「よし来た、江戸!」
街に降り立ちぐっ、と背伸びをする。街中では人や天人が歩いていた。空には当たり前のように宇宙船。
「それにしても……」
ここに来た時は、こんな風になるなんて思ってもみなかった。昔──といっても五年くらい前か。それくらいの頃は、ビルなんて建っていなかったような気もする。あの頃は……とかなんとか考えている内に、かぶき町に足を踏み入れた。ここに来るのは初めてだ。まだ時間はあるし、ちょっと見て回ろうかな? 場所の確認だけでも……と万斉さんに貰った地図を見る。…………大丈夫、迷わずに行ける……ハズ。地図を仕舞おうと鞄を漁っていると、アレ、なんだ……? もしかしてバズ……。轟音と共に顔のすぐ横を弾がすり抜けて行く。…………っっっぶな!! あ、当たるところだった……。
「イテ!!」
「ヅラァァァ!! テメッ、何巻き込んでくれてんだァァァ!!」
「ブハハハハハ!! 銀時ィ! 貴様もこちら側に来い!! あとヅラじゃない、か」
「……ーツラァァァ!」
いきなり銀髪の人にぶつかられた。思わず尻もちをつく。
銀髪に黒髪長髪、茶髪……なんだか賑やかな人達が疾風の如く去って行ったな。
腰を強く打ったのか、短刀が投げ出されてしまっている。
「イテテ……」
拾おうと屈めば、革靴が視線の先にいる。見上げるとそこにいたのは咥えタバコに刀を佩いた、
「……」
「……」
短刀は既に手の中だ。マズイ。
「オイ、お前…………」
「わ、失礼しました!! それじゃ」
回れ右だ。短刀を握り、そのまま走り出そうと足に力を入れる。だが。
「はい、話は屯所で聞くから。君幾つ? まだ十三そこいらでこんな物騒なモン持ってちゃいけねーや」
先程バズーカを撃っていた青年が振り向いた先にいた。腕を掴まれる。
「や、ちょ。勘弁してくださいよ!!」
じたばたしていると、後ろから先程のタバコの男が迫って来るようだ。手が腕から外される。
「総悟ォ、ヤツは?」
「それがですねィ、逃げられちまいやした。まあ隊士たちが追ってるんで、時間の問題でさァ」
話している内に逃げてしまおう。そう思って走る。
「がっ!?」
走った瞬間、後ろの方に引っ張られ、転んだ。な、なんだ……?! わかったのはバズーカの青年がニヤニヤといやらしい笑顔でこちらを見ていることだった。なにアレ、腹黒そっ。
「って……なにこれ!?」
首輪が付けられていた。え、ウソ。あの瞬間に!? 腹黒青年はぐいとリードを引っ張り、言う。
「それじゃ土方さん、俺ァこいつを屯所まで連れて行きまさァ」
「お前な」
「勘弁してくださいよォ!! こっちは仕事あるんですから!!」
「おいガキ」
土方と呼ばれた男がこちらを睨む。
「なんでたってこんな
なんでこんな警察ピリピリしてんの!? 焦りつつ、弁解をする。
「ははは、そんなまさか〜。護身用ですよ! ご・し・ん・よ・う!!」
冷や汗が出る。まさかこんなところで警察に捕まるなんて……!! どうにか切り抜けないと。ガチャガチャと首輪を弄る。しかしどうしたって外せない。その上総悟と呼ばれた青年がリードを持っているお陰で、ズリズリと引き摺られてしまっていた。
「はーなーしーてー!!」
「そいつは出来ない相談でィ。……それに」
叩き甲斐のあるドエム根性がありそうじゃねェか。
「ぎゃー!!」
「結局そっちぃ!?」
男は青年にツッコんだ。
そうやってじたばたしていると、銀髪に木刀を佩した男がやって来る。横目で見ていると、青年と男に絡んでいた。
「ちょっとォ〜、大串くぅん。困るんだよねぇ〜!! ああも巻き込まれちゃったらさァ!! なに? 警察って税金ちょろまかすのが仕事なんだっけ?」
「誰が税金泥棒だ!!」
「土方さーん、先に行ってていいですか」
「待てや総悟!! ……っつーか……お前それ……」
「あ? …………あ」
首輪を切り、近くの物陰に身を潜めた。警察二人はどこかへ行ったようだった。そちらから目線を外し、溜息をつく。不意に声がかけられる。
「んで? お前なんなの。捕まってたけどよ……なにやらかしたんだ?」
銀髪の男がやって来た。その男から視線を外し、ほんのり微笑んで呟く。
「いやー……、なんでしょうね? あ、さっきはありがとうございました。お陰で拘束から抜け出せましたし」
「礼なんざいらねーよ。別に逃がそうって思って逃がしたワケじゃねェし? ……突き飛ばしちまっただろ? それとあいこだよ、あいこ!」
「……そうですか。でも、ありがとうございました」
袴の埃を落とし、立ち上がる。
「お礼に…………なにが喫茶店でなにか奢りますよ」
「が、ガキに奢られる程、落ちちゃいねーよ」
震えた声で呟いた。
「え、なんでも奢っちゃうのにな〜」
「マジでか。俺は坂田銀時つーもんだ」
「マジです。私の名前は酒井
「マジでか!!」
銀時殿はテンションマックス、興奮気味だ。それに釣られて笑顔になる。そろりと表の道に出る。するとバズーカが撃たれる前のように人波が元に戻っていた。歩きながら話す。
「……ていうか今の警察って、あんな物騒な物街中でぶっ放すんですか?」
「相手が相手だからな……仕方ねェんじゃねーの?」
「相手? 攘夷志士ですか?」
「そんなトコだろ。あーあー、いい迷惑だぜ」
ふむ、と不思議に思う。先程追い掛けられていた人物が攘夷志士ならば、このひとはなんなのだろう? と。
「銀時殿はその攘夷志士とお知り合いで?」
「あん? ヅラと……? まあ、知り合いっちゅーか……腐れ縁だな……」
「そうなんですか」
ヅラって言うのか、あの長髪のひと……と思いつつ喫茶でにいずにて、適当に飲み物を頼む。ココアとカフェオレ。そこに銀時殿への奢りでパフェなどが入ってくる。いちごパフェにガトーショコラ、プリン、パンケーキ、白玉あずき……結構頼むなあ、このひと。カフェオレを喫しつつ、銀時殿を盗み見る。彼はこのかぶき町で、万事屋というなんでも屋をやっているのだとか。
「なんでも屋、かあ……」
そう思って窓際を見ると、チャイナ姿の少女と眼鏡の少年が張り付いていた。
「……あの、銀時殿」
「…………俺はなにも見てねーよ?!」
「いや、銀時殿……コレ……」
「だからなにも見てねーっつってんだろ!!」
銀時殿がツッコむと同時に窓際を見る。すると少年少女とばっちり目が合ったようで。少年少女は喫茶店の中へ、我先にと入ってくる。
「銀ちゃんズルいネ!! 自分だけいい思いして!!」
「そうですよ!! なに一人で甘い汁啜っちゃってんですか!!」
「うるせー!! 俺はコイツに礼だって言われたから奢られてんの!!」
ぐっと睨み合う三人。それに割り込むようにして、まあまあと仲裁をした。
「銀時殿の知り合いらしいし……ボクたちにも奢ってあげる!」
「キャッホォォウ!! 今日は祭りネ」
「でも、こんな神楽ちゃんみたいな歳の子に奢らせるのは……」
「いや私もう十八歳越えてるからね?」
「いーじゃねェか。本人もこう言ってることだし……奢られてやれよ」
「そうアル! ここは奢られてやるのが道理ネ!」
「でも……このあと依頼もあるし……」
少年はまだ躊躇っているようで。ダメ押しの一言を呟く。
「いやいや、銀時殿の知り合いなら私の恩人みたいなとこあるから。遠慮なく言って!」
かくして少年少女も卓に着く。
「へえ、名前……新八くんに神楽ちゃんって言うんだ」
「そうなんですよ。でも、いいんですか? こんなに奢って貰っちゃって……」
「ん? ああ、いいよいいよ。正直昼食べようと思ってたし……一人じゃ、ちょっと味気ないからね」
その横で銀時殿と神楽ちゃんはモリモリ食べている。特に神楽ちゃんはめちゃくちゃ食べていた。積み重ねられた皿の量がそれを物語っている。話しながら食べているとブルル、と携帯が震えた。
「! はい、もしもし! ば……んぽさん!」
「ばんぽさん?」
銀時殿が呆けたように呟く。
『友成、ぬし……まだお通殿のところへ行っておらぬな?』
しまった。忘れてた。時間を確認する。……これからならギリ間に合う!
「すみません! 今から行きます!!」
万斉さんに頭を下げながら言い、万事屋の三人にも言った。
「ごめんなさい! 今から急ぎの仕事があって……これだけ置いておきますね!」
とりあえず今頼んである分のお金だけ置いていく。それから江戸はかぶき町を駆けていった。
万斉さんから貰った地図を見ながら走る。事務所……じゃなくテレビ局にお通殿はいらっしゃるらしい。
──話は通してあるでござる。
万斉さんはそんなことを言っていたが、大丈夫だろうか? 不安な面持ちで、テレビ局の玄関をくぐった。IDカードを手に警備員へ取り次いで貰う。そうすればいとも簡単に、スルスルとお通殿の楽屋まで通された。話通してあるって本当だったんだ。万斉さん、本当に私をプロデューサー代理にするつもりで……? そこまで考えて気分がどんよりとする。これから忙しさに拍車がかかるし。そこまで考えて頭をブンブンと振った。切り替えないと。
「失礼します」
ノックをし、お通殿の部屋前で待つ。
「どうぞ〜」
「あら、なんなのアナタ」
入れば、お通殿とお通殿のマネージャーさんがいた。ここで名乗ろうと頭を下げ、真っ直ぐにお通殿を見る。
「失礼します、私……」
ガチャリと背後の扉が開いた。聞こえるのは三人分の足音。
「すんませ〜ん。遅くなりましたァ。万事屋銀ちゃんで〜す」
「え?」
「あ?」
銀時殿と目が合う。なんで……ここに……!?
「よ、万事屋さん……!! なんでここに!?」
「なんでもかんでもこっちの台詞だっつーの」
「ま、まさか」
お通殿の方を向く。お通殿はごめんなさい、と前置きした。
「新しいプロデューサーの方がつくって聞いていたんだけど、不安になっちゃって……万事屋さんに来て貰っちゃった」
「…………ちゃんと秘密保持出来る方々なんです……よね?」
お通殿が頷く前に万事屋の三人が勢いよく言う。
「失礼ェだなお前」
「そうアル! こちとら腐っても仕事ネ!」
「お通ちゃんの秘密なんて漏らすはずがありません!!」
「じゃあ、信用しますよ……」
目を細め呟いた。懐から名刺を取り出す。
「私──
お通殿に万斉さん──表の稼業である音楽プロデューサー、つんぽの名刺を渡す。ザワっと一室の全員が騒ついた。
「こ、こんな子供があ、あの伝説のプロデューサー、つんぽですって!?」
「つ、つんぽってあの──!?」
お通殿のマネージャーさんと新八くんが目を真ん丸にしている。それはそうだ。しかし。
「いいえ、私はつんぽの代理。酒井友成、と申します」
そして免許証を取り出し、言った。
「もう既に十八は越えてるんで、よろしく」
「いやそれ今年で、ですよね。まだ越えてないじゃないですか」
新八くんにそうツッコまれたが無視して、ボイスレコーダーも取り出す。
「つんぽから言伝を預かっております」
そう言ってつんぽさんから預かったボイスレコーダーのスイッチを入れた。
§ § §
夜も深まってくる頃、万斉さんの部屋でプロデューサー代理についての打ち合わせをしていた。おずおずと万斉に尋ねる。
「あのう……プロデューサー代理、って……?」
「その名の通りにござる。ぬしには拙者の代理を務めてもらうことになる」
不安だ。確かに万斉さんにはずっと芸能界とは、楽器の扱い方、ボイストレーニングをさせられてきたけど。実際に芸能人と会うとなると……緊張する。正座して万斉さんの言葉を待っていると、彼は呟くように言う。
「とりあえず……ボイスレコーダーに録ってある言葉を伝えてくれるだけでよい。お通殿にも話は通してあるゆえ」
「は、はい……」
「不安か?」
試すような視線。じっと見上げて素直に言う。
「それは、そうですよ……」
きゅっと口元を引き結んだ。万斉さんはそっと肩に手を置き、言う。
「なに、ぬしは堂々としていろ。それが結果に繋がったりもするのでござるよ」
「…………」
思わずじとっとした視線で万斉さんを見た。彼はふと目元を和らげて言う。
「そう不安に思わずともよい。繋ぎとはいえ、拙者のネームバリューもある……だから自然にしているといいでござる」
「……は、はい……」
自然にって、それが一番難しくない?! そうは思ったものの、口に出すことを控えた。万斉さん結構厳しいから……。
「深呼吸でもするといいでござる。話はそれから、でござるな」
頷いて深呼吸をする。そうして万斉さんのサングラスに隠れた目を見た。
「まずは、拙者がお通殿をどうプロデュースするか、それと新譜にござるな。それの歌詞、ぬしに手伝って貰ったデモテープを持って行くにござるよ」
「デモテープっていうと、あ、アレですか!?」
「アレでござる」
顔から火が出るようだった。本物のプロのアイドルに
「なに。ボイトレも行ったし、拙者が聞ける程度にはちゃんと仕上がっているでござるよ」
「や、でも……」
「でも、ではござらん。これで全てにござる」
泣きそう。耳も熱くなってきた。おろおろと万斉さんを見ていると、彼は優しい手つきで私の頭を撫でた。
「大丈夫でござる。……ぬしはもっと自信を持つべきにござるな」