待ってくれてた方、すみません。
もう少しお待ちを・・・・・・!
長老の屋敷で避難してきた人々にはぐれオーガをなんとか追い返した旨を伝えた俺たちを迎えたのは、まるで部屋が爆発したかと思うような歓喜の渦だった。安堵の余り涙を浮かべる者、喜びのままに手近な人と抱き合う者、高らかに歓声を上げる者・・・・・・。先程まで部屋の中で身を寄せ合い、息を潜めて恐怖と不安に耐えていた者たちが、その朗報に歓喜と安堵を溢れんばかりに表現している。
そして彼らは口々に俺へと感謝と賞賛の言葉を向けてくるのだが、それを受ける側としては少々複雑だ。確かに何が起きたのか知らない彼らからすれば、意識がなく抱えられているガルドさん、治療を行った穏やかな雰囲気のバステト、そして完全武装した俺を見て、俺がはぐれオーガを追い払ったと思うのも仕方ないのかもしれない。しかし実際には追い払ったのはバステトたちで、俺は彼女たちが着くまで時間稼ぎをしただけ。その上、最後に油断してガルドさんが身を挺して助けてくれなかったら今ここにいたかも怪しい身だ。喜びに沸く彼らに対して水を差すような真似はしたくないから黙って苦笑いを返しておくが、後で長老かガルドさんに頼んで誤解を解いてもらう必要がありそうだな。
彼らの言葉に引きつりそうな笑顔で応対しながら部屋を辞し、未だ意識の戻らぬガルドさんを屋敷の別の部屋に横にならせ、バステトたちを残らせて部屋から出ようと扉を開けると、村の長老・サイモンさんが扉の前で待っていた。
「長老殿?」
「召喚術師殿、悪いのじゃが何があったのか早急に確認したい。すみませぬが付いてきて頂けますかな?」
真剣な表情をした長老の言葉に俺は黙って頷くと、先導する彼の後ろについて歩き出した。
俺が案内されたのは大きなテーブルとその周りに並べられた椅子しかない比較的小さな部屋だった。そこには既に3人の男が席についており、無言で俺と長老が席に座るのを待っていた。長老が腰を下ろすのを確認して俺も座りながら、既に座っていた男たちの顔を眺める。1人はこの村専属の商人であるグァジ。残りの2人も見たことがある顔だ。この村に着いたときに長老の両脇に立っていた2人、確か狩猟頭と農業頭・・・・・・だったはずだ。名前まではちょっと思い出せないな。
「召喚術師殿にはまだ紹介しておりませんでしたな。こちらは村で狩りについて取り仕切っている狩猟頭のダルカス、あちらは村の農業を取り纏めをしている農業頭のホーエンと申します」
そんなことを考えていたら、ちょうどいいタイミングで長老が名前を教えてくれた。直接名前で呼ぶことはないかもしれないが、一応覚えておこう。
「村で大きな出来事が起きましたら、この4人で話し合いを持つことにしております。それでは、何があったか話していただけますかな?」
「はい、それでは―――――」
それから俺は4人に俺が見たものを可能な限り詳しく語って伝えた。
武装を整えて現場に着いた時には、既にガルドさん以外は倒されていたこと。
ガルドさんはアリッサを庇って戦っていたこと。
俺が2人が逃げる時間稼ぎをしたが、防戦一方だったこと。
帰ってきたガルドさんが俺を庇い、代わりに重傷を負ったこと。
バステトがはぐれオーガを追い払ったが、傷らしい傷は与えられなかったこと。
重傷を負ったガルドさんをスペルで治療したこと。
そしてバステトの半数は今もはぐれオーガを警戒しながら倒れた狩人たちの看護を続けていること・・・・・・。
喜びに満ちていた避難した人々とは対照的に、話を続けるごとに4人の顔は苦虫を噛み潰したがごとく渋く、厳しい表情へと変わっていく。全てを語り終えた頃には、場は暗い沈黙が支配していた。
重苦しい空気の中、まず口を開いたのは長老だった。
「・・・・・・まずはこの村を救っていただいた事、感謝いたしますぞ。いかにガルドといえど、弓無しでオーガに勝つことは難しかったはず。追い払う事ができたのは召喚術師殿と獣人の方々のおかげです」
「い、いえ、私はガルドさんに助けてもらってなんとか生き延びたようなもの。礼ならガルドさんとバステトたちにお願いします」
「そのガルドを治療した獣人の方々を喚び出したのは召喚術師殿ではございませんか。ですが、そのお言葉はガルドが目を覚ましましたら伝えておきます。・・・・・・しかし、少々厄介なことになりましたな」
再び表情が蔭りを帯びていく長老。やはりはぐれオーガが倒せず、不確定要因になっているのが問題なのだろう。
「・・・・・・こうなっちまったからには仕方ねぇ。山狩りをしてでもはぐれの奴を倒しちまわねぇとな」
吐き捨てる様に言ったのは狩猟頭のダルカス。おそらく同格の役職である農業頭のホーエンに比べてやや年嵩であり、ガルドさん程ではないにしても結構な大柄の男だ。
不機嫌そうな彼の発言にホーエンが反対の声を上げる。
「待て、ダルカス。召喚術師殿の話では狩人衆の皆は怪我を負っているのだぞ。一体どうやって山狩りを行うつもりだ。」
「おいおいホーエン、獣人の嬢ちゃんたちに魔法で治してもらえばいいじゃねえか。あのスゲェ魔法なら夜明けまでには皆傷一つなくなってるだろうよ」
「おい、バカ! す、すみません召喚術師殿、ダルカスが勝手な事を言ってしまって」
「いえ、構いませんよ。元々バステトたちには狩人の皆さんを治療させ続けるつもりでしたし」
これは俺の偽らざる気持ちだ。俺が使うのと違って、バステトたちが戦闘スペルを使うのにはカードを使う必要がない。自分の腹が痛まないのだから、ガルドさんが目覚めたら待機させていたバステトたちも合流させて治療させるつもりだった。
俺の言葉を聞いて、ホーエンに窘められてバツの悪い顔をしていたダルカスがニヤリと笑う。
「よっし! じゃあ何の問題もねぇ、明日には山狩りをして奴をブッ倒しちまおうぜ!」
「だから待てと言っているだろう! 狩人衆は今日はぐれオーガと戦い、負けているのだ。入念な準備も無しに戦っては二の舞になるだけだ!」
「・・・・・・ホーエンよぅ、お前さんがそんな腰抜けだったとは思わなかったぜ」
「お前がそんなに考え無しだともな」
「何おぅ!」「何だと!」
「いい加減にせんか、この大馬鹿者共!」
口論が白熱し、今にも席を蹴って立ち上がりそうだった2人を止めたのは長老の叱責だった。その鋭い声に言い争っていた2人はビクリとその身を震わせ、一触即発の空気は立ち消えていく。
「お主らをここに呼んでいるのはいがみ合わせるためなどではない! 召喚術師殿も居る前で見苦しい真似をしおって、少し黙っておれ!」
「「す、すみません・・・・・・」」
厳しい言葉に2人が身を縮める中、長老は今に至るまで沈黙を保っている男に水を向けた。
「グァジ、お主はどう思う?」
「・・・・・・早いうちに対処するべきだという事自体は間違っていないと思います」
黙考するのを止め、ゆっくりと語りだすグァジに部屋にいる全員の視線が集まる。グァジもこの場に呼ばれているということは、ただの商人というだけでなく村有数の知恵者の1人という事。そんな彼の考えに俺自身も興味があった。
「奴を放っておけばこの辺りに縄張りを構え、村の継続的な脅威となるでしょう。悪い事に、村の周囲に生える獣避けの薬草は亜人種のオーガには通用しない。今は追い返されてひるんでいるでしょうが、2~3日もすればまた村にやってきてもおかしくない」
明らかに自分寄りの意見がグァジの口から出たことで、気落ちしていたダルカスが明るい声を上げる。再び勢いに乗るダルカスだったが、それを止めたのもまたグァジだった。
「しかし、山狩りともなれば捜索のために人手を分散せざるを得ません。突然の襲撃だったとはいえ、全員でかかって勝てなかった相手に少ない手勢で勝ち目があるとは思えない」
続いたグァジの言葉に気勢を削がれ、勢いを失うダルカス。その姿は、然もあらんと言わんばかりの顔で頷いているホーエンと対照的だった。
「どちらの意見にも一理あるという訳じゃな。しかし、それでは動きようがないではないか」
「方法はあります・・・・・・」
そう言ってグァジは不敵な笑みを浮かべ、長老に向けていた視線を外す。そのずらした視線の先にいるのは・・・・・・俺?
「召喚術師殿、あなたは魔獣だけでなく獣人すらも喚び出し使役できる御方だ。その御力で我々にご助力願えませんか。勿論、報酬はご用意します」
「え!? ・・・・・・あ、ああ、少し考えさせてください」
さっきからずっと静かに傍観者をしていたのに急に話を振られて少し驚いたが、報告を終えてからも帰されずにここに留め置かれたことから、薄々そういう流れになるんじゃないかと予想していたので、すぐに気を落ち着かせることができた。アリッサたちからの話を聞いてグァジがあくどい商人ではないと分かってはいるが、現役の商人である彼の前であまり動揺した姿を見せたくない。無いとは思うが、隙を見せてしまって、彼の掌の上でいいように転がされても困るしな。
努めて冷静に見えるよう振る舞いながらどう答えようか考える。実際、彼の申し出は自分にとって渡りに船だ。なぜなら、この世界に来て初めての現金収入を得ることができる機会だからだ。この村に着いたときに治療の対価は物資で受け取ると言ってしまった手前、後から現金も欲しいとは流石に言えなかった。しかしこれからこの世界で旅をしていくなら、どうしても先立つものが必要になる。最初はそこそこ大きな街でカード数に余裕のある《黄金の鎧》などを幾つか売り払って路銀を得ようと思っていたのだが(今でも同じ事はしようと思っている)、ジャンに聞いた話だと大きな街では中に入るときに入街税を払うのが普通らしい。最悪、他の村を探して幾許かのお金と引き換えに治療をしていこうかと思っていただけに、ここでまとまったお金が手に入るのは非常にありがたい。あと気になるのはグァジ以外の人がこの依頼についてどう思っているのかだが・・・・・・、横目で3人の顔を窺ってみる。さっきまで言い争っていた2人は、村の中だけで事を治められないのが口惜しいのか悔しげな表情をしているが、それでも異議を唱えず黙っているということは犠牲を出さないためには必要な事だと分かっているのだろう。長老は・・・・・・、瞑目していて何を考えているか分からない。まぁ何も言わないということは異論は無いのだろう。
どうやら見る限り反対意見はなさそうだ。どんなユニットを召喚するかはまだ決めてないが、探せばちょうどいいユニットぐらい見つかるだろう。ならば断る理由は無いな。
「分かりました。お引き受けしましょう」
俺の言葉におお、と幾人かから歓喜の声が上がる。グァジも断られる可能性も考えていたのだろう、安堵した表情で大きく息をついている。安心しているところ悪いが、こちらとしても聞いておかなければならない事がある。
「・・・・・・つきましては、報酬はどの程度になりますか?」
続けて放った言葉に安堵に緩んだ空気は掻き消え、代わりに僅かな緊張感を含んだピリッとした空気が辺りに漂う。村側の人間は、当然俺に払う費用をできる限り少なくしたい。しかし、同時に俺が前言を翻さないよう不興を買わない様にしなくてはならない。2つの相反する想いがこの場にいる全員から透けて見えるようだった。
「それについてですが―――――」
「もうよい、グァジ。ここからはワシが話す」
口を開きかけたグァジを長老の言葉が遮る。金銭関係の交渉で自分が外されるとは思っていなかったのか、訝しげな声で言いつのる。
「長老、お言葉ですがこれに関しては私の方が」
「確かに妥協点を探るのであればお主の方が数段上じゃろうの。じゃが今は利を追うよりも誠意を尽くす時じゃ。ならば必要なのは交渉の巧稚ではなく信頼を示すこと、そのためにはワシが話すべきじゃ」
「・・・・・・分かりました」
不本意そうではあるが長老の言うことに納得したのだろう、グァジはそれ以上何も言わなかった。長老は大人しく引き下がったグァジを見て一つ頷くと、コホンと咳払いをして俺の方に向き直った。
「さて、お待たせしましたな。単刀直入に言いましょう、今のこの村で召喚術師殿に支払える報酬は銅貨で300枚が限界じゃろう」
銅貨300枚・・・・・・、銀貨にして30枚、か。確か聞いた話によると街での食事が安くて一食銅貨2枚、そこそこの宿屋が一泊銀貨1枚くらいだというから、一日二食にすればだいたい20日ぐらいは暮らせる金額になる。勿論、入街税など別の出費もあるだろうからそのまま20日分の生活費が手に入るとは言えないが、当座の資金としては申し分ない。この非常時に笑うのは不謹慎かと思いほくそ笑む顔が見えないように俯いていると、長老はそれを見て勘違いしたのか苦み走った声で続けた。
「召喚術師殿には不満でしょうが、今村はグァジが街への買い付けから戻って間も無く、備蓄を掻き集めてもその程度にしかならんのじゃ。神殿の冒険者組合を通して依頼を出せれば報酬額に多少の援助が得られるのじゃが、そんな時間がないのも事実・・・・・・、しかし、何卒、何卒―――――」
いかん、俯いてたら長老が真逆の方にとったらしい。すぐに誤解を解くべく、できるだけ穏やかな声で語りかける。
「大丈夫です、その金額でお引き受けしますよ」
「おお! お引き受けくださるか!」
「ただ、報酬とは別に1つお願いがあるのですが・・・・・・」
「なんですかな? 我々にできることならなんなりとお申し付けくだされ」
「・・・・・・道が分からないので、最寄の街まで案内、してくれますか?」
「ふうっ、つっかれた~」
誰の目もないあてがわれた小屋の中で大きく伸びをする。あれからしばらく長老たちと話をして、山狩りは明日の早朝に行うことになった。その時間帯ならば俺も魔力回復に必要な睡眠時間を十分取れるし、バステトたちもカードに戻る前で戦力としてカウントできる。時間になったら狩猟頭のダルカス自ら迎えに来るらしいので、あと残った今日やるべきことは寝る前に明日山狩りのために召喚するユニットを決めることだけだ。
すっかり夜の帳が下りて真っ暗になった室内をカンテラの灯りが柔らかく照らす。このカンテラは長老が特別に貸してくれた物だ。村で夜に灯りをとる際は油皿に火を灯すのが一般的らしいのだが、それでは少し心許ないと長老に相談したところ、グァジが街から買ってきたばかりのこのカンテラを快く貸してくれた。おかげで室内は多少薄暗くはあるが、カードの内容を見分けるのには困らない程度の明るさがある。
そんな灯りの下で、置きっぱなしにしていたカードの収納BOXを開けて中のカードの山から土属性のユニットを引き抜いて目を通していく。やっぱり森に強いユニットといえばエルフだろうか。エルフの身体能力自体はそんなに高くないから戦闘スペル主体で戦っていくことになる。オーガは飛べない、となれば土属性のスペルが使えるエルフを使って有無を言わさず《ブライアー・ピット》で仕留めるのが一番いいが、問題となるのはエルフが森に強いというのが設定上のものだけだということだ。たしかにエルフは設定上は優秀な魔法使いであり狩人だ。しかし魔法使いとしての能力はともかく、狩人としての能力は弓の腕前以外特殊能力による裏付けが無い。弓の腕前も狩人として必要な要素ではあるが、今回の山狩りで必要なのは獲物を見つけたり追い込んだりする能力なのだ。狩人か、それに類する能力を探してつらつらとカードに目を通していく。【ドワーフ】、【トロール】、【ガネーシャ】、【コボルド】、そして【ゴブリン】・・・・・・。
ん、ゴブリン・・・・・・? その時、頭に閃くものがあった。そうだ、ゴブリン! 急いで土属性のユニットカードを納め、別のユニットの束を引き抜いて目当てのカードを見つけ出す。このユニットなら設定的にも狩人だし、特殊能力による裏付けもある。しかし、単体でオーガを仕留める能力は無いから、あのユニットも組み合わせよう。実際のゲームでは微妙すぎてあまり使われることの無かった組み合わせだが、公式のガイドブックでも紹介されたくらいだし上手くいくだろう。となると、先攻を絶対取らなきゃいけないから残りの魔力でサポートユニットを・・・・・・
そうして俺は、万全を期して眠りについた。
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属性:聖・魔 レベル:2 攻/防:2/3 進軍タイプ:歩行
新米召喚術師 【人間】 スペル:*(使用済) アイテム:1(使用中)
魔力:0/8
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●戦闘スペル
戦闘が起きている場所で使用される短期間・局地的な魔法。
使用するには使用条件に適した「スペル:X」を消費する必要がある。
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ブライアー・ピット 戦闘スペル
属性:土 使用条件:土
[普通/対抗]
ユニット1体が対象。
対象ユニットが「進軍タイプ:歩行」の場合、【地震:3】ダメージを与える。
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※相手の足元に棘入りの落とし穴を作るスペル。
かなり使い勝手がいいので、コレで死ぬかどうかを基準にする場合もある。