「………はぁ…。」
「ずいぶん溜めたなぁ…。」
「…流石にこればっかりは私がやらなければ話にならないですからね…。……はぁ…。」
体育祭が終わりテスト期間が始まるわけだが、生徒がテスト問題を作成して指名したクラスに解かせるといったルールがあるため、有栖たちは当然問題を作成しなければならないため会うことはできなくなる。こればっかりは仕方がない。
「…あ、あの。八幡くん?」
「……まぁ、寂しいのは有栖だけじゃないって事で…。」
俺も俺で寂しいので、膝の上に有栖を乗せ後ろから抱き締める。こういう時ここが普通の学校だったらなーと思う。
「…ふふっ。ふふふふっ。」
「…なんだよ…。」
「いえ、こうやって八幡くんから甘えてくれる事は滅多にありませんから。悪い事ばかりでもないですね。」
「…まあ、たまにはな。」
「…私も、帆波さんも真澄さんも、八幡くんがAクラスだったら良いのになぁって。ずっと思ってるんですよ。」
「…おう。」
少しばかり抱き締める力が強くなる。強くなり過ぎないように気を付けながら話を聞く。
「……どうしても、同じクラスになれたひよりさんが羨ましく感じてしまいますね。八幡くんに一杯構って貰えますから。」
「…まあ、うん。俺もCクラスだと他に構う相手が居ないから…。なんなら2番目に話するの龍園だし…。」
「…ふふっ。……八幡くん。」
「…おう。」
「…Aクラスに、移りませんか?ポイント、融資しますから…。」
その言葉に少しばかり体が反応する。俺も、考えた事がないわけではなかったから。…だが、だが…
「…俺一人では、移籍する気はない。ひよりを置いていけない。俺がひよりを置いていくのが嫌だから。」
「………そう、ですか…。」
「…だけど。」
「……?」
「…だけど、もう少し。もう少しだけ、待っていてくれ。」
「……!!はい…!」
自身のテストに関してはよほど問題は無い。ペア組んでの連帯責任とはいえ点数は取れてる方だし、問題の質にもよるだろうけど極端に難しい問題は出せないそうだ。ただ、一番の問題は…。
「うちのクラスってわんぱくな奴ばっかなんだよなぁ…。どことやっても勝てる気がしねえ。」
「Dクラスでも私たちのクラスよりはテストの平均点が良いみたいですからね…。」
そう、何しても勝てる気がしないのである。体育祭で確実に裏切り者が居ると確信はしただろうし、いい加減対策を取ってくるだろう。
ひよりと文系の問題作成をしているが、そんなだからどうしてもやる気が上がらない。もう少しうちのクラスの連中も勉強頑張ってくれねえかなぁ…。
「あー…すまんひより。敗戦処理感あって全然やる気が出ない…。」
「ここまで力の抜けてる八幡くんは初めて見ますね…。ふふっ、すみません。少し得した気分です。」
天使の笑顔に少し癒される。少しばかりやる気が出てきた。とはいえ、もう少しやる気を出したいので…。
「あっ…。」
「…悪い、少しこうさせてくれ。」
「…ふふっ。いくらでもいいですよ。」
ひよりを抱き締めて癒されるとする。ひよりもそうだが、有栖や帆波、真澄にしたってどうしてこう抱き心地がいいのか、中毒になってるわ。
「…よし、元気出た。」
「あ…八幡くん。」
「ん?」
「…私も、元気が欲しいので…頭撫でてください。」
「…おう。」
甘えたら甘やかさせてもらえた。ハイリターンハイリターンですね、分かります。
「ふふっ。八幡くんの頭の撫で方、癖になっちゃいました。これ、大好きです。今日はこのままずっと撫でてもらいたいくらいです。」
「…俺もそうしていたいが、やらなきゃいけないからな。…もう少ししてから再開しよう。」
「…そうですね、そうしましょうか。」
と言いつつも30分くらい経ってから再開した。とても名残惜しかった。
テスト作成が終わり、坂上先生への提出も終わった日に部屋に戻ると真澄がベッドの上で寝ていた。流石に無防備すぎるとたまに思う。いや、無理に襲う気はないけども。しかし俺も疲れてるし真澄も疲れてそうだから起こすのも気が引ける。なので俺も静かにベッドに横になり、真澄の頭を軽く撫でてから抱き枕にして休むことにした。
眠りがそんなに深くなかったのかうとうとしながら起きたが、寝る前とは状態が違っていた。というか真澄の胸に頭を抱かれていた。えっ、どういう状況…?
「………おはよう。」
「…ふふっ。おはよ。」
顔を見ると、見惚れるくらいの優しい笑顔をしていた。何気に初めて見る表情に顔が熱くなる。こういう不意打ちに全然強くなれる気がしない。
「起きたら隣に居てちょっとびっくりしたけど…悪くなかったわ。」
「…おう。」
「八幡も、疲れてたみたいね。いつもならこういう行動は取らないと思うから…。」
「…あー、うん。正直今回、手の打ちようがなくてな…。徒労感が凄かった…。」
普段から勉強のやってなさそうなクラスメイトが多いからなぁ…。
「…うん。お疲れ様、八幡。よく頑張った。私も頑張った。」
「…真澄らしからぬ言い方だな。」
「…ふふっ。大好きな人の口癖が移っちゃったのかもね。」
「…おう。」
…ヤバい、ちょっと真澄に溺れそうだ。だが甘えたくなってきたのも事実。俺らしくなかろうとストレートに行こう。
「…なあ。抱き締めていいか?」
「…うん。…いいよ。」
お言葉に甘えて抱き締めさせてもらった。俺もうクソ野郎でいいや、やっぱり皆を手放したくないから。
「うおおおおっ………!」
ひとしきり甘えた後、ようやく色んな気疲れが解消されて自分を取り戻せたのか、ここんとこの自分も振り返って猛烈に恥ずかしさがこみあげてきた。枕に顔を埋めて声を上げている。
「…何してんの?八幡。」
「………ここんとこの自分の乱心を振り返ってた。」
これはもうテストが全部悪い。というか連帯責任が悪い。おのれ高度育成高等学校。
「…ふふふっ。ま、可愛らしかったよ。普段の八幡はもっとふてぶてしいから。」
「…可愛らしいはやめてくれ…。後生だから忘れてくれ…。」
「ふふっ、やだ。ずっと覚えてるつもりだから。」
どことなく嬉しそうな真澄に何も言えなくなる。何も言えなくなったから、この笑顔を見るために頑張ったのだと飲み込むことにした。
後日、3人に甘えた事を3人から聞いた帆波が「いいなー私にも甘えろー」と言って来たので、きっちり甘えさせてもらった。正直、一番柔らかかった。何がとは言わないが。
トンチキ谷君でも勝ち目が見えなくて負け方が最悪しかない戦いは嫌なのです。