「八幡くん、広い部屋を買いましょう。」
「…俺、無一文だよ?」
4人が俺の部屋に遊びに来て、そういう提案をされた。春休み一日目の朝からホットスタートである。だが今の俺の手持ちは1022ポイントである。来月のポイント支給までどうやって過ごそうかってレベルなのだ。
「…ホワイトデーのお返しすら渡せてないからなぁ。」
「いや、それはいいから。八幡とひよりが同じクラスに来てくれたのが一番のプレゼントだから。」
「そうだねー。やっと全員一緒のクラスになれたもんね。」
真澄と帆波の言葉に照れる。ひよりも照れてる。しかしそう言ってくれると頑張った甲斐があった。
「八幡くん。」
「…おう。」
「私たちでポイントを出し合いますので、一緒に住みましょう?八幡くんが部屋主で。同じクラスになった以上、もう何も問題はないですから。」
「本物のヒモクズじゃねえか。」
問題しかねえよ。夜8時以降は女子の部屋に入れないというルールがあるとはいえこれは酷い。自分の彼女たちに大量のポイントを貢がせて部屋を貰うとか。彼女じゃなくて彼女たちって所がより罪深い。
「…俺が出さないってのは流石になぁ。」
「八幡くんは私のために、いっぱいポイントを使ってくれたじゃないですか。」
「いや、あれは俺の我儘に付き合って貰ったようなもんだし。」
「…そういう所ですよ、八幡くん。」
ひよりに呆れてるようで嬉しそうな顔で言われた。しかしあれだけ払っておいて部屋代は無理ですはダサすぎる。
「…とりあえず、ポイントが出来たら払う形にするしかないか。」
「ダメよ。」
「…え?」
「ダメだよ。私たちの我儘に付き合って貰うんだから私たちで払うのが筋だよ。」
何故か却下された。普通は男にポイントを全額出させてようやく一緒に住む事が許されるもんなんじゃないっすかね。
「……八幡くん、これは決定事項なのです。八幡くんでも覆すのは許しませんよ?…それとも、私たちと一緒に住むのが嫌なのですか…?」
「うっ………嫌じゃない、です…。」
4人ともそんなに不安そうな顔をするのをやめてほしい。勝てんから。嬉しそうな顔をするのも今はやめてほしい。ヒモクズ確定が覆せなくなるから。覆せなくなったから。
明日、部屋の申請をする事になった。引っ越しに備え、それぞれ荷物の整頓をするために解散となった。
手に取った本を読み始めたりとだらだら片付けていたが、それほど荷物も多くなかったので昼前に終わった。ぼんやりしていると、南雲先輩から電話がかかってきたので出た。
「…はい、もしもし。」
『比企谷、今時間あるか?あるなら飯食いに行くぞ。』
「………時間はあるんですけど、ポイントが無いです。」
『…奢ってやるから来い。』
「…ご馳走になります。」
なんだかんだ俺から見ると優しい先輩である。
「ありがとうございます、今1022ポイントしかないもんですから。」
「………クラス移籍したのは聞いていたが、大分ギリギリだったんだな。」
どうやらある程度の事情は知っているようだ。というかそこら辺の事情を詳しく聞きたいから呼び出されたのだろう。
「はい、2人分だったのもあって相当ギリギリでした。」
「…?お前1人じゃないのか?」
「ええ、同じクラスからもう1人。一番仲の良い子と一緒に移籍しました。」
俺1人だけだったと思っていたようで大分ビックリしている。そういえばひよりは俺と違ってAクラスでの種目参加はしていなかったな。その差か。
「…1年に2人で4000万ポイントを貯められる奴らが出てくるとはな。」
「ああいえ、俺が全額出しました。その子の分も。」
「!?」
さらにビックリしておられる。まあ普通に考えたら正気の沙汰じゃないよね。頭の中を整理をするためかため息をついておられる。
「……ふぅーっ。ひとまずその子については置いておこう。…試験中にAクラスに移籍して種目に出たらしいが。」
「はい。土壇場で1500メートル走に出る事になりましたね。薄氷の上の勝利でした。ただ……」
「…?ただ、なんだ?」
「実は俺自身は別に当初出る予定はなかったんですよね。Aクラスのリーダーが可能かの確認をして、可能だったから頼まれたんで出る事になりました。」
「…最初からその予定だったわけじゃなくてか?」
「はい。移籍が決まってるのに勝利に湧いてるクラスメイトと喜びを分かち合うとか気まずいじゃないですか。だからその前に移籍してしまおうと。」
「……お前らしい理由だな、気持ちは分からなくもないが。元のクラスでも種目には参加してたのか?」
「はい。元のクラスでの種目参加後が移籍のタイミングでしたね。種目は200メートル走でした。こっちは相手には悪いですけど楽勝でしたね。」
「……多分歴代で種目に2回参加したのはお前だけだと思うぞ。」
言われてみれば確かにそうかもしれない。ルール上2回出られないし。後で記録を見たら面白いかもしれない。Dクラスの比企谷八幡くんとAクラスの比企谷八幡くんが存在する事になってるし。
「1500メートル走は辛勝だったようだが、お前ですら相手が手強かったのか?言っちゃなんだが、お前に勝てる奴は居ないと思っていたが。」
「……はい。正直負けたかもしれないと思ったくらいには。」
「……1年は有望そうな奴が多そうだな。」
「…出来ればそいつは放っておいてやってください。ようやくしがらみから解放された訳アリの奴なんで。」
「…知り合いか?」
「現状、唯一の友達ですね。」
「……まあ、とりあえず分かった。お前が居る事だし良いだろう。」
内心ほっとした。なんだかんだ大事な友人だと思ってるし。後寝た子を起こしたくない。次やり合って勝てる保証がまるでねえぞ。
「………ん?いや、待てよ…。」
「…?どうかしましたか?」
「…事情を聞いて、ある事に気づいたんだが。」
「何でしょうか?」
「1500メートル走はお前でなければ負けていたと言ってもいいんだな?」
「…まあ、そうですね。勝てる奴は居なかったと思います。」
実際、Aクラスの奴らもアレは無理って面持ちだったし。
「ということはだ。4勝3敗と聞いてるからお前じゃなけりゃあひっくり返ってたって事になる。そんで、元のクラスで参加してBクラスにも勝ってると。さらに元のクラスから仲良い奴と一緒にAクラスに移籍してる。」
「…そうなりますね。」
「…ハハハハハッ!お前の思い付きでダメージ与え過ぎだろ!」
なんか楽しそうに南雲先輩が笑い始めた。
「だから現Cクラスの連中すら沈んだ様子だったらしいのか、納得したぜ。」
「え、そうなんですか?」
「ああ、勝利クラスとは思えないくらいの静けさだったようだぞ。BクラスやDクラスは敗北したから当然と言えば当然だがな。お前が参加してなかったらDクラスは湧いてただろうな。話を聞く限りでは比企谷出なければ負けていただろうし。盤面狂わせすぎだろ!ハハハッ!」
言われてみれば確かにそうなるな。そんなつもりは微塵もなかったんだが、大分掻き回していたらしい。つーか傍迷惑すぎる。しかも真の勝利者であろうAクラスも困惑で静かだったし。
「流石にそんなつもりはなかったんですけどね…。」
「それにしてもそんな土壇場でお前を起用するって考えるとは…坂柳だったか、大分キレてやがるな。というかお前もよく頼みを聞いたな。」
「…まあ、Aクラスに移籍した理由の子ですし。」
「…?いや、ちょっと待て。一之瀬ではなくてか?っていうかお前、一緒に移籍した子ってまさか体育祭の時の…」
口を滑らせたっていうか俺の口が誤魔化そうとしなかった。仕方がない、口止め込みで目の前の先輩に話そう。
「南雲先輩、無暗に誰かに言う事でもないので他言無用でお願いしたいんですが。なんなら契約も視野に入れるくらいには。ペナルティはまあ、誰かに言いふらしたら南雲先輩からの勝負を全部拒否するあたりで。」
「…契約はしなくていい、黙っておいてやる。」
「まず、坂柳有栖は俺の恋人です。」
「…おう。」
「で、今回一緒にクラス移籍してくれた椎名ひよりも俺の恋人です。」
「…うん。うん?」
「さらに、一ノ瀬帆波も俺の恋人です。」
「お、おい…。」
「最後に、Aクラスに神室真澄という子が居ますが、恋人です。」
南雲先輩が完全にドン引きしている。そりゃそうだ。
「いや、ええ…お前どうなってんだ?4股してんの?」
「驚かないでくださいね?4人から同時に告白されました。」
南雲先輩、絶句である。っていうか俺の妄想って思われてたらどうしよう。超痛い奴じゃん。
「で、その場でOKを出しました。」
「…どこか変わった奴だとは思っていたが、そういう意味じゃなかったぞ?」
「…まあ、少し話を戻しましょう。引き受けた理由は恋人の頼みだったからですね。Aクラスに移籍した理由も恋人と合流するためでした。」
「…恋愛事にさほど興味なさそうな面しといて実は凄まじかったんだな、お前。」
「…ついでに言うと初体験は5人でAV見た後に、その内容を実践するというものでした。」
「!?」
「俺も今の南雲先輩の顔くらい困惑しましたよ。」
いやあ、誰かに言いたかったんだよな。当時の俺の困惑を味わってほしくて。
「………いや、いい。いやよくないかもしれないけどいい。聞きたい話は聞けたからもうお腹いっぱいだ。」
「そうですか、分かりました。他言無用でお願いします。…というか単純に超痛い妄想にしか聞こえないんで言わないでくださいよマジで。」
「…俺の頭がおかしくなったと思われるから言えるわけがないぞ。」
まあそれはそう。とりあえずこの後は食事に集中して、食べ終わったら解散した。正直俺も誰かに言えてスッキリ出来たので、良い休日になったと思う。南雲先輩は少しばかりげんなりしてたが。
南雲先輩の立ち位置も当然ライブ感でこうなっています。私も全然こうなるとは思っても居なかったので。