クソボケ谷八幡君 in よう実   作:結構暇なひと

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時系列的には1年生です。


八幡くんと遊ぶ

4人で八幡くんの部屋に遊びに行った時に、本棚に見覚えの無い物があるのを見つけた。気になったので近づいて見てみると、ほとんど使われていないトランプだった。八幡くんと一緒に本を読むのも大好きだけど、皆と遊ぶのも良いなって思ったから提案してみた。

 

 

「こうして集まれましたし、ババ抜きとか大富豪をやりませんか?」

 

 

「嫌だ。」

 

 

皆が目を見開いてショックを受けている。普段の八幡くんからは全く想像できないくらいの拒絶だから。私たちの顔を見て、八幡くんはばつの悪い顔をしている。

 

 

「…悪い。でもやりたくない。」

 

 

「…え、えーっと。八幡くん、何でダメなのかな?」

 

 

「……勝負にならないから。」

 

 

八幡くんは目を逸らしながら、悪い事をして反省している子供のような表情でそう言った。内心ちょっとほっこりした。そんな八幡くんに有栖さんが諭すように言った。

 

 

「まあまあ。八幡くんもそう言わずに、とにかく遊びましょう?私もこういった遊びは八幡くんとはやった事が無いので楽しみなんですよ。」

 

 

「……うーん…。」

 

 

「…そういえば私も一緒にやった事がなかったわね。良い機会だし、やりましょう?」

 

 

「………怒るなよ?」

 

 

「…?良く分かりませんが、怒りませんよ?」

 

 

渋る八幡くんの説得に成功して遊ぶ事になった。ここまで渋る八幡くんも珍しいと、この時は思っていた。

 

 

 

 

 

最初は、こんな偶然もあるんだなって呑気に構えていた。

 

 

「悪い、上がったわ。」

 

 

「えっ!?まだ始まってもないよ!」

 

 

「本当に全部揃ってる…。」

 

 

私の手札とは雲泥の差だ。皆よりもカードが明らかに多いしジョーカーも入ってる。どうやって勝ちに持っていこうかなと考えていたら、手持無沙汰になった八幡くんが私の後ろに来た。

 

 

「このまま待ってるだけなのも暇だし、一番不利そうなひよりに付くわ。」

 

 

「…はい!よろしくお願いします!」

 

 

ジョーカーは幸福の証だったようだ。一番不利な手札でよかった。八幡くんとのペアに羨ましそうに皆が見てくる。同じ立場だったら同じ気持ちになるだろう。とりあえずゲームを始めるべく、カードを引いた。

 

 

ゲームが進んでカードの枚数も減ってきたけど、まだ負けてるから静観してる八幡くんに聞いてみた。

 

 

「八幡くん、どれを引いたらいいですか?」

 

 

「…右から2番目。」

 

 

耳元で他の人に聞こえないように言われた。ちょっと耳がくすぐったかったけど凄くよかった。言われた通りのカード引いたら揃った。

 

 

「…やりましたね、八幡くん!」

 

 

「…おう。」

 

 

嬉しくなったので八幡くんの顔を見ながらそう言ったけど、八幡くんはカードを当てた事ではなく私の顔を見て嬉しそうに微笑んでいるように見えた。その後も八幡くんに聞いてみたら百発百中と言えるくらいカードが揃って、八幡くんを除けば2番目に上がった。

 

 

「八幡くんのおかげで勝てました、ありがとうございます!」

 

 

「まあ、うん。運が良かったな。」

 

 

1回目が終わり、2回目が始まった時にも同じ事が起きた。八幡くんがいきなり上がった、今回もゲームが始まる前に。有栖さんですら驚愕の表情を浮かべながら、今度は真澄さんが不利のようで一緒にやるようだった。羨ましい。

 

 

2回目は拮抗していたので八幡くんはほとんど動かず、最後に真澄さんと有栖さんの一騎打ちになった時に真澄さんに聞かれていた。真澄さんが耳打ちされた時、頬を染めていた。八幡くんは声も良いですからね、分かります。

 

 

「…負けましたか。」

 

 

「…運が悪かったな。」

 

 

少し悔しそうにしている有栖さんにそう言った八幡くんの顔は、当たり前の事が起きたという表情をしていた。後、少しだけ申し訳無さそうにも見えた。

 

 

3回目にして空気が凍り付いた。やってるのはただのババ抜きなのだけれど、私たちは多分奇跡を見ているのかもしれないとすら思った。

 

 

「う、嘘でしょ…?」

 

 

「……ちゃんと全部揃ってるね。」

 

 

八幡くんはまた上がってしまったので、今度は八幡くんと帆波さんがペアでのゲームだった。やはり帆波さんも気になったのか、最初から最後まで八幡くんにどのカードを引けばいいのか耳打ちしてもらっていた。耳打ちが気に入ってただけかもしれないけど。

 

 

帆波さんはカードをストックする事は無く、そのまま2番目に上がった。今回私は最下位に終わった。全員がなんとなく察しながらもどこか期待しながら、4回目のババ抜きをする事になった。カードが配られた後、皆の予想通りの結果になった。二度あることは三度あると言うけど、四度目もあるらしい。そうしてゲームが始まり、八幡くんとペアになった有栖さんが八幡くんに尋ねた。

 

 

「…信じられない事ですが。八幡くん、貴方はこうなると分かっていましたね?」

 

 

「…おう。」

 

 

全員がその事実を笑えなかった。

 

 

「道理でやりたがらないわけです。あまりにもゲームとして成立していない。カードゲームで八幡くんに挑むのが間違いだと思ったくらいですよ。」

 

 

「…まあ、これが原因で一緒に遊んでくれる奴は居なくなったな。妹にも完全に拒否されたし。」

 

 

寂しそうに八幡くんはそう言った。確かに子供の頃からこれでは遊び相手は居なくなってしまうだろう。自分はゲームに参加出来ていないようなものだし、相手は絶対に勝てないから。

 

 

「…ギャンブルでも変わりなく強いのは嬉しい誤算だったけどな。」

 

 

「試したのですか?」

 

 

「船でちょっとな。」

 

 

船でのホクホク顔の八幡くんを思い出す。大勝と言ってたけど、どれくらいの勝ちだったんだろう?少し疑問に思いながらゲームが進み、今回は有栖さんが一抜けだった。最後の1枚を八幡くんに確認を取ってから引いていた。

 

 

「…本当に凄いですね。上がれる状況にある事自体が、八幡くんから運を貰っている感じがしますよ。」

 

 

「…妹に『なんか運が良くなる気がするから傍に居て』って言われるくらいには幸運の置物やってたぞ。」

 

 

「…そういえば言ってたわね。あの時は冗談だと思ってたけど本当だったんだ…。」

 

 

「例えば、ガリガリ君だったら1本買ったら当たるから地味に美味しい思いはしてきてるぞ。常に50%オフみたいなもんだったし。」

 

 

「…それはちょっと羨ましいねー。」

 

 

帆波さんがいいなーみたいな感じの顔で言っている。私もちょっと羨ましい。ここまでの強運だと、やはり気になってしまったので聞いてみた。

 

 

「…八幡くん、宝くじは買った事ないのですか?こう言ってはなんですが、八幡くんならあっさり高額当選しそうなのですが。」

 

 

「ああ、親に止められた。『知らない親戚が大量に増えるぞ』とか『美人局に狙われるぞ』って言われて。例を見せられて、尤もな意見だと納得したわ。」

 

 

…どうやら八幡くんのどことなく真面目な所は親譲りらしい。八幡くんは社畜だと言っていたが、一生懸命に八幡くんたちのために働いているのだろう。

 

 

「あーでも、たまの休日に家に居る時に競馬の予想をちょくちょく聞かれてたりはしたな。予想を伝えた後は自分の部屋に戻って本を読んでたから結果は知らんかったけど、次の日の夕食が豪華だったな。将来のための貯蓄も出来たとか言ってた気もするな。」

 

 

「…そういえば八幡のお父さんたちと一緒にご飯を食べた日があったけど、確かに豪華だったわね。」

 

 

「…いや、あれはどっちかというと真澄を俺の彼女と勘違いしてたって気がするわ。」

 

 

「………そう。」

 

 

八幡くんの強かな部分も親譲りらしい。八幡くんたちのために働いているというのも理由の一つだろうけど、仕事を辞めたらバレる可能性が高いから働いているのだろう。後、真澄さんは私たちより羨ましい経験を多くしている気がする。ちょっとずるい。

 

 

 

 

 

ババ抜きが終わった後のカードを八幡くんが整えて、シャッフルし始めた。

 

 

「…まあ、トランプは遊ぶためじゃなくてちょっとした芸をやれるか確かめるために買った物なんだわ。一番上のカードを引いて、俺に見せないように確認してくれ。確認が終わったら山札の適当な所に入れてシャッフルしてくれ。そのカードを当てるから。」

 

 

有栖さんがカードを引いて、クローバーの6だったのを確認してから山札に戻してシャッフルした。八幡くんは山札を手に取ると机の上に扇状に広げた。そしてカードを少し眺めてから、一枚のカードを前に出した。

 

 

「…これで合ってるか?」

 

 

「…ええ、正解です。このカードですね。」

 

 

絞り出すような声で有栖さんが答えた。ありきたりなマジックのはずなのだけれど、じっくり見ていてもよく分からなかった。有栖さんの様子も気になる。

 

 

「……背筋が凍ったかと思いました。種も仕掛けもありませんとはマジックの前口上としてよく言われる事ですが、本当に実践されるとは思いも寄りませんでしたよ、八幡くん。」

 

 

「中々面白い一発芸だろ?」

 

 

得意げではあるもののさらっと八幡くんは言う。けど、一発芸で片づけていいものでもないと思う。良い物を見せてもらったって気持ちにはなった。後日、教室で同じ事をやった結果、皆に引かれてたけども。しょんぼりしてた八幡くんは可愛かった。

 

 

「まあ、この学校の試験とかに役立つ事でもない技能だろうけどな。」

 

 

「…そうでもないと思う。この学校の試験って一筋縄じゃ行かないし。」

 

 

「…そうだねー。特別試験で八幡くんと戦いたくないって気持ちが凄く強くなったよ。」

 

 

「…早めに移籍してくださいね?言いたくはありませんが、私も為す術無く負けるのは嫌ですし。」

 

 

「……まあ、ぼちぼち頑張るわ。」

 

 

そう言って八幡くんは私の方をちらっと見た。どうしたのかなって思いつつも微笑んで返したけど、多分八幡くんなりの決意表明みたいなものだったのだろう。絶対に私と一緒にAクラスへ行くと。無理をさせてしまったという気持ちより、一緒に居られる喜びのほうが強かったのは、私の秘密だ。

 

 

後、2年生の学年末試験で八幡くんが猛威を振るっていた事だけは忘れられない。八幡くんが敵になる事なんて想像できないけど、敵に回してはいけないくらい強かった。凄く格好良かった。




皆に嫌われたくないから八幡くんはやるのを渋りました。
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