3学期が始まってからすぐの木曜日に、早速特別試験のためにバスに乗ってどこかに向かっている。この学校イベント好きだなーと若干呑気になる程度に慣れた自分が居る。無人島の時の不意打ちの恨みを忘れてはいないが。
ぼんやりと外を眺めていると、坂上先生の声が響いた。どうやらこれからどんな試験なのかの説明をしてくれるようだ。
俺たちは今山中の林間学校に向かっているらしく、全ての学年で7泊8日の集団行動をする混合合宿を行うらしい。そして、目的地に着いてから学年と男女を分けて小グループを6つ作り、夜に多学年の小グループと組んで学年全体で男女ごとに6つのグループを作る。1年生は1つのグループにつき10人から15人までが人数の下限と上限との事。また、最低2クラス以上の生徒が居なければならないのと、反対者が居たらそのグループに入れない。このグループで林間学校の間を過ごし、最終日の総合テストを行う。その成績やクラス数とグループの人数でポイントが変動するらしい。
なおこの総合テストのテーマは『道徳』『精神鍛錬』『規律』『主体性』の4つとの事。うちのクラスに欠けてるものばかりですね。
また、最下位のグループが学校が用意した平均点を下回ると責任者が退学になり、連帯責任として最下位になった原因の一因だと認められた生徒1人を指名して、道連れに退学に出来るらしい。この学校らしいクソトラップが仕込めそうなルールである。しかも今回は救済として支払わなきゃいけないクラスポイントが300と3倍に増加している。
また、食事の時間として1時間だけ男女一緒に食事をする事になっているらしい。休み時間や放課後に許可なく外へ出る事は禁止されているので、基本的には男女別れての合宿なのだろう。
そもそもグループに入れてもらうのも一苦労だ。マジでどうしようかな…。そう考えてると、左腕が重くなった。
「…八幡くんとしばらくご一緒出来ないのは寂しいです…。嫌です…。」
「…まあ、せめて夕食は一緒に摂ろうか。」
「…はい。」
久々のしおしおひよりだった。まあ俺も寂しいが。
バスを降りて携帯を回収され、体育館のような場所へ移動した。グループに入るのが一番の特別試験まであるなと考えてたら、声を掛けられた。
「比企谷くん、Aクラスの的場です。僕たちのグループに入りませんか?」
「えっ、マジで?いいの?」
「坂柳さんから出来る方と聞いてますので。無人島である程度の人となりも分かってますし。」
ありがとう有栖、愛してるぜ!と安い告白を心の中でしつつグループに入れた。周りから不満の声が出たが、的場がルール上問題ないと論破してたので無事加入出来た。まああんまり知らない奴らばかりなのはしんどいが。こういう時龍園が居てくれると頼もしいんだがなぁ…。歩く人避け装置みたいな男だし。
「責任者は誰がやる事になってるんだ?」
「葛城くんがやる事になっています。」
「葛城か、じゃあ問題ないな。よろしく頼む。」
当初は有栖と対立してたが、今では有栖をトップとして認めているとは聞いている。有栖曰く『堅物だけど、いい仕事をしてくれる』という評価らしいし頼りになるだろう。
グループの登録を済ませると、外へ出るように指示されたのでグラウンドへ向かった。グラウンドには既に2年生がグループを作り終えて待っていた。南雲先輩の指示でそうなったのだろう、要らぬ苦労を考えなくてよさそうなのは羨ましい。〇人組作ってーは未だに俺にとっては即死魔法みたいなものなのだ。
「お前らのグループは早いな。」
「自分たちはバスの中でどういったグループにするか決めていたので。他の1年生はまだ検討中です。」
「ほう、優秀だな。」
南雲先輩が俺たちのグループを見渡して、俺と目が合う。若干驚いてるようだ。
「比企谷…お前よく誘って貰えたな。売れ残って後から来るかと思ってたぞ。」
「失礼ですね南雲先輩、まあ俺もそう思っていましたが。今日ほど人との縁に感謝した日はありませんよ。」
「…変な所で大げさだな、お前は。」
大げさなものか、こちとら友達1人だぞ。しかも相手がそう思ってなかったら0人になるし。…それはそれとして少しばかり気になってることもあるので聞いてみるか。他の人に聞こえない程度の声量で尋ねた。
「…で、今回は何か企んでいらっしゃるんですか?」
「……そのつもりだったんだが、止めた。」
やっぱり何かやる予定だったのか。しかし止めたとは問題でも起きたのだろうか?
「…何か問題でもあったんですか?言っちゃなんですがらしくないとすら感じますよ。」
「………お前、ほんとはっきりと言うよな…。まあ、ちょっとした心境の変化があってな、やる気が失せたんだ。」
南雲先輩の考えを変えるくらいの奴が居るのか。同級生だとしたら大分厄介だな、それっぽい奴が居ないか気を付けておこう。
「…少しばかり話し過ぎたな。じゃ、団体行動頑張れよ。」
「……はい、ありがとうございます。」
自分のグループに戻る前にそう言われて、引き攣った顔で返事をした。嫌な現実を突きつけられたわ。ニヤケ面の南雲先輩を見送りつつそう思った。
「…比企谷、南雲先輩と面識があったのか。」
「ん、ああ。体育祭が終わってからちょっとな。あの人との関係は………先輩と後輩だな。」
「…それはそうだろう。」
いやだってそうとしか言いようがないし。まだそこまで深い関わりもないんだから。
この後全学年の小グループが決まったらしく、すべてのグループがグラウンドに集まった。そして南雲先輩の提案で夜を待つことなく大グループ分けをすることになった。1年の小グループの代表者によるドラフト制で2・3年の小グループを指名して行き、グループ分けが完了した。堀北先輩を指名したようなので、結果は酷い事にはならないだろう。
宿泊する部屋に行き、寝るベッドを決めて少しぼーっとしてたら食事の時間になった。グループメンバーについていくように食堂へ移動し、ひよりと約束してたなと思い出してグループメンバーに断りを入れた。
「すまん、クラスの奴と夕食を一緒に食べる約束してる。また後で。」
「あ、はい。分かりました。」
そう伝えてからひよりを探す。しばらくして、帆波と一緒に居るところを発見した。同じグループになったように見える。少しばかり眺めていると、目が合って嬉しそうな顔で近づいてきた。
「八幡くん、一緒に食べましょう!」
「…一応聞いておくが、グループメンバーはいいのか?」
「うん、各々自由に食べる事にしたよ。だから一緒に食べよ?」
「…おう。」
了承して、そのまま夕食を受け取り席に案内された。そこには既に有栖と真澄が居た。
「こんばんは、八幡くん。」
「おう、こんばんは。有栖、助かったわ。」
「…?何の事でしょうか?」
「的場が誘ってくれたおかげであっさりグループが決まってな。最後まで売れ残るのを覚悟してたからな。」
「…八幡ってこういうグループ決めに弱そうだもんね。」
「弱そうじゃないぞ、弱いんだ。」
「自信満々に言う事じゃないわよ。」
それはそう。まあ、今回は即決まったから強者側だ、気にしない。
「時間もそんなにないし、食べよっか。」
「そうですね。では、いただきます。」
「「「「いただきます。」」」」
とりあえず食おう、なんか周りから凄え見られてる気がしなくもないが。
夕食を食べ終わり、試験は何やんのかなと考えてると有栖が言った。
「そういえば八幡くん、消灯時間後ならある程度自由に動いてもいいみたいですよ。」
「ん?そうなのか?」
「ええ、『休み時間や放課後に許可なく外へ出ることも禁止』と資料に書かれてましたので、消灯後なら問題はないという事です。」
…だから微妙に回りくどい書き方だったのか。おそらく南雲先輩が密会をするために用意していた抜け穴だろう。まあ先輩は気が変わったみたいだし今回使うつもりはないようだが。何かしら企んでいた人は作戦が破綻しただろうからとんだとばっちりだろうな。
「んー…まあ、今回はその抜け道を使う事もなさそうだが。南雲先輩も動くのやめたって言ってたし。」
「…その話も気になりますが、そっちじゃないです。」
「…ん?」
「…私たちと逢引しませんか?」
その発想はなかったわ。面食らってるとそのまま話を続けられた。
「…試験大変そうだから、頑張ったご褒美が欲しいにゃー…。」
「…私も欲しい。何だかんだ凄く気疲れしそうな合宿だし。」
「…八幡くんが隣に居ない時間が長いから、寂しいですし。」
「…八幡くん、ダメでしょうか?」
学校に戻ってからでもいい気は少ししているが、俺も4人と触れ合いたいのも事実。ただ、1つ問題がある。
「…俺はいいけど、みんなは夜更かししすぎてもダメだろう。」
「うーん、確かにそうだね…。どうする?」
「初日から4日目までは一人ずつ順番に逢引して、5日目以降は試験に疲れを持ち越さないように控えましょうか。」
「それが一番良さそうですね。」
「私も問題ないわ。」
無難なスケジュールに落ち着いた。オールナイトとか言われなくて安心したのは秘密だ。流石にちゃんと寝る日が無いと辛いし。
展開は物凄く平坦になると思います。