念能力教師は世界を変える   作:kakarotto

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第19話 アラタ✕ナ✕キキ

 

俺とマリアの堅の修行は、順調に進んでいた。父さんの懐中時計が刻む時間は、確実に俺たちの成長を示してくれていた。5分が6分に、6分が7分にと、堅を維持できる時間は着実に伸びていく。

 

ビスケの言っていた、最低でも30分という目標は、まだ遥か遠くにあったが、それでも一歩ずつ近づいているという実感は、俺たちのモチベーションを高く保ってくれた。

 

「アレン、見て! 今日、10分超えたよ!」

 

ある日の修行後、マリアが汗だくの顔で、しかし満面の笑みで懐中時計を掲げて見せた。

 

「本当か!? すごいじゃないか、姉さん!」

 

俺も自分のことのように嬉しくなり、マリアとハイタッチを交わす。俺も最近では9分後半くらいは安定してもつようになっていた。

 

修行は堅だけでなく、それぞれの系統の能力開発にも時間を割いた。俺は操作系、マリアは変化系の系統別訓練に力を入れる。

 

マリアは原作でキルアがやっていたような修行をすればいいが、残念ながら操作系の俺は修行の前をする相手がいない。だから、試行錯誤の末に家の周りにいる虫を捕まえて操る訓練を自分で考案して取り組んでいる。

 

こちらの方の修行も、悪くないペースで進んでいた。⋯一つ不満点があるとすれば、マリアの上達スピードが俺より遥かに早いことだ。マリアは俺の『魂の教科書』によって俺が会得した技術を手に入れられるが、俺はマリアの修業の成果を手に入れられないからだ。

 

⋯自分以外の人の知識や技術を習得するための発でも作ろうかな。

 

そんなふうに修行する俺たちの足元では、チャーリーが元気に尻尾を振っている。以前は寝てばかりだったが、俺の能力で念に目覚めてからは、驚くほど活発になった。時折、俺たちの修行を不思議そうに眺めたり、納屋の周りを駆け回ったりしている。その元気な姿は、俺たちの心を和ませてくれた。

 

 

 

 

そんな穏やかな日々が続いていたある日のことだった。

 

いつものように修行で汗を流し、心地よい疲労感とともに納屋の扉を開けた瞬間、目の前のトーマスさんの家の前に、一台の黒光りする自動車が停まっているのが見えた。

 

この村ではまず見かけない、大型のセダンタイプだ。陽光を鈍く反射するその車体は、不穏な存在感を放っていた。

 

俺の脳裏に、あの時のヨークシンの光景が浮かぶ。あの時感じた緊張感と危険な匂いが、今、このホープウェル村にも漂い始めている気がした。

 

車のドアが開き、中からぞろぞろと男たちが降りてきた。四人全員が黒いスーツに身を包んでいる。

 

彼らは無表情のまま、鋭い視線で周囲を値踏みするように見回す。一人が、トーマスさんの家の扉を、遠慮なくノックした。

 

「⋯アレン」

 

マリアが、俺の袖を小さく掴んだ。その声は微かに震えている。

 

「ああ⋯間違いない。あいつら⋯」

 

俺もマリアも、ヨークシンで何度もマフィア絡みの事件に巻き込まれた経験がある。だからこそ、彼らが醸し出す雰囲気、その佇まいだけで、やつらが普通ではない人間⋯おそらくはマフィアの類だと、直感的に分かった。

 

あの、腹の底が冷えるような感覚。平和なこの村には、あまりにもそぐわない存在。

 

ちょうどその時、母屋からトーマスさんが出てきた。男たちに気づいたのだろう。その表情はいつもと違い、固くこわばっている。

 

トーマスさんは、男たちと短い言葉を交わすと、一度こちらに視線を向けた。そして、俺たちに気づくと、厳しい顔つきで手招きをした。

 

俺たちが近寄ると、トーマスさんは厳しい顔で言った。

 

「アレン、マリア。お前たちはしばらく他の子供たちと外で遊んでいなさい。チャーリーも一緒にな。絶対に居間には近づくんじゃないぞ」

 

その声には、いつもの穏やかさはなく、有無を言わせない強い響きがあった。

 

俺たちは顔を見合わせ、黙って頷くしかなかった。

 

俺たちは、トーマスさんの言いつけ通り、子供たちが遊んでいる広場の方へ向かった。だが、頭の中は先ほどの光景でいっぱいだった。

 

しかし⋯トーマスさんが、どうしてマフィアと⋯?

 

あの温厚なトーマスさんに、裏社会の人間との接点があるとは、到底信じられなかった。しかし、目の前で起きた事実は、その信じがたい可能性を突きつけてくる。

 

マリアも、隣で唇を噛みしめている。俺と同じことを考えているのだろう。チャーリーは、俺たちの不安を感じ取ったのか、心配そうに俺の足にすり寄ってきた。

 

男たちが帰ると、トーマスさんはひどく疲れた顔で居間から出てきた。そして、何事もなかったかのように俺たちに微笑みかけるのだが、その笑顔はどこか強張って見えた。

 

「もう大丈夫だ。心配かけたな」

 

そう言うだけで、彼らが誰で、何のために来たのかについては、一切触れようとしなかった。

 

その訪問は、一度では終わらず、むしろ徐々に頻度を増していった。月に一度だったものが、二週間に一度になり、やがて週に一度訪れるようになった。

 

そのたびに、トーマスさんは俺たちを遠ざけ、居間では緊迫したやり取りが繰り返される。叔母さんの表情は日に日に曇りが増し、子供たちの間にも漠然とした不安が広がっていくのが分かった。

 

俺とマリアの間に、数ヶ月前に薄れかけていたトーマスさんへの疑念が、再び色濃く頭をもたげてきた。

 

 

 

そんな状況が、半年ほど続いた。

 

俺たちの堅の修行は、ついに30分を超えるところまで到達していた。確実に力はつけている。しかし、その一方で、トーマスさんの周りには、目に見えない黒い影が、じわじわと日常を侵食してきているような、不気味な気配が漂い始めていた。

 

今日も、黒服の男たちはやってきた。

 

いつもより人数が多く、二台の車から7人が降りてきた。⋯そのうちの一人は、念能力者だ。俺たちは、こいつに姿を見られてはいけない。

 

俺とマリアは、納屋の少し手前から、息を殺してその様子を窺っていた。

 

トーマスさんは、いつも以上に厳しい表情で男たちと対峙している。居間からは、激しい口論が行われているのか、トーマスさんの怒声がいつも以上に荒々しく聞こえた。

 

叔母さんは、居間の扉の前で不安そうに立ち尽くし、ルークとクレアは、そんな叔母さんの背中にしがみつくようにして震えている。小さな背中が、恐怖に小刻みに揺れているのが見て取れた。

 

やがて、居間の扉が乱暴に開き、男たちが出てきた。その中の一人、特に大柄で顔に大きな傷跡のある男が、トーマスさんの胸倉を掴み、何かを吐き捨てるように言った。その声は低く、脅迫的な響きを帯びていた。

 

トーマスさんは、唇を噛みしめ、悔しそうに男を睨みつけている。しかし、その体はわずかに震えていた。

 

まずい⋯!

 

俺は直感的に危険を感じた。いつものような、ただの威圧や口論ではない。明らかに、状況が悪化している。あの男たちの目には、容赦のない冷酷な光が宿っていた。ヨークシンで見たのと同じ、本物の危険がそこにあった。

 

男は、トーマスさんを乱暴に突き飛ばし、床に倒した。トーマスさんは、よろよろと立ち上がろうとしている。

 

その光景を見て、俺の脳内では、あの時の父さんの姿がフラッシュバックしていた。父さんを襲う暴力と、それを止められない自分への怒り。⋯何も変わっていないじゃないか。

 

そんな俺の無力感など関係なく、男たちはトーマスさんを嘲笑うかのように一瞥すると、何も言わずに自動車に乗り込み、土煙を上げながら乱暴に走り去っていった。

 

残されたトーマスさんは、その場に崩れ落ちそうになるのを、なんとか踏みとどまっている。叔母さんが悲鳴に近い声を上げて駆け寄り、トーマスさんの身体を支えた。子供たちは泣きじゃくっている。

 

「アレン⋯」

 

マリアが、俺の服の袖を強く握りしめた。その顔は青ざめ、瞳には恐怖と怒りが入り混じっていた。

 

俺は、固く拳を握りしめた。指の関節が白くなるほどに。

 

もう、見て見ぬふりはできない⋯!

 

トーマスさんが何を隠しているのかは分からない。だが、あの男たちが、トーマスさんやこの家族にとって、明らかな脅威であることは間違いない。そして、その脅威は、今まさに牙を剥こうとしている。

 

「⋯姉さん、行こう」

 

俺はマリアに短く告げ、トーマスさんたちの元へ駆け寄った。チャーリーも、俺たちの後を追って力強く地面を蹴った。

 

「トーマスさん! 大丈夫!?」

 

俺が声をかけると、トーマスさんはハッとしたように顔を上げた。その顔は蒼白で、額には脂汗が滲んでいる。

 

「アレン⋯マリア⋯見ていたのか⋯」

 

その声は弱々しく、いつもの張りはまったくなかった。

 

「そうだよ。あの人たち、一体誰なんだ! トーマスさんに何を⋯」

 

俺が詰め寄ろうとすると、叔母さんが涙ながらに弱々しく俺たちを制した。

 

「アレン、マリア⋯今は⋯今はそっとしてあげて⋯」

トーマスさんは、ふらつく足取りで家の中に入ろうとした。

 

⋯だめだ。今聞かなければ、またごまかされるだけだ。

 

「⋯待って」

 

俺は、自分でも驚くほど低い声で言った。トーマスさんの足が止まる。

 

「トーマスさん⋯俺たちに、話してくれ⋯あいつらのこと、そして、トーマスさんが抱えている問題のこと」

 

俺は、まっすぐにトーマスさんの目を見つめて言った。

 

「俺たちは、ただの子供じゃない。少しは、力になれるかもしれない。⋯ずっと無関係ではいられない」

 

「そうだよ!」

 

俺の言葉に、マリアも力強く頷いた。マリアにとっても、いや、マリアは俺以上にマフィアたちを恨み、目の前で起こったことに怒りを感じているのだ。

 

トーマスさんは、しばらくの間、何も言わずに俺たちを見つめていた。その表情には、驚きと悩みが入り混じっているように見えた。

やがて、トーマスさんは深いため息をつくと、力なく言った。

 

「⋯分かった。君たちには⋯全部を話そう。⋯だが、他の子供たちがいないところでだ」

 

その言葉は、この半年間、俺たちがずっと待ち望んでいたものであり、同時に、これから始まるであろう困難の幕開けを告げるものでもあった。

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