新米召喚術師の異世界紀行   作:woodenface

13 / 17
2話連続投稿1話目。


まだ待ってくれていた方はありがとうございます。

これからも投稿ペースは不定期になると思いますが、どうかお付き合い下さい。



出発

翌朝目覚めると、フェアリーやレッドキャップたちは既にカードに戻っていた。元に戻ったカードを収納BOXに入れ、頭についていた寝癖を手櫛で整えてから外に出る。扉を開けると小屋の前には、思っていたより起きる時間が遅かったせいか既にガルドさんとアリッサの姿があった。

2人に二言三言朝の挨拶をした後、アリッサが運んできてくれた相変わらず味が薄い気がする朝食を腹の中に流し込み、使った食器を返すついでに彼女に訊ねる。

 

「グァジさんから朝のうちに出発すると聞いたのですが、あとどのくらい時間がありますか?」

 

日の高さから考えてもまだそんなに遅くはなっていないと思うが、この世界の人の朝が早いということも考えられる。答えによっては今すぐ荷物を持って小屋を出なければならないだろう。質問した俺に対してアリッサは少し困ったような顔で答えた。

 

「すみません。馬車の準備がまだ終わってないようでしたので、もうしばらくはお待ちいただくことになると思います」

 

なんでもアリッサの話によると、このピエットの村の周りには獣を遠ざける効果のある薬草が生えているらしく、街への馬車を出すときにはその薬草を潰した汁を馬車全体に塗るのだが、前回街へ行ってから期間が空いていないので取り置きの薬草が無く急遽新たに薬草を準備しているのだという。

 

「昼まで掛かることはないと思いますが、まだ時間が掛かるかと・・・・・・」

 

「・・・・・・そうですか」

 

弱ったな、村の外に出ることになるから黄金の鎧を着直す時間があるのはありがたいのだが、正直それ以上となると時間を持て余してしまう。まさか出発間近にガルドさんを脇に連れて村の中を勝手にうろつく訳にもいかないし・・・・・・

俺が困惑しているのが分かったのだろう、オロオロするアリッサを助けるためか、黙って話を聞いていたガルドさんが助け船を出してくれた。

 

「時間があるのなら水浴びをしてはどうだ?」

 

「水浴び?」

 

「ああ、最寄りの街までは馬車でも3日はかかる。当然だがその間、身を清めるのは難しい。ならば今のうちに汚れを落としておくのも悪くはないと思うが?」

 

なるほど。水浴び、いいかもしれない。思えばこの世界にやってきてからというもの、一度も体を洗っていない。流石にまだ身体が臭うほど汚れてはいないと思うが、丁度良いし水浴びしてさっぱりしてから鎧を着ることにしよう。

 

「そうですね。では、準備をお願いしてもいいでしょうか?」

 

「ああ」

「はい!」

 

 

 

 

水浴びの準備を頼んでしばらく、アリッサは長老の家から大きなタライを借りてきて、ガルドさんは井戸から桶2つ分の水を汲んできてくれた。小屋の床にタライを置いて水を張り、2人に礼を言ってから人が来たら待ってもらうように頼んで小屋に一人きりにしてもらう。小屋の扉をしっかり閉じてこの数日間着っぱなしだった服を脱ぐ。タライでの水浴びなんて初めてだが、まあ行水みたいなものだろう。欲を言うなら温かい湯船につかりたいところだが、村の家の程度から察するにこの村に風呂なんて上等なものがあるとも思えないし、あっても旅人が出発前に一っ風呂入らせてくれと言って一々沸かせてくれるものでもないだろう。

井戸水のヒヤッとした感触に耐えながら水を張ったタライの中に座る。水が思ったよりも冷たかったが気温がそこまで低くないので耐えられる範囲内だ。元の世界ではもうすぐ初夏というくらいの時節だったがこちらも同じなのだろうか? そんな益体もないことを考えながら貰い受けた物資の中にあった手拭いに水を含ませ体中をこする。身体をこするたびに垢がポロポロと落ちる、ということはなかったが、やはり汚れてはいたのだろう、手拭いは徐々に黒ずんだ色に染まっていった。というか、それほど力を込めて洗っているつもりはないのに肌が痛い。多分布の織り方が悪いのだろうが表面が荒くてこすっていると肌がヒリヒリする。垢すりとしては悪くはないのだが、顔とかを洗った後にガシガシ拭くのはやめておいた方がよさそうだ。

身体をくまなくこすったら水を手で掬ってこすった跡を流し、大きめの別の手拭いで水気を拭き取る。身体が十分に乾いたのを確認して替えの下着と服を身につければ、服装だけ見れば完全にその辺の村人Aだ。顔立ちとかはこの辺の人と異なるが、服装が同じだけでも警戒心を和らげることができるかもな。

手拭いと同じで荒い生地の服に袖を通し、気合を入れ直して黄金の鎧を着込んでいく。文字通り全身を覆い手の指の先まで包む鎧なだけあって、一度脱ぐと再び着るのはなかなか面倒な作業だ。大きさ自体は俺の体格に比べて大きく一見ガバガバになるように見えるのだが、そこは魔法の道具だからなのか装備者である俺の身体に合わせて大きさが変わり問題なく着れるようになってくれる。自分で使っていながらアイテムの不思議さを改めて感じつつ、最後の留め具を嵌めて装備を終える。大きく腕を回したり足を上げたりして装備に問題がないことを確認し、使い終わったタライを抱えて外に出ると、そこには2人とともにグァジが俺を待っていた。

 

「どうも、お待たせしてしまったようですね」

 

「いえいえ、初めに待たせてしまったのはこちらの方ですから。準備の方はお済みですか?」

 

ニコニコと朗らかに笑うグァジに問いかけられ、頭の中でもう一度確認をする。今までに使用したカードは全て収納BOXに戻したし、その収納BOXも貰ったカバンの中に入れてある。水浴びに使った手拭いもよく絞ってから着替える前の服と一緒にカバンに入れた・・・・・・うん、入れ忘れたものは無いな。今すぐ出ても問題なしだ。

 

「はい、大丈夫です」

 

「では、馬車の所へご案内します」

 

「分かりました。カバンを持ってきますね。・・・・・・ああ、そうだ。アリッサさん、このタライを返しておいて下さい」

 

 

 

 

ガルドさんとアリッサに別れの挨拶をして、カバンと槍、盾を引っ提げてグァジの後ろをついていくと村の外れに1台の幌馬車が停まっていた。馬車を牽く馬が一頭繋がれており、荷台はそれほど大きくないが、大人3人がかろうじて横になれる程度の大きさはありそうだ。幌以外の車体の部分にはべっとりと緑色の汁が塗りたくられており、近づくとわずかに鼻にツンとくる青臭い匂いを放っている。

 

「さあ、召喚術師殿。荷台にお乗り下さい」

 

「ええ、お世話になります。ところで、到着まではどのくらいになりそうですか?」

 

俺の質問にグァジはふむ、と顎に手を当て少し思案して答えた。

 

「そうですね・・・・・・普段なら3日目の夕方頃までかかりますが、今回は荷物を載せている訳でもありませんし、3日目の昼前には着くでしょう」

 

ということは実質2日と半日かからないくらいか。馬車の旅も初体験だからどんな感じなのか想像付かないけれど、自動車やバスほど快適な旅とは言えないだろうから所要時間が短くなるのは喜ぶべきかな? まあでもこの世界での主要な移動手段は馬車だろうし、ここで慣れる努力をするべきかもしれない。

押し黙ってつらつらと考えている俺がかかる時間に渋っていると思ったのか、グァジは闊達に笑った。

 

「ハハハ、確かに召喚術師殿の喚び出すドラゴンに比べれば遥かに遅いかもしれませんが、なに、慣れれば馬車の旅もなかなか悪くないですよ」

 

そう言って馬車を牽く茶色い毛並みの馬の背を撫でる。馬はくすぐったかったのか少し身じろぎするとブルルルルッと鼻を鳴らした。大きい、元の世界で見た乗馬用の馬より一回り大きく身体もがっしりとしている。話に聞いたことしかないが、輓馬がこんな感じだろうか。

 

「こいつももう若いとは言えませんが、力は充分ありますし賢くて従順です。召喚術師殿を無事に街までご案内しますよ」

 

最後にニコッと笑って御者台に上ったグァジを見て俺も急いで後ろから荷台に乗る。ほどなくして馬車は動き出したが、ふと疑問が浮かんだので御者台と荷台の間にある幕ごしにグァジに問いかける。

 

「このままこの馬車で森の中を突っ切るのですか?」

 

俺がワイバーンに乗ってやってきた時、村の周りには開けた道など確認できなかった。森の外には微かに道のようなものが遠目に確認できたが、そこから村へと通づる道は見当たらなかったのだ。まさか森の中という悪路を馬車で強行するのか? 獣除けの薬草を塗ったのはそのため? どうにもピンとこない。

俺の問いはまるで頓珍漢なものだったのだろう。グァジは抑えきれない笑いが混ざった声音で言った。

 

「そんなことはせずとも大丈夫ですよ。・・・・・・そうですね、空から降りてきた召喚術師殿には分からなくて当然ですか。どうぞ、これを御覧下さい」

 

グァジが幕を後ろ手で開くと、そこから見えたのは"緑のトンネル"とでも言うべきものだった。空は完全に樹木の枝葉が覆い隠してしまっているため薄暗いが、木漏れ日の中に轍の残る一本の道がまるで森の中を丸く切り取ったような空間をずっと先まで続けている。この村は森の外からそれほど近い訳ではないはずだが、ここから外まで道が続いているのか・・・・・・?

 

「どうです、お分かりになったでしょう?」

 

どこか得意げなグァジに驚いていた俺は思わずといった感じで頷く。すると喜色を強めたグァジは続けて説明した。

 

「このマニの大森林にピエットの村が作られることになった際、当時の開拓民たちが命懸けで森を切り拓いたそうです。偉大なる先人の遺産というやつですな、おかげで今の我々は楽に村と町を行き来できる」

 

道理で空から見て気付かないはずだ。馬車が通る道の部分以外がこうも木々に覆われていては上からの視点では分からないのも無理はない。しかし、森の外からこの村まで道を引くなど並大抵の努力ではない。道を拓く際には森の猛獣や魔物の襲撃など困難や危険は挙げれば限がないほどだったろうに、今は実際に道が存在する。当然ながら犠牲もあったろう、それらの上にこの道はある、そう思うと道を切り拓いた人々に頭が下がる思いだ。目の前のこの男も昔はこの道を通ってやってきた一介の行商人だったと聞く。そう考えるとこの道が無ければ今、俺が彼と一緒に馬車に揺られることもなかったのかもしれないな。

感慨深い目で眺める俺を訝しみながらグァジは続けた。

 

「まあ、それでも森の中を通ることには変わりないので獣除けの薬草が必要なのです。森を抜ければその必要もなくなるのですが」

 

「森の外では襲撃の心配はないのですか?」

 

俺の勝手な想像では平原には平原なりの魔物とか夜盗とかがいるものかと思ってたんだけど。

 

「森の外の街道は傭兵たちが巡回していますから、中よりはずっと安全ですよ」

 

傭兵! 随分と剣呑な響きだが、グァジの話しぶりからするとそれほど珍しいものではないようだ。普通こういった場合に働いているのは冒険者だと思うのだが・・・・・・考えてみれば冒険者ほどイメージの仕事内容と名称が離れた職もないか。報酬次第で魔物や盗賊の討伐を行うのなど、どうみても雇われ兵の仕事だ。冒険と言ってしまえば聞こえはいいが、金目当ての依頼で戦うと言い換えれば確かに傭兵の領分と言えるだろう。俺はちょっとファンタジーのイメージを強く抱きすぎなのかもしれない。

 

この後グァジから万が一にも森の猛獣たちを寄せないよう、森から出るまでは静かにしているように言われ、俺は大人しく荷台にゴロンと横になると、一路街を目指して馬車に揺られていった。

 

===================================

属性:聖・魔  レベル:2  攻/防:2/3  進軍タイプ:歩行

新米召喚術師  【人間】  スペル:*  アイテム:1(使用中)

魔力:8/8

===================================

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。