船旅が終わり冷房をガンガンに効かせた自分の部屋にて、真っ先に悩んだ事はポイントについてである。はっきり言って増やし過ぎた、絶対こんなに要らない。Aクラスに行ったら、定期試験や特別試験の打ち上げにパーッと使って士気を上げるとか、趣味にポイントを費やすとか考えたけど1000万ポイント減るかも怪しい気がする。
携帯の画面を見ながら悩んでいたら呼び鈴が鳴ったので、玄関に向かい扉を開けると帆波と真澄が居た。2人とは船で顔を合わせるタイミングが無かったので4日ぶりの顔合わせになる。嬉しそうな顔を向けられて、頬が緩むのを感じる。部屋に入るように促してから2人の飲み物を用意し、机に置いた所で置きっぱなしだった自分の携帯を見て問題を思い出した。
「…?八幡くん、難しい顔してるみたいだけど何かあったの?」
「ん、ああいや。ポイントどうしようかなってちょっと困ってただけだ。」
「欲しい物を買うのに足りないなら出すわよ?…八幡のおかげで潤ったわけだし。」
帆波と真澄にはまだ伝えていない。特別試験中に、変に動揺させても悪いのであえて黙っていたが、そろそろ教えてもいいだろう。何も言わない俺を不思議そうに見ている帆波と真澄に、所持ポイントを表示させた状態で携帯の画面を見せた。
「………えっ、えええええっ!?」
「な、何このポイントの額は!?」
2人とも食い入るように携帯を見ている。まあ驚くよな、まともにやってたら絶対に届かない額だし。
「カジノの勝ち分なわけだが、1億は使い道が移籍代とかで消える。」
「移籍代……八幡くん、Aクラスに来てくれるの?」
「おう。2学期からよろしく。」
さらっと移籍について話したが、2人ともスッゲェ嬉しそうな顔をしている。まあ、今回の問題はそこではないので話を進めるが。
「まあ、それでも1億6000万残るわけだが……1億は退学対策として死蔵するくらいでいいが、それでも6000万残るからな。…2人とも、何か欲しい物あるか?」
「八幡くんを一日中好きにしていい権利。」
「お兄ちゃんに一日中構ってもらう権利。」
「どっちも0ポイントじゃねえか。」
予定を立てりゃあいけなくもないけど、どっちにしろポイントは減らない。悩んでいると帆波が遠慮がちに言ってきた。
「………大きいお部屋に皆で一緒に住みたい、かな。」
「…部屋か。どれくらいのポイントが必要なんだ?」
「300万から1000万だったかな。広さで変わるみたいだよ。」
「…お兄ちゃんと一緒にお風呂……一緒の布団でおやすみ…。」
部屋を買うのは悪くなさそうだ、それはそれとして真澄が変な方向に行ってるが。だがそういった状況になったら、俺は多分許してしまうんだろうな。
「…いっそ一番広い部屋を買って、各々必要な物とか部屋に欲しい物でも揃えるか。」
「…いいの?」
「…まあ、俺も同棲したくないってわけじゃないしな。ただ話す事は出来ない事情があるので、引っ越すのは8月の終わり頃にして欲しい。準備時間もあった方がいいしな。有栖たちにまだ話が通ってないからどうなるか分からんが。」
「賭けてもいいけど、有栖たちなら迷い無く賛成するわよ。」
なんとなく俺もそんな気がするが、とにかく3人にメールを送った。1分と立たずに了承の返事が3件返ってきた。「速っ」と思いつつも、いつ引っ越しするかと、必要な物や欲しい物があればポイントを気にせずに買う様にと追加のメールも送った。
「…まあ、欲しい物があればいつでも言ってくれ。あぶく銭だし気にせず、出来れば大物で。」
「うーん……元々そんなにお金に不自由じゃなかったから、すぐには思いつきそうにないかな。一番のお願いは適ったからね。」
「私も、お兄ちゃんが傍に居てくれればいいから。……2年前から、それを励みに頑張ってきたから。」
…改めて思うが、俺には勿体無いくらいの良い子たちである。その内自発的にプレゼントでも送るとしよう。ちなみにこの後、どうやってポイントを稼いだか説明したら滅茶苦茶複雑そうな顔をされた。有栖に激怒された事も伝えると納得したような顔をされた。
引っ越しを決めた日からしばらく経って、綾小路から遊びに行かないかとメールが来た。その日は特に予定も無く、余裕もあったので誘いに乗る事にした。まずどこに行く予定かを聞くと。ケヤキモールでよく当たると評判の占いに行くと言われた。
「いや、いいけどなんで占い?」
「本当に当たるかどうか試したくなったんだが、比企谷という規格外をどう占うのかが無性に気になった。お前の事を正確に占えるなら本物だろう。」
「…人より運が良いだけで、後は普通の男なんだが。」
「…お前が普通なら、世の中の普通は淘汰されるな。並の奴にあんな大胆な策は取れないぞ。」
自分にとってのゴールが分からなかったから、ひたすら走り続けるだけしかなかったのだが。策に関しては勝負を避けただけとも言えるし。しばらく並び続けて俺たちの順番が近づいてきてようやく気付いた。これ、異性2人でやる相性占いだわ。
「綾小路、これ俺たち条件満たせてねえぞ。ほぼカップル用の占い場じゃねえか。」
「……………いや、ゴリ押しで行く。何がなんでも占ってもらうぞ。」
「いやいやいやいや。」
何が綾小路をここまで駆り立ててるのか。周りから凄い目で見られ始めてるのだが。しかし綾小路は物ともしてない、こいつ凄えよ。しょうがないので、占い師が駄目と言ったら諦める事にした。俺たちの番が来てしまい、天幕の中に居た占い師の婆さんは怪訝そうな顔をしている。まあそうなるわな。
「お婆さん、適正金額の倍額を支払う。隣の男について占ってみてくれないか?」
「………ふむ。まあ、いいじゃろう。」
「いいのか…。」
とりあえず言われた通りに名前と質問に答えていく。曇りの無い水晶に手を翳している婆さんの占い結果を待つ。
「………ううむ、信じられん…。確認じゃがお主、過去に片棒を担ぐ形で学校を滅茶苦茶にした事があるな?」
………馬鹿な、俺は誰にも言ってないぞ。なぜこの婆さんがそれを知ってる?背中に汗が流れるのを感じる。
「…そうであると仮定して話を進めるぞ。その時の出会いで、お主の運命は大きく変わっておる。…その後からではないかな?お主が尋常ならざる剛運を発揮するようになったのは。」
「………ああ、そうだった、と思う。」
見てきたように話す婆さんになんとか返した。俺の様子に綾小路も真偽が判明したようで、今まで大して変わってこなかったこいつの表情が、変化がはっきり見られるほど驚いていた。
「お主と出会った者たちにも多大な影響を与えているようじゃな。ああ、そう不安そうな顔をするでない、良き影響じゃよ。特に、お前の横に居る男が最も影響を受けておる。…それを大きく実感するのはおそらく3か月から5か月くらい後じゃな。本来の運命から随分と違う道を辿る事になりそうじゃ。」
普通なら胡散臭いと流すところなんだが、この婆さん相手だと流せねえ。なんでこんな所で占いしているのか分からないくらいの占い師だぞ、すでにポイントで俺の過去について口止めする予定が差し込まれた程度には。綾小路も心なしか真剣そうに聞いている。
「…なるほど、参考にするよ。ありがとうお婆さん。最後にもう一つ、ついでに聞いておきたいんだが…俺たちそれぞれの恋愛運はどうだろうか?」
「…まあ普段なら追加料金を貰う所じゃが、滅多に見れないほどのものを見れたからサービスしよう。」
そう言ってから綾小路に名前と質問をした後、再び水晶に手を翳して占い始めた。そして俺の顔を五度見してきた。俺、この婆さんに今後占ってもらいに来れる自信がもう無いよ。赤裸々が過ぎる。
「まずは綾小路とやらからじゃが、本気を出せばお主が誰かと付き合う事自体は容易じゃろうな。関係を長続きさせられるかどうかはお主次第じゃが、まあおそらく大丈夫じゃろう。」
婆さんの言葉を聞いた綾小路は少し嬉しそうに見える。よかったね。そんな感想をちょっと現実逃避気味に浮かべながらも、婆さんがじっと俺の目を見つめながら結果を伝えてきた。
「………お主、普通はとっくに刺されて死んでおるぞ。」
「分からなくもないけどもうちょっと言い方無かったのか、婆さん。」
「5人の女子と同時に付き合い始めたじゃろ、お主。上手く行く方がおかしいわい。」
「………お前、マジか。」
信じられないものを見る目で綾小路が見てくる。そして当たり前のように当ててくる婆さんに、俺はずっと恐怖している。評判通りどころか過小評価だろ、心すら見透かされてる気すらしてる。
「だが、驚いた事に問題は全く無いようじゃ。泣かせんようにしなさい、わしから言えるのはそれくらいじゃ。」
「…ご忠告、痛み入ります。」
これで占いは終わり、口止め料に10万ポイントほど渡して天幕から去った。やはり世の中は広いんだなとなんとなく思った。ついでにこんな所で占いやってんじゃねえよともちょっと思った。次の予定である飯屋へ歩きながら、綾小路が言ってきた。
「…誰と付き合うのか、今日聞こうとは思っていたが…想像をはるかに上回ってたぞ、比企谷。やはりお前を普通のカテゴリに入れる訳にはいかないな。」
「…俺もお前には伝えるつもりだったが…とんでもない婆さんだったな。今まで生きてきて一番背筋が凍ったぞ。」
「お前、今まで見た事が無いくらい動揺してたからな。…色々と聞いてみたいが、とりあえず今日の目的を優先するか。」
根掘り葉掘り聞かない情が綾小路にも有った。この後は予定通り飯食ったりスイーツを堪能したり、本屋に寄って読んでみたい漫画からおすすめの漫画を教え、粗方回りたい所に行ってから寮に戻って別れた。占い以外は悪くない一日だったと思う。
なお、強引に男二人で入ったせいで「あいつらデキてんのか?」と微妙に噂になりかけ、しばらくの間四六時中5人の誰かにくっつかれ続ける事になった。
この世界線の占い師さんは、ジョジョ5部の占い師くらいにはガチです。なので、八幡君の顔を見た時点で信じられないものを見たという気持ちになってました。八幡君は当たり過ぎて恐怖を覚えていましたが。