彼と出会ったのは、両親の気を引こうと万引きを行おうとした時だった。
私の両親は私に関心が無く、暴力を振るわれたりだとか食事をさせてもらえなかったといった事はなかったけど、私が何をしても怒ることも褒めることもなかった。いろんなことをして関心を引こうと努力はしたものの、両親の心に響くことはなかった。
そうして無駄な努力をしてきたと思った私は、中学に入って二年目のある日曜日に「まともな手段じゃなければ…」と考え、万引きで捕まってしまえば親の心を私に向けてもらえるかもしれない…と。
まあ結局の所彼に止められて未遂すらバレずに終わったし、今振り返っても両親の関心を引けたかどうかも怪しかったから彼には感謝しかない。でも当時の私は「なんで止めたんだ」という怒りで一杯だったことを今でも覚えている。
体力をつけるための走り込みを済ませ、汗を流した後にふとたまには甘い物が食べたくなりコンビニに行った時、万引きを行おうとしている彼女を見かけた。バレる前に話しかけ、とりあえずアイスを2つ購入して彼女の手を引いてコンビニから近くの公園へ移動した。彼女こと神室真澄に凄く睨まれながら。めっちゃ怖かった。
「………ねえ。」
「は、はいっ」
「なんで、邪魔したの?」
「…えっ、どういう…?」
あまりにも怖かったもんだから、2個食いしようと思ってたアイスの高い方を彼女に渡して、とりあえず食わせた。安い方のアイスの味は思い出せない。ほんと怖かったから…。
「…ごちそうさま。」
「ご、ごちそうさま…。」
なんだかんだ甘い物食べて少し落ち着いたらしく、少しずつ事情をぽつりぽつりと話し始めた。聞く所によるとどうやら彼女と親との仲は良くないらしく、どうにか気を引こうと思い詰めた結果の行動だったようだ。話を聞く限り、やはり万引きをしたところでその場で怒られて終わる気しかしなかったが。
「…なあ。」
「…何?」
「言っちゃ悪いが、もし仮に万引きをしても気を引けなかったと思う」
「……うん、私もなんとなくだけど…そんな気はしてる…」
気落ちする彼女を見て、自分も小町と比べてあまり構ってもらえてない気がしているので少なからず共感を覚えると同時に、自分には小町が居てくれたから彼女のように追い詰められてなかったのかもしれない。だからだろうか、彼女に明らかにアウトなことを申し出たのは。
「あー、あのー」
「…?」
「ウチに泊まりに来ないか?」
「…は?」
「お兄ちゃんおかえりー…って、後ろの方は誰なの?」
「あ、ああ…こいつは…名前なんだっけ?」
「あ…神室真澄です…」
「…えっ、名前も知らないのに連れ込んだの…?」
信じられないものを見る目で小町から見られるが、確かにそんな目で見られても仕方ないけど許して!って思った俺は悪くない。多分、メイビー。
「あー、これからしばらく神室はうちに頻繁に泊まりに来る予定だから、よくしてやってくれ。」
「「えっ。」」
コイツは放っておくとそのうち心が疲れ切ってしまうだろうからどうにかしようと、それ自体は別にいいとしてもなんで俺はこれでどうにかなると思ったんですかね?なんでどうにかなったんですかね?
「へぇ~、真澄さんはあの中学に通ってるんですねー。」
「え、ええ。そうよ。」
「通りでどことなくデキそうな雰囲気があるんですね、美人さんですし」
「あ、ありがと…。」
流石は我が家が誇るハイブリットぼっち、頼りになるぜ。俺だと会話が続かず不審者を見る目になること間違いなしだ、後方保護者面するのが一番賢い選択だろう。
「…お兄ちゃん、何そこに突っ立ってんの?」
「…おう?」
「おう?じゃないでしょ!お兄ちゃんが招いたんだからちゃんと相手してあげないと」
「お、おう…」
おっとーこれはキラーパスが来てしまったぞー。…まあ確かに俺が連れて来たのに俺が対応してないのは変ではあるが…
「小町、すまんが飲み物を頼む。俺はいつも通りで。」
「はいはいー。じゃあ真澄さん、お兄ちゃんの相手をお願いしますねー。」
「あ、うん…。」
完全アウェーの状態から自宅なのにアウェー感溢れる俺との対面だ、これで立場は互角になったなと謎思考をした所で今回の目的を神室に伝えた。
「…あんた、頭おかしいんじゃない?」
いきなりライフを9割削られた気分だ。でも自分でもおかしいってわかってるから耐えられた。おかしいと思ってなかったら耐えられてなかったな。
「…小町ちゃん、可愛らしいわね。」
「…おう、生意気な所もあるが目に入れても痛くない可愛い妹だ。」
「…シスコン。」
少しずつ調子づいてきたのか、結構鋭い事言ってくるなコイツ…。
「でも、ちょっと羨ましいかな…私には兄弟が居ないから…」
神室と過ごした時期は大体二か月程度だった。公園で彼女を迎えに行き、一緒に飯食って寝るまで少し遊んだり、小町の勉強を一緒に見てもらったりとこちらにとっても有り難かった。俺ともそれなりに打ち解けつつ過ごしていけてたと思う。
「…ほら、真澄さん。お兄ちゃん。」
「………お、お兄ちゃん…。」
「………お、おう。真澄…。」
…小町曰く「お兄ちゃんと呼んでる私を見てすっごく羨ましそうな目をしてた」そうで、小町に押し切られる形で試しにそう呼び合ったのだ。今思い出しても顔が熱くなる。神室の真っ赤だけど嬉しそうな気持ちを隠しきれてない顔も鮮明に覚えている。
奇妙な関係ながらお互いに悪くない気分で過ごせていたと思う。流石に小町を挟んで川の字で一緒に寝た時は、とてつもなく緊張して中々寝られなかったが…。そうして一か月半経った頃にぽつりと神室から言われた。
「………」
「…?どうかしたのか?」
「…あの、親の転勤が決まってさ。あと数日で引っ越すことになるんだ…。」
予想してなかっただけに、言葉を受け入れるのに時間がかかった。そしてどうしようもないという事も理解した。自分たちは子供で親の脛を齧って生きてるのには変わらないから。そして引っ越す前日にも神室は泊まっていった。
「…お兄ちゃん、お兄ちゃんは私と離れるの、寂しい…?」
「…ああ、寂しいし行ってほしくない。だけど今の俺たちじゃどうしようもない…。」
胸に抱き着いて来た神室のすすり泣きに対し、そう答えるしかない、が。
「…だけど、俺たちが自分で行ける場所を増やせるようになったら。」
「…うん。」
「…また一緒に遊ぼう。変な関係だったと思うけど楽しかった。」
「…うん。私も、楽しかった…。」
中二の時点での彼女との思い出はこれで終わっている。もう一度神室と会うまでにいろんなことを経験して笑い話を増やそうと思いつつ、俺の中でも数少ないいい思い出だったなーとたまに振り返ってたが…
龍園の指示で「お前が一番警戒されていないだろう」との事でAクラスに偵察に向かった時にばったり対面して、
「…えっ」
「えっ」
「お、お兄ちゃん!!」
俺は同級生にお兄ちゃんと呼ばせる剛の者として畏怖の目で見られることになる。なんで?
原作ファンに受け入れられなくても仕方ないなと思いながら書いてます。