原初の微笑 作:永雨の詠み人
「O-01-840、通称『原初の龍』……って、これのどこが“龍”なんです?」
クロエはモニター越しにその存在を見つめていた。
収容室の中央、小さな椅子に腰掛けた少女。青白い髪、無表情、規則正しく動く胸。
その姿は、まるで魔法少女の人形のようだった。
「前任のチーフも言ってましたよ。最初は“名前のミスかと思った”って」
隣にいたセスがタブレットを渡す。
そこには彼女の詳細な耐性、クリフォト条件、作業成功率、すべてが冷酷な数字として並んでいた。
「でも、この子は“始まり”なんです」
「……始まり?」
「原初、という名はただの分類じゃない。
この子は、もしかするとアブノーマリティの“元”かもしれないって説があるんです。
だから、誰かの姿を取った。“気に入った”から——」
クロエはもう一度、モニターを見た。
その少女の目が、ちょうどこちらを見ていた。
そして——
にこり、と笑った。
「今、笑った……?」
クロエは椅子に深く腰掛け、目を細めた。
モニターに映る彼女の表情は、元の無表情に戻っている。
だが、あの一瞬だけ確かに、口角が上がったように見えた。
「気のせいじゃないと思いますよ」
セスが言う。声には、どこか確信めいたものがあった。
「この子、誰かを模してるんです。その“誰か”の仕草や癖が染みついてるみたいに、たまに動きが人間くさいんですよ」
「模してる……?」
「“憎しみの女王”です。魔法少女の姿の方ですね。外見や表情の作り方に、共通する要素が多いんです。ただ、まったく同じというわけではなくて……“誰かの真似を見た誰かが、それを自分なりに取り込んだ”ような印象を受けました。」
クロエは無言で資料をめくる。
確かに、容姿の一致率は高い。が、それを裏付ける文書は存在しなかった。
「……そうですね。とにかく、作業計画を立てましょう。洞察で様子を見るのが最善でしょうか?」
「ええ。愛着でもいいですが、レベル5職員限定です。4以下は収容室に入った瞬間パニックになります」
「なんて扱いづらい“龍”ですか……」
クロエは立ち上がり、原初の龍の収容室に向かった。
しばらくして、モニターにクロエの姿が映る。
彼女は淡々と資料を読み、収容室に入った。
原初の龍は椅子から立ち上がり、わずかに首を傾げた。
その動作も、確かに「誰かに似ている」。
「初めまして……クロエです。これから少しだけ、あなたのことを見せてもらうね」
少女は何も答えなかった。
ただ、足元の影が揺れたように見えた。
それはまるで、巨大な何かが蠢いているような……あるいは、“龍”が羽ばたく直前のような――
警報は鳴らなかった。
洞察作業、正常終了。
クリフォトカウンター+1。
作業評価:良好。
EGOギフト「原初の龍」取得確率発生。
「……うまくいった」
「この子、心を読まれても“反応”はしない。でも、見ていた。クロエをちゃんと見てた。まるで、覚えておこうとしてるみたいに」
クロエが静かに言う。
「この子……感情を持ってると思います。いや、正確には“感情というものを模倣してる”」
クロエは再び、あの“少女”の笑顔を思い出していた。
あれは、ただの模倣だったのか――それとも……?