周りの困惑の目に晒されながら船へ戻り、リーダー当ての発表を迎えた。帆波と真澄に両腕を掴まれたままだからである。俺、捕虜なんです。
我らがCクラスは最下位、1位はなんとDクラスだった。Aクラスは自分たちと同じ方法を使ってくるかもしれないという理由からリーダー当てをしなかったようで、Dクラスはリーダー当てをしに行ったためである。発表が終わり二人から解放されたところで、有栖に声を掛けられた。
「八幡くん、お疲れ様です。両手に花でしたね。」
「そうかもしれんが心は落ち着かなかったぞ、試験が終わっても掴まれたままだったし。」
視線は痛いし柔らかいしで一端心を落ち着けたかった。
「私も寂しかったですよ、Cクラスの方たちの大半が戻ってきてたのに八幡くんの姿は無かったんですから。ひよりさんがふてくされるように愚痴を言ってましたよ。」
「…まあ、あとで機嫌取りをするわ。」
「それは結構ですが…私の機嫌取りもなさってくださいね?」
あ、これ地味に龍園の作戦が成功してやがる。ゲス笑顔でこっち見てやがるし。
ひとまずシャワーで汗を流し、そのまま横になって寝た。起きてから人気のない所に行ってぼーっとしていたが、腹が減ったのでステーキを食べに行くことにした。無人島生活のせいで、無性に脂っこいものが食べたかった。有栖とひよりと合流してレストランへ向かう。
「悪い、どうしても肉が食いたくてな。」
「いえいえ、かまいませんよ。」
「私は早めのリタイアでしたしバカンスだけで終わりましたけど、八幡くんたちは一週間まるまるでしたからね。」
いやほんと暑いし知らん人ばっかだしで辛かった。とにかく食いたいもん食って気力と体力を回復したいと思うくらいには疲弊した。企業がやってるからって親しくない奴らばかりで無人島には行きたくないわ。親しい奴ほとんどおらんけど。
レストランでステーキを注文し、届くまでの時間に有栖から言われた。
「八幡くん、今夜のお時間を頂けませんか?」
「…ん?ああ、何も予定はないから大丈夫だが…何か大事な用事でもあるのか?」
「……ええ、どうしても外せない用事があるもので。」
「…?まあ分かった。空けておく。」
「はい、ありがとうございます。」
この後ひよりはやる事があるようで、俺は有栖と二人でチェスをすることになった。
「こうやって二人チェスをするのも久しぶりですね。」
「ああ、別のクラスってのもあるが、どうにも機会に恵まれなかったからな。そっちはAクラスの頭として動く必要があったろうし。」
「ええまあ、そうですね。ですが誘っていただいてもよろしかったんですよ?それくらいの時間は作りますから。」
「…まあ、もう少し強くなってから挑みたかったという気持ちもあったし…。」
「ということは、以前よりお強くなられたということですね。」
強くなったけど勝てる見込みは、有栖が油断しなければ無いだろう。戦いにならなくはないが、自動的に接待になりそうな上下関係な気がする。
「…八幡くん、賭けをしませんか?次の勝負で勝ったほうが、相手にお願いを一つ出来るという条件で。」
「………お願いの範囲は?」
「何でもです。ポイントが欲しいのなら差し上げますし、抱かれろと言われれば抱かれます。何でもです。」
有栖がとんでもない事言ってきた。絶対の自信があるのは知っているが、それにしたって賭けるものが重いな…。
「俺への願いも同程度の重さか?」
「それはまあ、実力の差の分を考慮して軽くしましょうか。まあ最初から出来る範囲のお願いをするつもりですが。」
「……………やるか。」
あわよくばコイツの焦り顔を見たいという気持ちが少しあったので、挑む事にした。罠でもいい、やってみる価値があるから。
この勝負は私にとって挑まれた時点で勝利である。万が一私が敗れたとしても、八幡くんが私に無茶なお願いはしないだろうし、あわよくば抱いてもらってそのまま付き合う流れに持っていけるかもしれない。強くなった彼を堪能できるし良いこと尽くめだ。まあ、手を抜くつもりはないし私は天才なので勝つのだけれど。勝ったのだけれど。
「ふふっ、では夜になるまで八幡くんは私の抱き枕です。」
「え、あ、お、あ、有栖…さ、流石にこの格好は…。」
「私、寝る時は下着なのですよ。」
嘘である。体の弱い私はちゃんとした睡眠を取れるようにパジャマを着用している。そして八幡くんは上半身裸の状態である。ひよりさんの無人島での話を聞いて羨ましかったので、それに近い状態で彼と接したくなった。少しくらいなら問題ないだろう。
「ふふっ、本当に逞しくなりましたね。体育祭での活躍を楽しみにしていますよ?」
「あ、う、うん。」
いつもどこかふてぶてしいのに、こういう時は本当に可愛らしい反応をする。ギャップがたまらない。
「では、このまま夜までお昼寝しましょう。」
「え、え?」
「凄く気持ちよく寝られそうなので、ではおやすみなさい…。」
「あ、有栖……?どうしよ……。」
慌てる彼を無視してそのまま眠る。幸せな気分で眠れそうだ。
俺は抱き枕だ。抱き枕に感情は無い。寝顔は可愛いし柔らかいしでヤバかったのでずっとこんなことを考え続けて誤魔化していた。負けた以上はしょうがないかと受け入れたら恰好がとんでもない状態だった。こいつ、強すぎる。
悶々としているうちに意識が飛んでいたらしいが、アラームが鳴った時刻と寝落ちした時の空模様が大して変化がないからほとんど寝られてなさそうだった。有栖は先に起きて着替え終わっていた。
「ふふふっ、おはようございます。よく眠れました。」
「…そうかい、よかったな。」
「ええ、よかったです。」
もう少し何か言ってやろうかと思ったが、有栖は笑顔だったものの顔も耳も真っ赤だったので黙ることにした。負けた気しかしてないが引き分けってことで。
夜になり用事とやらに付き合うため有栖に案内をされたが、どうやら有栖の部屋らしい。
「どうぞ、八幡くん。」
「…?お、おう。」
先に入るよう促され、部屋の電気を付けると破裂音が響き渡った。
「「「「誕生日、おめでとう(ございます)!!」」」」
「あ、あー………ありがとう?」
そういえば誕生日だったわ。普段祝ってくれる小町も居ないから完全に抜け落ちてたわ。騙し討ちの試験もあったし。
「何故疑問形なのか…まあらしいといえばらしいですね。」
「変なタイミングにはなっちゃったけど、せめてお祝いとケーキだけでもって思ったから!」
「特別な日ですからね、どうにかお祝いすることが出来てよかったです!」
「…八幡と一緒に誕生日を迎えたかったから。」
「……いや、うん。ありがとう。すっげぇ嬉しいわ…。」
やべえ泣きそう。ここまで暖かく祝われたことない気がするから大分心に来るものがある。
「…ほら、八幡くん。ろうそくの火を消して?ケーキ食べよ?」
「ああ、そうだな…。」
優し気な眼差しに見守られつつ、ろうそくの火を一息で消す。その後はケーキを食べながら、無人島であった事や有栖が船でやっていた事の話をして穏やかに過ごした。
「…八幡くん。」
「…?」
そろそろお開きかなという時間になった時に言われた。
「…八幡くんと、もっと深い関係に私たちはなりたいのです。」
「あの日の図書館であなたと大好きな本を共有出来た時から…」
「前に進めていなかった私に、進めるように励ましてくれたから…」
「ずっと貰えなかった家族のぬくもりを与え続けてくれたから…」
「口約束を大切にしてくれて、とっても素敵な人になって再会してくれた時から…」
「「「「私たちは貴方の事が、心の底から愛おしいんです。」」」」
………とにかく返事をしなければと思ったが、頭が全然追い付いてくれない。この4人からそう言って貰えるのはとても心が暖かく感じるが、4人同時は全然想定してない。出来るわけがない。もしそれを求めていても無理だと思っていたから。
「…えー、あー、うー………んんっ。えっと…正直、誰か一人を選ぶのが出来そうになくて………決め切れるわけないから最後は独りでって…思って、たんだけど………」
「「「「…………」」」」
「………こ、こんな俺でよければ…。」
「「「「!!!」」」」
破顔する彼女たちに、倒れ込む勢いで抱き着かれた。しかし恋人4人とは…小町がお義姉ちゃん候補とか言わずに軽蔑の目で見てくるレベルの奴だな…。なんだかんだ嬉しさは込み上げ続けてるが。
実は冷静さを失わせ、正常な判断をしにくくして八幡君に挑んでます。