……。
…………。
………………。
空が、赤い。赤く、鮮血のように見える。……ああ、そうか。赤いのは──……私、か…………。
§ § §
「
それだけにはござらん。と万斉。
「昔、生き試しにされたことがあっただろう? それを似蔵に根掘り葉掘り聞かれたあとらしい」
「……そうっスか。でも友成は、すぐ傷治るっスよね?」
「…………まだ、それだけにござらんのだ」
「まだあるんスかァ?!」
驚愕のまた子。ああ、と万斉は頷いた。
「なんでも積荷の運び出し作業を、指揮していた途中らしい。……それで」
「それで?」
「突っ込んできた積荷がその、取引をしていた薬物でな……それを頭から被ったそうにござる」
「はァァァ!?」
そして、二人は友成の元へ急いだ。
「友成ァ!! 大丈夫っスか?!」
「…………見た目は、変わらぬな」
二人はそう言う。だが傍に控えていた医者が言うには──……。
「記憶喪失、ですね」
記憶喪失ゥ!? と二人は声を出す。友成を見てみると、どこか落ち着きのない様子だが、変わった様子は見られない。また子が試しに質問をする。
「……自分の名前、思い出せるっスか?」
「……なまえ…………?」
はて? といった様子。友成はぼうっとした様子で、辺りをきょろきょろする。
「拙者のことは、覚えているでござるか」
と万斉。彼は表面上、落ち着き払っているように見える。だが。
「…………えっ、と、すみません。わからないです……」
俯いて言った。二人は顔を見合わせ、再び友成を見る。
「…………どうするんスか」
「……経過を診てもらうしかないでござろう…………」
友成は二人を見上げ、たどたどしく話す。
「それと、ここは……なんなんですか?」
物々しい雰囲気を感じ取ったのだろう。また子と万斉は再び顔を見合わせどうするか、と考え込んだ。
「説明するんスか? ここのことを?」
しない方がよくないか、と言うまた子。
「……そうでござるな。言わば今の友成は一般人も同じ。説明は……せぬ方がいいでござろうな……」
「っスよね……どうします? 先輩」
「ここは、様々な質問をして記憶を引き出すしかあるまい」
そう言って万斉は屈んで友成の顔を見る。そして、彼女の手を取って語り掛けた。
「ぬしは、酒井友成。拙者らの仲間であり」
ただ静かに二人を見ているまた子。
「そして、拙者の恋人にござる」
「ちょっとォォォ!? なに言ってんスか、万斉先輩!! あることないこと吹き込むのはやめるっス!!」
また子が吠えた。万斉はまた子を一瞥すると、悪びれない様子で呟く。
「嘘ではござらん。今そうでないというだけで、未来ではそうなっているでござる。そうなっていたらいいな」
「希望的観測ゥ!? 真面目にやるっス万斉先輩!!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ二人に、友成は青褪めた表情でこそこそと抜け出す。抜き足差し足。
二人が気付いた頃には友成は既に艦を出て、江戸の街へと出奔したあとだった。
「ちょっ……なんてことするんスか、先輩。アンタのせいっスよ。わからない顔するんじゃないっス。アンタのせいっス」
「携帯を持っていればいいのだが……」
そう言って万斉は携帯を取り出す。
「話逸らしてんじゃねーぞ」
携帯を鳴らす。──しかし携帯のコール音がその場に響いたのみだった。そして。
「…………携帯、置いてってるじゃないスか……友成……」
§ § §
「ここ……は……?」
わからない。わからないことだらけだ。街並みは時代がかかっているが、空にはなんだか宇宙船のようなものが飛んでいる。私のいたところでは…………。いた、ところ、では……。そう思ったが全くなにも出てこなかった。私は……なにもわかなくなってしまったんだ……。そう思い、少し落ち込む。
「……ううん。こんなこと思ってても仕方ない」
足を踏み出した。街をうろうろしていると、様々なひとが道を行き交う。……そこにはなんだか地球人とは思えないひともいた。ぼんやり宇宙人……というかイヌっぽいひとの顔を見ていると彼は声を荒らげ、こちらに話かけてくる。
「はい……?」
「テメーだよ、テメー!! なにこっち見てんだよ。ガンつけてんじゃねェぞ!!」
「はい……」
気が付くと三人に増えていた。ワンちゃんみたいだなあ。……どっちかというと、狼? そう思ってジッと見ていると、尚更声を荒らげる。最早吠えている。
「こんのガキ……!」
「はいはい、ちょっとすみませんねー」
そう言いながら間に割って入った人物がいた。それはうねった銀髪に木刀を腰に差した男のひとだった。
「コイツがなにしたか知らないけどな。ここは一つ、多目に見てやっちゃくれねェか?」
イヌっぽいひとは尚更大声を上げる。
「なんだ貴様ァ!! このガキの保護者か!?」
「知り合いだよ、ただの」
気怠げに答える銀髪のひと。どうしようか、と思っているとぐいと胸倉を掴まれる。
「大砲一つで国を開いた猿風情がなァ、頭が高ェんだよ!!」
イヌっぽいひとに掴まれたお陰で足がぷらんと宙に浮く。わあ。どうしよう?
「うるっせェんだよ。お前もされるがままになってんじゃねェ」
そう言うと銀髪のひとは目にも止まらぬ速さで、三人を張り倒した。木刀で。そうなんだ、木刀ってあんなに丈夫なんだ……。
「行くぞ!!」
手首を掴まれ、強制的に走り出す。日に照らされて眩く光る髪。その銀の煌めきをぽけっと眺めていた。
「……ありがとうございます?」
「なんで疑問形!? ……お前なあ、なにあんなとこで絡まれてたんだよ」
「それが……見てたら怒られて」
はあ、と銀髪のひとが溜息をつく。
「そんなんしてたらお前、誰だろうと絡まれんだろ……」
銀髪のひとが居住まいを正す。
「んで? なにしてたんだ。お通ちゃんのプロデュースにでもしに来たのか?」
「おつうちゃん……? ぷろでゅーす……?」
首を傾げる。はて? 彼は不審な目でこちらを見てきた。
「お前……」
「あの、私……記憶喪失? になっちゃった? みたいで……」
「……マジでか」
「マジです」
銀髪のひとにオウム返しをする。すると彼はぼそりと呟いた。
「おいおい、マズイんじゃねーの? 新八がなんて言うか……」
「マズイって、なにがですか?」
再び首を傾げる。
「い、いや……こっちの話だ。んで、お前。名前くれーは覚えてんだろうな?」
「それが……呼ばれていた名前はわかるんですが」
再び溜息。
「どーすっかな……とりあえず名前な。俺は坂田銀時、万事屋っつーなんでも屋をやってる。お前は酒井友成な」
いいか? と銀時さん……銀さんでいいか。に言われ、頷いた。
「あの、銀さん」
「あ? どうした」
一拍息を置く。それから話した。
「あの、依頼……していいですか? 万事屋に」
記憶を取り戻す、手伝いを。
「でもお前……記憶喪失なんだろ? 金なんて……」
「あ。あります」
ぽんと銀さんの掌の上に、お金を置く。それからは早かった。江戸の街を巡り、様々なひとたちに話しかけ、記憶の糸口を探すという魂胆らしい。街のひとに話しかけていると、黒い制服の青年に話しかけられた。
「旦那ァ。なにしてるんですかィ? おっと、そっちのガキは……」
「沖田くんじゃーん。いいところに来たねェ、ちょっと手伝ってくんない?」
「……ま、市井の民の相談を聞くのも警察の仕事でさァ。なんですかい、手伝いって」
銀さんが私を前に押しやり、青年の前へ立たせる。
「こいつ、記憶喪失みたいなんだよね〜。だから行方不明届の出てる人間から洗い出してくんね?」
「わかりやした。んじゃ、結果が出たら旦那に教えまさァ」
そう言って青年は去って行った。じっと銀さんを見る。
「あの……大丈夫なんですか? あのひと……」
「ん? まあ……なんとかなるだろ。アイツも警察だしな」
そう言って歩き出す。銀さんのあとを着いて行くと、また他のひとと顔を合わせる。今度は少年だ。
「新八ィ、コイツ記憶喪失になったってよ」
「へえ、そうなんですか。記憶喪失……記憶喪失ゥ!?」
見事なノリツッコミだ。新八くんは続ける。
「え、ちょっと……大丈夫なんですか? お通ちゃんのプロデュースとか……」
「さあ?」
「いや、さあじゃなくて」
わかないものはわからない。そう告げれば新八くんは少しパニックに陥っていた。そして。
「そうだ、お通ちゃんですよ。銀さん!!」
新八くんは立ち上がり、大きく話した。
「きっとアイドルとプロデューサー代理という間柄のお通ちゃんなら、きっと記憶を取り戻す手助けをしてくれるはずです!!」
「あー、まあ……確かにな……」
銀さんは気のない返事をした。
「なんでそんなやる気ないんですか。行きますよ!!」
そうこうしてテレビ局へ。『お通ちゃん』というアイドルに会うらしい。私が……プロデューサー? しかも代理?? なんなんだろう? そんな芸能関係の仕事、本当にしていたのだろうか……。しかも、プロデューサーの代理。代理ってなに。
「お久し振りでスープストック! 友成さん、新八くん!」
「……俺は?」
銀さんがぽつり、と呟いた。
お通ちゃんと向かい合って話す。私がつんぽさんというプロデューサーの代理をしていること、プロデュースのこと、復帰ライブのこと……。
「え、そんなスキャンダルあってここまで!?」
「そうなの〜!! これもつんぽさんや友成さんのお陰だヨーデルの森!」
「ヨーデルの森?」
すかさず新八くんが耳打ちをしてくる。
「『お通語』ですよ! 友成さんも最初お通語に驚いていたじゃないですか!」
「そうなんだ……」
「そうなノンデリ野郎はすっこんでろ!」
「え〜じゃあこんな感ジジイの脇くさい」
「そうそう、そんな感じ!」
話はかつてない程盛り上がる。しかし。
「ごめんね、友成さん……私じゃ、力になれなくて……」
「いえ、お忙しい中ありがとうございました。お通ちゃん」
とぼとぼと歩く。しょんぼりしていると、銀さんが言った。
「ま、記憶喪失なんてそんなスグ戻るモンでもねーだろ。気長にいきゃいいんだよ、気長に」
「銀さん……!」
ありがとうございます、と頭を下げた。万事屋へ行くことになり、二人に着いて行く。万事屋はスナックの二階に入っているようだ。
「あ、いたいた。旦那〜」
警察の青年と鉢合わせる。彼は書類を手に、銀さんへ話していた。
「ここ数ヶ月の行方不明者と照らし合わせてみたんですがねェ。このガキに当て嵌る人間はいやせんでしたぜ」
「そうか……」
青年は思い出したように言う。
「あ、そうだ。このガキの身柄……ちと預かって貰えませんかねェ? 最近桂やら鬼兵隊やら……テロリストの後始末が大変で」
余裕がねェんでさァ。
「へ?」
銀さんは一瞬呆けた顔をし即座に切り返す。
「待て待て待て待て! ここは託児所じゃねェんだぞ!! 警察だろ? お前ら。仕事しろや!! ……それに俺ァコイツのことなんてほとんど知らねーぞ!?」
「そいつァ初耳でした、てっきりここは託児所かなにかかと……」
青年が新八くんを見て嫌味たらしく呟いた。
「なんなんですかちょっと、沖田さん。警察なんだから仕事をちゃんと……!」
「そんじゃ失礼しまさァ。あー忙しい」
そうこうしている内に青年──沖田は去って行った。
「す、すみません……お手間をかけて……でも、これ以上迷惑になるワケにはいきません。それでは……」
「オイ。どこに行くつもりだ」
銀さんに問われ……わからないです、と返す。銀さんは言った。
「こっちは報酬貰ってんだ、依頼人のケツくれェこっちで持つさ。な? 新八」
「……そうですよ、友成ちゃん。あなたは記憶喪失なんです。だから、ここは僕らにドンと預けてください!」
「二人とも……」
再び頭を下げる。
「ありがとうございます」
万事屋へ入ると、チャイナ姿の女の子が出迎えてくれた。
「銀ちゃん、新八ィ!! 遅いアルヨ! なにしてたアルカ!! もーお腹ペコペコネ」
「あ、はじめまして……」
挨拶をすると、女の子は銀さんにヒソヒソと耳打ちをする。
「あいつどうしたアルカ? 頭でも打ったアルカ??」
「いや……頭打ったかは知らねェけどよ。記憶喪失だとよ……んで、しばらくコイツ預かることになったから。仲良くしろよ」
……全部聞こえてはいたが。
「よろしくお願いします。……えっと」
「神楽アル。お姉様とお呼び!」
神楽ちゃんの方が身長は高い。でも私の方がお姉さんだと思う。
「はい。神楽ちゃん」
そう言えば神楽ちゃんはどこか嬉しそうに、部屋を案内してくれた。
「ここが寝室アル」
「押し入れだけど……」
なんか、いた気がする。押し入れを寝床にしてた……うーん、思い出せそうな、気が……!
「思い出せそうアルカ!?」
そう言って神楽ちゃんは騒ぎ出す。
「なんか……引っ掛かる、気が……」
「こういう時は刺激を与えるのが一番ネ。ほあちゃあァァァ!!」
そこで意識が反転した。