混合合宿から戻ってきて、少しだけ経ったある休日。綾小路の部屋で格闘漫画を読んでる時にふと聞いてみた。
「綾小路、ちょっと聞いてもいいか?」
「…?何だ?」
「…今日から始める場合、格闘技って何がいいだろうか?出来れば殴るのじゃなくて相手を無力化出来るのがいいんだが。」
前々からではあるが、いい加減戦う術を身に付けた方が良い気がしてきていた。うちのクラスの連中が敵に回る事考えると、真っ先に狙われそうなの俺だし。漫画のページを見せながら要望を伝えた。
「…出来ればこういうのがいいんだが。」
「……お前それ、高等技術だぞ。」
そこにはおじいちゃんが合気道でいなしてぽんぽん投げてる姿があった。まあそう簡単に出来るわけもないか。
「…まあ比企谷ならある程度は出来るかもしれない。」
「えっ、マジで?」
「攻撃してくる相手に慣れる必要はあるが。」
それはそうだ。まず暴力に対する恐怖を乗り越える所がスタートだわな。
「正直あんまり自信ねえなぁ…。相手の攻撃から逃げ回って、スタミナ奪いつついい具合のタイミングで足引っ掛けて転ばせるとかでいいかぁ。」
「それも一つの護身術だろうな。比企谷は足も速いしスタミナもある。多分最適解の一つだろう。」
若干ダサいという事を除けば問題なさそうだ。そういった場面に自ら入るなら鉄板でも仕込んで挑むくらいが自分にはちょうどいい。
「暴力を振るえるのも一種の才能だからなぁ…。うちのクラスの連中が入学できるわけだ。」
そんな感じで駄弁ってると、俺の携帯に電話がかかってきた。画面を見ると有栖と表示されていた。
「すまん、ちょっと有栖から電話だわ。…はい、もしもし。」
『…八幡くん。今、綾小路くんの部屋に居ますね?ニュースを付けてください。』
「ニュース…?」
妙に焦ってる感じがするが、なんでわざわざそんなことを…?とりあえず綾小路に伝えた。
「綾小路。有栖がニュース見ろって。」
「…坂柳が?」
とりあえずテレビをつけて一緒にニュースを見てみる。
『昨日午後3時、教育施設の運営責任者である綾小路篤臣氏が、児童虐待及び誘拐の疑いで逮捕されました。』
「………なんだと?」
綾小路がただならぬ様子で驚いている。親族なのだろうか。
「…親族の誰かか?」
「………。」
心配になって聞いてみたが、返事が返ってこない。無理もない。
『綾小路氏はホワイトルームという施設の運営者でしたが、幼い児童を誘拐し、教育と称して児童たちに暴力を振るった疑いがもたれています。』
…綾小路の顔を見る。目の前の情報を飲み込み切れず、困惑が少し漏れてるかのような表情をしている。
「………綾小路、大丈夫か?」
「……………ああ。問題ない。」
手元を見ると、携帯が繋がったままだった。綾小路も誰かから電話がかかってきているようだった。
「………有栖。綾小路の親類らしき人が捕まったみたいだが、何か知ってるのか?」
「……ええ、今回の件は私の父から綾小路くんに話があるそうです。その際に八幡くんも綾小路くんに連れ添って来てほしいとの事です。」
「………え?俺も?」
「…はい。父が言うには友達として寄り添ってあげてほしいとの事です。」
俺、完全に部外者だと思うんだけどいいんかな………。
「…分かった。」
「…では、2時間後にお願いします。」
「…えっ、2時間後?早くね?」
どうやら有栖の父親はこの学校の理事長を勤めていらっしゃる人だった。いいとこの子だとは思ってたけど予想外の所での出会いである。何気に有栖も付き添っての密談である。
「…綾小路くんは久しぶり。比企谷くんは、初めましてだね。」
「…お久しぶりです。」
「…初めまして。」
「…では早速、今回の件についての話を進めよう。」
坂柳さんの話によると今回捕まったのは綾小路の親父らしく、12月に綾小路に退学を迫っていたらしい。どうやら件のホワイトルームという所で綾小路は育成されていたらしく、最高傑作と呼ばれるほどの実力者だったようだ。そのせいで親父が傍に置いておかないと気が済まないのは災難でしかないが。
「綾小路先生はなんというか、苛烈な性格の方だからね。この間出会った時も変わらずのご様子だったので、おそらく何かしらの手を打って綾小路くんを退学に追い込もうとしただろう。私を失脚させて、自分の部下を送り込んでね。」
……自分の息子をそうまでして連れ戻そうとするのか。綾小路には悪いが、とても褒められた人物ではないようだ。っていうか俺とは別ベクトルのクソ野郎だわ。
「実は綾小路くんを入学させた時から、いつか行動を起こすと思っていた。そして今年の5月から、綾小路先生へのカウンターとして、いつでも失脚させられるよう手筈を整えていた。ホワイトルームが稼働停止してたのもあって、綾小路先生は再稼働のために奔走していたので普段より隙もあったのは幸いだった。まあ、強引な手段に出る気配が無ければやる事もなかっただろうね。」
………スゲェ、流石は有栖の親父さんと言った所か。綾小路の親父ってことはそれ相応の能力もあるはずだ。その才覚を乗り越えて封殺した手腕にビビる。
「確かに我々は生徒を退学させるような試験を行うが、社会に出てからの競争に対する訓練という意味合いを含めている。自分の目的のために生徒を退学させるような真似を見過ごすわけにはいかない。強引な手段を取ったが、自分の仕事に間違いはなかったと断言するよ。」
…カッコいいなこの人。昔に見た、真っ直ぐな目を彷彿とさせられる。
「…綾小路くん。そういう事だから、ホワイトルームからの追手は心配しなくてもいい。君には悪いが、綾小路先生はもう再起不能なほどの経歴が付くから。」
…怖ぇなこの人。昔に見た、あの苛烈さを思い出すわ。
話も一区切りついて綾小路のほうを見ると、表情はあまり変わっていないがどこか迷子の子供みたいにも見えた。
「……すみません。少し、感情の整理が出来てなくて。完全な自由の身になって嬉しいはずなのですが。」
「…綾小路くん…。」
正直あまりにも部外者だから綾小路の事情について呑み込めてない部分が多すぎる。だからまあ月並みなことしか言えない。
「…あと2年あるんだし、やりたい事とかどこに行きたいとか探っていけばいいんじゃねえか?」
「…比企谷。」
「今いくら考えても答えが出るわけねえわ。とりあえず美味いもん食ってぐっすり寝て明日の自分に託すくらいでいいだろ。ラーメンでも食いに行くか?」
「………今は焼肉の気分だな。ガッツリ食べたい。」
頭の悪い暴論だが、こんなんでも少しは調子を取り戻せているようだ。まあこいつならそのうち答えは出せるだろう。
「じゃあ、今から食いに行くか。坂柳理事長、問題はないですよね?」
「ああ、大丈夫だよ。ただ…綾小路くん、10分ほど時間を貰えるかな?比企谷くんと少し話がしたい。」
「あ、はい。大丈夫です。外で待っています。」
「ああ、すまないね。」
そう言って綾小路は部屋の外に出た。流石にちょっと対応が不味かったのかなと思っていると坂柳理事長が話し始めた。
「比企谷くん。君の事は昔有栖から聞いたが、聞いてた通り心が強いようだね。綾小路くんとも上手くやっていけそうで心配事が一つ減った気がするよ。」
「…恐縮です。」
あれでよかったっぽい。こっちも心配事が一つ減った気がするわ。
「ただ………女性関係は随分と派手なようだね?」
どでかい心配事が一つ増えたわ。圧が凄い。早くも相手の攻撃に慣れる練習が来てしまったか…。
「ええ、はい。理事長の娘さんの有栖さんとお付き合いさせてもらってます。有栖さんを含めて4人とお付き合いさせてもらってます。」
「はっきりと言うね。」
「はっきり言えないなら最初から付き合うべきではないでしょう。」
スッゲェ怖いけど、この場で死ぬとしても誤魔化すわけにはいかない。優柔不断な自分が招いた結果でもあるから。
「………。」
「………。」
時間にして1分くらいだろうか、目を逸らさずに睨まれ続けた。隣に座っている有栖が、珍しく不安げに俺たちを見ている。そうしていると坂柳理事長はため息をついて圧を減らした。
「………はぁ。有栖。」
「…はい。」
「言いたい事はそれなりにあるが、一つだけ聞く。この選択に悔いてはいないか?」
「…はい、ありません。私は、今が一番幸せです。」
「……そうか。比企谷くん」
「はい。」
「…有栖を頼むよ。もし捨てたりしたら地獄を見てもらうからね?」
「………はい。」
これで坂柳理事長との話は終わり、有栖は理事長と話があるらしいので綾小路と合流してそのまま焼肉に行った、俺の奢りで。後で有栖から聞いた事だが、どこかのタイミングで俺と一度話をしておきたかったらしい。元々有栖から俺たちの関係についての話はしていたようで、有栖の意思を尊重すると言ってくれていたようだった。ただ睨まれていた時間に関しては娘を誑かした男という感情が抑えきれなかった結果だったらしく、目を逸らしていたら交際を認めないらしかった。
こうして綾小路の問題が軽くなったのと、親公認の交際となったのである。同じ日の出来事か?これ…。
実はずっとどうしようか考え続けていました。緩い感じでヒロインとのイチャイチャを書くためにやり始めたのに、どうしても殺伐とした事になりそうなのでこうしました。なんでオッサンに苦しめられ続けなければいけないんだという気持ちが爆発した結果とも言います。