飛鷹は高く   作:鷲鷹隼燕

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一部書き直しました













 教会の戦士の情報収集は、実に原始的だ。

 歩き回って痕跡を探し、聖なるオーラを探知する。しかも探知範囲はそれ程広くもない為、結果的に動き回る事になった。

 

 しかし、今回のエクスカリバー奪還任務は常の聖遺物探索とはいささか毛色が違う。

 

「今回、俺達が行うのは釣りだ。作戦の要は、紫藤。お前になる」

「私?」

「ああ。お前の持つ、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を用いて奴らを誘い出す」

 

 悪魔との顔合わせからホテルへと戻る道すがら、アクイラは今回の任務の作戦を告げた。

 

「誘い出す、というのは?」

「十中八九、相手側にはこちらがこの町に入り込んでいる事がバレている筈だ。聖剣を持ち込んでいる事も、な」

「その気付いている相手を誘い出す、と」

「ああ。奴らがエクスカリバーをどう扱うつもりなのかは知らないが、それでも三振り()()奪えなかったのなら他のエクスカリバーを奪える機会を逃すとは思えん」

 

 推論ではあるが、同時にアクイラとしては確証もある。

 物を盗むという行為に手を出す輩は、種族問わず大抵は二つの理由に該当する。

 一つは、盗むという行為そのものが目的を果たしている場合。盗む対象への何かしらの理由はあれども、大抵そこはゴールラインだ。

 もう一つは、盗みがあくまでも計画の道中の一つである場合。アクイラの見立てでは、こちらだ。

 

「行動開始は、明日からだ。紫藤は、聖剣の能力を使いアクセサリーにして身に付けておいてくれ」

「りょ、了解!…………といっても、どうするの?歩き回る訳?」

「仕事が始まるまで、バカンスを楽しめばいい。町を離れる事は出来ないが、それでも動き回って見て回る位なら良いだろう」

「そんな事で良いのか?」

「休める時に、休むのも重要だ。上の連中は、仕事が出来ると判断すれば限界ギリギリでも無茶を強いてくるぞ」

 

 何処か釈然としない様子のゼノヴィアに対して、アクイラは自分の経験を加味してそう言う。

 

 教会の戦士の中でも上澄みである、アクイラ・ロック。

 同じく、教会最強のエクソシストと称される天界のジョーカーも立ち位置として似ているが、彼の場合は孤児院の世話や神器を用いての天候操作などに駆り出されて畑が違う。

 一方で、アクイラは神器などを持たない純人間。要は、教会上層部が自由に動かせる戦力という事になる。

 人材というのは、どの組織でも実に重要な資産だ。補充が難しく、育てるとなれば時間も金もかかる。オマケに損失すれば回収はほぼ不可能。

 その為、危険な任務でもほぼ確実に五体満足で帰って来るアクイラは重宝されていた。

 酷い時は、世界中を五日間の弾丸行程で敢行し、移動時間がそのまま仮眠時間の様な事もあった。

 

 そして、アクイラは悟る。一から十まで全力で任務に取り組むよりも、僅かな余裕を作れるのなら率先して休むべきだ、と。

 そうでなければ、心が死ぬ。

 

 仕事は、あくまでも仕事。それが人生と成ってはいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場祐斗の人生は、絶望に彩られている。

 彼は、教会の施設出身だった。そこで、非人道的な実験の数々を仲間たちと共に受けてきた。

 その終わりは、ただ一人彼だけが生き残るという救いのないもの。

 苦難を共にした友から生かされた命は、終わる事を許さない。だが、たった一人生き残ってしまったという一種の罪悪感のせいで生きていくただそれだけが辛い。

 

 笑顔の仮面を張り付けて、生きてきた。今までが楽しくなかったかと問われれば首を左右に振るが、しかしその心にはいつだって影がこびりついている。

 そんな折に、やってきた復讐の機会。湧き上がる憎悪のままに動こうとして、圧倒的な力の差を前に完膚なきまでに叩き潰される事になった。

 

 アクイラ・ロック。十代とは思えない貫禄と落ち着きを伴った教会の戦士。

 悪魔であるリアスに対しても嫌悪感などを一切示さず、元々教会側の人間で今は転生悪魔であるアーシアに対しても理解を示した神父。

 何より、強かった。

 如何に模造品といえども、神器を用いて創造した魔剣を素手で砕き続けていたのだから。切りつける事は愚か、汚れ一つも付ける事は出来なかった。

 

 何より、相対した状態で一切敵意や殺気を向けて来なかったのも印象的だ。

 

 結果的に昏倒させられ、復帰した際には心配する表情の主や仲間たちの姿があった。

 

 完膚なきまでに負けて頭に昇っていた血が下がったお陰か、祐斗は心配する皆に謝罪。

 

 そして、改めて件の神父との顔合わせを求めたのだ。

 

「――――今日はありがとうございます、ロック神父」

「気にするな…………憑き物の落ちた顔をしているな。自分なりのケジメを付けたか?」

「…………まだ、割り切れていません。ですが、こうして改めて話をしたいと思える程度には頭も冷えました」

「そうか」

 

 駒王町にあるとある喫茶店にて、祐斗はアクイラに時間を作ってもらうとこうして顔を合わせていた。

 因みに、教会側、悪魔側双方からこの顔合わせが気になってこの喫茶店に集まってしまっているのはご愛嬌というもの。ちゃんと注文も行っており、暴れる訳ではないのだから店側から追い出される事も無い。

 

「まずは、謝罪を。頭に血が昇っていたとはいえとてもではありませんが褒められた態度ではありませんでした。申し訳ありません」

「気にするな、Mr木場。俺は気にしていない。あの場でも言ったが、俺は復讐を否定しないからな」

「ありがとうございます……ロック神父は、聖剣計画をご存知ですか?」

「ふむ…………すまないが、中身までは知らん。だが、その計画がお前の復讐の元凶か」

「はい」

「…………嘆かわしい事だが、教会では非人道的な実験が行われている事が珍しくない。大義名分が、建てやすいからだろうな」

「大義名分、ですか?」

「ああ。主の下、異形異端を討ち滅ぼすというものだ。人は、理由さえあったならば幾らでも怪物に成る事が出来る」

 

 狂信者に多い考え方だが、質が悪いのがこの思想は伝染するというもの。それこそ、ごく普通の信者であったものが苛烈な悪魔祓いへと変じる事すらある。

 十年以上教会に籍を置くアクイラも、その手の輩はよく見てきた。同時に、救いようがない事も知っていた。

 彼らは死ぬまで狂信者だ。その首を刎ね飛ばされる瞬間も、刎ね飛ばされた後も意識が途絶えきるその時まで決してその考えを揺るがせる事は無い。

 

 祐斗はせり上がって来る怒りを、頼んでいたカフェオレを飲む事で落ち着けた。

 

「どうにか、ならないんでしょうか」

「難しい問題だ。先の通り、彼らは彼らなりの信念があって外道に手を伸ばしている。物理的に潰そうにも、結局似たような人間が現れる事を止める事は出来ないからな」

「そう、ですか…………」

 

 一度成立すると、宗教ほど潰しにくいものはない。

 暴力にも、権力にも屈しない。後者に至っては、逆に飲み込まれる事すらある。

 その根本にあるのは、信心。要は、人間の思考、或いは心だ。コレを、他者が外的要因で覆す事は容易ではない。

 人間、自分の信じたモノを捨てる事は容易ではない。これがまた、宗教の厄介な所に拍車をかけている。

 

 祐斗からしてみれば、この話は新鮮だった。同時に、救いを齎す存在である筈の宗教が救えないものであるという皮肉を抱えている事に失笑が浮かびそうになる。

 

「…………ロック神父」

「どうした」

「ロック神父は、復讐を否定しないとおっしゃいましたが…………何か、理由がおありなんですか?」

「ソレか……そうだな。大抵の人間は、復讐を悪いものとして扱うが人が一人で立ち上がり、そして前へと進む原動力として見るならばかなり優れた原動力になると俺は思っている」

「原動力、ですか」

「自分の行動するための指針と言い換えても良いだろう」

「成程…………確かに、それは僕にも覚えがあります」

「そうか…………もっとも、周囲へと怒りを振り撒くようならば、俺も肯定しないがな」

「それも、実感してます」

 

 祐斗が思い浮かべたのは、復讐にネガティブなイメージが纏わりつく原因の一つ。

 即ち、復讐者自身の視野狭窄だ。復讐対象を目の前とすると、その視界は恐ろしい程に狭くなる。

 集中力が増しているといえば聞こえはいいが、自分の体すら無視して突き進むのだからその結果待っている現実など目も当てられないような事なのは確か。

 

 それから、幾つかの話をした。祐斗自身も、自分の身の上を少し話したのだがアクイラはただ静かに聞き手に徹していた。

 歳はそう変わらないというのに、その落ち着いた雰囲気はまるで成熟しきった大人のソレ。教会の人間であるというのに、ついつい頼りたくなってしまう。

 

「ロック神父。最後にもう一つお願いがあるんですが…………」

「構わんぞ」

「…………中身を聞いてからでは?」

「余程馬鹿な内容でなければ断らない、という意味だ。汝隣人を愛せよ、という教えもある事だしな」

「…………」

 

 そう言う割には、貴方は神を信仰しているようには見えない。そんな言葉を吐きそうになって、祐斗は口をつぐんだ。

 代わりに、本題を口にする。

 

「僕と、改めて一戦、剣を交えてほしいんです」

「ほう?」

「貴方は、僕よりも遥か格上の剣士なのは理解しているつもりです。その上で、世界の壁に挑むチャンスを頂きたいんです」

 

 祐斗の願いに、アクイラは顎を撫でた。そして視線を空中に僅かに彷徨わせてから、一つ頷く。

 

「良いだろう。任務後に時間を取るとしよう」

「!良いん、ですか?僕から言い出した事とはいえ…………」

「勿論だ。俺も、昔は誰彼構わず喧嘩を売ってきたものだからな。強くなろうと思うのなら、実戦が一番だろう」

「そ、れは…………」

 

 今のアクイラの態度からは想像できない過去だ。

 因みに、辻斬りとまでは言わずとも教会関連の実力者や並み居る逸れ悪魔と切り結んできたのがアクイラ・ロックの教会の戦士としての経歴の中に存在していたりする。

 

 そして、数日後の事だ。事態は動く。

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