「八幡くん、特別試験お疲れさまでした。ですが、突然の特別試験とはいえ会えなくて寂しかったですよ。島に行かれる前も会いに来てくれませんでしたし。」
「…すまん、一度冷静になったせいで逆に落ち着けなかったもんでな。」
船に戻って携帯を見たら有栖が予めメールを送っていたようで、有栖の部屋に迎えに行ったが、ちょっと拗ねてたようでそう言われた。船を降りる前に利用させてもらった個室付きのカフェで、話をする事を決めたので、俺の腕に抱き着いている有栖と一緒に移動した。
個室に移動して隣り合って座り、飲み物をそれぞれ注文した後に有栖から話を切り出された。
「試験に行く前の八幡くんの様子からして、カジノで負けたという事はないでしょう。ですが、どれ程の勝ちだったのかずっと気になっていましたよ。私1人では移動もままならないので、情報を集めることも出来ませんでしたし。」
「うーん、内緒にしとこうと思ってたんだが………有栖ならいいか。ポーカーフェイス出来そうだし。」
携帯を操作してポイントを表示させる。その額に「増やし過ぎたか?」と今さらながらに思いつつも、有栖に画面を向けた。画面を見た有栖の目が見開きながら驚いていた。
「…凄いですね。一体どのような賭け方をしたのですか?」
「ルーレットでストレートアップに持ち金全部突っ込んできた。」
「………今、何と?」
「ルーレットでストレートアップに持ち金全部突っ込んできた。」
「…八幡くん、ちょっとこっちを向いてください。」
言われるがままに体を有栖の方へ向けた。すると有栖が怒りながら俺の両頬を引っ張り始めた。でも大して力がねえから痛くは無い。
「何してるんですか、八幡くん…!勝ったから良かったものの、もっと堅実にやるべきだったでしょうが…!」
「ふぃふぁんふぁふぁっふぁふぃ。」(時間無かったし。)
「時間が無くてももっと安全マージンを取らなければ駄目でしょう!ギャンブルなんて胴元が儲かるようになるのが基本なんですから!」
「ふぁふぇふふぉふぉふぉっふぁふぁふぁ。」(勝てると思ったから。)
「根拠の無い自信で破滅的なギャンブルしないでください!もうっ、もうっ!」
有栖にしては珍しく、大層ご立腹の様子だった。確かに本来なら無謀な挑戦でしかないか。とりあえず有栖が落ち着くまで為すがままの状態だった。
「お前さんがそこまで怒るとは思わんかったわ。」
「だって…もし八幡くんが負けてたら、Aクラスに来てくれるのがもっと遅くなるじゃないですか…。」
「……悪かった。」
有栖のしゅんとした表情に思わず謝った。まあ、確かに大幅なロスになるな。下手したら卒業までクラスそのままだったかもしれんし。
「もっとちゃんとした計画を立ててから行ってくださいよ。なんでそんなに雑に行ったんですか。」
「どうあっても俺が勝つからだ。短い人生の中だが、こういう事で無敗なんだよ。一応、衰えてないかの確認は船に乗る前に済ませてあったからな。後、下手に時間をかけて誰かに見られたくなかった。」
「どんな確認をして確信を持てるんですか…。」
「出禁覚悟で先輩方からポイントを巻き上げた時の結果で判断した。例えば麻雀なら、東一局で天和九蓮宝燈を和了って先輩方を飛ばした。」
有栖が信じられないものを見るような目をしている。だが、今回重要なのは賭けの結果よりは過程の方である。予め綾小路に経緯の説明を有栖にしてもいいかの確認はとってあるので、少し呆然としている有栖に説明を続ける。
「そもそも俺は地道にポイントを貯めるつもりだったのと、ギャンブルは個人的に禁じ手にしてるからやるつもりはなかった。…だけど綾小路から相談をされてな。」
「…綾小路くんが八幡くんに相談、ですか。」
「ああ、どうやら茶柱先生に脅迫されたらしくてな。『本気を出してDクラスをAクラスに昇格させろ、拒否すれば退学させる』って感じに言われたらしいぞ。」
そう説明すると有栖は首をかしげた。何か疑問でもあるのだろうか。
「………一教師がお父様の目を掻い潜れる訳がないはずですが。」
「…ん?お父様って?」
「ああ、八幡くんはご存じないようですね。私の父は、この学校の理事長なんですよ。」
この子が只者じゃないから親御さんもそうなんだろうなと漠然と思っていたが、想像以上に雲の上の人だった。そっちはそっちで気になるが、説明を済ませる事を優先する。
「それも気になるがとりあえず話を続ける。綾小路に、俺なら何か良い手段があるんじゃないかと思ったようで、助けてほしいと頼まれた。」
「………私の知る綾小路くんとは別人のようですね。悪く言えば人間味がありませんでしたし、人に頼る事自体しないでしょうし。」
「最近の綾小路は4月よりは人間味があると思うぞ。無人島試験でずっと魚釣りして捌いてで過ごしたけど、クラスで3本の指に入るくらいには魚を貪り食ってたし。試験に対応すると釣りしてる暇はないだろうって言ったら、試験程度でお前を使うわけにはいかないって言われたぞ。」
「綾小路くんが本当にそう言ったんですか?想像もつかないんですが。」
普通の人と比べてまだまだ感情は薄いのは確かだが、出会った時よりは人間味が増してると思う。だって1億ポイント送ったら少し動揺してたし、2学期から飯のランクを上げられるなって言ったら、無意識だろうけど右手でガッツポーズ取ってたから。
「それで、茶柱先生が自身の持つ手札で生徒を退学させられるなら、いっそ退学に追い込まれても大丈夫なくらいの防御力を備えればいいんじゃねえかなって。1億ポイントほど綾小路に持たせれば、あいつなら卒業まで難なく過ごせるだろうと。」
「…八幡くんにポイントを見せて頂いていなければ、机上の空論だと笑って上げていましたよ。見てしまった以上、全く笑えませんが。」
「だろうな、俺も終わった後に手持ちのポイントに少し震えたし。1億ポイントくらいは使い道を考えてるけど、残りが全然ノープランなんだよな。」
一応俺としても退学対策としてのポイントだが、間違いなく過剰だし。適度に贅沢したりするくらいしか使い道が浮かばんぞ。
「なんとなく想像は付きますが、どのような使い道なんですか?」
「移籍だな。俺含めて4人の。」
「計算が合いませんね。残りのポイントはどうするんですか?」
「龍園に借りを返そうかなって。まあ、ひよりは貰っていくから大赤字だろうけどな。」
俺でも2000万ポイント程度でひよりを持っていかれたくはない。俺も殴られる覚悟はしなければなるまい。
「…龍園くんも災難ですねえ。遅かれ早かれとはいえ、こんな形で戦力になる人を持っていかれてしまうのですから。」
「…奇妙な話だが、龍園には悪いと思っているがDクラスにはほとんど悪いと思っていない。」
「おや、何故ですか?」
「多分だけど、1学期と無人島試験の様子で見限ってるんだろうな。4か月程度で何言ってんだって話でもあるんだけどよ。」
これから成長する事もあるだろうし、いくらでも成長してくれればいい。ただ、その輪から俺と綾小路と桔梗は抜ける、それだけである。それ以上の感情は出てこない。
「しかしそうですか……ふふふっ。八幡くんが私の物になる日が近いんですね。」
「桔梗には全部上げるから行かないでって一度言われたけどな。」
無人島で言われた事を少しぽろっと漏らしたら、有栖が目を見開いた後、凄い睨んでこっちを見てきた。ちょっと怖い。
「そうですかそうですか。どうやら八幡くんの手は早いようで…。」
「手が早いて。せいぜい話を聞いてやってるくらいなんだが。」
この学校に入ってからは、別に特別な事はしていない。ギャンブルは除くが。だが有栖は不服のようだ。
「………どうやらのんびりしている時間はないようですね。これ以上八幡くんの魔の手にかかる女の子を増やす訳にもいきませんし。」
「魔の手ってひどくない?積極的に誑かしに行ってねえぞ。」
「こういう事に関しては八幡くんは一切信用出来ません。八幡くん、覚悟をしておいてくださいね?」
スッゲェ良い笑顔で有栖が言ってきた。何故か最近、覚悟を求められる事が多い気がする。この後は夜の予定を空けておくように言われ、有栖は迎えに来た真澄に連れられてそのまま別れた。覚悟か、しておくとしよう。
まあ、覚悟決めてもさらに上回られるんですけどね。