4日目の消灯時間になり、いつも通りこっそり抜け出す。慣れたものである。ひよりはまだ来ていないようで、ぼんやりと周りを見渡した。4日間ずっと抜け出してるけど、他に抜け出してる奴を見かけないもんだなと思っていると、急に視界が暗くなった。
「ふふっ。だーれだっ。」
「……天使かな。」
「違いまーす。天使じゃなくてあなたのひよりです!」
「…おう。」
「ふふっ。以前参考にした恋愛小説にこんなシーンがありましたので、やってみたくなっちゃいました。」
やっぱり天使じゃないか。ひよりと出会ってから2年近くになるけど、可愛さが留まることを知らない。そんなことを考えてるとひよりに両頬を押さえられながらキスをされた。
「んっ…。ふふっ。キスしちゃいました。」
「…珍しい気がするな、ひよりからされるのは。」
どっちかと言えばひよりのキス待ち顔に俺がしていってるし。
「私も寂しかったんですから。八幡くんが私に隣に居てほしいと言ってくれたように、私だって八幡くんに隣に居てほしいんですよ。」
「…おう。」
とても照れくさい事を言ったものだと改めて思う。クリスマスは人の情緒を狂わせるようだ。そして、ひよりも同じ気持ちでいてくれる事を嬉しく思う。
「それにしても、夜中にこっそりと逢引するのはいけないことをしてるみたいでドキドキしちゃいますね。」
「…まあ、4回目でもテンションは上がってるしな。」
「では、八幡くん。お姫様抱っこお願いします!」
「あいよ。」
言われた通りにお姫様抱っこをする。ひよりの顔を見るととても幸せそうな顔をしていた。ほわほわである。ほわほわが何か知らんけど、多分癒し成分だろう。
「…じゃ、行くか。」
「はい、お願いします!」
「…しかしまあ、俺が夜に抜け出して彼女と逢引をするって事を中学の頃の俺が知ったら何て思うのやら。」
自分に対して爆発しろって思いそうではある。4日間ともやってる事バカップルのそれだもの。何なら憎しみで人を殺せたらって思うレベルかもしれない。中学の頃の俺はまだまだアホだったし。
「ふふふっ。私は女誑しだけど、とっても素敵な人に貰われたって教えられそうですね。」
「…帆波の件についてぼかして話した時にも言われたな、女誑しって。しかし言うほど誑してるか?」
「…八幡くんは底なし沼みたいなところがありますからね。私、珍しく危機感を覚えたんですから。」
ジト目で言われた、解せぬ。
「八幡くんは万人受けはしないかもしれませんが、私たちみたいに心を絡め捕られる人だって出てきてもおかしくないですし。」
「ひよりさん?俺そんなに器用じゃないよ?」
「知ってます。不器用で一生懸命動いてくれるから、余計に心配になるんです。なったんです。人によってはイチコロなんです。」
「イチコロて。」
自分のやった事に対して結構無頓着なほうだからよく分からない。どちらかといえばイチコロされる側だし。
「これでも私、焦っていたんですからねっ。入学日早々に帆波さんみたいな綺麗な方に抱き着かれてたんですから。」
「俺もあれは焦ったわ。そこまでの事はしてないって思ってたし。なんなら忘れててもおかしくないと思ってたまである。」
「そういう所ですよ。恩に着せるわけでもなく自然体だからこそ女の子を次々と虜にしてもおかしくないんですから、八幡くんはっ。」
片頬を膨らませながらひよりに言われる。可愛いなこやつと思いながらもやはりピンとこない。しかしまぁ…
「でももう心配する事もないだろ。ひよりたちが居るし。」
「…そう言われたらもう何も言えないじゃないですか。ずるいですっ、八幡くんは。」
胸に頭を押し付けてぐりぐりしてきた。この後あやす様に宥めて、機嫌を直して貰ってから時間まで雑談をしつつイチャついた。
5日目は午前の授業の時間を使って、試験当日で走る事になる駅伝コース18キロを確認のためにまるまる移動する事になった。試験当日は人数割りで走ることになるので、俺たちは1人あたり1.2キロを走ることになる。同じグループの奴らを見ると、何人かはすでに疲れてる様子だった。ここまで歩きだったんだが。まだ折り返しにも辿り着いてないんだけど。
「…大丈夫か?ペース落とす?」
「いや、このまま行くぞ。昼食の時間までに戻るなら今のペースでないと間に合わない。」
「……もう少し日頃から、運動しとくべきだった…。」
「辛くなったら抱えて行ってやるよ。お姫様抱っこで。」
「……死んでも自力でやり切る…!」
よし、これでこいつは大丈夫だろう。出来なければ本当にやって辱めを受けてもらうだけだ。昼食はちゃんと時間を取って食べたいし。
「…比企谷、お姫様抱っこは勘弁してやれ。ペナルティにしては重い。」
葛城に止められた。
「…ダメか?」
「駅伝コースの確認を済ませるのが遅かっただけで、そこまで恥ずかしい思いをさせなくてもいいだろう。」
「…おんぶは?」
「…まあいいだろう。俺も昼食は余裕を持って摂りたい。」
話が早くて助かる。有栖に堅物と評されてるけど割と面白い所あるじゃねえか。まあマシになった程度で、おんぶでもどっちみち恥ずかしいとは思うが。上げて落とされた顔してるし。
「…どうした?比企谷。」
「いや、有栖から堅物って聞いてたから。思ったよりユーモアもあるなって。そういえば有栖をリーダーとして認めたとも聞いたな。お前さんならまだ戦えるくらいの勢いはあったと思うが。」
「…ああ、これ以上クラス内でリーダー争いをしていても仕方がなかったからな。……優待者試験の対応の相談が決め手ではあったが。」
少しばかり苦い顔になる。完全にしてやられた試験だったし。
「…正直言って、俺も有栖があの対応をしてくるとは思わなかった。何せ自身の力を示すチャンスだったし。結構敗北感を覚えた試験だったぞ。」
「…俺もだ。会話に参加せずにやり過ごし続けてAクラスにダメージが来ないようにする作戦は考えたが、完全に上を行かれた。しかも自分の力の誇示ではなく、クラスのための提案までされてしまった以上、負けを認めるしかなかった。」
こいつにここまで言わせるか。何ともまあ……追い付ける日が来るんかね、有栖に。目指し続けはするけども。
「…おっ、真嶋先生だ。折り返しっぽいな。」
「ここから先は下りだから、走って行くぞ。」
葛城の指示に従って全員走っていく。なんとかおんぶされる奴が出る事なく、昼食にありつけた。午後のスピーチや座禅で苦しんでいたが。この日は真澄に手を引かれて夕食を4人と一緒に食べた。男子からの嫉妬の目線が一段と凄くなっていた気がした。
6日目は男子が女子が恋しいとか言ってたくらいで問題はなく、7日目も特に変わった事はなかった。試験当日になり、俺のグループは全員問題なく試験の課題をこなせていた。グループごとの結果も1位だった。退学させられる人も居なかったので無事終わったと言える。ただ、なんか3年の女子の先輩が南雲先輩をめっちゃ睨んでた。多分梯子を外されたんだろうなぁ、ご愁傷様です。
私はすでに原作通りに行く事を諦めています。