念能力教師は世界を変える   作:kakarotto

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第21話 ノロシ✕ヲ✕アゲル

 

ホープウェル村の朝は静かに明けた。しかし、食卓に集まった俺たち家族の間に漂う空気は、昨日までとは明らかに違っていた。それは絶望ではなく、静かで張り詰めた連帯感だった。

 

朝食を終え、ルークたちが外へ遊びに行くのを見送った後、俺とマリア、ジョージ、そしてトーマスさんと叔母さんは、再び居間のテーブルを囲んだ。もう隠し事はない。ここからは、俺たち全員が当事者だ。

 

「トーマスさん、昨日の話の続きを聞かせてほしい」

 

俺は、単刀直入に切り出した。

 

「あいつらが、なぜ今になって、こんな強硬な手段に出てきたのか。何かきっかけがあったはずだよね?」

 

トーマスさんは、ゆっくりと頷いた。その顔には、まだ疲労の色が濃いが、昨日とは違い、覚悟を決めたのだろう。その目には、強い光が宿っていた。

 

「⋯ああ。俺の推測だが、一番大きな理由は、親父⋯俺の父親であり、ヴォルペ・ファミリーの組長でもある男の容態だろう」

 

「⋯俺の⋯じいちゃん⋯?」

 

ジョージが、緊張した面持ちで問い返す。自分の祖父がマフィアの組長だという事実に、まだ実感が追いついていないようだった。

 

「そうだ。親父はもう何年も前から病を患っていたが、ここ半年ほどで急激に悪化し、今では病床から動くこともできないそうだ。もう、死は目前だと聞いている」

 

トーマスさんは、遠い目をして語る。その声に、複雑な感情が入り混じっているのが分かった。

 

「組長という絶対的な権力者が不在となれば、組織はどうなるか⋯分かるな?」

 

「⋯跡目争い、だよね」

 

俺が言うと、トーマスさんは頷いた。

 

「そうだ。今、組織はいくつかの派閥に分かれ、水面下で激しい権力闘争を繰り広げている。そして、俺のところに来ているのは、その中でも特に野心的で、手段を選ばないことで知られる『ドナート派』の連中だ」

 

「ドナート…」

 

俺はその名前を記憶に刻む。

 

「ドナートは、元々は親父の右腕だった男だが、野心が強く、常にトップの座を狙っていた。親父が健在な頃は猫を被っていたが、親父が倒れたのを好機と見て、一気に勢力を拡大している。あいつらにとって、俺の存在は二つの意味で利用価値があるんだろう」

 

トーマスさんは、テーブルの上に指で図を描くようにしながら説明を続けた。

 

「一つは、俺を裏切り者として徹底的に追い詰めることで、組織内での自分たちの力を誇示し、他の派閥を牽制する材料にすること。そしてもう一つは⋯」

 

トーマスさんは、苦々しげな顔で言った。

 

「⋯親父が隠しているとされる隠し財産の在り処を、俺が知っていると思っているのさ。だから、この村の土地や家族を人質にして、俺を精神的に追い詰め、情報を吐かせようとしている」

 

「隠し財産⋯」

 

いかにもな話だが、マフィアが血眼になる理由としては十分すぎる。

 

「そんなもの、俺は知らない。親父とは、家を飛び出して以来、まともに話したこともないんだからな。…だが、奴らはそうは思っていない。特に、今日来ていた連中のリーダー格、あの顔に傷のある大男⋯名前はマルコと言うんだが、あいつはドナートの懐刀で、拷問まがいのやり方で情報を引き出すのが得意な、残忍な男だ。あいつが指揮を執っているということは、ドナート派もかなり本気だということだ」

 

トーマスさんの言葉から、マルコという男の危険性がひしひしと伝わってくる。念能力者であることも含め、最も警戒すべき相手だろう。

 

「なるほどね⋯状況はだいたい分かったよ」

 

俺は腕を組んだ。

 

「つまり、ドナート派の狙いは、権力闘争の道具としてトーマスさんを利用し、隠し財産のありかを吐かせること。そのために、この村と家族を人質にしている。そして、その背後には、組長…トーマスさんのお父さんの死期が近いというタイムリミットがあるわけだ」

 

「⋯ああ、その通りだ」

 

「…だとしたら、奴らの弱点もそこにある」

 

俺は、組んでいた腕を解き、テーブルに身を乗り出した。皆の視線が俺に集まる。

 

「敵はヴォルペ・ファミリーという巨大な組織だけど、一枚岩じゃない。むしろ、内部は跡目争いでバラバラのはずだ。ドナート派が強引なやり方で功を焦っているということは、それだけ他の派閥からの突き上げも強いということじゃないのか?」

 

トーマスさんが、はっとしたように顔を上げた。俺の言いたいことを察してくれたようだ。

 

「つまり…ドナート派に不満を持っている、別の派閥に接触するということか?」

 

「そうだ。敵の敵は味方とは限らないけど、利用できる可能性はある。ドナート派の暴走を止めたいと思っている連中がいるなら、俺たちの状況は格好の口実になるはずだ。ドナートはファミリーの掟を破ってカタギの村にまで手を出している、あんな奴に次期組長の資格はない、みたいにね」

 

俺の言葉に、しかしトーマスさんは険しい顔で首を振った。

 

「馬鹿を言うな、アレン。それはマフィアの抗争のど真ん中に、自ら飛び込むようなものだ。どの派閥が信用できるかなんて、今の俺に分かるはずもない。下手に接触すれば、別の派閥に利用されて、もっと酷いことになるかもしれん」

 

その危険性は、俺も分かっていた。だが、このまま何もせずに待ち続けるよりはずっとマシだ。

 

「それでも、何もしなければドナート派の思う壺だよ。家族も村も、奴らの権力闘争の生贄にされるだけだ。何か、何か手掛かりはないの? ドナートのやり方を快く思っていないような、筋の通った人間は…?」

 

俺が食い下がると、トーマスさんは押し黙った。苦虫を噛み潰したような顔で、記憶の底を探っているように見えた。長い沈黙の後、絞り出すように、一つの名前を呟いた。

 

「…セルジオ・ガンビーノ」

 

その名には、どこか懐かしさが滲んでいた。

 

「…その人はだれ?」

 

叔母さんが、恐る恐る尋ねた。

 

「…親父の代からの古株で、ファミリーの相談役(コンシリエーレ)を務めていた男だ。俺がまだファミリーにいた頃は、親父が最も信頼を寄せる重鎮だった」

 

トーマスさんは、過去を思い出すように、言葉を続けた。

 

「セルジオ翁は、古いタイプのマフィアでな。筋を通すことや、ファミリーの秩序を何よりも重んじる。無関係な人間を巻き込むことや、無用な血を流すことを嫌っていた。だから、ドナートのような、力に任せたやり方を最も嫌う男のはずだ」

 

「その人は、今もファミリーにいるの?」

 

マリアが、かすかな希望を込めて尋ねた。

 

「…分からない。親父が倒れてからは、第一線を退いて隠居していると聞いたが…あの人の影響力はまだファミリー内に根強く残っているはずだ。特に、親父の時代を知る古参の連中からの信頼は厚い」

 

トーマスさんは、ふっと遠い目をした。

 

「俺がまだガキだった頃…家を飛び出すかどうかで悩んでいた時、唯一、俺の気持ちを汲んでくれたのがあの人だった。『お前の道を行け。だが、ファミリーから受けた恩は忘れるな』とだけ言って、黙って俺を見送ってくれた…」

 

その言葉に、俺たちは確かな光明を見た。

 

「その人に連絡は取れない?」

 

俺が前のめりで尋ねると、トーマスさんは重々しく首を振った。

 

「それが最大の問題だ。俺はファミリーを抜けた裏切り者。こっちから連絡を取ろうとしても、会ってくれる保証はない。それに、下手をすればドナート派にこちらの動きが筒抜けになる危険もある」

 

セルジオ・ガンビーノ。その存在は、俺たちにとって最後の希望であると同時に、危険な賭けでもあった。

 

「…でも、やるしかないよね…!」

 

マリアが、緊張した面持ちで言った。

 

「問題は、どうやってそのセルジオとやらに接触するかだね」

 

俺がそう言うと、トーマスさんは腕を組んだまま深くため息をついた。ここが最大の難関だ。ドナート派の監視の目がどこにあるかわからない中、厳重に警護されているであろうマフィアの重役にまでたどり着けるのか。

 

「…俺とトーマスさん、二人で行こう。たぶん、それが最も確実だ」

 

俺の提案に、その場のトーマスさんと叔母さんが息を呑んだ。

 

「アレン、お前…何を言ってるんだ!」

 

トーマスさんが、血相を変えて立ち上がった。

 

「俺と一緒にファミリーの前に姿を現すことが、どれだけ危険か分かっているのか!それに、お前を巻き込むわけには…」

 

「トーマスさん一人のほうが危険だよ。俺は念能力者で、トーマスさんは違う」

 

俺はその言葉を遮り、静かに告げた。トーマスさんは、俺の言葉でハッとした表情を見せた。俺がただの子供ではないことを、ここにいる全員が知っている。

 

「マルコとかいう奴も念能力者だ。トーマスさん一人じゃ危険すぎる。それに、誰かは家を守らなきゃならない。俺とマリアのどちらかは家に残らなきゃいけない。そして、俺のほうが嘘が上手い。だから、動ける念能力者は俺しかいない」

 

俺の視線を受けて、マリアが静かに頷いた。

 

「アレンの言う通りだよ、トーマスさん。私も念能力者として、この家と家族を守る。だから、二人はは安心してヨークシンシティへ行って」

 

マリアの力強い言葉が、トーマスさんの背中を押した。トーマスさんは俺とマリアの顔を交互に見て、やがて諦めたように大きく息を吐いた。

 

「…分かった。アレン、お前の力を借りよう」

 

その顔には、9歳の少年に頼らざるを得ない悔しさと、それでもなお、共に戦ってくれる仲間を得た安堵が複雑に浮かんでいた。

 

「作戦…と言えるかはわからないけど、俺の考えるやり方はこうだ」

 

俺は続けた。

 

「訪問の主軸は、あくまでトーマスさんだ。裏切り者であるトーマスさんが、覚悟を決めてファミリーの相談役に会いに来た。その方が、話が早い。俺は、ただの付き添いだ。セルジオほどの大物とはいえ、護衛の殆どは念能力者じゃないはずだ。息子だといえば、俺が警戒されることはないだろう」

 

俺は言葉を続けた。

 

「…とはいえ、念能力者が一人もいないということもないだろう。俺はできるだけオーラを隠して、ただの子どものふりをする。そこでもし俺達が危険な目に遭いそうになったら…俺が道を開く。そうしてなんとかセルジオの下にたどり着いたら…あとはトーマスさんが説得できるかどうかにかかってる」

 

「…ああ」

 

トーマスさんは強く頷いた。ひとまず、作戦は決まった。

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