クソボケ谷八幡君 in よう実   作:結構暇なひと

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基本存在しない記憶なので初投稿です。


迷いを祓われた乙女

あの時の自分はうだるような暑さと少しばかり根を詰め過ぎた事で疲れていた時だった。

 

 

受験勉強疲れで、魔が差して「新作ゲームでも買ってリフレッシュしよう、するべきだ」と意味の分からない自己弁護と誘惑に抗えずに財布に諭吉さんを1人入れて出かけた日の事だった。

 

 

結論から言うと、俺はゲームも買えず俺の手には何も残らずに諭吉さんは旅立って行った。見栄を張って少ないお小遣いをすり減らした虚脱感と、目の前の彼女の過ちを未然に防げた事実に満足感を抱いていた。我ながら美少女に弱いとかいう単純さが残っていた事に驚きもしたが。

 

 

彼女こと一之瀬帆波とすれ違った時の雰囲気は息を呑むほど暗く、どこまでも堕ちていきそうな表情を浮かべていた。再会してその時の事を話した時に、

 

 

「にゃはは………正直お恥ずかしい所をお見せしましたって今でも思う時があるよ」

 

 

と言っていた。まあ俺も同じくらい濁った目をしている時もあったから見慣れたもんだと冗談を言ったら苦笑いをしていたが。

 

 

まあそんな彼女を見て、昔言われた「貴方は妙に鋭い時がありますね」って言われた持ち前の勘に従い、一之瀬の後をそのまま付けていった。このまま放っておいたらとんでもない事になる気がするとかいうあまりにも抽象的な理由で、自分でも結構気持ち悪い行動してたなとは思うが。

 

 

一之瀬の歩みは緩慢だったのでそこまでの苦労はなかった。デパートに到着し、流行りのヘアクリップをぼうっと眺めていて、追い詰められた表情を浮かべながら盗もうと動いた所で肩を掴んで止めた。その時の彼女の表情は今でも忘れられないくらいの絶望を浮かべていた。

 

 

「ぁ…ああっ…」

 

 

「それは、やめた方がいい…後悔する…」

 

 

「あああっ…うっ、うううっ…!」

 

 

まあ普通そうなってもおかしくないのだが俺もテンパっていたから、一之瀬が泣き始めてしまった様子を見てようやく「あ、やべしくじった」と大いに焦った。もうどうしようもないから一之瀬の手を引いてハンカチを渡して涙を拭くように言いながら、落ち着ける場所へ移動した。落ち着けるわけなかったんだけどな!

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

一之瀬が泣き止むまでの時間が半端じゃないくらい気まずかった事は、今でも三本の指に入るくらいキツい時間だった。

 

 

「…あの」

 

 

「ひゃいっ」

 

 

「………どうして私が万引きしそうだって、気づいたの?」

 

 

「…人間観察が得意な事なもんで……」

 

 

「…そう、なの……」

 

 

普通に考えて凄い気持ち悪い奴だなって思われても仕方ないが、そういう考えに至らないくらい一之瀬は追い詰められてたんだろう。とにかく勇気を振り絞って事情を聞いたところ、一之瀬は母子家庭らしくあまり裕福な家庭ではないようで、妹の誕生日プレゼント購入するために母が無理して体を壊して買えなくなってしまい、我慢し続けた妹が爆発してしまった様子を見ていることしか出来ず、感情がグチャグチャになって気づいたらデパートまで来ていたとの事だった。

 

 

「…お母さんがいつも私たちのために頑張って働いてくれてる事は分かってる。…妹も普段はとってもいい子で目に入れても痛くないくらい可愛いって思ってる…その二人のそういう場面をと、止めたくって…、あ、あんなことをしようと…」

 

 

「………そうか…。」

 

 

「ううっ…ごめんなさい…お母さんごめんなさい…美波ごめんね……」

 

 

あまりにも現実離れした状況に遭遇したもんだと、厄介なことになったなという気持ちがあったことは今でもばっちり覚えている。そして偶然ながら解決できる手段が手元にあったが、どうしたもんかと迷っていた。

 

 

「…あの、ありがとうございます…」

 

 

「…ん?」

 

 

「…私が取り返しのつかないことをする前に、止めてくれて…」

 

 

「あ、ああ…気にしなくていい…」

 

 

正直涼んでいるとはいえクソ暑い中過ごしていた疲れからか考えるのがめんどくさくなったのもあった。だが目の前の少女をそのままほっぽって帰るにはどうしても抵抗があったのだ。

 

 

「…悪いが、少し付いてきてくれるか」

 

 

「…えっ?あっ、はい…」

 

 

そして一之瀬を連れて件のヘアクリップかどうかの確認を取り、さらば諭吉さんと思いながら支払いを済ませて押し付けるように受け取らせた。

 

 

「どっ、どうして…?」

 

 

「…俺が勝手に金を出して勝手に押し付けただけだ、好きにしてくれていい」

 

 

「なんで、あなたが…?」

 

 

「…人生苦い事だらけなんだ、たまには甘いことがあってもいいだろ、知らんけど…」

 

 

多分、自分にも可愛い妹が居るから共感できる部分があったのと安易な同情を嫌ったんだと思う。一之瀬の可愛さに目が眩んだわけじゃないよ、ハチマンウソツカナイ。

 

 

「…ほら、妹さんに早く届けてやりな。受け取ってもらえないと俺は必要ないから困るし…」

 

 

「あっ…でも…」

 

 

「いいから、ほら、男は女の前でカッコつけなきゃいけない生き物だから…」

 

 

「…ありがとう。ありがとうございます!」

 

 

…その時の彼女の笑顔を見て、自分の行動は間違っていなかったと思えた。まあ家帰ってから諭吉さんとの離別でちょっと涙したのはかっこつかなかったが。ちなみにこの時の事を椎名に話したらなんとも複雑そうな表情をしていた。女誑し谷君ってなんだよ…。

 

 

それからは一之瀬と出会うこともなく、ちょっとしたエピソードとして記憶に残る出来事だったなと思いつつ受験を乗り越えた。まあ学校に向かうバスの中で目が合った時に「なんか見た事あるなぁ」と呑気してた俺と、ちゃんと見ていなかったが一之瀬が大層驚いた表情を浮かべていたようで、椎名とバスを降りた後に

 

 

「…会いたかった…!」

 

 

「えちょっ、ええっ!?」

 

 

思いっきり抱き着かれて初日の時点でスケコマシ呼ばわりされる羽目になった。これが彼女との二回目の出会いである。

 

 

後々Sシステムの照らし合わせで分かった事だが、どうやら一之瀬は相当優等生だったようでAクラスに編入された。うちのクラス不良ばっかなんだけど頻繁に訪れて関わってくるようになったが…

 

 

「比企谷くん、ポイント大丈夫?足りてる?」

 

 

「い、いやそんな大きい買い物してないし大丈夫だから…」

 

 

「そう?困ったらいつでも言ってね!」

 

 

俺の不名誉な渾名にヒモクズが追加されるようになった。




ちなみに八幡君はジェネリックきよぽんを想定してます。
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