「寝て起きたら落ち着く事を期待したが、ものの見事に拗れたな。と言ってもまあ、俺のやる事は変わらんが。」
「ああ、比企谷を試験に回すのは勿体無いからな。無人島で刺身まで食えるとは思わなかった。出来る事なら寿司を握ってもらいたいくらいだ。」
「板前修業に来たわけじゃないんだが。そして俺はこの試験が終わったらステーキを貪ると決めている。」
「………今言うなよ、食べたくなるだろ。」
魚も美味しいが、男子高校生なんて肉食うのが仕事みたいな生き物だからな。
「それにしても昨日はマジでヤバかったな、テントに荷物置いてなくてよかったわ。あんまり言いたくはないが、敵が強い事よりも味方が弱い事のほうが厄介って本当なんだな。」
「ああ、今まで生きてきて一番のピンチだった。お前は助けてくれなかったしな。」
「恨み事を言われても困る。あの状況になっちまったら助けようがなかったし、一応荷物検査を止めようとしたんだがな。」
大分しょうもない手段で追い込まれたものだ、こんな所で布切れ一枚に翻弄されるとは思わなかった。この試験終わったら龍園に絶対文句言おう。それはそれとして、綾小路に伝えておくべき事があったな。
「そういえばAクラスはリーダー当ての対策があるようだぞ。無理に当てに行かんほうがいいだろう。」
「…何か根拠はあるのか?」
「昨日真澄たちと一緒に釣りをしたんだが、その時に少しな。多分だが、最後の最後でリーダーチェンジをするだろうな。正当な理由であれば実際に体調不良でなくてもリタイア出来るし。39分の1に賭けて当てに行くのは分が悪いと思うが。」
「…そういう事か。ならしょうがない、残念だがAクラスは狙うのをやめておこう。それにしてもお前、無人島で親しい女子たちと釣りを楽しんでるよな。お前だけ普通にバカンスしてないか?」
「バカンスにしては仕事量えぐいんだけど。冷戦状態でも皆の食事量はそんなに変わってないから、用意するの大変だったんだぞ。」
なお、目の前の男は思った以上によく食う。なんなら一番食ってるんじゃねえってくらいにはがっついてた。なんていうか、普段許されてないものを食べられる時に食べまくるみたいな感じで。
「そうか。今日で最後だし、いつもより腹一杯食いたいからよろしく。」
「悪魔かお前は、さらっと言いやがって。」
大分味を占めたのか図太い事言ってくる事が多くなったな、コイツ。まあどうせあと1日だからやるんだけども。
「どいつもこいつも勝手なことばっかり言いやがって!まともに団体行動する気がない奴しかいないじゃねえか!」
「…もうちょっと声小さく言おうか、桔梗。お前には言う資格があると思うが、誰かに聞かれたらまずいし。」
今日も釣りに行くかと準備を整え、出発する前に桔梗が一緒に行動すると言ってきた。断ると明らかに爆発するなこやつって感じだったのでOKを出して、小屋の前へ移動した。帆波たちはまだ来ていなかったようなので、桔梗を小屋の中に連れ込んでストレスを吐き出させることにした。案の定めっちゃストレス溜まってたようで、男女関係なくボロクソに言い始めた。
「男子は視線や言動がキモイ!女子は勝手な行動するし口を開けば我儘で五月蠅い!八幡くんは八幡くんでクラスの状態なんて関係ないみたいに、帆波ちゃんたちと楽しんでてずるい!」
「………一応仕事はしているんだが。」
「朝帰りしてんじゃねえ!もっと私に構え!甘やかせ!」
妙な方向に拗れてる。思いっきり抱き着いてきながら言ってきてるので可愛いもんだが。心を落ち着かせるように桔梗の頭を撫でる。さらに抱き着く力が強くなった。
「…確かにDクラスは桔梗と平田の頑張りでなんとか保ってるからな。堀北は初日からずっと体調不良だし。」
「なんなんだよあのクソ女!リーダーにして失敗した所を扱き下ろそうと思ったら、それ以前じゃねえか!ちゃんと体調万全で来いよ!あんなザマでよく今まであんな態度取れたよなぁ!」
喜びと怒りの混じった感じが凄い。体調不良なのは良いけど、それはそれとして仕事はちゃんとやれよって感じか。
「…まあ、不意打ちで始まった試験だから堀北だけを責められん。体調管理出来てないのはまずいかもしれんが。」
「堀北に肩入れするなっ、私に肩入れしろっ。」
「これでも桔梗に大分肩入れしてるつもりなんだが。」
「堀北さんには少しでも情けをかけたらダメなんだよ?女子が勝手にポイント使って扇風機を購入するのも止められないんだもん。」
鬼を殺すような人間みたいな事言ってる。そしてさらっととんでもない事実を言われた。どうせクラス移籍するから減れば減るほど後々楽になるので、いっそ全部パーッと使ってくれれば楽が出来ていいのだが。
「びっくりするほど勝つ気ねえな、Dクラスは。別に敵が強ければ強いほど燃えるタイプじゃないからいいけど。…高円寺にさらっと一緒にリタイアするかって言われた時に、提案に乗ってもよかったかもしれんな。」
「………本当にリタイアしてたら、私はあんたを襲ってたわよ。」
「いや怖ぇよ。襲うって何されるんだよ。」
「ふふふっ、何だろうねっ。」
俺から少し離れてニッコニコの笑顔で桔梗が笑いかけてくる。迫力があって少し怖い。しかし少しはストレスが紛れたようで、外から聞き覚えのある話し声が聞こえてきたので、小屋から出て合流した。
「にゃはは、今日もよろしくねー!」
「今日は桔梗も居るのね、よろしく。」
「…おう、よろしく。」
「2人ともよろしくねっ!…八幡くん、やっぱり遊んでるじゃない。」
2人に聞こえないように低い声で言われた。一応サバイバルに必要な事はこなしてるんだけどなぁ…。
今日も今日とて釣り竿を持つ事はなさそうだ。というか3人とももう慣れたようで手際が良い。餌をつけるのと釣れた魚を外すのは俺がやる作業のままだが。ストレス解消になるのか釣りを楽しんでる3人を見つつ、綾小路から聞かれた事を思い出した。
「比企谷。お前はリーダー当てのために動く気がなかったようだが、動くとしたらどうしていた?」
「…2日目にCクラスの状況を確認した時点で、3日目のCクラスのリタイアした人数を数えてから伊吹はリタイアさせてただろうな。顔に殴られた後があったから、こんな島に居させるより船に戻らせたほうが良いって言って無理やりにでも退場させていただろう。Cクラスのポイントも減らないわけだし。」
自クラスが纏まってもいないのに何故他クラスの奴を招き入れてしまうのか。百歩譲ってそれを良しとしても、何故ずっと留まらせるのか。戻らせたら伊吹が龍園に暴力を振るわれるかもしれないと同情したのかもしれないが、同情の前に疑いを持って欲しい。
「…なるほど、あえてCクラスのリーダーを固定してしまうという事か。」
「龍園の事だからまだ島に潜伏してるのは間違いないしな。後、少なくともお前が下着を押し付けられるピンチは無くなっただろうよ。あれは俺が同じ立場でも、平田がどうにかしてくれなかったらほぼ確実に拠点追放されてただろう。その時点でほぼ詰みになっちまうからな。」
今回伊吹に対して静観した俺にも責任はある。同じ轍を踏まないように、何があっても怪しい奴を迂闊に懐に入れないべきという事を学んだわ。NOと言える勇気、大事。
「Bクラスのリーダー当てに関しては挙動不審そうな奴を見繕って数を絞り、2人体制で張らせてスポット更新する所を押さえられて、リタイアする奴が出ないなら書くって所だな。成功率は10%切りそうだけど。」
「…なんでそんなに低いんだ?」
「だってうちのクラスの連中って、一部除いて頼りねえじゃん。確実に見つけるであろう高円寺に頼んだとしても、絶対に拒否するだろうし。まあ、クラスの連中と関わりをあまり持ってこなかった俺にも責任はあるが。」
誰が何を出来るか全然分からないからな。でも今日に至るまで良い所を全然見せてこなかったクラスメイトにも責任はあると思うんですよ。知らんけど。
「まあ、よっぽど迂闊なリーダーでもない限りはBクラスは当てられんだろうな。だから10%切ると言った。」
「…迂闊なリーダーだったぞ。偶然近くに来た所を隠れて見ていたら、スポットに慌てて駆け付けて更新してたな。」
「………うっそだあ。」
「本当だ。」
いくらなんでもあり得ないって思っていたんだが。Bクラスは大丈夫なのだろうか。
「ま、まあ後はAクラスだが……そもそも俺には指名する理由がねえな。しかも確実に行くためにリーダーをチェンジするだろうから下手に動くべきでもないし。」
「ああ、おかげで俺も無理に当てに行かなくてよくなった。…どうやら比企谷が動いても、結果はそれほど変わらなかったっぽいな。」
「かもしれんな。ただ、釣りなんてしてる暇ないだろうから、魚が食卓に上がる事はなかっただろうな。」
「…魚が食えないなら、この程度の事をお前にやらせるわけにはいかないな。」
………魚>試験だったあたり、あいつの中ではこの試験はどっちかと言えばヌルゲーだったようだな。そして俺の予想通りなら、この試験が終わった後にまた桔梗が切れるんだろうなあ…。思い返しながら手を動かしてたが、気づかぬうちにバケツ2杯分が大漁になっていたようだ。
「八幡くん。何か考え事をしてたみたいだけど、何かあったの?」
「…ああいや、ようやく試験が終わるなってぼんやり考えてただけだ。後、天気悪いなって。」
ふと空を見たら雨が降りそうな雲が島に近づいてきている。降ってほしくないが、多分駄目だろうな。
「確かに雨が降りそうね。降り始める前に切り上げた方がいいわ。」
「もう一杯釣れてるし終わりにしよっか。早く捌かないといけないし。」
「しょうがないかぁ。それじゃあ八幡くんにお別れのハグするかにゃ!」
そう言いながら帆波が抱き着いてきた。しばらく抱き着かれっぱなしだったが、満足したのか笑顔で俺から離れた。そして帆波の後ろに真澄が並んでいたようで、同じように満足するまで抱き着かれた。桔梗は帆波や真澄の後ろで、こっちをジト目で見ていたが。
Aクラスにバケツを運んで葛城から多大な感謝をされて2人と別れ、桔梗が話があるという事なので、小屋に戻った。
「戻りたくないなぁ、拠点の空気最悪だし。」
「1日目から今日まで気苦労は絶えなかったろうしな、桔梗や平田はマジでよく頑張ったと思うわ。」
「八幡くんと一緒の時は楽しかったけどね。……ねえ、八幡くん。Dクラスの試験結果ってどうなるのかな?」
「…桔梗にはあまり言いたくないが、堀北の活躍で大逆転勝利…という事になってる。」
大きな声で言う事でもないので耳打ちして答えた。ちょっと頬染めてたが、それを聞いた直後に一気に不機嫌な顔になった。予定調和である。
「………どういう作戦か聞いてもいい?」
「綾小路曰く、あえて伊吹にキーカードを盗ませてリーダーを確認させてから堀北をリタイアさせるんだってさ。で、最初からそれが堀北の策略だってクラスメイトに知らせるんだとよ。」
「あの陰キャ、クソ女に功績を積ませるんじゃねえよ…!」
さらに不機嫌になる桔梗だが、どちらかと言えば俺は堀北に同情している。
「…あまりそう言ってやるな。それに堀北は、新学期から大変になるのが決定してるし。」
「…あっ、そっか。私たちが居なくなるからね。」
「正確には3人だな。綾小路も誘った。」
「えっ!?綾小路くんも!?」
桔梗が驚いた表情を浮かべている。まあ伝えてなかったしな。
「堀北には悪いが、俺は俺を優先する。…Dクラスそのものには愛着が無いしな。」
「…それは良いんだけど。私よりもずっと八幡くんのほうが堀北を追い詰めてるね?」
「…正確には俺じゃねえんだけどな。」
桔梗は首を傾げているが、クラス担任が原因だとは誰も思うまい。Aクラスの担任になると何かあるのかもしれないが、究極的な事を言えば盤面に関わらない人間にとやかく言われたくない。5月初日に不良品呼ばわりされた事を忘れていない。そう言われたから、俺は職員室であの暴挙に出た訳だし。心が狭いからな、俺は。
「まあとにかくゴールはもう決まってる訳だから、やる事やって後はだらだら過ごすつもりだ。雨が降る前に戻って魚を捌き終えるぞ。」
「……そうだね。そろそろ戻ろっか。」
話を終えて桔梗と一緒に拠点に戻り、数人がかりで魚をとっとと捌いた。雨が当たらない所に移動させてからテントに戻り、程なくして雨が降ってきたのでテントで寝た。綾小路の策略通り、小火騒ぎやらキーカード盗難があったらしいが、点呼の時間までぐっすり寝ていて気付かなかった。その後は特に何も起こらずに6日目が終わり、結果発表まで何事も無かった。
試験の結果は、Dクラスが1位だった。まあ、Aクラスとの差はそこまでなかったが。一番悲惨だったのはBクラスだったことだけは伝えておく。
この作品の八幡君は結構根に持つタイプです。Dルート始める際に考えた結果、茶柱先生が4人の先生の中で八幡君との相性が一番悪いなと。生徒と先生という関係上、関わりもそれほどないので性格軟化は起きないでしょう。ですので、原作通りに動かすしかなかったです。