1490ミリメートルの惑星   作:椎九印ver.2

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第八訓『大切なこともけっこう忘れがち』

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 空が、赤い。赤く、鮮血のように見える。……ああ、そうか。赤いのは──……私、か…………。

 

 § § §

 

友成(ゆうな)が頭を打った?」

 それだけにはござらん。と万斉。

「昔、生き試しにされたことがあっただろう? それを似蔵に根掘り葉掘り聞かれたあとらしい」

「……そうっスか。でも友成は、すぐ傷治るっスよね?」

「…………まだ、それだけにござらんのだ」

「まだあるんスかァ?!」

 驚愕のまた子。ああ、と万斉は頷いた。

「なんでも積荷の運び出し作業を、指揮していた途中らしい。……それで」

「それで?」

「突っ込んできた積荷がその、取引をしていた薬物でな……それを頭から被ったそうにござる」

「はァァァ!?」

 そして、二人は友成の元へ急いだ。

 

「友成ァ!! 大丈夫っスか?!」

「…………見た目は、変わらぬな」

 二人はそう言う。だが傍に控えていた医者が言うには──……。

「記憶喪失、ですね」

 記憶喪失ゥ!? と二人は声を出す。友成を見てみると、どこか落ち着きのない様子だが、変わった様子は見られない。また子が試しに質問をする。

「……自分の名前、思い出せるっスか?」

「……なまえ…………?」

 はて? といった様子。友成はぼうっとした様子で、辺りをきょろきょろする。

「拙者のことは、覚えているでござるか」

 と万斉。彼は表面上、落ち着き払っているように見える。だが。

「…………えっ、と、すみません。わからないです……」

 俯いて言った。二人は顔を見合わせ、再び友成を見る。

「…………どうするんスか」

「……経過を診てもらうしかないでござろう…………」

 友成は二人を見上げ、たどたどしく話す。

「それと、ここは……なんなんですか?」

 物々しい雰囲気を感じ取ったのだろう。また子と万斉は再び顔を見合わせどうするか、と考え込んだ。

「説明するんスか? ここのことを?」

 しない方がよくないか、と言うまた子。

「……そうでござるな。言わば今の友成は一般人も同じ。説明は……せぬ方がいいでござろうな……」

「っスよね……どうします? 先輩」

「ここは、様々な質問をして記憶を引き出すしかあるまい」

 そう言って万斉は屈んで友成の顔を見る。そして、彼女の手を取って語り掛けた。

「ぬしは、酒井友成。拙者らの仲間であり」

 ただ静かに二人を見ているまた子。

「そして、拙者の恋人にござる」

「ちょっとォォォ!? なに言ってんスか、万斉先輩!! あることないこと吹き込むのはやめるっス!!」

 また子が吠えた。万斉はまた子を一瞥すると、悪びれない様子で呟く。

「嘘ではござらん。今そうでないというだけで、未来ではそうなっているでござる。そうなっていたらいいな」

「希望的観測ゥ!? 真面目にやるっス万斉先輩!!」

 ぎゃいぎゃい騒ぐ二人に、友成は青褪めた表情でこそこそと抜け出す。抜き足差し足。

 二人が気付いた頃には友成は既に艦を出て、江戸の街へと出奔したあとだった。

「ちょっ……なんてことするんスか、先輩。アンタのせいっスよ。わからない顔するんじゃないっス。アンタのせいっス」

「携帯を持っていればいいのだが……」

 そう言って万斉は携帯を取り出す。

「話逸らしてんじゃねーぞ」

 携帯を鳴らす。──しかし携帯のコール音がその場に響いたのみだった。そして。

「…………携帯、置いてってるじゃないスか……友成……」

 

 § § §

 

「ここ……は……?」

 わからない。わからないことだらけだ。街並みは時代がかかっているが、空にはなんだか宇宙船のようなものが飛んでいる。私のいたところでは…………。いた、ところ、では……。そう思ったが全くなにも出てこなかった。私は……なにもわかなくなってしまったんだ……。そう思い、少し落ち込む。

「……ううん。こんなこと思ってても仕方ない」

 足を踏み出した。街をうろうろしていると、様々なひとが道を行き交う。……そこにはなんだか地球人とは思えないひともいた。ぼんやり宇宙人……というかイヌっぽいひとの顔を見ていると彼は声を荒らげ、こちらに話かけてくる。

「はい……?」

「テメーだよ、テメー!! なにこっち見てんだよ。ガンつけてんじゃねェぞ!!」

「はい……」

 気が付くと三人に増えていた。ワンちゃんみたいだなあ。……どっちかというと、狼? そう思ってジッと見ていると、尚更声を荒らげる。最早吠えている。

「こんのガキ……!」

「はいはい、ちょっとすみませんねー」

 そう言いながら間に割って入った人物がいた。それはうねった銀髪に木刀を腰に差した男のひとだった。

「コイツがなにしたか知らないけどな。ここは一つ、多目に見てやっちゃくれねェか?」

 イヌっぽいひとは尚更大声を上げる。

「なんだ貴様ァ!! このガキの保護者か!?」

「知り合いだよ、ただの」

 気怠げに答える銀髪のひと。どうしようか、と思っているとぐいと胸倉を掴まれる。

「大砲一つで国を開いた猿風情がなァ、頭が高ェんだよ!!」

 イヌっぽいひとに掴まれたお陰で足がぷらんと宙に浮く。わあ。どうしよう?

「うるっせェんだよ。お前もされるがままになってんじゃねェ」

 そう言うと銀髪のひとは目にも止まらぬ速さで、三人を張り倒した。木刀で。そうなんだ、木刀ってあんなに丈夫なんだ……。

「行くぞ!!」

 手首を掴まれ、強制的に走り出す。日に照らされて眩く光る髪。その銀の煌めきをぽけっと眺めていた。

「……ありがとうございます?」

「なんで疑問形!? ……お前なあ、なにあんなとこで絡まれてたんだよ」

「それが……見てたら怒られて」

 はあ、と銀髪のひとが溜息をつく。

「そんなんしてたらお前、誰だろうと絡まれんだろ……」

 銀髪のひとが居住まいを正す。

「んで? なにしてたんだ。お通ちゃんのプロデュースにでもしに来たのか?」

「おつうちゃん……? ぷろでゅーす……?」

 首を傾げる。はて? 彼は不審な目でこちらを見てきた。

「お前……」

「あの、私……記憶喪失? になっちゃった? みたいで……」

「……マジでか」

「マジです」

 銀髪のひとにオウム返しをする。すると彼はぼそりと呟いた。

「おいおい、マズイんじゃねーの? 新八がなんて言うか……」

「マズイって、なにがですか?」

 再び首を傾げる。

「い、いや……こっちの話だ。んで、お前。名前くれーは覚えてんだろうな?」

「それが……呼ばれていた名前はわかるんですが」

 再び溜息。

「どーすっかな……とりあえず名前な。俺は坂田銀時、万事屋っつーなんでも屋をやってる。お前は酒井友成な」

 いいか? と銀時さん……銀さんでいいか。に言われ、頷いた。

「あの、銀さん」

「あ? どうした」

 一拍息を置く。それから話した。

「あの、依頼……していいですか? 万事屋に」

 記憶を取り戻す、手伝いを。

「でもお前……記憶喪失なんだろ? 金なんて……」

「あ。あります」

 ぽんと銀さんの掌の上に、お金を置く。それからは早かった。江戸の街を巡り、様々なひとたちに話しかけ、記憶の糸口を探すという魂胆らしい。街のひとに話しかけていると、黒い制服の青年に話しかけられた。

「旦那ァ。なにしてるんですかィ? おっと、そっちのガキは……」

「沖田くんじゃーん。いいところに来たねェ、ちょっと手伝ってくんない?」

「……ま、市井の民の相談を聞くのも警察の仕事でさァ。なんですかい、手伝いって」

 銀さんが私を前に押しやり、青年の前へ立たせる。

「こいつ、記憶喪失みたいなんだよね〜。だから行方不明届の出てる人間から洗い出してくんね?」

「わかりやした。んじゃ、結果が出たら旦那に教えまさァ」

 そう言って青年は去って行った。じっと銀さんを見る。

「あの……大丈夫なんですか? あのひと……」

「ん? まあ……なんとかなるだろ。アイツも警察だしな」

 そう言って歩き出す。銀さんのあとを着いて行くと、また他のひとと顔を合わせる。今度は少年だ。

「新八ィ、コイツ記憶喪失になったってよ」

「へえ、そうなんですか。記憶喪失……記憶喪失ゥ!?」

 見事なノリツッコミだ。新八くんは続ける。

「え、ちょっと……大丈夫なんですか? お通ちゃんのプロデュースとか……」

「さあ?」

「いや、さあじゃなくて」

 わかないものはわからない。そう告げれば新八くんは少しパニックに陥っていた。そして。

「そうだ、お通ちゃんですよ。銀さん!!」

 新八くんは立ち上がり、大きく話した。

「きっとアイドルとプロデューサー代理という間柄のお通ちゃんなら、きっと記憶を取り戻す手助けをしてくれるはずです!!」

「あー、まあ……確かにな……」

 銀さんは気のない返事をした。

「なんでそんなやる気ないんですか。行きますよ!!」

 そうこうしてテレビ局へ。『お通ちゃん』というアイドルに会うらしい。私が……プロデューサー? しかも代理?? なんなんだろう? そんな芸能関係の仕事、本当にしていたのだろうか……。しかも、プロデューサーの代理。代理ってなに。

「お久し振りでスープストック! 友成さん、新八くん!」

「……俺は?」

 銀さんがぽつり、と呟いた。

 お通ちゃんと向かい合って話す。私がつんぽさんというプロデューサーの代理をしていること、プロデュースのこと、復帰ライブのこと……。

「え、そんなスキャンダルあってここまで!?」

「そうなの〜!! これもつんぽさんや友成さんのお陰だヨーデルの森!」

「ヨーデルの森?」

 すかさず新八くんが耳打ちをしてくる。

「『お通語』ですよ! 友成さんも最初お通語に驚いていたじゃないですか!」

「そうなんだ……」

「そうなノンデリ野郎はすっこんでろ!」

「え〜じゃあこんな感ジジイの脇くさい」

「そうそう、そんな感じ!」

 話はかつてない程盛り上がる。しかし。

「ごめんね、友成さん……私じゃ、力になれなくて……」

「いえ、お忙しい中ありがとうございました。お通ちゃん」

 とぼとぼと歩く。しょんぼりしていると、銀さんが言った。

「ま、記憶喪失なんてそんなスグ戻るモンでもねーだろ。気長にいきゃいいんだよ、気長に」

「銀さん……!」

 ありがとうございます、と頭を下げた。万事屋へ行くことになり、二人に着いて行く。万事屋はスナックの二階に入っているようだ。

「あ、いたいた。旦那〜」

 警察の青年と鉢合わせる。彼は書類を手に、銀さんへ話していた。

「ここ数ヶ月の行方不明者と照らし合わせてみたんですがねェ。このガキに当て嵌る人間はいやせんでしたぜ」

「そうか……」

 青年は思い出したように言う。

「あ、そうだ。このガキの身柄……ちと預かって貰えませんかねェ? 最近桂やら鬼兵隊やら……テロリストの後始末が大変で」

 余裕がねェんでさァ。

「へ?」

 銀さんは一瞬呆けた顔をし即座に切り返す。

「待て待て待て待て! ここは託児所じゃねェんだぞ!! 警察だろ? お前ら。仕事しろや!! ……それに俺ァコイツのことなんてほとんど知らねーぞ!?」

「そいつァ初耳でした、てっきりここは託児所かなにかかと……」

 青年が新八くんを見て嫌味たらしく呟いた。

「なんなんですかちょっと、沖田さん。警察なんだから仕事をちゃんと……!」

「そんじゃ失礼しまさァ。あー忙しい」

 そうこうしている内に青年──沖田は去って行った。

「す、すみません……お手間をかけて……でも、これ以上迷惑になるワケにはいきません。それでは……」

「オイ。どこに行くつもりだ」

 銀さんに問われ……わからないです、と返す。銀さんは言った。

「こっちは報酬貰ってんだ、依頼人のケツくれェこっちで持つさ。な? 新八」

「……そうですよ、友成ちゃん。あなたは記憶喪失なんです。だから、ここは僕らにドンと預けてください!」

「二人とも……」

 再び頭を下げる。

「ありがとうございます」

 万事屋へ入ると、チャイナ姿の女の子が出迎えてくれた。

「銀ちゃん、新八ィ!! 遅いアルヨ! なにしてたアルカ!! もーお腹ペコペコネ」

「あ、はじめまして……」

 挨拶をすると、女の子は銀さんにヒソヒソと耳打ちをする。

「あいつどうしたアルカ? 頭でも打ったアルカ??」

「いや……頭打ったかは知らねェけどよ。記憶喪失だとよ……んで、しばらくコイツ預かることになったから。仲良くしろよ」

 ……全部聞こえてはいたが。

「よろしくお願いします。……えっと」

「神楽アル。お姉様とお呼び!」

 神楽ちゃんの方が身長は高い。でも私の方がお姉さんだと思う。

「はい。神楽ちゃん」

 そう言えば神楽ちゃんはどこか嬉しそうに、部屋を案内してくれた。

「ここが寝室アル」

「押し入れだけど……」

 なんか、いた気がする。押し入れを寝床にしてた……うーん、思い出せそうな、気が……!

「思い出せそうアルカ!?」

 そう言って神楽ちゃんは騒ぎ出す。

「なんか……引っ掛かる、気が……」

「こういう時は刺激を与えるのが一番ネ。ほあちゃあァァァ!!」

 そこで意識が反転した。

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