春休みが中盤に差し掛かったある日、俺の部屋に遊びに来て漫画を読んでいる男を見る。毎回差し入れとして飲み物とお菓子を持ってくるあたり意外と気を利かせてくる男だ。ついこのあいだまで隣人で、引っ越していった男である比企谷に、少しばかり質問をしてみた。
「比企谷。お前最近引っ越したけど、ポイントが残っていたのか?」
「………聞いて驚け。4人に全額出して貰った。」
「…なんだと?」
「…しかも、後で返す事すら許されていない。」
「嘘だろ…?」
現実にそんな事が起こりうるのか?確かに今の比企谷にポイントは残ってるはずはない。ほぼ勝ちが決まってたあの状況をひっくり返された時にポイントがごっそり減っているのだから。でも、返す事が駄目って何だよ…。
「元々俺の移籍に融資するポイントが浮いたから余裕があるんだってよ。」
「…それにしたって普通は男側が支払うんじゃないのか?」
支払った所で一緒に住んで貰える奴がどれほど居るのかは分からないが。
「…ギリギリまで切り詰めて支払いに回しそうだからダメって言われちまった。今も大してポイントが残ってないからメシ代とかは彼女持ちだな。」
「それもう完全にヒモじゃないか?」
「…一応家事はしてるから。」
そう言うものの、自覚は当然あるようで渋い顔をしている。今回もお菓子とか持ってきてくれたが、まさか出して貰ったのか…?世間はやはり広いようだ。この学校でヒモ生活を出来る奴が居るとは思わなかった。
こんな話をしていたので、ついでに聞いてみたかった事を尋ねてみた。
「…そういえば比企谷、聞いてみたい事があった。」
「…ん?何かあったか?」
「俺も自由の身になったんだから、恋愛をしてみようかと思うんだが。」
「…聞く相手間違えてねえか?」
こんな事を言ってくるが、間違いなく一年の中で相当モテている部類の男である。何をしたらあんなに好かれるのか興味が尽きない。しかし、比企谷にある問題を指摘される事になる。
「…質問を質問で返して悪いんだが、綾小路よ。」
「…何だ?」
「お前さん、そもそも恋愛感情ある?感情そのものがスッゲェ薄いからそこら辺怪しいんだけど。」
「……………。」
…予想以上によく見ているようだ。
「今の綾小路がもし誰かを好きになりたいってんなら、恋愛感情を手に入れなくてはならないと思うぞ。感情を抜きに恋愛を学んで、女を食い漁りたいみたいな話なら友達辞めたくなりそうだが。」
「…女を食い漁るのはNGって、それをお前が言うのか?」
「言うだろ。少なくとも俺は最後まで一緒に居るつもりだし。」
盛大に惚気られた。それはそれとして、確かにホワイトルームがなくなった以上、今後のために俺も感情を手に入れて変わっていくべきなのかもしれない。追々の課題としていこう。だが、とりあえずは高校生活を楽しんでいくために…
「…やっぱり彼女は欲しいな。せっかくの高校生活だし。」
「…特定の相手は居るのか?こいつと付き合いたいとか、見た目がどうだとか。」
「…比企谷みたいに何人か侍らせてみたい気持ちはある。」
「そいつクソ野郎だから参考にしちゃダメだよ?有栖たちが特別なだけで、普通は修羅場になってとんでもない事になるだろうから。…まあ、まずは気になる奴1人と付き合えるように動くのがいいんじゃねえか?」
いきなり複数人はレベルが高いという事か、一理ある。
「…そうだな。まずは1人を俺のモノにしよう。」
「言い方が怖ぇよ。」
互いに漫画を読んでいた時に、ちょっとした好奇心で比企谷に聞いてみた。
「比企谷。」
「…ん?」
「…1500メートル走以外で、俺に勝てると言える物はあるか?」
そう聞くと比企谷は渋い顔をした。しかし悔しさを感じないのでどういう事なのか。比企谷は絞り出す様に声を発した。
「………運の要素が強いゲーム。」
「…たとえば?」
「そうだな、トランプはあるか?」
「ああ、ある。」
箱に仕舞ってあるトランプを出して、何をするのか聞いてみた。
「何か賭けた時の方が強くなるから…学校が始まって食堂で顔を合わせる事があれば飯を1回奢ってくれ、唐揚げ定食あたり。」
「…まあ、いいだろう。それで何をやるんだ?」
「…ゲームと呼べるほど大したもんじゃないが。とりあえずカードをよく切ってくれ。切り終わったらそのまま机の上に置いてもらっていい。で、一番上のカードを俺に見せないように引いてくれ。それを当てるから。」
言われたままにやった後、当たる事が普通のように比企谷は言った。カードを引いたらスペードの5だった。
「…引いたぞ。」
「…スペードの5だな、違うか?」
ゾッとした。比企谷はこのトランプに一切触っていない。
「で、当たってるのか?」
「…Aクラスの奴がDの奴にタカるのは良くないと思うぞ。…これだけじゃ測りかねるから、ポーカーあたりもやってみていいか?」
「…何を賭ける?」
「…唐揚げ定食で頼む。」
流石に日和った。何故だか迂闊にポイントを賭けると全て毟り取られる気すらしたので。結論から言うとその判断は正解だった。9回やって9回とも敗れたのである。そして10回目で最後にすると言われてカードを配ったんだが…
「…比企谷?」
「…カードはこのままでいい。チェンジも無しだ。」
今後、初めて恐怖を覚えた瞬間はいつだったかと言われたら、比企谷とポーカーをやった時と迷わず答えるだろう。カードを切るのも配るのも全部俺がやっていたのだから仕込むとか出来るわけがない。イカサマをしようにも目の前の男には拙いやり方では通用しそうもなかった。
「…フルハウス。」
「…おっと、流石に珍しいな。」
ロイヤルストレートフラッシュを出されて、比企谷に11回昼飯を奢る事が決まった。二度とこいつに賭け事は挑まない、そう誓った。
「………この種目を選ばれていたら為す術もなかったな。麻雀とかでもこんな感じなのか?」
「…まあ、そうだな。だけどよ、なんかよくわからない別クラスの奴がいきなり自分らの種目に参加するだけでもアレなのに、運ゲー出されたら発狂するだろ。」
確かにそうだろうな。絶対に勝てると言えるかもしれないが、やってる本人以外からしてみればなんでその種目にしたのか納得できる訳がない。完勝だとしても運が良かっただけと、印象は良い物にはならないだろう。
「だから基本的にこの手のゲームはあんまり好きじゃねえんだ。ほぼ結果が見えてるから。ただ…」
「…?」
「人生ゲームは面白かったかもしれないな。帆波が最初にやった事だが、結婚マスに止まった時に当たり前のように俺のコマにピン挿してきて、結婚マスに止まったら全員がそれを真似て挿してたのはゲームとして破綻しすぎてて笑ったわ。」
また盛大に惚気られた。やはり羨ましいとは思いつつ、ゲームを続ける気もないのでこの後は漫画を読んでだらだら過ごした。
これで船でガッポリポイント稼いだって言い張れるだろうという感じで書きました。そもそも修羅場にならずに4人と仲良く付き合えてる時点で運の良さはバグってるかなと思ってます。