当たり前っちゃ当たり前だが、メールを送ってから割とすぐに高円寺から電話がかかってきて、ちゃんとした説明を求められた。カフェ内だったが個室なので、そのまま有栖と桔梗に断りを入れて電話に出た。
「比企谷ボーイ、私はこの退屈な試験をすぐに終わらせるつもりなのだよ。私を止めるならそれ相応の理由を聞きたいものだねぇ。」
「まあ、お前さんならそう言うよな。とりあえず何を提案したかの説明からになるんだが…」
話し合いの時に言った三つの理由を高円寺に伝える。さらに付け加えて、皆がポイントを手に入れたら煩わしさが減るからという個人的な理由も伝えた。
「俺個人としては学校側への仕返しと、急にポイントをガンガン使っても問題の無い状態にしたいだけなんだわ。パーッと使ってる所を見られて、一々突っかかられるのも鬱陶しいだろうし。」
「フッフッフ、なるほどねぇ。確かに醜いタカリ行為を見る事が無くなるなら悪くない。」
クラス内でのアレか。クラスカースト上位に与しようとするとああなるんだなって思いながら見てたわ。Dクラスでの俺は、近寄りがたい奴みたいな扱いだからある意味セーフだが。
「だからまあ、結果1になるよう動いてくれると非常に有り難い。俺らのグループは桔梗が優待者でな、法則を見破られたら終わるようなクソ試験で気苦労させたくねえなって。」
「ハッハッハ、レディのためか!比企谷ボーイもやるものだねぇ!いいだろう、レディのためなら一肌脱ごうじゃないか。」
「…悪い、助かるわ。」
駄目だったらポイントなりで交渉しようと思ったが、桔梗の名前を出したらなんか通った。理由そのものは実際に思っている事ではあるが、一笑に付される事も考慮していたんだが。高円寺なりの美学に引っかかったのかもしれない。
電話での会話を終え話が通った事を伝えようとしたら、桔梗は嬉しそうに笑いながら俺を見ているが有栖はジト目だった。
「ふふっ、私のためかぁ。八幡くん、ありがとねっ。」
「…私たちが危惧を抱いていたのはそういう所ですよ、八幡くん。貴方はどうにも気に入った人に対しての距離感がおかしいですから。」
「…ぼっち生活が長かったからな、そういうのがイマイチよく分からんのだわ。…仮にも彼氏だからな、彼女の為に動く事くらいはするさ。俺のためでもあったけどな。」
誤魔化すように有栖の頭を撫でながらそう伝えた。ジト目でこちらを見続けていたが、しばらくして目を閉じながら嬉しそうな顔になった有栖を撫で続けた。昔もこんな感じで撫でたなと懐かしい気持ちになりつつも、今度は桔梗が物欲しそうな目でこっちを見ている。空いてる方の手で有栖と同じように撫でると、欲しかった物が貰えた子供のように嬉しそうだった。
カフェで少しまったりした後、次の話し合いの時間まで図書室で本を読む事にした。有栖と桔梗はそれぞれやる事があるようで、一旦別れる事になった。
図書館へ行くと、案の定よく知る顔が集中して本を読んでいる。読んでる本の表紙をちらっと見ると原題のようで、相変わらずの本ガチ勢っぷりである。俺も英語くらいならひよりが中学時代に勧めてきた本の影響で読めるように勉強したが、流石に他の言語だと読めない。まあ、俺は頭を使わずに読める漫画に手を出すのだが。いくつか見繕った後、ひよりのそばの席に座って俺も読み始めた。
「八幡くんは漫画、ですか。珍しいですね。」
「…試験の連続で疲れてるからな、頭を使わんでも読める漫画にした。後、読みたくても読めなかったのもある。うちのクラスのポイント事情が終わり過ぎてて、買うのを控えてたし。」
「Dクラスの方は、ポイントが無いのが当たり前になっていましたからね…。」
「…まあ、ひよりが勧めてくれてた本は面白かったから、不満はほとんどなかったけどな。」
今では、かつて難解だったはずの本も楽しく読めるようになった。この子は俺の好みを掴んでいるのだろう、ニコニコ笑顔で薦められてきた本に外れは無かったし。ただ、出会った頃に比べると自分の嗜好の変化を感じるので、ひよりに調教されたのかもしれない。
少し話した後は俺もひよりも本に集中していたが、ひよりから話しかけられた。
「…龍園くんから聞きました。八幡くんが今回の試験で動かれたそうですね。」
「ああ、悪くない提案だったろ?試験放棄なんじゃないかって言われたらその通りなんだが。」
「ふふっ、そうかもしれませんね。全員で勝つか負けるかという発想が、なんとなく八幡くんらしいなって感じちゃいました。ですが、私は皆さんと争うのは好ましくないので大賛成でした。先生方は少し苦い顔をなさっていましたが、注意をされなかったので問題は無いという事でしょうし。」
「学校側は8600万の出費で大変だろうな。…まあひよりが察している通り、絶対に勝負するんだという張り切った奴が居たとしても動けないからな。仮に裏切りに走ったら正解だろうが不正解だろうが、答えた奴以外は-50万ポイントになるって考えが浸透した以上恨まれるのは目に見えてるし。王をやってる龍園ですらやれんだろうよ、全クラスが敵に回るからな。」
ただでさえ敵の多そうな男だ、ABD連合軍になるのが目に見える。龍園と言えど流石に数の暴力には苦慮するに違いない。まあ、あのインテリヤクザがやる訳ないのだが。
「後はまあ………大っぴらに俺のポイントで動けるようになるからな。綾小路と美味い店探したりしても違和感がなくなる。漫画を買い漁っても問題なさそうだし。………贅沢なデートでもしてみるか?」
「…是非お願いします。皆さんと一緒もいいのですが……八幡くんと2人で、デートしたいです。」
腕の袖をそっとつまみながらスッゲェ物欲しそうな目をしていたから提案した、意地悪してるつもりはなかったのだが。ただぶっつけ本番でそういうデートはやりたくねえから、どちらにせよリサーチをしていく必要はありそうだ、船旅から戻った後、綾小路に付き合ってもらおう。
話し合い以外の時間は本を読んだり遊んだり泳いだりと過ごしたが、初回以外の話し合いの時間は何をやっていたかといえば、周りに人が来ないだろうという理由から龍園の隣で勉強である。「何してんの?」みたいな目で見られてる気がするが知らん、今のうちにやっておかないと夏休み中の余裕がなくなるかもしれんし。ちなみに、桔梗と有栖は女子たちが女子会みたいなのしてるからそっちに行っている。
「クックック、テメェもよくやるぜ。こんな所でもお勉強とはなァ。」
「…どこまで行っても俺は凡人だからな。空いてる時間に進めなけりゃ安心出来ん。」
いやほんと、頭の出来は悪くないが、極端に良い訳でもないのが悲しい所である。特別試験のせいでやれなかった時間が大分増えてしまった。マジで魚捌けるようになった事以外のメリットなかったぞ、無人島試験。
「特別試験でいくらでもやりようがある以上、無駄な努力だと思うがな。」
「まあそれがお前の意見なら、それはそれで尊重するが……この学校だと特に必要だと思うぞ。学力も、知力も、体力も、武力も、暴力も。まあ、武力と暴力は俺にも足りていないんだが。」
「…。」
「この学校での生活を考えるなら、どれも疎かにしちゃ駄目だろ。学力だって結局定期試験でクラスポイントが変動するんだから、クラス争いに関わってくるわけだしよ。…特別試験で学力が関わってこないとか、そんな能天気な事考えてないよな?」
世間話程度の会話のつもりだったが意外と刺さってる様子だった。
「まあ、お前がその調子で学力無視してくれてクラスが弱くなるのは大歓迎だがな。」
「…チッ、好き勝手言いやがる。」
「だからまあ、俺はこうやって時間の空いてる時にやってるわけなんだが………今回のバカンス詐欺のせいで1週間時間を浪費させられたからな。予定ガタガタだぞ。補填なけりゃ嘘だろこんなん。………だから学校側に一番ダメージを食らわせられる提案をした。俺がスッキリするために。」
「…ハッハッハ!とんだ狂犬っぷりじゃねえか比企谷!だが悪くねえ、ポイントも潤沢になるからな。」
こんな感じにあんまり中身は無い話をしながら話し合いの時間は勉強をして過ごし、最終日までどのグループも裏切り者は出なかった。そして最後の話し合い終了10秒前に、優待者の発表をそれぞれのグループで行なった。結果1で全グループが終わり、無事夏休み中の試験を終えられたのだった。
「無駄に長い船旅のせいで日課が全然出来ねえじゃねえか、訴訟もんだろこれ」が八幡君の考えだったりします。なので3億6000万ポイントをそのまま36倍プッシュせずに止まっただけ理性的なのかもしれません。