綾小路に付き合って参加した堀北主導の勉強会の成果がアレだったので、屋上で孤独に一息付きに来た。先客が居たようで、堀北に対しての暴言を吐いてた奴が、こっちに気づいてめっちゃ凝視してきた。我らDクラスの誇るプリティ仮面ウーマンだった。
「…あ、コーヒー飲みに来ただけなんでお構いなく。」
そう言って隅っこへ移動して、座ってコーヒーを飲む。疲れた時には甘いコーヒーが一番染みる、そう思います。20分くらい休んでから寮に戻ろうかなーと思ってたら、目の前に影が差した。
「見たわね、あんた。…何してんのよ。」
「勉強会の疲れを癒してる。俺個人は勉強が捗らなかったわけじゃないが、BGMにするにはやかましすぎた。ここも少しやかましかったようだが。」
まだ学校も始まったばっかりなのに、もう切り捨てる判断するのはやべえよ。この学校で何が必要になってくるのかまだ見えてきてねえのに。ため息をついてるとそれが癇に障ったのか、櫛田が睨んできた。
「…ここで見た事を言いふらしたら容赦しないから。」
「言わんて。別にお前を追い詰めたいわけでもないし。むしろそれくらいのストレス発散で済んでるだけスゲェわ。」
「………どういうことかな?」
「男子の不躾な視線や統制の取れないクラスを纏めたりとか、どう考えてもストレス溜まるだろ。後…いや、なんでもない。」
ちょっと口が滑った。誤魔化す様にコーヒーを飲もうとしたら櫛田に胸倉を掴まれた。
「…後、何?」
「…なんでもないと言ったんだが?」
「言え。」
殺意マシマシの目で見ながら言ってきた。怖ぇよ。観念して言う事にした。
「推測だが、Sシステムの詳細について説明された時に、優秀な生徒はAクラスに配置されると言われたな。なら、学力にも運動能力にもコミュニケーション能力にも問題のない平田や櫛田がDクラスなのは辻褄が合わない。」
「……………。」
「過去に何があったのか知らんが、お前はそれについて恐れている。…お前、なんかやったのか?」
胸倉にかかる力が強くなって首がちょっと苦しい。櫛田が、ここで俺を亡き者にせんとするような目で睨み続けてくる。しかしAクラス間違い無しだと思われる櫛田の実力で、Dクラスまで落とされるとなると実際ただ事ではないだろう。というか、ちょっと自分の身にも覚えがあるな。
「…学級崩壊でも起こしたのか?」
そう言ったら櫛田の目が大きく見開かれた。やべえ、当てちゃったよ。こいつもやってるとかそんなわけないだろうと冗談で言ったのに。だがこの際なので、推測を全部言ってしまおう。
「…堀北を嫌ってるのは、お前の過去を知ってるからか?それにしてはお前に対しての警戒心が足りていないと思うが。」
「………分からない。だけど、知ってるかもしれないなら排除するしかないじゃない…!」
俺の胸倉を掴んでいる櫛田の手が震えている。そして、怒りや恐れが混じったかのような表情をしている。
「…不安に思うのも無理はないが、多分無意味だぞ。賭けてもいいが、堀北はお前の事やお前がやった事をほとんど知らない。」
「…どうしてそう言い切れるのよ。」
「堀北も、なんでか知らんけど全然余裕を感じないから。勉強会を開いておいてあの対応はまともな状態の奴の行動じゃねえよ。」
堀北の他者に対する拒絶っぷりはどう考えても異常だ。なんでどいつもこいつもデカい問題を抱えてこの学校に進学してるのかね。椎名を見習え、椎名を。
「危ない橋を渡って堀北の排除を目指すよりは、学校生活を上手い事乗り切ったほうが良いと思うがな。」
「………だからって私に、堀北にばらされるかもしれないのをビクビクしながら過ごせって言うの!?冗談じゃない!」
「声がデカい、誰かに聞かれるかもしれんからボリュームを落とせ。」
少し周りを見渡す。人気は感じないので大丈夫そうだった。
「まったく、迂闊すぎるぞ…。」
「誰のせいだと思ってんのよ…!くそっ、こんなのに私の秘密がバレるなんて…。」
「こんなの呼ばわりは酷くない?」
頭を抱えつつも、力が抜けたのか櫛田は自身について話し出した。昔から、なんでも1番になりたい貪欲な子らしく頑張って1番になり続けたが、中学に入ってからは頑張っても他の奴らに勝てなくなった。それで今度は他人からの信頼で1番を目指し、見事達成したがストレスも凄かったようだ。
「…それで、ストレス発散のために匿名のブログに皆の悪口を書き込んだの。とってもスッキリしたよ。一気に気持ちが楽になったよ。でも、すぐに皆にそれがバレてね。私は身の危険を感じた、クラスの皆が敵に回っちゃったんだもの。だからね、全部ぶちまけたの。ブログにも書かなかったクラスメート全員の真実を。」
「…その結果学級崩壊したと。」
「仕方ないよね、みんなが私を褒めてくれないんだもん。私の生きがいだもん!昔から尊敬され注目されることが何より好き!私にだけ打ち明けてくれる秘密を知った時、想像を超えた何かが自分に押し寄せてくる!その時が一番、嬉しいって実感するの!」
「別にそれはいいけど、バレないようにもっと上手くやれよ…。」
櫛田のミスはバレてしまった事、それに尽きる。バレなきゃ悪口には気付かれないし、不快になる奴も存在しないからな。性格云々で人を責められるほど俺は人間は出来てない。そして、櫛田の不運は自分の愚痴を聞いてくれる奴が居なかった事だろうな。探すのは難しそうだけど。
コーヒーの残りを飲み終えて櫛田を見ると、ひどく驚いた顔をしていた。
「まあ、そういう理由で改めて1番の人気者を目指すってんなら、それはそれでいいんじゃねえか?バレないストレス解消方法だけはきっちり用意したほうがいいぞ。悪口言うなら自分の部屋が一番いいんじゃねえか?今回リスクもバッチリあったわけだしよ。」
「……なんで?なんであんたは、私を否定しないの?」
「否定する要素が無いからだ。誰だって1番になりたいって欲求も、誰かに認めてもらいたいって欲求も持ち合わせてるだろう。それが人より強いだけだ。櫛田も努力をしてこなかったわけじゃないし。」
「………。」
「それに、バラされたくらいで学級崩壊するお前の元クラスメイト側にも問題あるんじゃねえか?普通はそうならんだろ。」
なお、俺たちの場合はいじめられた側が普通じゃなかったから完全崩壊まで導かれていた。やはり天才か、坂柳有栖…。
背筋を伸ばす様にぐっと両手を上げてから、手を強く握りしめて何かを堪えてるような櫛田に帰る旨を伝える。
「そろそろ帰るわ、テスト勉強せにゃならんし。」
「…私も一緒に帰るよ。この後、比企谷くんが言いふらさないとも限らないからね。」
「…俺、そんなに言うような奴に見える?」
「まだ分からないかなっ。そんなに交流があったわけじゃないからね。」
「…まあ、それもそうだな。リスク管理が出来ていて何よりだ。」
この後は寮に帰り櫛田と別れて自分の部屋に戻った。帰ってる時に、今後も俺を傍で監視し続けると言ってきたので気の済むまでやればいいと返した。櫛田は、それでいいと言わんばかりの表情をしていた。
そこまではよかったんだが、合鍵で俺の部屋に入って待っていた椎名に、
「比企谷くんじゃない匂いがしますね。」
と不機嫌そうに言われた。その後「上書きですっ」と言われ、がばっと抱き着かれた。ちょっと大胆すぎやしませんかね?椎名さんや。
この作品の八幡君も学級崩壊の片棒を担いでますからね、とやかく言う資格は無いと思っています。