「っはー……緊張する……」
ライブ当日。とりあえずスタッフ一同で、その日一日の進行を記したマニュアルを確認する。これからリハーサルだ。お通殿は大丈夫だろうか……。そう思っていると、お通殿のマネージャーさんが横へ来る。
「プロデューサー代理。今日のライブが成功するかどうかは、アナタにもかかっていますからね」
そう言って、お通殿の傍へ彼女は向かった。ううぅ。緊張が高まる……!!
「あ、新八くん。銀時殿に神楽ちゃん」
新八くんはいつもの親衛隊の法被を着ており、やる気満々といった様子。対して銀時殿は気怠そうに、鼻をほじっていた。神楽ちゃんは傘を手に、なにか食べている。…………ん?? アレ、物販の……お通殿モチーフの食べ物では? アレ? まだ出していないハズなんだけど…………。そう思って瞼を擦る。そうしていると、新八くんと銀時殿が声を掛けてきた。
「や、とうとうこの日が来ましたね!! お通ちゃんの復帰ライブ! 僕もう楽しみで眠れませんでしたよ〜!!」
「そうだな。お前ずっとギンギンだったもんな、どことは言わねーけど」
銀時殿に新八くんがツッコむ。
「ちょっとォ!! その言い方じゃ、別んとこがギンギンみたいじゃないですか!!」
「実際そーだろ」
「そうネ。どうせ眠れなくて布団の中でシコシコやってたんダロ」
「してませんよ!! あっ、
「……あはは」
緊張は中々解れはしないが、万事屋三人のお陰でマシにはなった気がする。万事屋三人は此度のライブの用心棒代わり。なにも起きませんように……。そう祈った。
「リハ、入りまーす!!」
マイクを手に舞台袖から、中央へと向かっていく。すぅ、と息を吸って目を見開いた。
「今日はお通ちゃんのライブに来てくれて、ありがとうございま素っ頓狂な夜! さて──会場及び、ライブ中の注意事項が幾つかありまスンバラシイ日々はどこだっけ?」
一拍置いて息を吸う。
「御手洗は会場入口を出て、右手にございまずんだ餅って食ったことある? また、物販や飲み物売り場は左天丼ってそう繰り返すもんでもないよね。会場内での飲食は禁止になっておりますので、お控えくだサイのうんこめっさデカい。またお煙草もご遠慮くだサイズない? 携帯電話もマナーモードもしくは機内モードにしてお楽しみくだ最高な一日にしましょう!!」
そこまで宣言し、ミュージックがかかる。開会の合図だ。
「ではお通ちゃんを呼んでみましょーこりもなくアンタは! いっせーのーでんでんむしむしかたつむり!!」
お通ちゃーん!!
お通殿が満面の笑みを浮かべ、やって来る。まだ人の入っていない会場に向け、手を振って。
「みんなー! 今日はお通のライブに来てくれてありがとうきびウンコー!! 今日一日楽しんでいってネクロマンサー!!」
スタッフからの拍手。そしてMCである自分は舞台袖へはける。それからマネージャー、万事屋さんと私でお通殿の様子を伺っていた。お通殿のパフォーマンスには欠点ひとつない。思わず息を飲む。お通殿が舞台袖へはけに来ると、彼女は少し不安げな面持ちだった。
「どうしたんですか? お通ちゃん」
新八くんが問うと、お通殿はおずおずと答え出す。
「…………本当に、お客さん来るのかなあって……少し、心配になっちゃった」
「まだ皆外の列に並んでますからねえ……」
と言うと、銀時殿が呟く。
「ま、いいんじゃねェの? 客がいよーといなかろーと、お前のやるこたァ決まってんだろ」
「ちょっと!!」
と新八くんが
「そうそう。どーせ最初は泣かず飛ばずだったんダロ。銀ちゃんの言う通り、やることはその時から決まってるネ」
「神楽ちゃん!!」
最早合いの手のように新八くんがツッコんでいる。彼はお通殿に向き合うと、こんなやつらの言うこと気にしなくていいですからね! と言っていた。お通殿は肩を震わせ……震わせ、小さく笑っていた。それを見てホッとすると同時に、溜息を飲み込む。
「なんだか、万事屋さんたち見ていたら気が抜けちゃった。うん。初心に返って頑張るヨーデルの森!」
今度こそ新八くんと共にホッと溜息を零した。
ここで一つ、私に問題が発生する。お通殿の衣装チェンジの時、話を繋がなければならないのだ。マニュアルや台本を見ても『話を繋ぐ』としか書いていない。うっわどうしよう。そう思って万事屋さんたちに相談しようかと振り返ると、三人はもう既にいなかった。は? どこ行ったの!! 辺りを見回すと新八くんは物販の方へ、銀時殿と神楽ちゃんはどこにも見えなかった。ちょ、ちょっと!! 独りで考えねばならないのか──そう思い、台本と睨めっこをする。ヤバい、なにも浮かばない。ここはひとつ、
「えー、ここでお通ちゃんの衣装チェンジの間、MCを務めています彼女のプロデューサー代理、酒井友成と申します。え? 私の名前はどうでもいい? ハイ。芸能界は生き馬の目を抜くと申しますれば、お通殿はこれから不死鳥の如く躍進していくでしょう。そこで大切な三つの袋の話を……え? いらない? もう着替え終わった? ハイ。それではお通ちゃんのお着替えが終わりましたので、どうぞー!!」
もうヤケクソだ。お通殿と入れ替わるように舞台袖へ戻ってくる。はー……三つの袋の話は流石にベタ過ぎたか……。そう思って顔を上げると、銀時殿がいた。
「銀時殿!! どこ行ってたんですか!?」
「ちっとな。お前三つの袋の話はねェだろ。結婚式かってんだ。どーせアレだろ? 最後は玉袋とか言うんだろ?」
「言いませんよ! はあ……」
別に私がウケなくたっていい。此度の花はお通殿なのだから。そう思い飛んだり跳ねたりするお通殿を見る。歌声も伸びやかで、聞いていると心地がよい。歌詞は結構どぎついが。銀時殿はやる気なさげな表情で舞台を見ていた。恐る恐る彼に問う。
「…………そういえば、なぜあなた達万事屋はお通殿とお知り合いなので……?」
「ん? ああ。なんやかんやで初ライブ行ったり、
「へえ……」
意外なところに繋がりがあったりするもんだなあ。そうこうしている内に、リハーサルが終わる。ライブ本番を迎え、新八くんは銀時殿と神楽ちゃんとで客席に向かう。
「客席から見てますから! 応援してるよ! お通ちゃん!!」
お通殿はそれに小さく手を振ると、ぱちんと自身の頬を軽く叩いた。
「よし! 今日のライブ、絶対成功させる世迷言なんてクソ喰らえ!!」
おー!! と鬨の声がスタッフの間で上がる。……気を引き締めなくちゃ。
MCを恙無くこなし、お通殿が舞台中央へ躍り出る。舞台袖からそれを見ながら、お通殿の声を、歌を聞いていた。相も変わらず歌詞はどぎついが、皆魅了されているのがわかる。
頑張れ……お通殿……!!
そう念じていると、俄に客席から声が上がる。当初は歓声の一部かと思っていた。だが──それとは異質なものだと、少しして知る。
「!?」
客席で喧嘩でもしているのだろうか?! そう思い袖から見ていると、客の一人がステージへ上がろうとしているのが見えた。なんだなんだ!! 熱心な客の暴走か!? そう思いお通殿を即座に舞台袖へと下がらせる。それは天人で図体がデカく、なんと腹に大きな口があったのだ。
「ちょ、暴れないで! ステージに上がらないでください!?」
そう宣告するも彼は聞こえていないかのようで、ステージへ上がり切ってしまう。……まずい、今は刀はあるが……ここで使うワケにもいかない。相手は暴走しているといえど、ファン。どうしようか……と思っていると、新八くんがその天人の足にしがみついていた。ええい、ままよ! 肉薄すると着用している革ジャンの袖から弦を出し──天人の体に巻き付ける。それで動きを封じた。静かに、それでいて小さく言う。
「──これは特別性の三味線の弦。無理に動けばその身、引き千切れますよ」
しかし天人は尚も止まらない。ギリギリと弦が悲鳴をあげた。神楽ちゃんが傘で天人の向かう方へ威嚇射撃をした。え? あの傘銃搭載してんの? 次の瞬間には、新八くんと銀時殿が木刀でその天人を殴りつけた。文字通り
「はァ………………肝が潰れるかと思った……」
銀時殿と神楽ちゃんがいつの間にか横にいて、同じように鼻をほじっていた。
「あの……」
銀時殿は言う。
「さっき捕まったあんにゃろ、食ナントカ族つー天人だ。まだ諦めてなかったのか……」
「初ライブの時にもいたネ。あーやだやだ。これだから執拗い男は嫌われるアル」
「? そうだったんですか……」
再び、溜息。あんな厄介ファンがいたなんて、知らなかった。リサーチ不足だ。項垂れていると、銀時が呟く。
「ま、いいんじゃねーの? こうして捕まったワケだし……お前もプロデューサー代理、なんだろ? しっかりアイドルの勇姿、その目に焼き付けとけ」
「……はい」
§ § §
結論から言うと復活ライブはアクシデントはあったものの、大盛況で大成功だった。ライブが終わり、舞台袖でお通殿やスタッフ、万事屋三人と向き直る。
「お疲れ様です。……今回のライブ、大成功でしたね」
「はいっ! また──……こういう風にライブがしたいなって、思えました!!」
お通殿は嬉しそうに言った。スタッフとも話し、最後に万事屋三人に向き直る。
「今回はありがとうございました。暴れたファンも警察へ引渡せましたし……用心棒である
そう言って手を差し伸べる。銀時殿はその手を見、呟いた。
「そうだな。お前も結構やるみてーだけど……なんだ? アレ? 三味線かなんかの弦か?」
「はは、まあアレは忘れてください……」
「忘れようにもなァ……」
なんだかんだ言いつつ銀時殿は握手をしてくれた。神楽ちゃんや新八くんとも握手をする。
「本当に、ありがとうございました。また、機会があれば──その時、また」
そう言ってお通殿の方を向く
「ライブ、よかったです!! あなたの歌は芸能界に一撃横っ面を
だから。
「一個人の酒井友成としても、応援しています」
「──はいっ!!」
お通殿は大きな声で返事をしてくれた。きっとこの子はだいしだろう。
撤収時、
「あ、つんぽさん。そちらのお仕事は、どうでしたか?」
『──ああ、滞りない。そちらはどうであった? お通殿の初ライブは』
「ええ。大成功です! 帰ってからもっとお話、お聞かせします!」
『そうか。ぬしはどうで思った? お通殿の展望は』
「……きっと、大丈夫だと思います。お通殿はハングリー精神もありますし。……それに」
『?』
「素敵なアイドルの女の子、ですから」
『そうだな。今後もプロデュースしていく上で話したいこともある。ぬしはもう、戻ったか?』
「いいえ、まだです。つんぽさんは?」
『拙者もまだにござる…………ぬしがよければ、少し話さぬか?』
「──はい! 是非──!」
スタッフに身振り手振りで合図をすると、椅子へ座った。
「まだ撤収作業が残っているので、少ししか時間取れませんけど」
『ああ、よい。……お通殿はいるか?』
「いますよ。お通殿ー!!」
声を張り上げ、お通殿を呼んだ。
「どうしたんですか?」
「つんぽさんが、お通殿にって。電話」
「え! つんぽさんから? はい……」
お通殿へ携帯を渡し、撤収作業へ加わる。万事屋三人も撤収作業を手伝ってくれているようだった。
「アチョー!!」
「ちょ、神楽ちゃん!?」
……手伝ってくれてはいるが、若干不安だ。万事屋三人のところへ小走りで向かうと、銀時殿は地面へどっかりと座った。
「用心棒ってこんなこともやんの?」
「まあ……用心棒兼ってとこなんじゃないですか?」
多分。
「まー、こうして働かせてくれてんだ。たんまり報酬は貰うぜ」
「ええ、勿論」
お通殿がこちらへやって来るのが見えた。きっと、通話が終わったのだろう。顔を上げ、笑ってお通殿へ向き直った。──撤収作業が終わるまで、あと少し。