念能力教師は世界を変える   作:kakarotto

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第20話 カコ✕ト✕ケツイ

 

子供たちの泣き声はまだ続いていたが、俺とマリア、そしてトーマスさんと叔母さんの間には、これまでとは違う、張り詰めた沈黙が流れていた。

 

トーマスさんは、叔母さんに支えられながら、ゆっくりと母屋の二階へと上がっていった。俺たちも、チャーリーを連れてその後に続く。

 

居間に入ると、ルークとクレアが、まだ涙の跡の残る顔で、不安そうに俺たちを見上げていた。エミリーはまだ叔母さんの腕の中で泣きじゃくっている。ジョージは、少し離れた場所で心配そうな表情でトーマスさんを見ている。

 

トーマスさんは、叔母さんに支えられながら、ゆっくりと母屋の二階へと上がっていった。俺たちも、チャーリーを連れてその後に続く。

 

「みんな、大丈夫だよ。もう怖い人たちはいないからね」

 

叔母さんが、できるだけ優しい声で子供たちをなだめる。しかし、その声もわずかに震えていた。

 

トーマスさんは、居間の隅にある古びたソファにどっかりと腰を下ろし、疲れたように深く息を吐いた。その顔色は依然として悪く、普段の快活な面影はどこにもない。

 

「⋯アレン、マリア。約束通り、話すよ」

 

トーマスさんは、しばらく天井を見つめていたが、やがて意を決したように口を開いた。その声はかすれていた。

 

「だが、その前に⋯子供たちを寝かしつけさせてくれ。この話は、あの子たちにはまだ聞かせられない」

 

俺たちに向けられたその言葉が聞こえて、それまで黙って成り行きを見守っていたジョージが、ついに堪えきれなくなったように声を上げた。

 

「父さん! どうしてだよ! 俺はもう子供じゃない! 何が起きてるのか、俺にだって教えてくれよ!」

 

その瞳には、不安と、大人扱いされないことへの不満、そして何よりも家族を心配する真剣な色が浮かんでいた。

 

トーマスさんは、驚いたようにジョージを見つめた。そして、一瞬言葉に詰まったように見えたが、すぐにいつもの優しい父親の顔に戻ろうとした。

 

「ジョージ、お前はまだ⋯」

 

「まだ子供だって言うのか!? さっきの怖い人たちが来てから、父さんも母さんもずっと様子がおかしいじゃないか! 俺だって、何があったのかくらい⋯!」

 

ジョージの声は震え、目に涙が滲んでいる。

 

「ジョージ⋯」

 

叔母さんが、ジョージの肩にそっと手を置いた。トーマスさんは、ジョージの必死な訴えに、何も言えずに俯いた。やがて、小さな声で呟いた。

 

「⋯すまない、ジョージ。お前を不安にさせてしまったな。だが…この話は、本当に⋯」

 

「なんでアレンとマリアが良くて、俺がダメなんだよ!聞かせられないって言うなら、俺は絶対に寝ないからな!」

 

ジョージは、頑なな表情で言い放った。その決意は固いようだった。

 

俺は、ジョージの気持ちを汲んで、トーマスさんに言った。

 

「トーマスさん、ジョージにも話そう。俺よりも年上なんだし、受け止められるはずだよ。それに、隠し事をすれば、余計に不安にさせるだけだ」

 

マリアも、こくりと頷いた。

 

トーマスさんは、俺とジョージの顔を交互に見つめ、そして深いため息をついた。

 

「⋯そうだな。アレンの言う通りかもしれない。ジョージ、お前にも⋯話そう。だが、エミリーには、絶対に聞かせないでくれ。ルークとクレアにもだ。いいな?」

 

「⋯うん。分かった」

 

ジョージは、緊張した面持ちで頷いた。

 

叔母さんが子供たちをそれぞれの寝室へ連れて行き、寝かしつけ始めた。その間、俺とマリア、ジョージは居間の硬い木の椅子に腰を下ろし、静かに待った。

 

窓の外はすっかり暗くなり、ランプの灯りが頼りない影を部屋の中に落としていた。遠くで虫の音が聞こえる。いつものホープウェル村の夜のはずなのに、今はまるで嵐の前の静けさのように感じられた。

 

やがて、叔母さんが居間に戻ってきた。

 

「⋯みんな、ようやく眠ったわ」

 

その顔には、疲労の色が濃く浮かんでいる。叔母さんは、トーマスさんの隣に静かに腰を下ろした。

 

「さて⋯どこから話したものか⋯」

 

トーマスさんは、両手で顔を覆い、再び深いため息をついた。そして、ゆっくりと顔を上げると、俺たちの目をまっすぐに見つめた。

 

「あいつらは…君たちの察しの通り、マフィアだ。…ヨークシンを拠点とする、大きな組織の一派だよ」

 

やはり、という思いと同時に、どうしてトーマスさんが、という疑問が頭の中で渦巻く。俺たちはヨークシンマフィアの恐ろしさを身をもって知っている。

 

「実はな⋯俺は、そのマフィアの⋯組長の息子なんだ⋯」

 

トーマスさんは、衝撃的な事実を、絞り出すような声で告白した。俺とマリアは、思わず息を呑む。あの温厚なトーマスさんが、マフィアの血筋だとは、到底信じられなかった。ジョージにとっては、そのショックは俺たちよりも大きいだろう。

 

「物心ついた頃から、周りは黒い服の男たちばかりだった。それが当たり前の世界だったんだ。だが、俺は⋯どうしてもその世界に馴染めなかった。暴力と欺瞞に満ちた日常に、ずっと息苦しさを感じていた」

 

トーマスさんは、遠い目をして語り始めた。その声には、深い葛藤と苦悩が滲んでいた。

 

「組織を継ぐことを期待されていたが、俺は家を飛び出した。普通の、真っ当な人生を送りたかったんだ。ヨークシンで出会ったサラ⋯君たちの叔母さんとともに、この田舎町に飛び出してきた。過去のことは、完全に捨てたつもりだったんだが⋯」

 

トーマスさんは、悔しそうに唇を噛んだ。

 

「だが、組織は俺を許さなかった。数年前、ついに居場所を突き止められ、接触してきた。裏切り者である俺に、落とし前をつけろ、とね。最初は、金銭的な要求だった。村の収穫物を安く買い叩かれたり、無理な額の金を要求されたり⋯なんとか応じてきたんだが、要求はエスカレートするばかりで⋯」

 

「今日のあの男たちは⋯その中でも特に悪質な連中でね。最近になって、この村の土地そのものに目をつけ始めたんだ。村の土地を担保に金を借りろだの、言うことを聞かなければ家族に危害を加えるだの…」

 

トーマスさんの声が、怒りに震える。

 

「あいつらは、この村の穏やかさも、俺たちの生活も、何もかも踏みにじろうとしている⋯! 俺が捨てたはずの過去が、今になって、俺の大切なものを全部奪おうとしているんだ⋯!」

 

「⋯トーマスさんが、念能力を恐れていたのも…」

 

「⋯ああ、そうだ。マフィアじゃあ、念能力者はそれほど珍しい存在じゃない。当然俺も、たくさんの念能力者を見てきた。さっきのやつもそうだ。だから、俺は…君たちが念のことを話した時、あんなに取り乱してしまったんだ」

 

ジョージが怪訝な顔をした。

 

「念能力⋯? 父さん、それって一体何のこと⋯? 」

 

⋯そういえば、ジョージにとっては、念能力というのは初めて聞く単語だ。トーマスさんは、ジョージに向き直り、ゆっくりと説明を始めた。

 

「ああ、そうだ、ジョージ。念能力というのはな⋯普通の人間とは違う、特別な力のことだ。人間とは思えないほどの力持ちだったり、速く走れたり、他にももっといろんなことができる。アレンやマリアも、その力を持っている。そして、さっき来ていたマフィアの中にも、その力を使う者がいた」

 

「そんな力が、本当に⋯?」

 

ジョージは、信じられないという表情で俺たちを見た。無理もない。まるで物語の中の話に聞こえるのだろう。

 

「本当だよ」

 

俺はそう言いながら立ち上がり、纏で体を強化してテーブルの端を片手で掴んで軽々と持ち上げた。

 

「ほら、ね?それに、マリアの足が治ったのもこの力だ」

 

ジョージは絶句して俺とテーブルを交互に見ている。

 

俺はテーブルを置き、椅子に戻った。それに合わせて、トーマスさんも喋りだした。

 

「念能力者は、他の念能力者に気づく。君たちに、念能力を教えないでくれと頼んだのも、子供たちに秘密にしてほしいと願ったのも、それが理由だ。もし、子供たちが念能力者だと知られたら⋯どんな目に遭わされるか分からない。利用されるか、あるいは…消されるか。幸い、あいつらは君たちの存在を知らないから、君たちさえバレなければ大丈夫だと思っていたんだ⋯」

 

叔母さんが、そっとトーマスさんの手を握る。トーマスさんをずっと隣で見てきたから、その苦悩が分かるのだろう。

 

「⋯だが、もう限界だ。今日のあいつらの様子では、次は本当に何をしてくるか分からない。俺の力では、もうこの村も、家族も守れないかもしれない⋯」

 

トーマスさんは、力なくうなだれた。その姿は、いつもの頼もしい姿からは想像もつかないほど、弱々しく見えた。

 

俺は、マリアと顔を見合わせた。トーマスさんの話は、俺たちが想像していた以上に深刻だった。そして、その根底には、家族を守りたいという強い想いがあった。

 

ジョージも、俯いて何かを考えているようだった。心の中で、父親の告白と、目の前で見た非現実的な光景が、激しくせめぎ合っているのかもしれない。

 

「トーマスさん⋯」

 

俺は、静かに口を開いた。

 

「俺たちは、ただのか弱い子供じゃない。確かに、あのマフィアたちと正面からやり合えるほど強くはないかもしれない。特に、念能力者が複数いるとなれば、今の俺たちでは勝ち目はないだろう」

 

俺は、一度言葉を切り、トーマスさんの顔を見た。

 

「だけど、だからといって何もできないわけじゃない。力で敵わないなら、知恵で対抗する。正面からぶつかれないなら、別の方法でこの状況を打開する道を探す。俺たちには、そういう戦い方だってできるはずだ」

 

俺は、自分の胸に手を当て、まっすぐにトーマスさんを見つめた。

 

「そうだよ!」

 

マリアも、力強く頷いた。

 

「私たちは、もう逃げたくない。ヨークシンで、何もできずに大切なものを失った⋯あんな思いは、もう二度としたくない。みんなを守るために、私たちにできることはきっとあるはずだよ」

 

俺たちの言葉を聞き、トーマスさんは驚いたように顔を上げた。

 

「⋯アレン⋯マリア⋯」

 

トーマスさんは、言葉を詰まらせた。

 

「俺たちは、もう家族だ。少なくとも、俺はそう思ってる」

 

俺は、少し照れくさかったが、はっきりと言った。

 

「家族なら、色々な方法で助け合うのは当たり前だろ?」

 

その言葉に、トーマスさんは堰を切ったように泣き崩れた。叔母さんも、涙を流しながら、優しくトーマスさんの背中をさすっている。ジョージも、おずおずと、しかししっかりとトーマスさんの肩に手を置いた。その小さな手が、今はとても頼もしく見えた。

 

俺とマリアは、何も言わずに、その光景を見守った。チャーリーも、静かにトーマスさんの足元に寄り添っている。

 

長い沈黙の後、トーマスさんはようやく顔を上げ、涙を拭った。その顔には、まだ悲しみと苦悩の色は残っていたが、同時に、どこか吹っ切れたような、そして俺たちの言葉にわずかな希望を見出したような表情が浮かんでいた。

 

「⋯ありがとう、アレン、マリア。そして、ジョージも。君たちの言葉で⋯少し、道が見えた気がするよ」

 

トーマスさんは、震える声で言った。

 

「俺は⋯一人で解決することばかり考えて、袋小路に入っていたのかもしれない。君たちの言う通り、別の方法があるのかもしれないな…」

 

そして、トーマスさんは深呼吸を一つすると、まだ弱々しさは残るものの、少しだけ前向きな声で言った。

 

「俺に知恵を貸してくれないか。あいつらから、この村を⋯家族を守るための、最善の方法を見つけるために。」

 

「…もちろんだよ、トーマスさん」

 

俺は、力強く頷いた。

 

「うん、一緒に考えよう!」

 

マリアも、笑顔で応えた。

 

「俺も! 俺も何か役に立てることがあるなら、何でもするよ、父さん! ⋯その、ネンノウリョク? っていうのはよく分からないけど、俺にできることがあるなら何でもする!」

 

ジョージも、まだ戸惑いはあるものの、決意を込めた目で言った。

 

 

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