クリスマスパーティーは夜からなので、それまでひよりと時間を過ごすことになった。有栖は今日中に済ませる用事があるらしく帆波と真澄に手伝って貰うと言っていた。
「ふふっ。しばらくの間忙しかったものですから、八幡くんと一緒にゆっくりな時間を過ごすのは久しぶりですね。」
「ああ、本当にな…。この学校はどうしてこう負担のかかるイベントが多いのか…。」
「クラス内でも相当貢献していましたからね、八幡くんは。」
「龍園には負けるけどな。」
いやホント、イベントに事欠かない日々だった。隣で微笑んでるこの子がいてくれたおかげで、楽しい日々と思えるけど居なかったらまあまあ心が荒むぞ。
「どうしましたか、八幡くん?私の顔に何かおかしいところでも…?」
「あーいや……なんていうか、大変な日々だったけどさ……。隣にひよりがいてくれたから楽しく過ごせたって言うかなんというか…」
「…!」
そう言ったらひよりが腕に抱き着いてきた。嬉しそうな顔でこちらを見上げてくる。
「…私も八幡くんがいてくれたから、今の学校生活があるんです。……八幡くんもこの学校へ進学すると知ったあの日ほど神様に感謝をした日もありません。」
「……俺は途中まで神を呪っていたがな。ぼっちの俺にも優しく接してくれて、親しくなれた可愛い友達と別れなきゃいけないとか人生クソだなとか思ってたわ。」
「………まあっ。」
「それが、なんつーか…一緒の学校に通えるって分かって凄え嬉しかったし、ひよりと同じクラスになれて内心柄にもなく舞い上がってたな…。」
クラス分けの事を考えると、俺はDクラスの可能性も十分有り得たのだ。テストの成績はともかく、内申点とかそういうのにそんなにこだわってなかったし。
「違うクラスになっても図書館でまた一緒に本を読むことは出来たから、今まで通りに接する事も出来ただろうけども……やっぱり寂しかっただろうなって。」
「………。」
「そんでまあ、有栖と帆波と、真澄とも再会して…向こうも俺を覚えててくれてたのが嬉しくて。一緒に過ごしていくうちに、ある欲求が生まれてな…。」
かつての比企谷少年が無謀にも目指そうとしていた事や、いつか叶えようとしていた事。そしてこの学校での生活で生まれた欲求。欲張りにも全部欲しかった。
「坂柳有栖の隣に立ち、また一緒に歩みを共にしたい。神室真澄に、寂しがらせずに暖かさを与えてあげたい。一之瀬帆波が曇る事無く、幸せに笑っていて欲しい。とかな…。」
少しだけ抱き着いてくる力が強くなる。
「……八幡くん。」
「……おう。」
「…八幡くんにとって私は、どのような存在なのでしょうか?」
「…引かんでくれよ?」
「…ふふっ。ええ、引くわけないですよ。」
「……少し前に、有栖にAクラスに来ないかと誘われた。…でも、どうしてもひよりを置いていくのに抵抗があって……」
「……っ。」
「……俺の隣に、椎名ひよりが居ないのは嫌だ。椎名ひよりの隣にずっと居たい。……そう思ってる。」
こういう日でもないと言えないくらい、自分でも重いとは感じているが。気恥ずかしさを覚えていると、ひよりが頭を押し付けてきた。
……嬉し過ぎて泣きそうなのを隠すために、八幡くんの腕に顔を押し付ける。私だって不安になった事はあったのだ。この人の隣に居ていいのか。八幡くんは優しいから一緒に居てくれるのではないのかと。ずっと一緒に居てほしいと、プロポーズみたいな事を言ってくれた。今まで生きていて一番嬉しいと、そう思えた。
「…私も……私も、ずっと八幡くんと一緒に居たいです…。」
「…おう。」
八幡くんを好きになってよかった。八幡くんが好きになってくれてよかった。本当にそう思う。
この後しばらくひよりと本を読んでいたが、それなりに時間が経ったので予約していたケーキを引き取りに行く。ひよりもついてくると言っていたが、まだ本を読み足りなさそうだし俺1人でいいと伝えて部屋を出た。その際に部屋に戻ろうとする綾小路と目が合った。
「………。」
「………。」
「……どこまで読んだ?」
「……全ての元凶が判明したあたりだ。まさか生きていたとは…。」
「ああ、中盤から終盤に差し掛かる前ってとこか…っと、すまん。ケーキを取りに行くんだった。また今度話そうぜ。」
「…!ああ、分かった。」
ああいう場面に出くわしたが、綾小路との付き合い方を変えるつもりはない。俺は今の所殴り合ってるわけじゃねえし。その後は薬局に行って今晩必要になりそうなものを購入し、横目でクリスマスの飾りを見つつケーキを引き取った。
今年も色々あったなーと思いながら部屋に戻る途中で、まだボロボロの顔の龍園と出くわした。
「……比企谷、少し面貸せ。」
「…先にケーキ置いてきていいか?」
少しばかり長くなりそうな気がしたのでそう言ったが、微妙に気勢をそがれたような表情をされた。ケーキが傷んだら嫌だからしょうがないじゃねえか。
「…テメェから見て、今までの俺はどうだった?」
「…まだ凹んでるのか?」
「茶化すな、答えろ。」
龍園の部屋にお呼ばれしてそう聞かれた。口調はそれほど変わってないけどまだ迷ってるな、コイツ。まあコイツがクリスマスに浮かれてサンタ帽子被ってるとかよりはマシかもしれないが。
「…手段は上品とはとても言えないが、うちのクラスを最も適した方法で運用することのできるリーダーだな。…リーダーとしての資質は有栖に引けを取っていないと思う。」
「………。」
「後はカリスマとかそういった理由もあったが………お前が一番勝ちに貪欲だったから、リーダーとして認めた…んだと思う。」
「…そうかよ。」
実際の所こいつがいないCクラスは、最初からキングの居ないチェスみたいなものだ。つまり最初から敗北が決まってる。
「……テメェ自身がリーダーになろうとは思わなかったのか?」
「……俺がか?馬鹿言え、お前ほど他人に愛着持てねえわ。…なんだかんだでお前はクラスメイトに対して巻き込んだ責任を果たそうとしてるからな。」
「…そういやそうだったな。クククッ、あの時はまさか俺相手にあんな舐めた事言う奴が居るとは思わなかったぜ。」
「…今ではこれでも悪いとは思っているんだがな。」
そう、実は5月の時点で「ポイントが貯まったらAクラスに行くから。椎名も貰っていく」と伝えてたりする。
「『気になってる女子と一緒のクラスになりたいから』とか、そんな理由でクラス移動しようとしてるのはテメェくらいだろうぜ。」
「…まあ、ひよりだけだったなら今のクラスのままでも不満はないんだがな。自分でもらしくないとは思ったが、全員欲しくなっちまった。」
「…ハッハッハ!この学校でも一番酔狂なのはお前だろうな!」
「…そこまで笑うなよ、自覚はしてるんだから。」
今まで関わってきた美少女全員が欲しいとかどう見ても舐めた考えのクソ野郎でしかないし。度量と器量の深い彼女たちには感謝と申し訳なさで一杯である。
「…脱線したな。まあ、そんな感じだからお前にはとっとと復活してもらう必要がある。俺の心の安寧とクラスのために。」
「…チッ、ふてぶてしい野郎だぜ。……いっそ俺を沈めたままにするとかは考えなかったのか?」
「………まあ、ちょっとは。」
「おい。」
「だってお前死ぬほど厄介じゃん。ただまあ…なんとなくだ。」
「………ハッハッハッハッハ!やっぱりテメェ、イカれてるぜ!!」
まあ本当の所は、『本物』だと思った奴が簡単にいなくなるのが気に食わない、そう思ってる。絶対に言わんが。
夜になり、クリスマスパーティーを始める時間になった。4人の格好を見る。どう見てもサンタコスである。やばい。どうしてこう普段と違った格好は心を揺らしてくるのか。っていうかいつの間に用意してたの?
「…では、始めましょうか。八幡くん、音頭をお願いしますね。」
「あ、ああ…め、メリークリスマス!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
龍園とサシで話し合うほうが楽だった気がする。彼女たちの裸を見ているはずなのに、どうして未だに慣れないのか自分でも分からない。クリスマスとは相応の覚悟が必要なイベントだったのか?リア充すげえ。
「どうしたの?八幡くん。なんだか落ち着かないみたいだけど。」
「あーうん何ていうかアレだ。」
「…?」
「…衣装が似合い過ぎてて俺の心がやばい。」
そう伝えると、全員少し恥ずかしそうだけど嬉しそうな顔を浮かべた。俺はずっと顔が熱いままだが。ちょっとチキンの味が感じにくいし。
「ふふっ、ありがとうございます。流石に私も緊張しましたが、着てよかったですね。」
「そうだねぇ。八幡くんが凄くチラチラ見てるくらいだし。」
女性はそういう目線によく気づく、本当だった。落ち着くためにとりあえず食事に集中することにした。
食事を終えてしばらく経ってからようやく落ち着いたので、プレゼントのマフラーを4人に渡した。自分だけでは不安だったが、真澄も手伝ってくれたから問題ないだろう。
「…ところで八幡、マフラーをプレゼントを上げる意味って知ってる?」
「…ん?いや、意味なんてあるのか?」
「『あなたに首ったけ』って事だそうよ。」
「……………いや、間違ってないけどさ…。」
ようやく落ち着いてきたのに自爆である。
「男性から女性に贈る場合、『束縛』の意味もあるそうですよ?八幡くんにそこまで想われるのは嬉しいですね!」
「……………誰にも渡したくねえって気持ちしかないけどさ…。」
ひよりに止めを刺されて轟沈である。
「誰か俺を殺してくれぇ…。」
「嫌ですよ。貴方と一緒になるって念願が叶って以来、毎日が楽しいと思えるんですから。」
「ふふっ。小町曰く妹に弄られるのもお兄ちゃんの役目だそうよ?」
「んーっ。照れてて可愛いにゃー八幡くんは。」
「八幡くんの気持ちは分かってますからね、大丈夫ですよ?」
悶絶し始めたら囲まれるようにくっつかれた。しかも全員が頭を優しく撫でてくるのが猛烈に恥ずかしさを増幅してくる。4人が満足するまでそのままの状態だった。
顔がまだ赤いが少しは平静になってきたので、4人からプレゼントがあると話を切り出された。どこか緊張した表情の有栖が代表してプレゼントを渡してくれた。
「八幡くん……これを、どうぞ。」
「…おう。開けていいか?」
「はい、開けてください。」
渡された箱を開けると、中には指輪が入っていた。そういえば彼女たちに送りはしたけど自分には買ってない。自分に指輪送るのもおかしな話だったし。
「そういえば俺だけ持ってなかったな…。」
「…はい。どうしても私たちと、同じ指輪をしていただきたくて…。」
「………おう、ありがとう。凄え嬉しいわ…。」
ただの物に何の意味を見出してるのか、そう言う人もいるかもしれない。だが、今の俺は彼女たちとの繋がりが増えた気がして、たまらなく嬉しかった。左手の薬指に指輪を付けて、4人にお礼を言った。
「皆、マジでありがとう……。…これからもよろしく。」
「「「「…はい!」」」」
陳腐な言い回しかもしれないが、今まで生きて来た中で一番のクリスマスを迎えられたと思う。来年も4人でまたクリスマスを祝いたい、そう思えた。
なお、やる事はばっちりやってます。