誤字が多くてすみません…自分では意外と気付けないものですね…
チャーリーを念能力に覚醒させたことで、トーマスさんと叔母さんは、俺達に特殊な能力があることを薄々感じ始めたようだ。
⋯いや、疑念が確信に変わった、という方が近いかもしれない。もともと、俺の身体能力は異常に高かったし、下半身不随で一生治らないと宣告されていたマリアが急に立ち上がって走り回り始めたのだ。普通じゃないことはすぐに分かっただろう。
⋯叔母さん達には、念能力の存在を教えても良いかもしれない。俺は、自分の目的を果たすため、いずれ村を出ていかなくてはならない。マリアもそれについて来てくれると言っている。
いつかは絶対に教える必要があったのだ。今回のことは、いいきっかけになった。⋯ひとまず、マリアと相談しよう。
日が沈み、いつものようにマリアとともに納屋で2時間ほど修行した後、俺は切り出した。
「姉さん。叔母さん達に、念能力を明かさない?」
マリアは、俺の突然の提案に目を見開いたが、すぐに納得したような表情を見せた。今朝の叔母さんたちの反応を思い出したのだろう。
「念能力のこと、話すの?」
「ああ。隠し通せることじゃないしね。自分たちから言った方が良いと思う」
「分かった。アレンがそう思うなら話そう」
マリアは、深く考えることもなく答えた。もともと、隠そうとしたのは俺からだったし、秘密を抱え続けることに、限界を感じていたのかもしれない。
その後。俺たちは、子供たちが寝静まり、トーマスさんと叔母さんだけがくつろいでいる居間に入った。
「叔母さん、トーマスさん、話があるんだ」
「うん?どうしたんだい?アレン、マリア」
トーマスさんはいつものように穏やかな声で言った。
「何でも言って良いんだよ」
叔母さんも、編み物をする手を止めて言った。
俺は、意を決して口を開いた。
「二人とも⋯俺達に、特殊な力があることには気づいてる⋯?」
トーマスさんは、顔を固くしつつ頷いた。
「⋯ああ。アレンは俺より力持ちだし、マリアは急に足が治った⋯チャーリーが元気になったのも、その力なんだろう?」
「そうだよ。⋯ずっと隠してて、ごめん」
「気にすることは無いのよ。二人は賢い子だから⋯理由があったんだろう?」
叔母さんが、優しい声で言った。
「それで、何で急に明かそうと思ったんだ⋯?」
トーマスさんが尋ねた。
「別に、大きな理由があったわけじゃないよ。ただ、いつまでも隠せないのは分かっていた。だったら、できるだけ早く言ったほうが良いと思ったんだ。それで、本題はここからだ⋯」
俺は、一息ついてから言った。
「この能力は、念能力っていうんだ」
「念能力?」
叔母さんが、初めて聞いたという表情で聞き返した。
「そう、念能力。念能力は、選ばれた人だけが生まれつき持ってるような能力じゃないんだ。俺は、あるきっかけでこの能力の存在を知って、鍛え始めた。俺が念能力を身に着けたのは6歳の時だ」
「たった6歳で?」
叔母さんが驚いて言った。
「そう。だけど、その時は家族の皆には秘密にしていた。父さんと母さんには、言えずじまいだった⋯」
俺は、両親の顔を思い出し、少し声が詰まる。
「アレン⋯」
叔母さんは、俺の後悔を感じ取ったのか、悲痛な顔を浮かべて小さく呟いた。
「そして、姉さんに念能力教えたのは1年くらい前、こっちに来てからだ。姉さんの脚を何とかしてやりたかったんだ。そして⋯ちょっと説明が難しいんだけど⋯俺は、人に念を教えるための能力を作った」
「能力を⋯作る?」
叔母さんが不思議そうな顔で言った。念を知らない人にとっては難しい概念だろう。
「そう。そして俺は、その能力を使って姉さんを念に目覚めさせた。姉さんが歩けるようになったのは、自分でそのための能力を作ったからだ。姉さんがそのためにとても頑張ったのは間違いないけど⋯念能力がなければ、いくら頑張ってもできなかっただろう。チャーリーが元気になったのも、念に目覚めたからだ。」
「⋯何が何だか良くわからないけど、その念っていう能力のお陰で、マリアは歩けるようになったし、チャーリーは元気になった、っていうことね⋯?」
叔母さんは、なんとか理解しようとしている。
「とりあえず、念能力がどんな力なのか、何となくは分かってくれたと思う。だから、もし良ければだけど、俺の能力で二人を念に目覚めさせることも⋯」
「だめだっ!」
俺が提案しようとしたとき、それまで静かに話を聞いていたトーマスさんが急に大声をあげた。その声には、いつもの穏やかさは微塵もなく、強い拒絶と、恐怖の色が混じっていた。マリアは怒鳴り声に驚いて俺の体に抱きついた。
「あんたどうしたの!急に大声あげて⋯子供たちが起きちゃうでしょ!?」
「⋯すまん。ごめんな、アレン。でも、ダメなんだ⋯ほら、俺達は元気だからな、そんな力にはまだまだ頼らんぞ!」
トーマスさんはそう言って俺達に力こぶを作って笑みを見せたが、その笑顔は、どこかぎこちなく見えた。
「⋯分かった。無理に覚えなくちゃいけないものでもないしね。でも、知りたくなったらいつでも言ってね」
俺は、トーマスさんの拒絶の裏に何かがあることを感じ取りながらも、表面上は受け入れた。
「ああ。ありがとう。⋯それと、もう一つ頼みごとがある」
トーマスさんが、深いため息とともに言った。
「どうしたの?」
「⋯エミリーとジョージには、念能力のことを教えないでくれ。聞かれてもだ。君たちみたいに苦労してきてないから、力を手に入れたら簡単に溺れてしまうだろう。まずは自分の力で壁にぶつかっていってほしいんだ」
本音かもしれないが⋯本当にそれだけなのか? 念能力を拒否した理由と、子どもたちに教えないでほしいと願う理由の間に、何か繋がりがあるように思えた。
「⋯分かったよ。ジョージとエミリーには、聞かれても教えない」
俺はその願いを受け入れた。
「ありがとう。⋯それで、話っていうのはそれだけか?」
「うん」
「そうか。それなら、今日はもう遅いし、寝てしまおう。おやすみ!」
トーマスさんは、無理に明るい声を出して言った。
「⋯おやすみ」
俺とマリアも、どこか重い空気を感じながら、居間を出た。
「⋯ねえ、トーマスさんの反応、ちょっと変じゃなかった?」
寝室に入った後、マリアが俺に耳打ちするように言った。⋯やはりマリアも、トーマスさんに違和感を感じたようだ。
「⋯ああ。なにか隠し事があるのは、間違いないと思う」
俺は頷いた。
「しかも…念能力って言葉を聞いた時、明らかに動揺してたのに、説明した内容にはそんなに驚いている様子がなかった」
マリアは真剣な顔になる。
「トーマスさんは、念能力のこと知ってた…ってこと?」
「恐らくはね。叔母さんは知らないみたいだったけど…トーマスさんの決定には何も言わなかった。…トーマスさんがなんで念能力を恐れたのか、心当たりがあるんだろう」
「うーん…考えてもわかんない!」
俺は、マリアの言葉に静かに頷いた。寝室のランプの僅かな灯りが、お互いの不安げな顔を照らし出す。
「トーマスさんのあの剣幕、ただ単に念能力が未知のものだからってだけじゃ説明がつかない。まるで、念能力そのものを忌み嫌っているような⋯そんな感じだった」
俺は、先ほどのトーマスさんの表情を思い返す。普段の穏やかな姿からは想像もつかない、硬直した顔と、声に滲む恐怖。そして、俺の提案を遮った、あの鋭い拒絶の表情。
「うん⋯それに、エミリーとジョージに教えないでって頼むときも、なんだか必死だったよね。『力を手に入れたら簡単に溺れてしまうだろう』って言ってたけど、それだけなのかな⋯」
マリアも、トーマスさんの言葉の裏にある何かを感じ取っているようだ。
俺は腕を組み、思考を巡らせる。
トーマスさんは、俺の身体能力やマリアの回復を見て、俺たちに特殊な力があることには気づいていた。チャーリーが元気になったのも、その力のおかげだと理解していたはずだ。それなのに、自分たちがその力を得ることを、あれほど強く拒絶したのはなぜか。
考えられる可能性はいくつかある。
トーマスさん自身、あるいは近しい誰かが、過去に念能力や念能力者絡みで酷い目に遭った、という可能性が最も高い。もしそうなら、念能力に対して強い警戒心や恐怖心を抱くのは当然だ。力の恐ろしさ、それが引き起こす悲劇、それに巻き込まれる危険性⋯そういったものを身をもって知っているのかもしれない。
例えば、過去に念能力が引き起こした凄惨な出来事を目の当たりにしたとか。あるいは、念能力の力によって、大切な何かを失ったとか。そういった経験があるからこそ、自分たちだけでなく、子供たちにもその危険が及ぶことを、何よりも恐れているのかもしれない。だとすると、俺の提案を遮るようにあそこまで強く拒絶したことにも頷ける。
そして、叔母さんがトーマスさんの決定に何も言わなかったのは、叔母さん自身は念能力を知らなかったとしても、トーマスさんが念能力を恐れる理由に何か心当たりがあるか、あるいは、トーマスさんが過去に経験したかもしれない出来事を知っているから、止めることができなかった⋯そんな風にも考えられる。
「⋯とにかく、トーマスさんには何か秘密がある。しかも、念能力に関わる、かなり重い秘密だ」
「うん⋯」
マリアも同じ結論に至ったようだ。
「…結局のところ、現時点では俺たちにできることは何も無い。トーマスさんが話してくれるのを待つしかない」
探るべきか、という考えも一瞬頭をよぎったが、それはトーマスさんたちに対する裏切り行為になる。それに、どんな秘密なのかも分からない今の段階で、無理に聞き出そうとするのは得策ではないだろう。
「ただ、トーマスさんの様子には、注意しておこう。そして、もし何か力になれることがあるなら⋯」
「うん、そうだね。困ってるなら、助けてあげなきゃね」
…トーマスさんは、直接血の繋がりがあるわけでもない俺達を引き取って、何不自由ない生活をさせてくれた。きっと、悪意があって隠し事をしているわけではないだろう。今の俺達にできることは、信じることだけだ。