魔法の言葉「フィクションでお楽しみください」
『旅をしようよ』
腕の中で眠ってしまった黄色い毛玉が言った。
確かに、と思った。
ここにいる理由も原因もわからないが、生きるなら生きるなりにちゃんとしなければならない。
ただ、腕の中の毛玉の肝の太さには驚きだ。
お互い初対面だろうにすやすやと眠っているのは少々野生を失いすぎてはいないか?何かするようなつもりはないがこの爆睡っぷりは心配になるな。
この毛玉、ピカチュウはモンスターボールに入っている=こいつが主人という思考回路の奴らしい。
ポケモンの中では割と普通の思考回路らしい。
なんとも言えない気持ちになったのは内緒だ。
なんだか人さらいみたいでやりきれないし、使役の関係みたいでなんかヤダ。
この世界の決まりと言えば決まりだけどなあ、と思いつつ整備された道を見つけたのでそれに沿って歩いていく。整備というか風化して意味を成しているのかわからないコンクリートのでこぼことした道ではあるが、道は道だ。辺鄙なところなんだな、と思う。
整備されてるってことはだいたい町につながってるってゲームではそうだったけど、実際にこの世界はどうなんだろう。看板も立ってないし、人はいないし、ポケモンもあまり見かけない。
なんかいる感じはするけどこちらを見て距離を置いてるっていうか、避けられてるって感じか?
ピカチュウ君も寝ているから好都合っちゃ好都合だけど、ポケモンの世界に来た感じがしない。襲わないのがもしかしたらこの世界のお約束的な何かなのかもしれないけれど、大体こんなに歩いたら一匹や二匹ぐらい遭遇しそうなんだけどな。
目が覚めてから太陽がお空の真ん中を通り過ぎたごろ、ようやくポケモンセンターに着いた。
ポケモンセンター、ゲーム内だと民家よりかはでかいイメージだったが想像よりかなりでかかった。普通に病院って感じ。
あのカードの裏には宿泊を保証していたから、宿泊施設が併設しているのかと思えば、外観にそんなものは見られない。このポケセンにはないのだろうか。辺鄙な場所にこそあった方がいいのでは?と思うが、利益が出なければやっていけないか...と思いなおす。
初めてのポケセンだ。やっぱり緊張するのでピカチュウ君を起こす。
おきろ、と声をかける
無反応。
揺らしてみる
よだれを垂らしながらにまーと笑い始めた。
こいつ、全然起きない。
首をガクガク揺らしているのに全然起きない
きのみおいしいじゃないんだよ起きろ。
十分ぐらい格闘したがあきらめて、すりガラスのドアを押した。
ポケモンセンターに入るとツンと鼻を刺す消毒液の匂いがする。目の前には本当にピンクの髪をしたジョーイさんがいた。
今一番。ポケモン世界に自分がいるってことを実感しているかもしれない。
横にいるピンクのポケモン、タブンネだったか?がにこりとこちらを笑いかけてきた
かわいい
ジョーイさんにメンバーズカードを見せて全くわからないお上りさんかのような俺に丁寧に手続きをしてもらい、見取り図やらなんやらを教えてもらった。
ちなみにピカチュウ君は俺の腕の中で爆睡中だ。
ホテルによくあるでかいキーホルダーがついたカギを持って言われた部屋へ向かう。
宿泊施設とやらは地下にあるらしい。道理で外観に何もないわけだ。
昨日の大嵐でみんな寝ているらしい。昨日の大嵐はかなりひどく、
この世界にいたのが昨日じゃなくてよかった、と己の幸運にお礼を言いつつ地下だからかちょっぴり仄暗い廊下を歩いていく。
目的の部屋に着き、持っていたカギを入れて回す。
かちゃん、と思っていたよりも可愛らしい音を立ててカギが外れた。
このピカチュウ君胆が据わりすぎ
初対面の人間やぞ