「ふふっ。お兄ちゃん、暖かい…。」
「…外寒いし風邪ひかないように布団で寝てるのがお兄ちゃんは一番だと思うけどなぁ…。」
「やだ。少しでもお兄ちゃんと一緒に居たい。」
風が来ない所で真澄と落ち合った。付き合うようになってから名前で呼ばれるのが普通になったが、たまにこうやってお兄ちゃんと呼ばれる事がある。真澄の甘えたがり度が高い時なんだろうなぁと漠然に考えながら真澄を抱き締めながら頭を撫でる。撫でられると癒されると言ってくれるが、撫でると俺も癒されるのだ。
「誘ってくれた的場たちには悪いけど、俺も出来ればあんまり知らん奴と団体行動よりは真澄たちと一緒がいいんだけどなぁ。」
「…うん、試験だから仕方がないけれど…。でも、寂しい。」
「何だかんだ冬休みの間、ずっと一緒に居たしな。」
何気に冬休みの間、4人とも俺の部屋に入り浸りだった。いつも通りのトレーニングや綾小路の部屋で漫画の話をしたり、南雲先輩に呼び出されてゲーセンのゲームで対決した以外は部屋で一緒に過ごしていた気がする。その分物凄く爛れていた気もするが。
「…冬休みのお兄ちゃん、いつも以上に凄かった…。」
「…今思い出すのやめようね?」
特別試験中みたいなものだから、流石に今思い出すような事でもないし。頬を染める真澄にそう言っておいた。
「冬休み、楽しかった。1人だとやる気が出ないのに、皆やお兄ちゃんと一緒で賑やかだったから嬉しかったし、遊びも勉強も運動も楽しかった。」
「勉強と運動はこっちも付き合ってくれてありがとうなんだけどな。俺も真澄が付き合ってくれると、より楽しいし。」
身になるとはいえ、真澄は勉強や運動とかを一緒にやろうと誘うと嫌な顔せずに付き合ってくれるからなぁ…。嫌がられる事くらいは覚悟して誘ってるのだが、大抵嬉しそうな顔で付き合ってくれている。本当に可愛い奴だ。
「だって…いつもちゃんと優しい目で私を見てくれて、一杯褒めてくれるし…。頭もいっぱい撫でて貰えるから…。」
「…まあ、それくらいはな。」
甘やかすとスッゲェ喜んでくれるからいくらでも甘やかせる。一種の無限ループである。
「しかしまぁ、全学年合同試験ってことは、来年も同じ時期に同じような事をやるんだろうな。それ考えると今からグループ分けが嫌になるけども。」
「…来年もこうやって短い時間会う事しかできないの、やだ…。」
「…来年の事は来年考えるべきだな、うん。いったん忘れよう。」
どうしてこう女の子の悲しそうな顔は抗えない魔力があるのだろうか。惚れてる相手だからなおさら勝てる気がしない。
「…とりあえず、しばらく一緒にゆっくりしようか。」
「…うん。」
ということで限られた時間で、真澄とイチャついた。予定の時間よりバッチリオーバーしていた。
戻ってきてから、今回の試験が最も過酷かもしれないとアホな理由から考えながら就寝し、2日目の朝6時過ぎに鳴り響いたBGMの音で起きた。集合場所へ移動する準備を終わらせ移動したが、集合場所にはすでに先輩方が集まっていたので皆で挨拶をする。しばらく待っていると真嶋先生がやってきて説明を始めた。
これからの日課として、点呼を取ってから指定された区間と校舎内の清掃を毎朝行うそうだ。雨が降った場合は校舎内の清掃に倍の時間を使うらしい。また、学校の先生だけでなく課題を担当する人が来ているようなので、やはり普段と違う事もやるのだろう。
そんなことを考えながら清掃を行った後、道場に移動して龍園の居るグループと一緒に座禅をするようだ。
「…今回の試験は一筋縄ではいかなさそうだな。」
「…比企谷の身体能力なら何も問題なさそうだが。」
独り言を呟いていると、同じグループの鬼頭からそう言われた。試験前に集中力を欠くようなことを言うべきではないが…まあいいか。周りに聞こえないように小声で伝えた。
「…対面に龍園が居るからな。俺たちはクソ真面目に座禅を組んでる龍園の姿に耐える必要があるぞ。」
「…確かに厄介な試験になりそうだな。」
微妙に肩を震わせてるあたりコイツも良い性格してる。そんなこと話してると、座禅の担当者が入ってきた。朝と夕方に座禅を行うというスケジュールで、ここで習うそれぞれの足を太ももに置く結跏趺坐という座禅が試験の結果に大きく関わってくる。
少しばかりキツいが、普段からストレッチなどを行ってるから問題はなさそうだ。周りを見ると苦しんでる奴がまあまあ居る中、葛城や鬼頭、龍園あたりは問題なく行っていた。流石である。
初回だから短めの座禅が終わり、外にある食事スペースに案内された。今日の所は朝食が用意されているが、明日からは雨が降らない限りは自分たちで作れとの事。食事の内容は一汁三菜を基本とした内容で、明日以降のレシピも同じような内容だった。食事を進めていると堀北先輩から声がかかり、翌日から1年生から学年巡に全員分の朝食を用意する事になった。
食事を終えた後に広めの教室に案内されて、ここで毎日スピーチをしろとの事。1年生のテーマは入学してから何を学び、これから何を学ぶかというテーマだ。座禅の100倍嫌な試験である。テーマは「暴力」で良いけど人前に立ってのスピーチがマジで嫌だ。恨むぞ、南雲先輩。
他の人たちのスピーチを参考にそれっぽい感じで無難に終わらせた後は持久走を行い、最後に座禅の授業で本日の授業は終わった。終わったが…
「…大丈夫か?動けるか?」
「…もう少し待ってくれると助かる。」
グループの半数近くが悶絶していた。全員動けるようになってから食堂に向かう事になった。
「八幡くん、今日も一緒に食べましょう!」
特に約束してなかったしグループ内での付き合いもありそうだから今日は1人で食うかなーと思ってたらひよりに誘われた。とんでもない美少女っぷりにたまに忘れるけどそういやこいつもぼっちサイドの人間だったな。俺と違っていくらでも友達を作れると思うが。
「すまん、誘われたから行くわ。」
羨ましそうに見られながら断りを入れてひよりに手を取られながら一緒に食事を取りに行く。恥ずかしさはあったが、そのまま食事を取りに行くまで手を繋いだままだった。やだ、俺も温もりに飢えてる…?
食事を受け取ってそのままひよりの後ろをついていくと、すでに3人が座っていた。こいつらもグループの連中との触れ合いはいいのかしら?一応消灯後に会うっちゃ会うんだしなぁ。
「…俺らを気にせずにグループの奴や友達と交流を深めてもいいんだぞ?」
「「「嫌だ(です)。」」」
即答された。いいんかな、特に帆波。一緒に食事したい奴らが結構チラチラとこっちを伺ってるぞ。
「それに……さっきちょっとした事故があって、有栖の機嫌も悪かったから。」
「…事故?」
「Dクラス…今はCクラスか。Cクラスの山内ってのと接触事故で転んじゃって。」
「…ほう。どいつだ?」
「須藤と一緒に食事を取ってる、背の高いほう。去り際に有栖に対して『どんくさい』って言ってきて、有栖がしばらくの間静かに怒ってるのを皆怖がってた。」
「……………ほう。」
……そういえば須藤含めた3バカって言われてる奴らが居るとは聞いてたな。しかし、そうか。そこまでの馬鹿だったとは思いもよらなかったな。
どことなく気分が冷たくなってるように感じていると、肩を叩かれた。顔をゆっくりと叩かれた方へ向けると、驚きながらも頬を染めた有栖がこっちを見ていた。
「八幡くん、貴方でもそのような顔をする時があるんですね。驚きましたよ。」
「…え。そんな顔してたのか?俺が。」
「……ちょっと怖かったけど、かっこよかったよ。後、有栖ちゃんが凄い羨ましい…。」
「……冷たい顔のお兄ちゃん、良い…。」
「……手元に携帯がないのが悔やまれます…。」
自分ではそんな顔してたのかと全く分からないが、こっちを見ていたであろう龍園が驚いたような顔をしていた。え、マジで?そこまでだったの?
「…ふふっ。ふふふっ。八幡くん、心配してくださってありがとうございます。私はもう大丈夫です。」
「………おう。」
……俺にここまで恥をかかせるとは…山内、許せん。ここまで考えての策だとしたらとんだ策士だ。3バカとは仮の姿か…?
馬鹿なことを考えながら、頬を染めた有栖からチラチラ見られながら食事を進めた。ひよりと真澄は有栖を羨ましそうに見て、帆波は「いつもよりクールな八幡くん、いい…」と小声で言いながら食事していた。聞こえてるぞ。
消灯時間が過ぎ、今日も今日とてステルスヒッキーで抜け出しての逢引です。本棟を出てすぐの所で待っていると、杖を突く音が聞こえて来た。程無くして、スッゲェ上機嫌そうな有栖の顔が見えた。
「ふふふっ。お待たせしました、八幡くん。」
「…おう。なんていうかご機嫌だな。」
「ええ。この逢引がとても楽しみでしたので。」
「…そうかい。」
「では、八幡くん。私を運んでくださいね?」
「…おう。…おんぶと抱っこ、どっちが良い?」
「お姫様抱っこでお願いしますね?」
言われた通りに有栖を抱っこして昨日真澄と落ち合った場所へ移動する。体に頭を押し付けて嬉しそうに笑顔でこちらを覗き込んできている。到着して降ろそうとしたが拒否された。
「嫌です、このままでお願いします。」
「えぇ…。なんで?」
「…初めて八幡くんにやっていただきましたが、思った以上に幸せな気分になるんです。…重いようでしたら降りますが。」
「…いや、別に重くないしいいが。なんなら軽すぎて大丈夫かと思うまである。」
とりあえずそのままの状態で過ごすことになった。有栖が嬉しそうに笑いながら胸に抱き着いて来た。
「…事故の件のストレスはもう大丈夫そうだな。」
「ふふふっ。八幡くんのあの顔を引き出してくれた時点で山内くんには感謝しかないですね。」
「……俺は嫌いな奴が1人増えたけどな。」
「ええ、本当ならこの先玩具にして遊ぼうかとも思いましたが…止めました。大好きな人の新しい一面が見れましたし、関わってる時間が勿体ないですからね。」
…有栖に玩具にされるって事は、最後はボロボロになって捨てられるという事になるだろう。山内、消されかけてた。消されたところで何も感じないが。
「最近は鳴りを潜めてたけど、そういやお前さんはそういう性格でもあったな…。」
「ええ、そうですよ。嫌いにならないでくださいね?」
「……嫌いになるくらいなら、あの時すでに離れてるわ。」
あの日に有栖と出会った事で、今の俺がある。有栖と出会ってなければ恐らく俺はもっと捻くれた奴になっていた気がする。ひよりと会う前の自分はどこか斜に構えていたし。
「…?八幡くん、どうかしましたか?」
「あー、いや…なんとなく、有栖と出会わなかったら自分はどうなってたかなって…多分4人と出会う事もなく、一人ぼっちで捻くれてただろうって気がしてな。」
「………。」
「そう考えると、やっぱり自分の人生でも一番の分岐点は有栖との出会いだったなって。たとえ再会出来なかったとしても、いい出会いだったなって。」
なんとなくだがこの学校に通う事も無く、別の高校へ進学していたのがなんとなく想像できる。
「…そうですね、私にとってもいい出会いでした。ただ…」
「…?」
「八幡くんなら私と出会わなくても、八幡くんなりに成長したとは思いますよ。」
「…おう。」
「…ですが」
「…ん?」
「なんとなくですが、仮にそうなった場合別の所でも女の子を落としてそうで腹が立ちますね。あなたは極度の女誑しですから。」
「えぇ…。」
別の世界線の俺もそんな感じなの…?嫌なんだけど…。
どのみち山内君は消えるでしょう。