念能力教師は世界を変える   作:kakarotto

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昨日は更新できなくてすみません!予約投稿間違えました…


第15話 マリア✕ノ✕ハツ

 

マリアが初めて自分の足で歩いてから、あっという間に1ヶ月が経った。この間にマリアの念能力は驚異的な成長を見せた。

 

あの日の成功体験が、マリアの中で眠っていた何かを解き放ったかのようだった。一度心と体で「できる」と理解すると、そこからの進歩は目覚ましく、俺の補助がなくても、マリア自身がオーラ神経の操作感覚を掴み、瞬く間に洗練させていった。

 

「アレン、今の動き、どう? 前よりスムーズになったでしょ?」

 

納屋の中で、マリアは平行棒を使わずに、自力で立ち、ゆっくりとだが確かな足取りで歩いている。足の裏のオーラ神経は、地面の硬さや凹凸、傾斜といった情報を正確に捉え、そのフィードバックを受けて全身のバランスを調整している。まるで、本物の神経が機能しているかのようだ。

 

「ああ、すごいよ姉さん。特にバランスの取り方だ。無意識に近いレベルで調整できるようになってきてる」

 

俺は感心しながらノートに記録する。最初はオーラ操作に意識を集中しすぎて、他のことが疎かになっていたマリアだが、今では歩きながら俺と会話することもできるようになった。これは、オーラ神経の操作が、意識下から半無意識、そして無意識の領域へと移行し始めている証拠だ。

 

「ふふん、すごいでしょ?」

 

マリアが少し得意げに笑う。かつてのような塞ぎ込んだ表情は、もうどこにもない。足が動くようになったことで、自信と明るさを完全に取り戻していた。

 

歩行速度は日ごとに増し、ぎこちなさも消え、自然なリズムで地面を踏みしめられるようになった。納屋の中だけでなく、夜に庭や村の小道を歩く練習も始めた。最初は俺が常に傍について支えていたが、今では短い距離なら一人で歩けるまでになっていた。

 

そして、マリアは決意した。

 

「ねぇ、アレン。明日…みんなの前で、歩いてみたい」

 

「…家族のみんなの前で?」

 

マリアは静かに頷いた。サラ叔母さんとトーマスさんには、マリアが毎日納屋で俺と天体観測や自然観察をしていると伝えていた。まさか歩けるようになっているとは、夢にも思っていないだろう。そして、ルークとクレアにとっても、それは想像もできない奇跡のはずだ。

 

「うん。…みんなに、私の元気になった姿を見てほしい。そして、…ありがとうって、伝えたいんだ」

 

マリアの瞳には、希望と共に、家族への感謝の思いが宿っていた。

 

翌日、俺はマリアの車椅子を押して母屋へと向かった。ちょうど、サラ叔母さんとトーマス叔父さんが朝食の片付けをしている頃だった。ルークとクレアは、すでに庭でジョージとエミリーと遊んでいるのが見えた。

 

「サラ叔母さん、トーマスさん、ちょっとみんなに見てもらいたいものがあるんだ」

 

俺が声をかけると、二人は不思議そうな顔でこちらを見た。庭の子供たちも、俺たちのただならぬ雰囲気に気づいたのか、遊びを止めてこちらを見ている。

 

俺は、マリアの隣に立ち、その体を支えるように構えた。マリアは深呼吸すると、俺に頼ることなく、ゆっくりと、しかし自分の力だけで立ち上がった。

 

「えっ…!?」

 

サラ叔母さんが、驚いて手に持っていた皿を落としそうになる。トーマス叔父さんも、目を見開いて立ち尽くしている。ルークとクレア、そしてジョージとエミリーも、まるで時間が止まったかのように固まっている。

 

マリアは、皆の驚きと視線を一身に受けながらも、怯むことなく、前を向いた。そして、ゆっくりと、右足を前に踏み出した。

 

一歩。二歩。三歩…

 

マリアが、自分の足で歩いている。それは、数ヶ月前には考えられなかった光景だった。かつては車椅子なしでは一歩も動けなかったマリアが、今、自分の力で大地を踏みしめ、前に進んでいる。

 

「…マリア…!? あ、歩けるのか…!?」

 

トーマスさんが、震える声で叫んだ。サラ叔母さんは、両手で口元を覆い、目に涙を浮かべている。ジョージとエミリーも、信じられないものを見るようにマリアを見つめている。

 

「マリアねーね! あるいてる!」

 

ルークとクレアが、歓声を上げてマリアに駆け寄ろうとした。

 

「危ない! ルーク、クレア、待って!」

 

俺が慌てて二人を制止する。マリアはまだ完全に安定しているわけではない。マリアは、ルークとクレアの方を向いた。その顔は、涙と、最高の笑顔で輝いていた。

 

「ルーク…クレア…見ててくれた…? ねえね、もう、歩けるようになったんだよ…!」

 

マリアは、そのまま歩き続け、ルークとクレア、そして駆け寄ってきたサラ叔母さんとトーマス叔父さんの元へと向かった。数メートル先の彼らの元へたどり着くと、マリアはそこで立ち止まり、皆の顔を見回した。

 

「叔母さん…トーマスさん…心配かけて、ごめんなさい。そして…本当に、ありがとう…」

 

マリアは、感謝の言葉を口にすると、そのまま膝から崩れ落ちた。サラ叔母さんが慌ててマリアを抱き止める。

 

「マリア! 大丈夫かい!? 無理しすぎたんじゃないの…!?」

 

「大丈夫…ただ…嬉しくて…」

 

マリアは、サラ叔母さんの腕の中で、子供のように泣きじゃくった。トーマスさんも、優しくマリアの肩を抱き寄せた。ルークとクレアは、マリアにしがみつき、明るい笑顔を浮かべていた。その場は、感動と喜びの渦に包まれていた。

 

その夜、俺は自室でノートを開いた。マリアの念能力は、想像を超える速度で進化している。オーラ神経は、マリアの意思にほぼ無意識で従うようになり、その精度は、もはや本物の神経と見紛うほどだった。

 

このペースでいけば、マリアが完全に自由に歩き回る術を身につけるのも、そう遠い未来ではないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、陽の光が納屋に差し込むと同時に、マリアは立ち上がる。今や、車椅子を使う必要はなくなった。マリアの足は、以前のように痩せ細ってはいない。他の子供達と同じように歩くこともできる。最近は、老犬となったチャーリーとゆっくりと村中を散歩する姿をよく見かける。

 

歩くだけではない。走ることも、ジャンプすることも可能になっていた。 村の裏山まで駆け上がり、木々の間を縫うように走る。以前なら考えられなかった俊敏さと持続力だ。地面を蹴り、空高くジャンプする。空中でのバランス調整も自在で、まるで重力を無視しているかのようだ。着地の衝撃さえもほとんど感じさせない。

 

そして、複雑なスポーツさえも可能になっていた。 特に、マリアが何よりも望んでいたサッカー。庭でジョージやエミリー、ルーク、クレアと一緒にボールを蹴る。その動きは、クラブチーム時代よりも遥かに洗練されていた。正確なパス、素早いドリブル、そして力強いシュート。オーラ神経は、脳からの複雑な指令を瞬時に足に伝え、ボールの回転や地面の状態を精密に感知する。

 

「ねぇね、すごいー!」

 

ルークとクレアが、マリアの華麗なボールさばきに歓声を上げる。

 

マリアは今や、足だけでなく全身にオーラ神経を巡らせるようになった。それによって、マリアの運動能力は、不随になる前よりも遥かに高まっていた。それは、何もオーラで身体能力を強化しているから、ということだけが理由ではない。以前との決定的な違いは、その感覚の精密さと、脳と全身の間の情報伝達スピードだ。

 

全身のオーラ神経を通じて、気温、湿度、風向き、地面の傾き、さらには地中にいる虫の微弱な振動までも感知できるようになった。そういった、通常は意識しないような無数の情報が、オーラ神経を通じてマリアの脳に送られてくる。なんでも、まるで世界が今まで以上に鮮明になったかのような感覚らしい。

 

そして、マリアのオーラ神経の凄さはそこだけではない。

 

「姉さん、ちょっとこれやってみようか」

 

ある日の納屋での訓練中、俺は一本の定規を用意した。

 

「なーに?」

 

マリアが興味深そうに定規を見る。

 

「反応速度を測ってみよう。姉さんの動きをみて、オーラ神経の伝達速度がどれくらいか気になったんだ」

 

俺は椅子に座ったマリアの目の前で、定規をゼロの目盛りがマリアの親指と人差し指の間に来るように構えた。そして、予告なく定規を離し、マリアにそれを掴んでもらう。落下距離が短いほど、反応速度が速いということだ。

 

「よし、いくぞ」

 

俺はタイミングを見計らって定規を離した。定規が落下し始めた瞬間、マリアの指がそれを掴む。

 

「はい!」

 

「…嘘だろ?」

 

俺は掴まれた定規の目盛りを確認し、目を見開いた。落下距離は…ゼロ? いや、ほんの数ミリズレているようだ。

 

「どう? 私、早い?」

 

マリアが自信満々に尋ねる。

 

「早い、なんてレベルじゃない…これは…人間の反応速度じゃないぞ…」

 

俺は唸った。オーラ神経の伝達速度が極めて高いことは予想していたが、これほどとは。おそらく、視覚情報が脳に伝わり、運動神経を通じて筋肉に指令が伝わるという通常のプロセスよりも、オーラ神経を介した情報伝達のほうが遥かに高速で行われているのだろう。

 

こうして、マリアの発は完成した。マリアは、この発には特に制約と誓約を盛り込まないことにした。足を取り戻すために発を作ったのに、その能力に厳しい条件をつけていては元も子もないからだ。

 

「それで、姉さん。発の名前はどうするの?」

 

「もう決めてるけど…言わなきゃだめ?」

 

「ダメ」

 

どうやら恥ずかしがっているらしい。俺だっていっちょ前に『魂の教科書』なんて名前を言うのは恥ずかしかったんだ。

 

「…『体に、ありがとう』」

 

「…『体に、ありがとう』…?」

 

予想外の、あまりにもシンプルで、そして温かい名前に、俺は思わず繰り返した。てっきり、『オーラ神経』とか、もっと能力の技術的な側面に焦点を当てた名前を選ぶと思っていたからだ。

 

マリアは、少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに続けた。

 

「うん。あの時…動かなくなった足を見て、私の体は壊れちゃったんだって、もうダメなんだって思った。でも、アレンが教えてくれた念能力で…またこうやって、動けるようになった…」

 

マリアは、自分の手足を見つめる。そこに、以前のような無力感や悲しみは微塵もなかった。

 

「私の体は、一度は壊れちゃったかもしれないけど…でも、オーラが新しい神経になって、また使えるようにしてくれた。だから…この体に…ありがとうって、言いたかったんだ。これが…私の能力の名前」

 

『体に、ありがとう』

 

技術的な説明でも、能力の効果を誇示するような名前でもなかった。それは、失われた身体への感謝、そして、再び与えられた動ける体への愛という、マリア自身の偽りのない気持ちそのものだった。

 

制約と誓約を設けなかったのに、これほど強力な能力となったこと。それは、この「体に、ありがとう」という能力の根源にある、純粋で肯定的な感情が、何よりも強力な誓約となっているからなのかもしれない。失われた身体への絶望、そして再び得られた希望への感謝。その強い思いが、能力に歪みや代償を必要としない、まっすぐな力を与えているのだとしたら…

 

俺は、マリアの選んだ名前に、ただ感銘を受けていた。それは、俺が原作の理屈で理解しようとしていた念能力の枠を超えた、もっと個人的で、もっと深い、マリアの魂そのものと繋がった能力であるように感じられた。

 

「…良い名前だね、姉さん」

 

俺は、マリアに向かって、心から言った。

 

「…アレンも、ありがとう!」

 

そう言うマリアの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

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