新米召喚術師の異世界紀行   作:woodenface

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2話連続投稿2話目。


半年以上かけてしまい、申し訳ありません。

初めての方は、これからも不定期更新であることをお気をつけ下さい。


関門

―――――村を出発してから2日が経過した。この2日で思い知ったことは、馬車の旅は思った以上に過酷だということだ。

まず、なんといっても馬車は揺れる。馬車は完全な木製でゴムのタイヤもサスペンションもついていないし、そのうえ街道は多少整備されているとはいえ舗装はされていないのだ。当然だが馬車はガタガタと常に揺れ続け、立ち上がれば転んでしまいそうなほどだった。俺は街に着くまでの間、特にすることが無いのでほとんど荷台でじっとしていることになるのだが、ずっと座っていると振動の負荷が一点に集中してとてもじゃないがそのままではいられない。結果として横になって少しでも負荷を分散させようとするのだが、これには大きな問題がある。負荷が分散することで全身が振動に晒されることになるため・・・・・・酷く酔うのだ。幸いグァジがくれた乗り物酔い用の口に入れるとスッと鼻に抜ける風味のある薬草の一種を噛むことで吐き戻すのは避けられたが、休憩か夜営のために馬車が停まっている時以外は俺は完全に荷台の上でグロッキーになっていた。

他に付け加えるとするならば、食事面の酷さ、いや貧しさだろう。移動中の食事は全て日持ちのする保存食なのだが、その内容は味が薄いと感じてあまり好まなかった村での食事が懐かしく思えてくるほどだった。干し肉は異常に塩辛い上にゴムのような食感でなかなか飲み込むことができなかったし、パンは固く焼き締めてあって水でふやかさなければ歯が立たないほどだ。唯一普通に食べられたのは無花果に似た果実を干した物だが、たとえそれをある分全て食べてしまったとしても満腹にはほど遠いことが分かっていたため泣く泣く少しずつ分けて食べることにした。

そんな短いはずなのに長く感じた2日間を乗り切り、ついに到着予定の旅の3日目。俺は今日も今日とて激しい馬車酔いと戦っていた。日の出とともに出発してから初めの数時間は大丈夫だったのだが、陽が高くなった頃にはもうダメだ。それでもグァジから貰っていた酔い止めの薬草を噛まずにいられたのはこの2日で僅かなりとも馬車に慣れていた事の他に、街が近づいてきて道がしっかりしてきたことも大きい。

 

「う、うぅ・・・・・・まだ、ですかぁ?」

 

荷台の上で呻き声とともに、今日何度目かもわからない言葉を絞り出す。自分では酔いに耐えながら定期的に聞いているつもりではあるが、正確な時間を計るものなど無いから感覚に頼るしかなく、きっと酔いが酷くなってからは頻度が上がってきていることだろう。それでもグァジは少しも嫌がる様子もなく、毎回律義に返事をしてくれていた。まぁ、今のところ返ってきた答えは"まだですねぇ"だけなのだが。おそらく俺は彼の想像以上に馬車に弱かったのだろうが、彼の声には笑いの色は無く、むしろ俺への気遣いが感じられた。・・・・・・人間弱ったところに優しい言葉をかけられると弱いってのは本当だなぁ、商人だからって理由で警戒してた過去の自分が馬鹿みたいに思えるよ。

問いかけてはいるが今までのやり取りで良い返事がくることは期待していないので、思考を他所に飛ばしながら返事を待つ。しかし、グァジから返ってきたのは今までとは違う―――――そして待ちに待っていた言葉だった。

 

「おお、召喚術師殿。そろそろ街も見えてきましたよ」

 

「本当ですか!?」

 

どこにそんな力が残っていたのか、俺はガバッと瞬時に上体を起こすと未だグラつく視界の中を御者台の方へ向かうが、足が上手く言うことを聞かず四つん這いになって這ってようやく御者台までたどり着く。さっきまで馬車酔いでぐったりしていたというのに今の一瞬だけは気持ち悪さなどどこかへ忘れてしまったようで、自分の体のことながら現金なものである。

乱暴に御者台との間にある幕を開けると、馬の手綱を握ったグァジの背中越しに小高い丘の陰から姿を現している石造りの城壁が目に映る。グラグラ揺れている視界では細かいことまでは分からないが、遠目にも城壁がかなりの規模―――――すなわちその中の街もかなりの大きさであることが理解できた。

 

「あれが!」

 

「ええ、あれが村から一番近い、ダルゴの街です」

 

「あれが・・・・・・!」

 

御者台の後ろから身を乗り出して城壁を見つめながら同じ言葉を繰り返した俺に、グァジはフフッと微笑んで言った。

 

「もうすぐ馬車の旅も終りですが、これからも旅をお続けになるなら馬車には慣れた方が良いですよ」

 

"ドラゴンで乗り付けられたら大騒ぎですから"、そう悪戯っぽく付け足した彼の言葉に現実に引き戻された俺はほろ苦く笑って答えた。

 

「・・・・・・多少旅が遅くなっても、もう当分馬車は勘弁ですよ」

 

思った以上に情けない声が出たせいだろうか、グァジが快活に笑いだしたがそれほど悪い気持にはならなかった。

 

 

 

 

それからしばらくして、俺たちの乗った馬車は街の入り口である門の前までやってきていた。旅人を迎え入れるためか開いたままになっている門は大きくはあるが、流石に総鉄製ではなく所々に補強が入った木製で、その分厚さは一度閉じれば並大抵の攻撃では破れない堅牢さを感じさせる。しかしそれも当然か、なんたって街の外には魔物や盗賊など、元の世界の比ではない危険が満ち溢れているのだから最低でもこのくらいは必要なのだろう。

グァジが門の前で馬車を停めると、門の脇に立っていた衛兵の一人が近づいてきた。

 

「はいはい、どこから来たのか確認を―――――って、なんだグァジじゃないか。どうしたんだ? 前に来てからまだそんなに経ってないだろう。・・・・・・護衛まで連れて仰々しい」

 

どうやらグァジと顔見知りらしい中年の衛兵が、俺に訝しげな視線を向けながらグァジに問いかける。・・・・・・そりゃあ立派な鎧を着てる奴が一緒に乗ってりゃ誰だって護衛用の人員だと思うわな。で、そんな大層な装備を着込んだ奴を乗せて、護衛のいらないほど治安の良い街道を、いつもより早い頻度で街へやってくれば、何か特殊な事情があることなんか透けて見える。なんか悪事でも絡んでるんじゃないかと勘繰れば、疑われるのは当然信用があるグァジよりも・・・・・・俺、だよなぁ。

投げかけられる不躾な視線に憮然とした面持ちでいると、グァジはこちらにチラリと目をやり、俺の気持ちを感じ取ったのか苦笑しながら衛兵の男に説明した。

 

「この方は私の護衛ではないよ。そも、この街についこの前来たのに間を置かずまた来た目的の半分はこの方をここへ案内するためだ。誓ってやましい事はない」

 

疑念に対してグァジが強く否定をしたことで、男の懐疑を含んだ視線が少し和らぐ。しかし、それでも全ての疑いを払拭するには至らなかったらしく、どことなく胡散臭いものを見るような目でこちらを見ていた。

 

「案内のためにわざわざ一緒に来るとは・・・・・・随分と持ち上げられているんだな。もしかして、村で何かあったのか?」

 

「そいつが今回の目的のもう半分だ。村がオーガのはぐれに襲われてね、その亡骸の供養のためにオーガの同胞会に報告して神官殿を派遣してもらわなければならないのさ」

 

グァジの口から語られた言葉に、男は驚愕に目を丸くする。驚きの余り何か言おうとその口をパクパクと動かしてはいたものの、そこからは何の音も出てはいなかった。

 

「おいおい、少しは落ち着けよ」

 

傍から見ていれば滑稽と言ってもいい反応にグァジは笑いを堪えている様子で声をかけると、男はキッと視線を鋭くし、顔を歪めてグァジを睨み据えた。笑われていることへの羞恥か怒りか、その顔は赤みを帯びている。

 

「からかうな! はぐれのオーガなんて出たら場合によっては討伐隊の編成沙汰だ。どうせ未成熟な子供のオーガだったんだろう? まったく、脅かすんじゃないぜ!」

 

2人の会話を後ろから聞いていて俺は思った。・・・・・・え? 大人になったはぐれのオーガってそんなに強いの!? 確かにあのオーガには危うく殴り殺されかけたけど、まさかあれでもまだ未成熟ってことは・・・・・・いや、ないな。というか、あって欲しくない。あんなのがヒヨッ子レベルだったら、誰が何と言おうと街の外に出るときは4レベル以上のドラゴン並みのユニットを傍に常駐させるぞ、俺は。

俺の周りの迷惑を考えない決意に反して―――大変ありがたい事に―――グァジは男の言葉に静かに首を横に振った。

 

「冗談じゃない。実際に、村一番の狩人ですらやられたくらいだ。それでも結果として死人一人無く事が終わったのは、この方のおかげと言っていい」

 

グァジの言うことを総合的に判断すると、つまりあのオーガは犠牲なしに勝つことが難しいかなりの脅威だったということか。ホッと安堵に胸を撫で下ろしながら先ほどの傍迷惑なプランを白紙に戻していると、男は警戒を和らげてでこちらに向き直った。

 

「一応信用できる相手だって事は分かった。だが、仕事は仕事なんでな。商人にも職人にも見えんから遍歴証を出せとは言わんが、身元の証明できる物を見せてもらいたい」

 

くっ、また知らない単語が出てきたぞ。小声で傍にいるグァジに「『遍歴証』って何です?」と尋ねると、「行商や旅の職人に各地の領主が与える通行と商売の免状です。規模か技量が認められなければ発行されませんが」と教えてくれた。俺が元の世界の書類を持っていたなら、この世界の人が日本語を読めない可能性に賭けて故郷での遍歴証だと嘘でゴリ押すという手も考えられたのだが、何分こちらに来た時に持っていたのは衣服とカードだけ。身の回りの身元証明になりそうな物は何一つとして持ち込めていない。―――あれ? もしかしてヤバイ?

 

「どうしたんだ? 別に生誕証でもいいんだが」

 

「ほら、10歳になったら神官殿が授けてくれるこういうやつです」

 

2人して俺の方を向いて促してくる―――グァジに至っては自分の生誕証らしい掌に収まるくらいのメダルを見せてくれている―――のだが、俺には出せる物がないので冷や汗をかきながら視線をそらすしかない。・・・・・・ええい、こうなったら!

 

「言いにくいのですが、私の故郷では神官の方が訪れる事がなかったので、生誕証を貰った者はいないのです」

 

嘘は言っていない。少なくとも現代日本では10歳の子供に神官が何かを授ける事なんてなかったのだから。しかし、この世界においてはこれはかなり苦しい言い訳だ。その証拠にそれを聞いた2人は驚愕というより困惑している。

 

「おいおい、流石にそれは・・・・・・」

 

「まさか・・・・・・、しかし・・・・・・、それなら・・・・・・」

 

衛兵の男の方は半信半疑よりも疑がかなり強いようだが、グァジは自分が全く知らなかった召喚術やそれによって喚ばれた存在について見聞きしている為、神官さえも訪れないような未開の地の技術だったのかと得心しているようだ。

 

「スマンが、生誕証も見せられないなら少し話を聞いたりする必要がある。馬車から降りてもらえるか? ・・・・・・ああ、グァジは入街税を払ったらもう街に入っていいぞ。積み荷もないし、同胞会に早いとこ報告しなくちゃならないだろうしな」

 

男の言葉にグァジは俺の方を向いて是非を問うような視線を向けてきたので、了承の意味を含めて大きく頷く。彼がそれに頷き返すのを見て、荷台に無造作に転がしていた槍と盾、カバンを拾い、馬車後部の幌を開けて飛び降りる。まだ馬車酔いが抜けきっていないのか少々頭が揺れているような気がするが、槍の石突きの部分を杖代わりにしながら先ほどの衛兵の所まで歩いて行った。

ここでグァジとは別れることになる。短いようで長く感じた旅だったが、色々な教訓を得る事が出来た。その感謝を込めて、入街税を払い終えて御者台に座り直すグァジに一言礼を言っておく。

 

「では、ここまでありがとうございました」

 

「なに、本当に大した事はしておりません。私もこの街へ行く必要があったのですから」

 

「それでは、また」

 

「ええ、また」

 

簡単に別れの挨拶を済ませた後、グァジは馬車を進ませ始め、俺は衛兵の男に従って歩き始めたが、その途中で彼は御者台の上から大きな声で言葉を付け足した。

 

「召喚術師殿! もし宿に困ったなら『鬼哭の酒場亭』をお訪ねください! 安くて飯の美味い良い宿ですよ!」

 

声の元へ目を向けると少し遠くまで進んでいった馬車から叫ぶその顔は茶目っ気たっぷりで、害はなさそうだが何か企んでいるように見えた。うーん、彼が一体何を考えているのかは分からないが、宿を探す方法にも困ってたし丁度いい、かな?

彼の謎めいた表情に新たな疑問を抱きながら、手招きをする衛兵に付いて再び歩いて行った。

 

 

 

 

 

俺が連れてこられたのは門の脇、草がきれいに刈り取られて地肌がむき出しになっている小さな広場だった。連れて行かれる姿を見て門の内側の両端にいた衛兵の内の一人、ゴツイ戦斧を背負った立派な髭の小男も俺の後ろを固めるように付いてきていて、広場で俺たちが立ち止まると先導した衛兵と俺を挟んで向かい合うように背後をとって控えた。

 

「それじゃあ、ちょいと話を聞かせてもらおうか」

 

話を切り出した男の声に、体が緊張で硬くなるのを禁じ得ない。返答次第では折角ここまでやってきたのに街には入れないという事もあり得るからだ。そろそろ柔らかいベッドが恋しくなってきたし、挑発的と取られかねない態度は慎もう。宿のベッドに思いを馳せて襟を正していると、男はちょっとバツが悪そうな顔で続けた。

 

「・・・・・・と言っても、生誕証さえ持ってないのは初めて見るしなぁ。生誕証が当てにならない移動民族と同じと見るべきか? いやしかし、彼らも一応は持っているし・・・・・・、それとも―――――じゃあ―――――でも―――――」

 

「―――ええい、まどろっこしい! ごちゃごちゃ言っとるんじゃないわい!」

 

早々にその銅鑼声で一喝したのは、俺の背後に立っていた髭面の衛兵だった。

 

「ワシらの役目は街を守る事じゃ。なら危険かどうかで決めればええ。危険じゃなければ中へ通す!危険そうなら上の判断を仰ぐ!これでええじゃろうが!」

 

「お、おう・・・・・・」

 

髭面の衛兵が一方的に論破してフンッと鼻を鳴らす。この男、背丈が俺の肩ぐらいしかない事とその腹に届くぐらいに蓄えた立派な髭のせいで結構な年嵩に見えたのだが、よく見れば彫りの深い顔は生気に満ち溢れていて思ったより若々しく感じられる。冗長な事が苦手なようだが、その点も好感が持てるな。個人的に敵に回したくないタイプだ。

 

「で、お主は何を生業にしておるんじゃ? 立派な武具の割に戦士には見えんが」

 

上から下までジロジロ見ながら髭の衛兵が問いかけてくる。・・・・・・あっさり見破られてるなあ。これでも素人目には槍使いに見えてると思うんだが、この衛兵にはバレバレらしい。先導した方の衛兵は気付いていなかったから、こっちが鋭いのか、それともあっちが鈍いのか。なんとなく前者な気がするなあ。

さて、この期に及んで誤魔化しても何の意味もない―――グァジに後で確認されたらすぐバレる―――し、ここは真っ正直に答えるとしよう。ただし、『風の旅人』であることは面倒事になりそうだから意図的に伏せて。

 

「私は召喚術師です。カードを使い、動物や魔物などを召喚術で喚び出して使役することができます」

 

「「ショーカン・・・・・・ジュツシ?」」

 

衛兵の2人は揃って困惑の声を漏らす。どっかで見たなあ、この風景。何か疑問があれば聞いて下さい、と俺が申し出ると、2人は暫し互いに視線を交わしあい、おずおずと質問を口にした。

 

「あー、なんだ、その、召喚術ってのはなんでも喚び出せるもんなのか?」

 

「なんでも、とは言えませんが、大概は喚び出せますよ」

 

デメリットの特殊能力『新米の召喚』のせいでレアリティが極稀のカードからは召喚できないから若干の制限はあるが、稀以下のカードだけでも―――極稀のカードの数が少ない事もあって―――かなりの種類を召喚する事が出来る。特に動物系は哺乳類・鳥類・爬虫類・魚類となんでもござれだ。もっとも問題は、それらの動物たちのほとんどが大の大人より大きかったり、妙な特殊能力を持ってたり、人を2・3人殺して余りあるほどの身体能力を持っていたりする事だが。

 

「どこから喚び出すんじゃ? カードの中に事前に封じておるのか?」

 

「いいえ、カードの中に生きた存在がいる訳でも、カードがどこかに繋がっている訳でもありません。言うなれば、カードの絵と同じ姿の実体を持った幻を喚び出している、という感じでしょうか」

 

自信満々に言い切りながら心の中で、多分ね、と付け足す。この能力は仮称『風の神様』から与えられたものだから自分でも分かってない事が多いのだ。今言った事も、召喚したコボルドたちなどから話を聞いて立てた推論にすぎず、もしかしたらこの世界や六門世界とも違う別世界がカードの中に共通して存在しているのかもしれない。

 

「へぇ、最初の説明だと従魔を喚び出す従魔士(テイマー)みたいなもんかと思ったが、聞いた感じだとそういう魔法なのかもしれないな」

 

「そうじゃのう。じゃが、それだと何属性の魔法なのかは見当もつかんが」

 

"従魔士(テイマー)"ねぇ。俺の場合はそういう言い方をするなら、"召喚士(サモナー)"かな。それにしても召喚術が魔法か否か、とは難しい問いだ。原作小説では魔法である戦闘スペルを使えなくするアイテム《ザビエスの興奮剤》によって召喚術の行使が阻害される描写があったが、それは召喚術に高い集中が必要という設定があったからであって召喚術が魔法だからではないはず。事実、その後の展開でも強い精神力で集中を保てば興奮剤を受けてからも召喚術を使えていたしな。しかし、魔法ではないのかというと疑問が残る。なにせ原作の召喚術はなんといっても喚び出す対象を世界のどこかから自分の下へ瞬間移動させるのだ。これを魔法ではない、と言い切るのは少々苦しいだろう。その上、戦闘スペルには《○○○・ゲート》という名の各属性に応じた召喚補助スペルも存在する。その場に既にいる対象を使役した召喚術師もいたから、瞬間移動させる部分だけは魔法、という可能性もあるかもしれない。

では、俺の使っている召喚術はどうだろうか。召喚対象も別にどこかから瞬間移動させている訳ではなく、本来使役するのに必要な《真の名》や高い集中が要らないなど、細かい部分も微妙に違っている。《鑑定》を使った時の相手の能力値もモンコレ『風』に見えているし、個人的には『召喚術を模した能力』だと思う。戦闘スペルが封じられてる状況で召喚術も使えなかったら手も足も出ないんだ、召喚術が魔法扱いかどうかも近いうちに確認しておかなきゃな。

 

「話の限りじゃあ、俺たちで判断を下すのは厳しそうだな」

 

「じゃが、上に判断を仰ぐにしても、話が本当である確認をせんといかん。スマンが、なんぞ召喚してみてくれんか?」

 

衛兵たちは自分たちだけで事を終わらせるのを諦め、俺に召喚術を実演するよう求めてくる。

上に話を持っていくためにも実際に見せてみろ、か。まあ、妥当な話だ。今は魔力も最大値だし、ほとんど何を召喚しても大丈夫だが・・・・・・

 

「念のために聞きますけど、亜人や獣人を召喚するのもマズイですよね?」

 

隠しておいてもよかったが、後々トラブルの種にならないよう教えた情報に彼らは目を剥いた。

 

「えっ!? そりゃ、なあ? いくら幻といっても、誤解を生むだろうし・・・・・・。あ! まさか人間も召喚できるのか!?」

 

「いいえ、人間は召喚できませんが」

 

その言葉に男はあからさまに胸を撫で下ろし、髭の衛兵は少し疲れたような声音で言った。

 

「ま、絡まれたくなければ自重するべきじゃろうな。ワシもドワーフの召喚なぞ見たくはないわい」

 

反応はほぼ予想通り。やはり亜人系のユニットの召喚は街では慎重になった方がよさそうだ。しかし今はとりあえず適当に騒ぎになりそうにないユニットを召喚すべく、鎧の腰の部分に結び付けておいた袋の口を開く。

この袋の中には非常時に召喚できるように低レベルだったり即時召喚が可能だったりするユニットカードや幾つかの補助用のスペルなどが入っている。緊急時にはカードを選んでる時間などないことを見越して事前に有用なカードを選別しておいたのだ。・・・・・・実は全体攻撃可能なユニットや大型ユニットなどもお守り代わりに少量混ぜられているが、それはそれ。使われないことを祈るだけだ。

さて、袋の中から当たり障りのないカードを一枚だけ取り出して召喚を行う。コイツは戦力的にも消費魔力的にもそれほどでもないし、試しに見せるにはもってこいだろう。

 

「普通召喚、《グレイ・ウルフ》」

 

召喚の宣言と共に空間に奔った六芒の魔法陣から、大型犬くらいの大きさをした一匹の狼が現れる。《グレイ・ウルフ》、名前通り灰色の毛並みをしており、前に召喚した事のあるウィンター・ウルフと同じ1レベルの狼である。能力的な違いはこちらは吹雪に対する耐性やイニシアチブに対する上方修正値を持っておらず、攻撃力は1だけ上回っていること。ただそれだけ。特殊能力も何も持っていないのでその特長はレベルより高い攻撃力だが、グレイ・ウルフだけでは先攻をとれるかは運任せになるため別のユニットのお供として攻撃力の底上げ要員になる事が多かったユニットだ。

事前に説明を受けていた2人も実際に現れた狼に目を見張る。

 

「マジかぁ・・・・・・、こりゃ本物と区別がつかねぇぞ・・・・・・」

 

2人して目の前で大人しく"お座り"するグレイ・ウルフに呆けていたが、そこは年の功なのか髭の衛兵が先に我に返りもう1人の衛兵に指示を飛ばす。

 

「話がすべて本当となれば、ワシらでは話にならん! お前は詰所に行って隊長と詰めている神官殿を呼んで来い! 今の時間なら2人とも詰所におるはずじゃ! 」

 

「お、おう!」

 

言葉を受けて男は一目散に走り出した。俺はグレイ・ウルフと一緒にその後姿を眺めながら、なんか大事になってきたなぁ、とまるで他人事のように感じていた。

 

 

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属性:聖・魔  レベル:2  攻/防:3/5  進軍タイプ:歩行

新米召喚術師  【人間】  スペル:*  アイテム:1(使用中)

魔力:7/8

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属性:風  レベル:①  攻/防:2/1  進軍タイプ:歩行
グレイ・ウルフ 【ウルフ】
消費魔力:1
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※レベルより攻撃が1高いハイイロオオカミ。
 【ウルフ】デックか低レベルによる数合わせか、
 どちらにしても他のユニットの力が必要になるユニット。
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