クソボケ谷八幡君 in よう実   作:結構暇なひと

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こういう回があってもまあいいかなと。


不思議な夢の有栖

ある休日の朝、目を覚ますと隣で有栖が俺の顔を凝視していた。何事?と思いつつも有栖の顔をよく見ると、感情が整理できていないかのような表情だった。

 

 

「………おはよう。どしたん?」

 

 

「…おはようございます。ええ、少々夢見が悪かっただけです。」

 

 

本当に少しか?箪笥の角に小指を思いっきりぶつけたかのような渋さだったぞ。ひとまず落ち着くのを願うように頭を撫でた。効果はあったようだ。

 

 

 

 

 

気になったから飲み物を用意して事情を聞いてみると、変な夢を見たそうだ。夢でありながら妙にリアリティがあったから、複雑な気分にさせられたとか。この時点で俺に夢の内容を聞かないと言う選択肢はなくなっていた。有栖の感情をここまで動かした夢は流石に気になるので。

 

 

「…で、どういう夢だったんだ?」

 

 

「…この学校での2年間の生活を早送りしたかのような夢でしたね。といっても、私はどちらかというと第三者みたいな立ち位置だったのですが。自分で自分を見ると言った所ですかね。」

 

 

「…確かに変わった夢だな。で、夢の中の有栖はどんな感じだったんだ?」

 

 

「そうですね、一言で言いますと………賢しいメスガキ、ですかね。」

 

 

「メスガキ。」

 

 

「はい。」

 

 

…俺もその夢をちょっと見てみたくなってきた。多分、再会したら俺が出会うと思ってたであろう有栖のイメージだったかもしれないし。

 

 

「後、私たちとは大きく違った点もそれなりにありましたね。二番目に大きな点は帆波さんがBクラスだった事でしょうか。」

 

 

「思った以上にデカい違いなんだが、一番じゃないのか?」

 

 

「ええ、一番は後にでも言いましょう。他に違った点と言えば…真澄さんとの関係性ですかね。万引き現場を押さえて扱き使ってましたね。まあ、真澄さんは嫌々ながらも何かと手を貸してくれていましたが。多分、夢の私も純粋に真澄さんを気に入ってたと思いますよ。嫌われてそうでしたが。」

 

 

「…思った以上に事情が俺らとは違うらしいな。」

 

 

…そういう場面を止めた経験があるので有り得る事かもしれない。止めてくれそうなやつに出会っていない設定なんだろう。

 

 

「ああ、そうそう。当初私は葛城くんと完全に対立していましたね。無人島試験で彼が失敗して失墜する様に、橋本くんたちに動いて貰ってましたね。夢の私がクラスを動かしやすくするためだったようですが、葛城くんの立場が悪くなった後は、葛城くんの派閥の人たちを人質にして言う事を聞く様に弄んでいましたね。」

 

 

「うーん邪悪。ただなんていうか、暇を持て余してる感じでもありそうだが。」

 

 

「…そうですね。もっとやりようはあったとも思いますが。」

 

 

どことなく恥ずかしそうに頬を染めている。まあ、無暗に自分のクラスを弱らせるような真似をするとか意味分からんよな。

 

 

「ちなみに2年に上がって少ししてから、葛城くんは龍園くんに引き抜かれていました。」

 

 

「ダメじゃねえか。」

 

 

龍園のクラスに与えちゃいけない人材だろ。舐めプが過ぎる。

 

 

「この学校で相手を舐めるとか一番やっちゃダメだろ。綾小路を舐めたツケを支払った時の龍園の顔を俺はまだ忘れてねえぞ。」

 

 

「………ええ、はい。そうですね…。」

 

 

「………すまん、夢の中の有栖だったな。」

 

 

消え入るような声で言われたので謝った。目の前の有栖とは別人みたいなものだから、確実に俺が悪い。

 

 

「…話を戻しましょうか。夢の私はどうやら綾小路くんに大分固執してまして、選抜種目試験の時に綾小路くんも司令塔として戦う事になったんですが…」

 

 

「えっ、あいつ生贄にされたの?」

 

 

「ああいえ、これの前に急遽一つ特別試験が挟まれまして。クラス内の一人にプロテクトポイントを、一人を退学処分にするっていう試験ですね。クラス内で3票ずつの賞賛票と批判票、他クラスは1票ずつ投票出来る試験でした。例年より退学者が少ないから行われたと先生は説明されてましたね。」

 

 

「その言い方だと究極のクソ試験じゃねえか。」

 

 

「一応救済として2000万ポイントを支払えば退学回避出来ましたけどね。クラスポイントにダメージはなかったです。帆波さんは支払って退学を回避してたようですが、おそらくポイントをどなたからか借りていたでしょうね。」

 

 

出会ったばかりの帆波を思い出すと少しは納得出来る。しかし大分無理をしてるもんだ、夢の帆波は。借りた相手、多分南雲先輩だろうし。

 

 

「その試験で綾小路くんと夢の私にプロテクトポイントが付与されるように調整しまして、選抜種目試験に挑む事になってましたね。ちなみに山内くんは退学になりました。夢の私に、玩具にされてました。」

 

 

山内、どのみち消されてた。夢の中でも衝突事故起こしてたんだろうなって。

 

 

「試験はほとんど同じ結果でしたね。最後に選ばれたのはチェスでしたが。」

 

 

「……勝ったのか?」

 

 

「………勝敗としては勝ちでしたね。横槍が入ったので。」

 

 

勝者の顔してねえな、こやつ。夢の中でも勝てないとか本当にあいつなんなの?

 

 

「…ホワイトルームからの差し金で、お父様は失脚に追いやられまして。代わりに別の方が理事長代理として派遣されました。八幡くんに分かりやすく言うと、月城理事長補佐です。」

 

 

「あ、やっぱりあの人なんだ。」

 

 

「はい、綾小路くんのチェスの指示を別の手に変えられてしまってましたね。」

 

 

やっぱロクでもねえな、ホワイトルーム。しかし、坂柳理事長が負けるとは……綾小路の親父が強すぎるのか、坂柳理事長が俺の知ってる人よりも弱いのかどちらかなのだろう…。どのみちそういった未来もありえたかもしれないと思うと、きっちり封殺してくれて良かったと思う。

 

 

「俺の知ってる理事長補佐は食えない人だとは思うが、俺たちにとっては悪い人でもないんだよなぁ。良い人かどうかもわからんけど。」

 

 

「…まあ、そうですね。彼の提案で修学旅行に行けるようにもなったようですし。」

 

 

理事長補佐の口からホワイトルームを潰された後に雇われたと聞いたが、流石にヤバいんじゃないかそれ?って顔をしていたら、

 

 

『比企谷くん、人生の先輩として二つ教えてあげましょう。長い物には巻かれろという事と、待遇が良ければ寝返る必要がないんですよ。』

 

 

と、スッゲェいい笑顔で言われた。綾小路パパ、思ったより給与ケチってたんかな。

 

 

「ですが、夢で見た彼は綾小路くんを退学にするために刺客を送り込んでましたね。まあ、刺客として機能していたのかは疑問ですが。」

 

 

「………まあ、あいつはなぁ。」

 

 

綾小路を見かけたら飼い主を見つけた犬のように抱き着いている後輩のツインテールを思い出す。ちなみに俺は嫌われてる。「『綾小路清隆』に傷をつけたから」との事らしい、知らんがな。

 

 

「もう1人刺客が居て、そちらが主に暗躍していたみたいなのですが……顔がぼやけてて良くわからなかったんですよね。おそらく私とほとんど関わる事のない人物だったのでしょう。気づいたら居なくなっていました。」

 

 

「ほーん。まあ、そいつの事はいいや。興味が無い。」

 

 

とりあえず続きを促すと、有栖はなんとなく話しにくそうにしている。

 

 

「…えっとですね、出来れば怒らないで聞いてほしいんですが…。」

 

 

「…?」

 

 

「2年になってからの夢の私は、綾小路くんに惹かれている様子でして………。」

 

 

「ほう。」

 

 

「………『ほう。』って、それだけですか?」

 

 

有栖がめっちゃ不服そうな目でこっちを見てくる。いや、でもなぁ…。

 

 

「…夢の有栖と現実の有栖は、話を聞く限り別人にしか感じないからな。俺がよく知っている有栖には傍に居て欲しいが、他の坂柳有栖はどうでもいい。少しばかり乱暴な意見かもしれんが。」

 

 

「……ふふふっ。そうですかそうですか。別人と捉えるのは確かに正しいかもしれませんね。あそこまでの醜態を晒した覚えは有りませんし。」

 

 

「…えっ、夢の有栖は何したの?」

 

 

「2年の時の体育祭に綾小路くんが休んだので、クラスの指揮を放り投げて一緒にイチャついてました。」

 

 

「クソリーダーじゃねえか。」

 

 

「そうですね。」

 

 

今年の体育祭は堀北と龍園が組んでたけど、見事な采配で被害を最小限に抑えていた有栖を思い出す。運動能力で劣っているから上位は無理にしても、最下位は避けたし。

 

 

「その結果、橋本くんが夢の私に対して不満を持つようになりまして…綾小路くんを引き入れる事もしない姿に業を煮やしたようで、3学期が始まってからの試験で裏切られましたね。Aクラスから退学者も出てしまっていました。」

 

 

「………まあ、あいつにとってはAクラスで卒業が全てみたいな所があるからな。」

 

 

「退学させてしまったのは……………真澄さん、でした。」

 

 

「………ちょっと橋本こr「落ち着いてください、夢の話です。」」

 

 

…まあ、俺が大人げないな。今の所、現実のアイツには罪は無い。

 

 

「まったくもう、真澄さんに甘いんですから。」

 

 

「……それで、その後は?」

 

 

「流石に夢の私も落ち込んでましたね。綾小路くんに励まされて復活しましたが。」

 

 

「綾小路、大分動いてるなぁ…。」

 

 

俺の知ってる綾小路は大きく動いてこなかった。それなりの成績を演出して、劣等生扱いされない程度の働きをしていたはずだ。でも体育祭の時だけはガチだったが。「コイツが意地になるとは」と、シャトルラン終了後にへばり合いながら思ったくらいには。

 

 

「学年末の特別試験の時に大将として参加出来るくらいには調子を取り戻してましたね。その時の相手は龍園くんのクラスでしたね。」

 

 

「そこは変わらんのね。」

 

 

「………勝敗は変わりましたけどね。」

 

 

「…は?負けたの?どうやって?」

 

 

相手が龍園だとしても、有栖が負ける姿が想像できない。まあ、実際にはやり合わずに終わったカードなのだが。「完膚なきまでにボコボコにして手懐けておくべきだった」と言うマジ顔の龍園は記憶に新しい。でもライフ削りまくったの帆波だったよ?

 

 

「………橋本くんから綾小路くんの伝言が届いて、『ここで負けてくれ』と。」

 

 

「………えぇ……………。」

 

 

「余程、綾小路くんに固執していたというか恋をしていたというか…。ちなみに龍園くんとの契約で負けた方が自主退学でした。なので退学してましたね。綾小路くんとの再会を約束した所で夢は終わりましたが。ああ、退学のペナルティでAクラスからCクラスに転落もしてるでしょうね。」

 

 

「……………。」

 

 

ドン引きである。俺でも同じ事をされたら崩れ落ちるわ。夢の結末に引きながらも、最後に残った一番の違いを確認する。

 

 

「…最後まで聞いて、一番の違いについての答え合わせだが。俺はこの学校に入学してなかったという事か?」

 

 

「正解です。私が見た限りでは恐らく、出会ってすらいないでしょうね。この夢を見て、八幡くんが私たちに与えてくれた影響は想像以上だったのかもしれないと考えてしまいますね。」

 

 

「んな馬鹿な。興味深かったけどただの夢だろう。」

 

 

「そうかもしれません。ですが…」

 

 

「…?」

 

 

「間違いなく、私の方が幸せです。八幡くんが私を幸せにしてくれている、胸を張ってそう言えます。」

 

 

「…おう。」

 

 

優しい笑顔でそう言ってくる有栖に見惚れる。夢の世界の方が俺の世界じゃなくてよかった、そう思わせてくれるような笑顔だ。これで夢の話は終わり、この日は有栖と穏やかな時間を一緒に過ごした。




帆波ちゃんが相手のライフを削り、八幡くんが「こいつなんだろうな」と確実に相手のライフを削り続け、後詰めとして有栖ちゃんが居るとかいう全員が大将みたいな悪夢のような学年末試験になってしまいました。龍園くんも二度目の恐怖を味わってしまったでしょう。
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