4人にキスをせがまれたので全員にした。それ以上の事を期待してるような目で見られたが、もう少し落ち着いてからとやんわりと言った。恋人になったけどそれはそれ、これはこれである。まだこれから試験があるかもしれないのだ。気持ちを変にふわふわさせるものではない。たとえヘタレと言われようとも、目の前の美少女たちを抱きたくて仕方無いとしても。
その日はお開きとなり部屋に戻り寝て、次の日はスパで調子を整えた。無人島だけで試験が終わってくれるとは思えなかったからである。有栖からは、
「どうやらまだ試験がありそうですね。次は私も参加する事になるので、お手柔らかに。」
と言われた。誰よりもすさまじい剛腕で赤子の手を捻るような戦いになりかねないのでは?
スパから出て人気のない所で一息ついてると、アナウンスが聞こえてメールが届いた。ひよりに確認した所、どうやら同じ時間と場所だったようなので合流し、一緒に向かった。
「八幡くん、頑張りましょうね!」
「…おう。」
試験やだなーと思いつつ、天使の張り切る姿に癒される。なんとなく撫でたくなったので撫でてやると、目を細めて嬉しそうな表情を浮かべる。愛い奴よ。
「ん、んんっ。時間になったので特別試験の説明を始める。」
「あ、す、すみません…。」
TPO弁えてなかったわ。変な空気にしてすまん、他のクラスメイトよ。
試験内容は優待者を当てるというもので、干支になぞらえた12のグループから、それぞれのクラスから3~5人ずつ選ばれて所属しており、その中から優待者を発見するか、自身のクラスの優待者を見破られないように立ち回るか、最後の解答時間に優待者をみんなで答えて、仲良く手をつないでゴールするかとのこと。シンキング能力が問われる試験で、グループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。そして、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視することが重要だそうだ。
また、話し合いの時間を日に2度設けており自己紹介した後の話し合いは自由にしていいらしい。知らない人と話すのしんどいし基本黙っとこう。
というか、脅したらダメだけど脅さなかったら優待者に関する情報を手に入れられる時点で詰んでる気がするんだけど。有栖にさくっとやられそう。
俺たちのグループは4人で、疲れが取れてないから少し休むと言って別れ、ひよりと対策を練る事にした。
「八幡くん、大丈夫ですか?」
「…あーいや、ちょっとな…。」
「?」
俺たちはもう負けていますみたいなことが言えるかよ。気を切り替えて考えるとしようか。
「えーと、まずはAクラスからDクラスまでの関係性を無視か…まあ弱肉強食みたいな考えを推奨するこの学校が協力プレイとか推奨するわけないよな…。」
「言い方は悪いですけど、そうでしょうね…。」
「となると…クラスって肩書が多分要らない情報なんだろうな。」
となると後は干支になぞらえてるって事だから…。
「大体なんとなく分かってきた気はするが…。」
「?何か問題があるんですか?」
「同じグループの奴の名前をちゃんと覚えてなかったわ。昔から人の名前を覚えるのが苦手で…。」
「あぁー、分かります。中々名前とお顔が一致しないですよね。」
ぼっちあるある、人の名前と顔を覚える努力を怠るようになるである。いや今回はアウトなのだが、覚えられなかったのはもうしょうがない。明日の自己紹介でメモっていこう。
「八幡くん、私優待者みたいです…。」
アカン、一気に大ピンチになった気がする。とにかく最終日まで気が抜けなくなった。最終兵器有栖が居るから関係なしに終わるかもしれないけど。
二人で困惑していると、有栖から連絡が来た。こちらの考えを聞きたいとの事らしいので部屋へ来てほしいとの事だった。
「…おそらくそういった法則だと思う。どうだろうか。」
「ふふふっ。やはり貴方は素晴らしいですね。私も同じ解に辿り着いてましたよ。」
やっぱり詰んでたよ。しかしそう考えると何故まだ動いていないのか。
「八幡くん、取引をしましょう。私が他の方に法則を教えない代わりに、貴方も教えないでください。」
「…?どういうつもりなんだ?」
「私はAクラスの皆にちゃんと試験に参加して、自身の力で戦って頂きたいんですよ。今回の試験は負けてもそれほど重いデメリットではないですし、自分たちの今の力量の把握も出来ます。クラス全体の成長を促したいのですよ。葛城くんや帆波さんにも許可を頂いてます。」
…驚いたな。正直今回は蹂躙を覚悟していた。目の前の少女はそれほどまでに暴力的な知性を有しているからだ。なのにそれを抑え込んで、クラス全体の強化を優先した。しかも、こっちが提案を飲むしかない状態で。
「…負けた、完全敗北だ。提案を受け入れる。」
「ふふっ。交渉成立ですね。」
有栖との交渉を終えて1回目の話し合いに臨む前に、ひよりと相談した結果、話し合いには必要最低限参加して、成り行きを見守ることになった。同じグループの2人にもそう伝えて了承を得た。
自己紹介で名前を聞いてみたところ、やはり法則は名前を50音順に並べ替えて干支の順番に当てはめた人が優待者だった。当たり障りのない会話を聞き流しながら時が流れるのを待ち、1時間が経過した所で断りを入れて退出した。
「優待者、誰なんだろうな?見た感じ怪しそうな奴はいなかったが。」
「パッと見だと分かりませんでしたね。もう少し見続ければ分かるかもしれません。頑張りましょう!」
「まあ、根を詰め過ぎても仕方ないしちょっと本を読みにでも行くか。」
「はい!是非そうしましょう!」
誰が見てるか分からないからちょっとした小芝居を入れつつ、ひよりと一緒に本を読みに行く事にした。ぶっちゃけ法則が見破られたら終わりみたいなものなので、見破られないのならおそらく最後の話し合いまで動きは無いだろう。
図書室で本を読みながらチラっと横のひよりを見る。俺、この子の彼氏になったんだよなぁ…という嬉しさと、他にも3人彼女が出来たんだよなぁ…という受け入れた事に後悔は微塵もないがどうしてこうなったという困惑が浮かぶ。
「…?どうかしましたか、八幡くん?」
「…あーいや、昨日の夜の事をちょっと思い出して…」
「…ふふっ。私は嬉しかったですよ?断られるかもしれないって思っていましたから。」
「まあ、うん。俺も嬉しかったが…一般常識だとアレだから…」
「それでも私たちは、八幡くんと一緒になりたいんです。」
ひよりの優しい笑顔に心が暖かくなる。たまらなく愛おしく感じる。
「……ひより、大好きだ。」
「…はい、私もです。」
こんな俺を好きだと言ってくれた彼女たちに見捨てられないように頑張ろうと思う。彼女たちを誰にも渡したくない気持ちはあるのだから。
猿グループの試験が終了した。裏切り者が出たようだ。
「…誰が裏切ったんでしょうね?」
「…分からんが、気を引き締めよう。顔に動揺が現れたら拙い。」
法則を理解したのか運に身を任せたのか…おそらく前者だろう。…それにしてもこの試験、優待者に対して不利すぎだろ。バレないように立ち回るのも気疲れするし、法則見破られたらどうしようもねえじゃねえか。
「…はぁ。今日こそ優待者を見つけられるといいんだがな。」
「…中々見つけられないものですね。」
猿芝居も飽きてきたと思いつつなんとかやり過ごし続け、最後の話し合いの時を迎えた。最後に魔女狩りのように「お前か?」と聞かれたので、
「お、俺のわけがないだろう。」
と、かつての比企谷少年のような挙動不審さを再現してかく乱してやった。結構な人数が怪しんでおり、それが効いたのか試験終了前に裏切り者が出て俺たちのグループの試験は終了した。なんとか乗り切った…。
当初ひよりとバカップルムーブで試験乗り越えさせようかなって考えましたが、確実にボロ出すだろうから没にしました。