ついに龍園がDクラスの黒幕と決着を付けるらしい。屋上に呼び出して決着をつけると言っていたので、やりすぎないだろうなという心配と寒空の下でよくやるわという労いの気持ちを込めて、コンビニで暖かい飲み物を数点買ってから屋上へ向かった。扉を開けると、なんかDクラスの子に水を掛けようとしてた。
「……………いや、やりすぎだって。」
周りの奴らが困惑してるのを無視して事情を聞くと、どうやら軽井沢という子の口を割らせて黒幕の正体を暴くための行動との事だった。そこまでせんでもどうせ来るだろうし止めた。
「………どうしてそれが分かる。」
「………お前自身がその黒幕と似た思考をしてると言っただろう、龍園。ならそいつもいい加減ケリをつけようと考えてる、そう推測した。」
答えは分かっているがそれっぽい理由で誤魔化しておく。というか下手したらこの状況すら罠かもしれないのだ、とっととこの場から立ち去りたい。
そんな願いも空しく、扉の開く音がする。振り返ると黒幕こと綾小路が立っていた。とりあえず巻き込まれたくもないし隅っこへ移動してコーヒーを飲むことにした。
「…俺は付き合わんからな。差し入れに来ただけだ。」
「好きにしろ、最初から数に入れてねぇ。」
龍園はどうあってもここで綾小路を叩くつもりのようだ。監視カメラの目を潰してるくらいだもんなぁ…。ペナルティ考えると来月からDクラスかぁ…。
そもそも似たような思考をした奴が、1人でのこのこと来た時点でおかしいと思うべきなんだよなぁ…と、目の前の光景を見ながら現実逃避気味に思う。うちのクラスの連中が4対1で一方的にのされていた。
「つっよ…。」
有栖の目に留まっている時点でやれる奴だとは思っていたが、ここまでとは…。まだ底が見えてる感じがしないあたり、こいつが本気を出したら誰にも止められないかもしれないと思うほどだ。っつーか無表情のまま殴りかかってるのマジで怖い。セガールかあいつは。
綾小路に馬乗りされてマウントを取られたあたりで龍園の負けだと判断し、止めようとしたが龍園の戦意が萎えていないので静観することにした。そして綾小路のあまりの容赦のなさにドン引きした。同じ勢いかつ一定のリズムでタコ殴りである。
龍園の顔が引き攣ったのと同時の顔面パンチで決着が付いた。ほどなくして、扉が開く音がして誰かの声が響いた。堀北先輩だった。目が合ったので軽く会釈をする。
「そこまでだ。この場は俺が預からせてもらおう。これ以上の問題行動を起こせば、即刻処罰されると思え。」
このタイミングでこの物言いって事は………どうやら最初から落としどころまで用意してたようだ。完全に綾小路の掌の上の出来事だった。ため息が出るわ。
「……で、お前は何故ここに居るんだ、比企谷。」
「……うちのクラスの連中に差し入れを持ってきただけっす。………ちょっと冷めちゃったけど飲みます?綾小路たちも。」
「…いらん。」
「…いや、いい。」
なんだこいつという目で見られてる気がするが、場の空気が冷めた気がするのでよしとする。
この後とりあえず、龍園以外を起こしてから龍園を背負ってこいつの部屋へ送る事にした。喧嘩に参加してない俺だけノーダメージだししゃーねーなーと思いながら。
「………比企谷、降ろせ。」
途中で目が覚めたようで、言われた通り降ろした。…どうやら大分参ってるようで、こいつらしからぬテンションの低さだ。控えめに言ってボッコボコだったもんなぁ…。ぼんやりと龍園を見ているととんでもない事を言い出した。
「………俺は退学する。もうどうでもよくなった。」
「いや、マジで何言い出してんの?Cクラスはどうすんだ?」
「…暴君が許されるのは、その権力が意味を成している間だけだ。もう俺の持つ権力は無くなったようなもんだ。」
……綾小路との激闘で大分心がやられてるな。しかしCクラスのトップをやれるのはコイツしかいない。こいつ以上に勝ちに貪欲になれる奴は居ないし。柄でもないが、少しばかり説教をするしかなさそうだ。
「………責任の取り方が違うな。」
「…何?」
「一度徹底的にやられたくらいで降りるくらいなら王を名乗るなって話だ。ちょっと怖い思いしたくらいであっさり折れてるんじゃねえよ。」
「…テメェ。」
龍園に胸倉を掴まれるが、そのまま言い続ける。
「…クラスをのし上がらせると言ったのはお前だ。なら最後までAクラスを目指す責任を果たせ。……少なくとも、お前の退学に3人は納得してないみたいだぞ。」
後ろを振り向いた龍園と一緒に3人の顔を見る。少なくとも、まだ龍園についていこうという気概は感じられた。なら、龍園はまだ終わっていないのだろう。
「分かったならとっとと立て直せ。女々しいクラスの王とか見るに堪えねえ。」
その一言で龍園の目に力が少し戻った、と思う。今日の所はこれでいいかと思いつつ、早期の復活を祈った。龍園居なかったらうちのクラスが一番雑魚かもしれんし。
好き勝手言って殴られなかった事に内心ホッとしつつ、龍園たちと別れて部屋に戻る事にした。手に残った差し入れの飲み物の入ったビニール袋を見てため息をつく。差し入れに行っただけなんだけどなぁ…。
部屋に入ると電気がついていたので誰か来てるのかな?と思ったら4人が来ていた。目が合った瞬間にどことなくほっとしたような表情を浮かべて来た。
「…おかえりなさい、八幡くん。」
「…おう、ただいま。」
「…その、大丈夫だった?龍園くんたちが何かやろうとしてたけど…。」
なんとなくだが一緒に手伝わされたと思われてる気がする。まあ、実際はもっと間抜けなものだったのだが。
「…あー、なんていうか…。様子見に飲み物差し入れに行ったら鉄火場に巻き込まれそうだったから隅っこで見てた。」
「…お怪我はありませんか?どこか殴られてしまったとか…。」
「…おう。誰も殴ってもないし誰からも殴られてない。」
「……よかった。心配した。」
心配してくれるのはとても嬉しいが、やってた事はコーヒー片手にマジ喧嘩を眺めていただけである。これでは流石に心配かけるのは非常に申し訳なかった。4人に抱き着かれながらそう思う。
「…すまん、心配かけた。問題は………まあ大有りだが。」
「大有りなの!?」
「…ああ、龍園の顔が芸術的になっちまった。」
とりあえず屋上で有った事を4人に話した。話してる最中に、抱き着かれる力が強くなった気がした。
「…そういう場面を見て、そう言えるのは八幡らしいけど。……本当に無事でよかった。」
「…そうですよ。八幡くんに危ない場面に出くわさないように言ってますのに、もうっ。」
「…悪かった。謝る。」
「……うん、身体に痣も無いから本当に大丈夫みたいだね。」
なんかさらっとシャツ捲られて上半身をガン見された気もするが甘んじて受け入れる。ちょっと寒いけど。そうしていると考え終わったのか有栖が口を開けた。
「……綾小路くんが動きましたか。」
「ああ、1人で来て全員をボコボコにしてたぞ。どこで教えてもらったのか知らんが、あの感じだと大分戦い慣れてたな。」
いやほんと、龍園の後に俺を殴りに来たらひたすら逃げ回るつもりだったぞ。堀北先輩がもう少し遅めに入ってきてたら有り得たかもしれんし。
「有栖の目に留まる時点で只者じゃないとは思ってたが………相手したくないレベルの強者だったな。」
「まあ、彼は大分特殊な生い立ちですからね。まともだと考えるのが間違いとだけは伝えておきますよ。」
「……終業式終わって冬休みに入るのにこんなこと考えるのが間違いな気もしてきた。来年の俺に任せる事にする。」
とにかく3学期の事は来年になってから考えよう。今考えたところで仕方ないし。ああそうだ、最後にひよりに伝えておこう。
「ひより。」
「はい、なんでしょうか?」
「俺ら、多分3学期はDクラススタートだわ。」
「………やっぱり、そういうことになりますよね。」
2人でため息をつく。そして3人を見て今のAクラスは盤石なんだろうなーとどうしても羨ましくなった。
八幡「なんだこいつ…(戦慄)」
綾小路「なんだこいつ…(困惑)」