さて、念を習得するという方針は決まったものの、何から始めたらいいのかまるで分からない。原作を参考にしようにも、ゴンとキルアは1000万人に1人の天才で、熟練の念能力者であるウイングさんに精孔をこじ開けてもらうという、作中で危険とされるやり方で念を習得していた。
俺には師匠はいないし、才能も期待できない。おまけに3歳児だ。当然ながらこのやり方は無理だ。となると、ズシみたいに瞑想で少しずつ精孔を開いていくしかないわけだが…本当にただ瞑想するだけでいいのか?
とりあえず座禅を組んで目を閉じる。呼吸を整えて頭の中を空っぽにしてみる。
スゥ〜
「アレン、何してるの?」
マリアが話しかけてきた。
「めいそうしてるんだよ」
「めいそうって何?」
…確かに瞑想って何だ?良くわからなくなってきた。
「まあいいや。私もやってみる!」
そう言ってマリアは俺の隣に座り、目を閉じた。姉よ、それは座禅ではない。あぐらだ。
スゥ~
「すぅ~」
「まあ、あなたたち何してるの?」
「ママ!あのね、めいそうしてるの!」
「あらそうなの。瞑想なんて誰に教わったの?」
「アレンが言ったの!」
おいマリア、余計なことを言うな。
「アレンが?」
「そうだよ。このあいだうちにきたおじさんがいってたの」
「あらそうなの!アレンは賢いわねぇ」
親バカで助かった。
「…これつまんなーい。私、庭でチャーリーとかけっこしてくる!」
「気をつけるのよ」
「はーい!行ってきます!」
そう言ってマリアはドカドカと駆け出ていった。ふう、ようやくお邪魔虫がいなくなったか。これで瞑想に集中できる。
「アレンもお庭で遊ばないの?」
うーん、そう来たか。まあ確かに、3歳児がずっと家で瞑想しているのもおかしいか。
「ぼくもチャーリーとあそぶ!」
「そうね、ママと一緒に行きましょうか。チャーリー用のボール取ってくるからちょっと待っててね」
「うん!」
はぁ、こんな調子じゃあ念を覚えるのはいつになるか分からないな。まあ、これはこれでいいか。飼い犬のチャーリーも、チャーリーと遊ぶマリアもかわいいし。
その後も念の修行はまったく進まなかった。俺にできることは、せいぜい親に見られていない間に瞑想をしてみることくらいだ。
こうして、3歳児としての生活を満喫しながらも、できる限り瞑想をしながら過ごすうちに、1年半の歳月が過ぎ、俺は5歳になった。念の感覚は未だ身についていない。まだ5歳なので焦ることもないが、そろそろやり方を変えてみるべきかもしれないと思い始めていた。
そんなある夜、俺が寝たフリをして瞑想していると…
「ねえ、あなた。ちょっと話があるの」
母さんが、神妙な声で話し始めた。
「ん?どうした、キャサリン。何かあったのか?」
父さんが少し心配そうな声色で聞いた。俺も気になる。何だ?
「心配しないで。悪いことじゃない…むしろ、とっても嬉しいことよ。今日、病院で検査したんだけど…妊娠したみたいなの」
なんだと!?俺に、弟か妹ができるのか!?
「本当か!」
父さんも、驚きを隠せない様子だが、その声には隠しようのない喜びの色があった。
「ええ、本当よ」
「そうか…また子供ができるのか…!」
「それだけじゃないの。…赤ちゃんは1人じゃないみたいなの」
俺に新しく兄弟が2人も!?前世は一人っ子だったのに、今世はずいぶん大家族になりそうだ。
「双子か!?…なんてことだ。無事に産まれてきてくれたなら、この上なくうれしいことだが…君ももう若くはないだろう。大丈夫なのか?」
「なんとか産んで見せるわ。絶対にあなたに双子を見せてあげる。もちろん、マリアとアレンにもね」
「…分かった。君がそう決めたのなら、それでいい。私は君を支え続ける」
「マリアとアレンにはいつ教えましょうか」
「明日の朝にでも教えてやろう。2人とも、喜ぶだろうなあ」
「…そういえば、アレンが産まれたとき、マリアはまだほんの3歳だったわね」
「それが2人とも、気がついたらこんなに大きくなって…」
父さんが涙ぐんだ声で言った。ヤバい、俺も泣きそう。
「私たちも寝ましょうか」
「そうだな。…しばらくは、あまり激しくはできないな」
「もう…あなたったら…まだ大丈夫ですよ」
チュッチュッ
俺は寝た。
翌朝。
「え、また弟ができるの!?」
「妹かもしれないわよ。しかも二人」
「やったあ〜!」
「よかったなあ、マリア」
マリアはピョンピョンとはねて喜んでいた。
「アレンもついにお兄ちゃんね!嬉しい?」
「うん!もちろん!」
これは本心だ。前世含めて初の弟、もしくは妹になるわけだから。
それからの日々は、いつも以上に時の流れを遅く感じた。今や癖になっている瞑想をしていても、集中が持たない。ちょっとずつ大きくなっていく母さんのお腹を触るたびに、今まで感じたことがないほど温かい気持ちに包まれる。
念の習得には全く進捗はなかったが、そんなことは今はどうでもよかった。ただ、待ち遠しかった。
10ヶ月後…
俺と父さん、マリアは、病室の前で看護師に呼ばれるのを待っていた。
「パパ、赤ちゃんまだかなぁ?」
「きっとすぐに会えるよ。今は待つんだ」
ソワソワしているマリアの頭を、父さんがそっとなでる。そんな父さんも、いつになく緊張しているように見えた。かく言う俺も、マリアに負けないくらいソワソワしている。
そうして待っていると、ガチャッと扉が開き、看護師が出てきた。
「母子ともに無事お生まれになりました。奥様がお待ちですよ」
「そうですか!ほら、マリア、アレン、行くぞ!」
「うん!」
俺達は部屋に入った。母さんは、小さな赤ん坊を二人抱えて、俺たちのほうを向いた。その顔は疲れ切っていたが、同時にとても誇らしげで幸せそうな表情を浮かべていた。
「あなた…産まれたわよ…元気な双子が…」
「よく頑張ってくれた…ありがとう…!なんと愛らしい子達だ…」
父さんは、かつてなく感情を露わにして喜んでいた。俺とマリアは、身長が足りないのでベッドの上がよく見えない。
「ねえママ、赤ちゃん見せて!」
「もちろんよ、マリア。こっちが男の子で、こっちが女の子」
「うわぁ~!かわいい!」
「本当に…よく産まれてくれた…!」
俺も触りたい!
「アレン、あなたも触ってあげなさい。あなたはお兄ちゃんなんだから」
「そのままでは見えないだろう。さあ来なさい、父さんが抱っこしてやろう」
俺は父さんに抱えられて、母さんの腕の中ですやすやと眠っている双子を見つめた。こんな気持ちになるのは、前世を含めても初めてだ。俺はこの子たちのお兄ちゃんで、この子たちは俺の妹と弟なんだ。ちょんと頬を触ってみる。温かい。その小さな手を触ってみると、指を握られた。
…このとき、大きな幸せとともに、二人から小さな力を感じた。小さいが、強く、明るく、尊い力…これが…オーラか。
まる2年以上の間、何の手がかりもつかめていなかったオーラらしきものを感じられたというのに、今はそんなことはどうでもよかった。ただ、この喜びをかみしめていたかった。
「ねえママ、この子たちの名前は何!?」
マリアが尋ねる。
「そうねぇ。いろいろ考えてたんだけど…男の子がルークで、女の子がクレア。どう思う?」
「ルークとクレア!?最高!」
「私もいいと思うよ。君が考えた名前なんだから」
「アレンはどう思う?」
「僕もいいと思う」
「じゃあ、決まりね」
本当にいい名前だと思う。 といっても、どんな名前でも二人の愛らしさが変わることはないだろう。
ルークとクレア…俺の弟と妹。俺の人生にもう一つ、大きな目標ができた。この子たちを守る。何があっても絶対に守る。この世界には前世よりもはるかに危険が多い。俺が力をつけて守ってあげなきゃいけない。俺は、この子達のお兄ちゃんなのだから。