『初めまして、お通殿。拙者はプロデューサー、つんぽにござる。今回は貴殿のプロデュースについて伝えたいことが。拙者の代理の友成に詳しいことは伝えてあるでござる。今回は──……』
つんぽさんの話を黙って聞く一同。お通殿もぴしっと背を伸ばして聞いている。
『以前の──……初ライブあとのスキャンダルについては痛かったでござるが、巻き返せないことはない。お通殿には光るものがある故、まだまだ芸能界で輝ける。新進気鋭故な。今回は貴殿の売り出し方について案をいくつか出てきたでござるよ』
そこまで音声を流し、一旦止める。印刷してきたレジュメを彼女やマネージャー、スタッフ、万事屋一同へ渡した。内容は売り出し方、いわゆるマーケティングだ。レジュメの中に、それが詳細に記してある。門外不出だ。そこで彼女や他のひとの意見を出し合うことになった。彼女自身の強みを活かすか、それとも別の方向性でいくか、だ。
「──で、お通殿はどう思います? 自身について」
「私、ですか? 私は──……やるからには、半端なことはしたくありません。やるからには、トコトンコツラーメンの背脂!!」
「トンコツラーメン?」
思わず声に出してしまう。
「これはお通語といって、お通ちゃんのチャームポイントの一つなんですよ! これがあるからこそ、お通ちゃんはファンと一体になれているといっても過言ではありません!!」
新八くんが解説をしてくれた。なるほどね。なにかと思った。
「……わかりました。ではつんぽが申しておりました通り、アナタの強みを活かす方向で考えましょう」
再びレジュメへ視線を落とす。つんぽさんの考えはこうだ。
『お通殿の強みを活かす──それすなわち、彼女自身の個性の強調、でござる』
「アナタの個性をもっともっと、強調していきましょう。その『お通語』もファンや、新規層へもっともっと広めていくことが大事かと」
「なるほど……」
お通殿は考え込み、そして顔を上げる。
「なら、もっと語尾をキャッチーなものにした方がいいかな?」
その言葉に深く頷きお通殿の目を見て、言った。
「そうですね、もう少し──過激なものでもアナタの方向性なら大丈夫でしょう。きっと新規層にも届きますよ」
「はい! 頑張りまスットコドッコイコンチクショー!!」
「その調子です!」
頷いてレジュメを捲る。万事屋一同もレジュメを覗き込み、考えているようだ。スタッフの一人が呟く。
「でも……お通語を前面に押し出すのはいいとして、それだけじゃあ……」
「勿論、心得ています。お通殿のファンは歌を望んでいるはずですからね」
レジュメのある文を人差し指で示しつつ、話す。
「アイドルは歌が大事。私やつんぽはそこを全面的に主導ないしは、サポートしていきます」
うんうん、と頷くお通殿。続ける。
「次のライブはいつにするか……そういう話になります」
「ライブって前行ったアレアルナ」
「そーだよ。あん時ゃ、食……なんとかつった天人が暴れて大変だったよなァ」
「親衛隊の方もいるんでしたっけ? その方たちがいるなら、恐らくチケット捌けも最低ラインは確保出来るでしょうし──……」
そこまで言うと、新八くんは人が変わったように烈弁を振るいだした。
「そうですよ!! お通ちゃんには僕たちがいます!! だから席のことは心配しないでください! なんならCDだって他の人の倍以上は買いますから!! あとチケットだって周りに配ります!! だからお通ちゃんには心置きなく歌っていて欲しいんです!! それと、ライブも盛り上げますんで!!」
「そ、それなら、安心ですね……」
思わず少し心の距離が出来た、新八くんに。いやだって勢いがえげつないんだもの、吃驚しちゃうよ。普通の人だったらもっと引いてたよ。気を取り直しつつ、デモテープをお通殿の前へ差し出す。
「これを。アナタが歌う、新曲のデモテープです」
聞いていただけますか?
お通殿がデモテープを音楽プレイヤーにセットし、曲を流した。…………私が歌ったやつだから、少し気恥しい。だがそんなことは言っていられない。気をしっかりもたないと。曲が流れサビに差しかかると、お通殿や神楽ちゃんがテンポを取るように体を動かしていた。…………少しだけ、ホッとする。今回の曲は、ノリのよいポップスだ。これならきっとお通殿の芸能界復帰も後押し出来るだろう。そう、つんぽさんが言っていた。……同感だ。キャッチーな歌詞、ノリのよいサウンド。これらにお通殿の歌声が合わされば──きっと、誰にだって負けない。
曲を聴き終わったお通殿が呟くように漏らす。
「この声って──……もしかして、
「え、あっ」
流石にわかるか。プロだもんね。ほんの少しだけ──気恥しい面持ちで、頷く。するとお通殿は顔をぱあっと輝かせ言った。
「すごい! 友成さん、歌が上手なんだね」
「へ…………へへ、ありがとうございます……」
リップサービスかもしれないが、素直に嬉しい。つんぽさんとボイトレしたのが効いたのだ。咳払いをし、面映ゆい気持ちで話す。
「…………これをアナタに歌って、命を吹き込んで貰いたいのです」
「…………わかりました! 私──ちゃんと、吹き込んでみせます、だから」
だから。
「つんぽさんや、友成さん──ファンの皆の前で、また笑顔で歌ってみせる。やってみせまスーサイド!!」
「お通ちゃん……!!」
新八くんは感極まっていた。銀時殿と神楽ちゃんは関心を向けつつも、新八くんとは一線引いたテンションであった。それらに頷きつつ、つんぽさん──万斉さんと話し合ったことを思い出していた。
§ § §
テーブルの前で向かい合って座布団へ座る。万斉さんは三味線を横に置き、話を切り出した。
「さて。ぬしはお通殿が芸能界へ返り咲くため……なにが必要か、わかるか?」
「スキャンダルのイメージの払拭……でしょうか?」
考えて出たのがそれだった。万斉さんはそれを肯定し、言う。
「そうでござるな。あとは──イメージの払拭以外にも、スキャンダルを忘れさせるような爆発的な勢いを起こすことが肝要でござる」
「爆発的な勢い……」
頷き、万斉さんは話を続ける。
「それ故、お通殿の元のイメージ、個性……それらを新規層にどう受け入れて貰えるか……そこが肝にござるな」
ですよね、と頷く。彼はレジュメを数枚取り出した。
「まずはお通殿と話すことにござる。それからこれに記されたツーパターンの戦略のどちらかを選ぶことだな」
レジュメを手に取り、目を通す。イメージ払拭のため、装い新たに再出発かはたまた元の個性を活かすか。
「わかりました。初めてなのでどう転ぶかわからないですけど……精一杯、頑張ります」
「ぬしには芸能界のこと……音楽……楽器、拙者の持てることは全て叩き込んだ。そう固くならずとも、肩の力を適度に抜いて挑むがいいでござるよ」
「は、はい……」
頑張ろう。そう決意を新たにした。それからふと思ったことを、口にする。
「あの、万斉さんは……なぜ私をプロデューサー代理にしようと思ったんですか?」
万斉さんはサングラスの下で目を瞬いた。
「……そうだな。拙者は人斬り故──表には顔が出せぬ。それはわかるな?」
静かに頷く。
「拙者の代わりに表舞台に立つには、信頼出来てその他に拙者に近しい人物が最適だった。そういうことにござるよ」
そう言われるちゃんと見てくれていたんだ、とちょっと嬉しい。じんわりと頬に赤みが差す。ちょっと俯き、再び万斉さんを見る。彼は変わらずこちらを見ていた。……へへ。そう思っていると、不意に声をかけられる。
「……肩の力、抜けたようにござるな」
「!」
話していて、自然と体の強ばりが抜けていたようだった。
「……ありがとうございます」
「礼はいらぬさ。……それにぬしとお通殿は年齢が近いでござるからな、きっと上手くいくだろう」
……。
「お通殿っておいくつなんですか?」
顎に手を当てる素振りを見せる万斉さん。
「確か……十七歳にござる」
ああもう! やっぱり!!
「あのですね、私もう今年で二十三なんですよ。わかってます?」
そう言うと万斉さんは目尻を和らげ微笑する。
「そうであったな。ハイハイ、ぬしはもう大人オトナ」
「信じてませんね!!」
「まあまあ、いいでござろう。ホラ、地図を渡す故──いや、大丈夫か? ぬしは方向音痴であった記憶があるのだが…………」
「地図さえあれば迷いませんっっっ!!」
わかったわかったと万斉さんは言う。
「ホラ地図にござる。落とすことのないようちゃんと仕舞うのでござるよ?」
「わかってます──!」
万斉さんホント私のことわかってない、わかってないんだから……。その事実に落胆しつつも、地図を受け取った。
§ § §
席を立ったあと。万斉は一人呟く。
「友成……ぬしもそろそろ十八歳であったな」
そろそろか、と言って三味線を撫ぜた。
「誕生日のプレゼント代わりにするか……あれもきっと、喜ぶだろう」
万斉は三味線を背負い、席を立った。
§ § §
「……というわけで、この曲と他の曲をつんぽさんが用意するそうなので……ニューアルバムを出しましょう」
ニューアルバム。これはお通殿の活躍の後押しの一手になるだろう。それから。
「ライブ開くんですか!?」
と新八くん。首肯してつんぽさんの意図を話す。
「ええ、話が早い。応援してくれているファンの皆さんもいますし──再びライブを開くのがよいと思います。ライブをすれば、新規流入も望めるでしょうし」
でもよォ、と銀時殿が呟く。
「あのスキャンダルの後だろ? そんな新規のファンとやらがそうホイホイ入ってくんのかねェ」
「新規の方は恐らくスキャンダルは気にしないはずです。そればかり気にしていては、新規獲得も夢のまた夢ですよ」
そこで一旦話を止める。レジュメを再び示す。
「そこでお通殿の宣伝を打ち出しましょう。ここは大々的に、テレビのCMやラジオなどで」
「宣伝つったって、なにを宣伝するアルか?」
そうなにを宣伝するのか、そこが大事だ。
「お通殿の歌、ですね。ニューアルバムの曲のワンフレーズも流してパーッと派手にいきましょう」
おおっ、声が上がる。
「ライブの日取りですが、如何しましょうか」
ライブを開くなら、最低で三ヶ月前にはハコを押さえておかねばならない。そうお通殿に聞くと、彼女は真っ直ぐにこちらを見て言った。
「私──、この日がいいです」
お通殿が示したのは、五ヶ月後。……間に合う、間に合わせてみせる。
「お通殿の再出発のライブですからね。大きいハコを押さえておきますよ」
あの、とお通殿が話す。
「スキャンダルの後私と関わった、関わってくれた方も呼びたいです」
「……そうですね、いいと思います。では取り次ぎは──」
「こちらでやるわ。鬼子母神春菜とは長い付き合いになりそうだしね」
とお通殿のマネージャーが言った。
「わかりました。ではその他のことは追って連絡をします」
お通殿に向き直る。
「成功、させてみせます。応援しているひとがいるって、覚えておいてくださいね」
彼女はゆっくり頷いた。
ライブの司会者に出演を取り付け、テレビのCM、ネットでの宣伝。大きく彼女をより印象的に魅せる宣伝を打たなければ。メモに取る。きっと、出来る。そう思い、その場を後にした。お通殿には私の連絡先とつんぽさんの名刺を渡してある。だから不測の事態が起こっても対処出来るはずだ。
艦に戻り、万斉さんに報告をするため部屋を探す。
「…………ここどこら辺だろ?」
艦は広い。私は以前酷く迷ったことがある。……今回は大丈夫、大丈夫…………。普段とは違う入口から入ったけど、迷わずいける…………と思う。うろうろしていると、鬼兵隊隊士達が前から歩いてくる。
「ダメだ。岡田さん、またいなくなっちまってる」
「またかよ……今度はなんだ?」
「知らねェ。またどこぞの用心棒でもしてんじやねェか?」
すれ違う時、そんな会話が聞こえた。似蔵殿も副業か〜。そんなことを考えていると、足を踏み外しそうになってたたらを踏んだ。気を取り直して歩き出す。万斉さん、どこだろ? きょろきょろしていると、隊士だろう攘夷志士二人がこちらを見ていることに気が付いた。
「どうしま……」
「なんでガキがこんなとこにいんだァ?」
「お嬢ちゃ〜ん、こんなとこにいたら危ないぜェ?」
ふむ。こんな風に絡んでくるってことは新顔か。
「
そう言えば笑い飛ばされる。まあ、そうなるよね。隊士二人はニヤニヤと笑っている。舐められてるな。暴力に頼った方がいい? そう考えていると難しい顔になっていた。いけない、笑顔笑顔。
「ガキはお家に帰って母ちゃんの乳でもしゃぶってな!」
「そら違いねェ!!」
ゲラゲラと笑う二人。はーあ。一応、身内に暴力奮いたくないんだけど。腰のカバン──に仕込んである短刀へ手を伸ばそうとする。その時、後ろから手を押さえられた。驚いて見上げると、そこには万斉さんがいた。
「万斉さん……」
「ば、万斉殿っ!?」
「なにをしている、お前たち」
「いや……ガキが迷い込んでたんで……」
万斉さんは溜息をついた。そして口を開く。