊張と興奮が抑えきれないような表情をしていた。自分の系統次第で、足を治すような発が作れる可能性が変わってくるのだから、無理もない。

 

「さあ、姉さん。このコップに向かって練を使って」

 

姉さんはコップに向かって手を伸ばし、練を使い始めた。その体から、力強いオーラが立ち昇る。

 

俺は、固唾を飲んでその変化を見守った。葉っぱが動くか?水が溢れるか?それとも…

 

しかし、派手な変化は起こらなかった。葉っぱは微動だにせず、水も溢れる気配はない。

 

「あれ⋯?何も起きないよ…?」

 

マリアが不安そうな顔で俺を見た。練はしっかりとできている。オーラもコップの水に影響を与えているはずなのに、目に見える明確な変化がない。ということは…

 

「姉さん、焦らないで。そのコップの水、少し舐めてみてくれないか?」

 

「え?舐めるの?分かった⋯」

 

マリアは戸惑いながらも、俺の言葉に従い、コップの水をほんの少しだけ指先につけて舐めた。

 

「…甘い!アレン、砂糖でも入れたの?」

 

その言葉を聞いて、俺は確信した。

 

「姉さんのオーラによって味が変わったんだ。姉さんの系統は、変化系だよ」

 

「⋯私…変化系なんだ…」

 

マリアは、自分の系統が分かったことに、ひとまず安堵の表情を浮かべていた。

 

「変化系か…悪くない、と思う。オーラの性質を変えられるなら、治癒系の能力にも、色々なアプローチが考えられるはずだ。良かったね、姉さん」

 

俺は、マリアの肩を叩いた。実際、原作のビスケは、オーラに疲労回復効果のあるローションのような性質を持たせていた。治癒や再生などの効果を持たせることだってできるはずだ。

 

「うん…!」

 

マリアは、目に若干の涙を浮かべつつも、笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

それからの俺とマリアは、瞑想によってオーラ総量を増やしたり、オーラ操作を練習したりといった、念の基本的な修行は継続しつつ、マリアの発を考え始めた。

 

マリアは変化系だ。治癒系の発を作るとなれば、オーラに治癒力を持たせる、と考えるのが普通だが⋯

 

下半身不随を治すとなると、そう簡単にはいかない。そもそもの傷が人間の治癒能力の限界を超えている。損傷した神経細胞を再生させるような、高度な再生能力が付与できるのだろうか⋯

 

俺は、ノートに様々な可能性を書き出しながら、マリアと共に頭を悩ませた。

 

「やっぱり、ただオーラに治癒の性質を持たせるだけじゃ、難しいかもしれないな…。もっと具体的な効果、例えば神経細胞の再生を促すとか、損傷した組織を修復するとか、そういうピンポイントな性質をオーラに持たせないと…」

 

俺がそう言うと、マリアの表情が少し曇る。その難しさを感じ取ったのだろう。

 

「…うん。でも…どうすれば、そんな性質をオーラに持たせられるの…?私、神経細胞なんて見たこともないし…」

 

マリアの言う通りだ。変化系の能力は、術者が変化させたい対象の性質を深く理解し、強くイメージできなければ、その性質をオーラに付与することは難しい。しかし、損傷した神経細胞の再生メカニズムなど、俺たちには到底理解できない。

 

俺は、変化系の本質について、改めて思考を巡らせた。ヒソカはオーラをゴムとガムの両方の性質を持つ『伸縮自在の愛』に変えていた。⋯そして、失った腕のパーツを伸縮自在の愛で補っていた⋯

 

…もしかしたら、必ずしもオーラに治癒能力を持たせる必要はないんじゃないか…!?

 

「姉さん!」

 

俺は、思わず大きな声を出した。マリアが驚いたように俺を見る。

 

「オーラに治癒力を持たせるんじゃなくて…姉さんのオーラそのものを、失った神経の代わりに使うっていうのはどうだろう?」

 

「オーラを…神経の代わりに…?」

 

マリアは、戸惑いながらも、俺の言葉に耳を傾ける。

 

「ああ。姉さんのオーラを、脳からの信号を通す細い糸のように変える。そして、それを損傷した部分に繋いで、脳からの命令を足に伝える新しい神経回路として機能させるんだ!」

 

マリアの瞳が、希望の光で大きく見開かれた。

 

「それって…私のオーラで、新しい足の神経を作るってこと…?そんなこと、本当にできるの…?」

 

「できるかもしれない。変化系なら、オーラの性質を自在に変えられる。神経の代わりになるようなものに変えることだって、理論上は可能なはずだ。もちろん、とてつもなく難しいだろうけど…」

 

俺の言葉に、マリアはゴクリと唾を飲み込んだ。その表情には、興奮と覚悟が浮かんでいた。

 

「やってみたい…!アレン!私、そのオーラの神経、作ってみたい!それなら…また、自分の足で歩けるようになるかもしれない…!」

 

マリアの声は、震えていた。その瞳には、失われた日常を取り戻すことへの、切実で力強い願いが宿っていた。もう、ただ守られるだけの存在ではない。自らの力で運命を切り拓こうとする、強い意志がそこにはあった。

 

俺は、その言葉と表情を見て、胸が熱くなるのを感じた。この困難な挑戦に、マリアは真正面から向き合おうとしている。

 

「ああ。俺も全力でサポートするよ」

 

俺たちは、顔を見合わせ、力強く頷き合った。

 

「でも、アレン。具体的にどうすればいいの?オーラを…神経みたいに変えるって…」

 

興奮が少し落ち着くと、現実的な疑問が浮かび上がってきたようだ。神経だって、直接見たことがあるわけではない。

 

「いきなり神経に挑戦するのは難しいだろう。だから、まずはもっと単純なものから練習しよう」

 

「単純なもの?」

 

マリアが首を傾げる。

 

「ああ。例えば…オーラを、数字の形に変えてみるんだ」

 

俺はそう言って人差し指を立てた。

 

「ほら、姉さん。凝を使って俺の指を見て」

 

マリアは、俺の言葉に従い、目を凝らした。

 

「…あ!数字の『1』になってる!」

 

「これが、オーラの形状変化の第一歩だ。姉さんは変化系だから、操作系の俺よりもずっと簡単に、そして安定してオーラの形を変えられるようになるはずだ。まずは、この『1』という形を、自分のオーラで作り出してみてほしい」

 

マリアは深呼吸をすると、真剣な表情で自分の指先に意識を集中させ始めた。そして、次の瞬間には、その指先に俺が見せたものと寸分違わぬくっきりとした『1』が形作られていた。

 

「⋯こう?」

 

マリアは、自分の指先に浮かぶオーラの「1」を見て、少し得意げな表情を浮かべた。

 

⋯完璧だ。『魂の教科書』で教えたのだから当然だが⋯俺がこのレベルのコントロールを身につけるには1年以上を要した事を考えると、『魂の教科書』の有用性が良く分かる。

 

「そうだ。あとは、図形のレパートリーを増やしていって、変化スピードを速くしていく練習だ。姉さんは変化系だから、俺よりも上達が早いと思う。遠い道のりに思えるかもしれないけど、頑張ってほしい」

 

「分かった!」

 

マリアは、力強く頷いた。どうやら自信がついたらしい。いい傾向だ。

 

 

 

 

 

 

 

それから数週間、マリアは俺の想像を上回るスピードでオーラの形状変化をマスターしていった。最初は数字や記号から始め、徐々に複雑な図形、動物の形、そして最終的には、空中に細く長い糸のようなオーラを安定して維持できるようになった。

 

ある晩、マリアが細く長く伸ばしたオーラの糸を、指先で器用に操っているのを見て、俺はついに切り出した。

 

「姉さん、オーラの形状変化はもう十分だろう。いよいよ、次のステップに進む時だ」

 

マリアは、オーラの糸を霧散させ、期待に満ちた目で俺を見た。

 

「次のステップって…もしかして…」

 

「ああ。そのオーラの糸に、『性質』を付与する訓練だ。最終的には、脳からの信号を脚に伝える神経を目指すことになる。けど、最初から神経を再現するのは難しいと思う。だから、まずは伝達性を持たせる訓練だ」

 

「伝達性?」

 

マリアが、不思議そうに首を傾げる。

 

「そうだ。オーラの糸に微弱な振動を乗せて、それを正確に伝える練習をする。脳からの命令も、何らかの信号として神経を伝わっていくはずだから、その感覚をオーラで再現するんだ」

 

「振動を⋯伝える⋯」

 

「最初は、指先で感じた小さな振動を、オーラの糸のもう一方の端に寸分違わず伝える。例えば、俺が姉さんの指をトントンと叩く。その振動を、オーラの糸を通して、もう片方の手で感じ取れるようにするんだ。それができたら、もっと複雑なリズムやパターンを伝えてみる。この訓練で、オーラの糸を、情報を運ぶための媒体として機能させる感覚を養うんだ」

 

「なんだか…糸電話みたいだね」

 

マリアが、ふとそんなことを言った。

 

「そうだな。正確な情報を、正確に伝える。それが重要だ。一つ一つのステップは地道な訓練になると思う。でも、これを乗り越えれば、姉さんのオーラは、本当に神経の代わりとして機能し始めるかもしれない。そして、その先には…」

 

俺は、言葉を区切り、マリアの顔を見た。

 

「…また、歩けるようになるかもしれないってことだよね…!」

 

マリアの瞳が、強く輝いた。

 

俺は、マリアの肩に手を置いた。

 

「焦らなくていい。俺も一緒に考える。一緒に一歩一歩進んでいこう」

 

「うん!ありがとう、アレン!」

 

マリアは、力強く頷いた。その顔には、迷いは一切なかった。

 

「よし、じゃあ早速やってみようか。まずは、短いオーラの糸を作って、俺が送る振動を感じ取ることからだ」

 

俺は、マリアの指先に自分の指を近づけてトントンと軽く叩き、ごくごく微弱な振動を送る。

 

マリアは、目を閉じ、全神経を指先に集中させている。その真剣な表情は、かつてサッカーの試合で見せたものと同じものだった。

 

 

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