1学期の終業式が終わり厄介な事になったので、比企谷に部屋に来てくれとメールを送った。頼み事を聞いてもらう権利を出来る限り温存しておこうと思ったのだが、早速使う羽目になってしまった。
「比企谷、頼み事を聞いてもらう権利を行使したい。」
「えっ、もう?早くない?」
「俺ももっと温存するつもりだったが、厄介な事になりそうだからな。この際お前を巻き込んで、状況の打開を試みたい。」
「…もうちょっと言い方なかったのか?」
呆れてる比企谷にホワイトルームの事をぼかしつつ、茶柱に本気を出さなければ退学させると言われた事を伝えた。伝えた後の比企谷は渋い顔をしていた。
「………この学校、教師ガチャまであるのかよ。あの人は何がしたいんだ?」
「さあ?少なくとも自分の生徒を脅してまでそんな事をしてくるんだから、まともではないだろうな。」
「勘弁してくれよ…。ある意味うちのクラスにふさわしい担任なのかもしれないけどさあ。」
「比企谷、前に言ったように俺は退学したくはない。だが今まで通りとはいかなくても、ある程度自由に過ごしたい。何か良い手段は無いだろうか?」
比企谷なら何かしら手段があるかもしれないという期待はある。自由になるために自由を捨てるのはそれからでもいい。比企谷は随分と悩んでいる様子だったが、溜め息をついてから話し始めた。
「禁じ手にしてたんだけどなぁ…。退学がかかってるかもしれないならしょうがねえかぁ。」
「流石だ、もう突破口を見出してるのか。どんな手段なんだ?」
「全然スマートな手段じゃないけどな。まず前提条件が成り立ってる状態にしなけりゃならんな。」
「前提条件って…何を確かめるんだ?」
「………まずは麻雀からでいいか。」
いざという時があるかもしれないからボディガードを頼むと言われ、比企谷と一緒に賭けの行える麻雀やポーカー、市販されているカードゲームをやってるらしい部屋に向かった。ボディガードが要るという事はイカサマでもするのかと思ったが全く違った。むしろイカサマをやられる側になりそうだった。何故かイカサマをしようとしてた先輩がトチって失敗していたが。
俺は比企谷を鬼と思った事があるが、撤回する必要があるようだ。鬼神の間違いだった。鴨が葱を背負って来たという表情をしていた先輩方が、例外なく比企谷にポイントを渡す羽目になっていた。賭け事は熱くなっては駄目だという事を再認識させられるくらいには先輩方は大敗していた。ホワイトルーム以来だ、人が崩れ落ちる所を見るのは。
最終的に500万ポイントほどの稼ぎになっていた。短時間でこの荒稼ぎ…ヤバいなこいつ。だがこれで終わらないからこそ、こいつを鬼神と訂正したのだが。
「今度のバカンスは豪華客船に乗っていくそうだ。そこにカジノがある。ルーレット一点賭けで儲けたポイントを全てを賭けるぞ。あまり遊んでる時間もなさそうだしな。バカンスって言ってたけどこの学校が素直にバカンスに連れて行ってくれるわけがねえし。」
「………お前は何を言っているんだ?」
「要は退学をそう簡単にさせられない防御力が必要なんだ。なら大量のポイントを手に入れるべきだろう。」
以前職員室で見た時の、こいつを鬼と思った時の表情をしながら言ってくる。明らかに無茶苦茶を言ってるのだが、さっきの麻雀で天和九蓮宝燈を上がった男が言うのだから信憑性が有り過ぎる。
「この際だから有栖に預けてるポイントも賭けちまおう。この学校のルール的には問題が生じる額になるかもしれないけどしょうがないよな。体制側の人間がルールを破ろうとしてくるんだから。」
「………頼んだ俺が言うのは違うかもしれないが、茶柱に同情するぞ。虎の尾を踏むってこういう状況を言うんだな。しかもこんな狂人じみた手段、予想が出来る訳が無い。」
「俺もやりたくはないんだがな。成功したら1億ポイント渡して、後は俺の懐に入れるつもりだが良いか?」
「むしろいいのか?俺はポイントを出してないのだが。」
「それくらい無いと安心できないかもしれないから良い。どこまでやってくるか分からん以上、1億ですら危ういかもしれんし。」
比企谷はもう勝った気で居る。こいつの肝太すぎだろ。頼りになり過ぎる。
「とりあえず有栖銀行からポイントを全部下ろしてくる。」
「…どれくらいの貯金額なんだ?」
「500万だな。聞くところによると、ルーレットは青天井らしいから何の心配もないぞ。」
危惧する点がズレている。こんなにイカれてる奴が居るとは、俺が思っている以上に外は面白いのかもしれない。いずれ来るであろう刺客たちを跳ねのけて外で生きるのもいいかもしれない。こいつほどの男はそうは居ないだろうが。
綾小路の頼み事を聞き入れた次の日に、有栖を俺の部屋に呼んだら5人来た。どうやら5人で話をしていた所に俺はメールを送ったらしい。まあいいかと思いつつ、要件を伝えた。
「有栖。ギャンブルにポイント使うから預けた分全部返してくれ。」
「………正気ですか?」
「正直ちょっと自信無い。スるかもしれんが止まる気はない。」
本当は1年くらいかけて貯めるつもりだったが、自分も脅迫されるかもしれないのだ。無茶苦茶でもやるしかない。
「…どんなギャンブルをするつもりなの?」
「…今度のバカンスは豪華客船での移動らしい。カジノもあるそうなので、そこでポイントをそれなりに増やすつもりだ。」
自身の運気が落ちてない確認が取れた以上、やらない選択肢はもう無いのだ。帆波が不安そうに尋ねてきた。
「そんなに上手くいくものなのかな…?八幡くん、焦らずに地道にやったほうがいいんじゃないかな?」
「…今のうちにポイントを増やしておきたいからな。まあ、上手い事立ち回るつもりだから心配しなくてもいい。」
安心させるように帆波の頭を撫でてやる。実際の所、2度と使えない手段だろう。直接言われた訳ではないが、俺はもう校内の賭け麻雀とかは出禁になっててもおかしくないし。豪華客船に乗れるのも今回限りだろうから正真正銘ラストチャンスだろう。
「まあ、スったら無一文野郎とでも笑い飛ばしてくれ。」
「笑えません。」
「笑えるわけないよ?」
ひよりと桔梗にピシャリと言われた。ちょっとふざけ過ぎたか、反省。それぞれが何か言いたそうにしているが今回は無視する。なんだかんだ友達の首がかかってるのだ、止めるわけにもいかない。梃子でも動かぬと伝わったのか、全員が溜め息をついてきた。そして、仕方ないなと言わんばかりの表情をしている有栖が口を開いた。
「…八幡くんらしからぬ性急さを感じますが、まあいいでしょう。大勝を期待していますよ?ですが、もし仮に大敗を喫したなら…。」
「…?」
「今後、馬鹿な真似をしないように私たちが八幡くんを管理しますよ?」
「そうね。こうやって無茶をしようとするみたいだからね、八幡は。ちゃんと見ていてあげないと。」
有栖と真澄の言葉に桔梗や帆波、ひよりもどこか納得している様子だった。その様子を見て自分の顔が引き攣るのを感じる。絶対に負けられなくなった。だって全員目がマジだもん、やると言ったらやる凄味がある。流石の俺でもポイント管理とかされるのは嫌だ。絶対に勝とう。
Dクラスルートの八幡君は、綾小路君からの信頼度がものすごく高いです。綾小路君は青タヌキ型ロボットみたいに感じているんじゃないですかね。