占い屋に恐怖した翌日に、色々と申請を出すために有栖と2人で職員室へと向かった。職員室に入ると空席が少し目立つものの、有栖が予め連絡を入れていたので真嶋先生が待ってくれていた。相談事があると伝えていたので指導室に案内された。
「坂柳、比企谷が一緒に聞いててもいいのか?」
「すみません真嶋先生、実は相談があるのは八幡くんの方でして。」
「比企谷が?…茶柱先生には話しにくい内容なのか?」
「はい。真嶋先生が一番関わりのある内容なので。」
不思議そうな顔の真嶋先生に、ポイントを見せながら4人分のAクラスへの移籍の申請をしたいと伝えた。ポイントを見てすぐに、口を開けて目玉が飛び出るほど驚いた表情に変わった。大分面白い顔になっておられる。笑いそうになるからやめてほしい。有栖もちょっと肩を震わせてるし。
「………比企谷、お前だったのか。神域の天才は。」
「えっ、何ですかそれは…?いえ、ルーレットは確かにやりましたが。」
ごんぎつねみたいに言われた。っていうかあの時の俺、そんな風に呼ばれてたの?初日以降全くカジノに近寄らなかったから知らなかった。
「…大金をかっさらっていったというのに、最初から最後まで誰よりも静かな目のままだった男が居たと騒ぎになっていた。高円寺とやり取りしていたから生徒だと分かったらしい。」
「…八幡くん、高円寺くんは知っているのですか?」
「ああ、あいつもカジノに来ていた。一応俺だと分からんように変装はしていったが、あっさりバレたな。で、成り行きであいつの100万ポイントも一緒に賭けた。だからあいつも自由に動ける身分だな。」
「高円寺に誰なのか尋ねたそうだが、笑っているだけで一切の情報を得られなかったそうだ。船上試験でプライベートポイントを積極的に取りに来ていたから、比企谷を候補から外した。」
50万が雀の涙みたいな額だからな、そう考えるのも無理はない。俺も先生と同じ立場だったら、同じ結論になるだろう。
「…ポイントを大量に使っても違和感のない状況にする事が目的でしたからね。正直に言うとポイントが増えすぎて逆に困っています、この学校だと力ずくで奪われてもおかしくないですからね。」
その言葉に真嶋先生が何かを言おうとしたが口を閉じた。真嶋先生の本心は兎も角、この学校の方針を考えたらまあ無理よね。社会に出たらこういう風に蹴落としてくるかもしれないという予行演習だと、俺は割り切ってるけど。
「それよりも移籍の手続きをお願いします。他の3人からも予め了承は得ています。」
「あ、ああ…。その前に、ここまでのポイントだから前もって一つ説明しておこう。卒業時にポイントは没収すると説明されているはずだが、1:1ではないがポイントは卒業前に現金化する事が出来る。それでも問題はないか?」
「はい、問題ありません。」
減ったとしても1億以上残るのである、全然問題ない。
「では、クラス移籍する者の名前を教えてくれ。」
「はい。Dクラスの比企谷八幡、綾小路清隆、櫛田桔梗と、Cクラスの椎名ひよりです。」
桔梗の名前を出したあたりで真嶋先生の目が一瞬見開かれて、すぐに納得したような顔をした。多分クラスの要になり得る人物を連れて行くから、より茶柱先生に言いにくかったんだろうと考えたのだろう。ある意味今回の件に関しては桔梗とひよりはおまけの立ち位置になってしまうのだが。
8000万ポイントを支払い、移籍の契約が完了した。一安心であるが、まだ終わりではない。
「真嶋先生。次に部屋の購入と下見をしたいのですが。1000万の部屋です。」
「………結構広いけど大丈夫か?」
「共同部屋にするのでおそらく問題無いです。色々と物を置く予定でもありますし。」
「…ポイントを見た後だから納得できるが、今後を含めても歴代で一番ポイント遣いが荒い生徒はお前になるだろうな。」
確かにそうかもしれない。でも学校側も悪いんですよ、先生が生徒を脅してくるんだから。過剰防衛なのは俺も薄々承知しているが、何してくるか分からない以上これくらいは稼いでおく方が安心できる。
部屋の購入を済ませ、部屋の場所が書かれた紙と鍵を渡された。この後は真嶋先生におすすめの飯屋を教えて貰ったくらいで話は終わり、お礼を言ってから職員室を出た。出た直後に腕に重さを感じ、横を見ると有栖が嬉しそうな顔で微笑んでいる。
「ふふっ、こんなにも早く八幡くんと一緒に暮らせるとは思っていなかったですよ。茶柱先生には心の底から感謝してますよ、一番欲しいプレゼントを下さったようなものですから。」
「俺の予定だと2年になってから、ポイントが貯まり次第移籍する予定ではあったな。部屋はまあ買えなかったと思う。…桔梗やひよりはともかく、綾小路とは袂を分かつ事になっていただろうな。」
優先順位を考えるとどうしてもそうなる。綾小路なら自分でなんとか出来そうだが、桔梗やひよりは厳しいだろうってのもある。我ながら強欲だが、どうあっても全員欲しい。
「………綾小路くんと八幡くんには悪いですが、やっぱり茶柱先生には感謝の念しか浮かびませんよ。私、そんなに待てるほど大人しく出来る自信もないですし。…聞くまでも無いと信じていますが、もし私たちが同じように脅迫されたら八幡くんは同じように助けてくれていましたか?」
「………仮定でしかないが、この程度じゃ済まなかったと思う。少なくともあと1回は勝てただろうし、今回ほど落ち着いて臨める自信が無い。」
「ふふふっ、そうですかそうですか。」
もしそうなったら完全に止めを刺すように動いただろうと想像するに難くない。大分危ない奴の発言でしかないが、俺の言葉に有栖は満足しているようだった。
引っ越し先の部屋を皆で確認して引っ越した後の生活を想像して喜んでいる皆を見た後、おおよそ最後のやり残しとも言える事を済ませに来た。龍園への借りを返す事と、ついでにひよりを貰っていった事を伝える事である。先にひよりについて伝えたので、今まさに胸倉を掴まれている。
「やりやがったな、テメェ…!」
「………お前の怒りは御尤もだが、先にもう一つの用件を済まさせてくれ。お前への借りをどう返すか少し考えたが、ポイントで支払う事にした。学生証を出してくれ。」
そう言うと一旦手を放し、学生証を突き付けるように出してきた。当初の予定だと2000万だったが、なんか思った以上に減らないポイントと、こいつが以前言ってきたひよりへの比重という言葉が引っかかったので1000万多めに送った。携帯を確認している龍園が見た事も無いほど驚いている。
「これほどの大金を惜しげも無く出しやがって…。テメェ、一体何しやがった。」
「…船でギャンブルをちょっとな。」
「…テメェだったのか、神域の天才とか呼ばれてる男は。」
「その通り名スッゲェ恥ずかしいんだけど。真嶋先生にも言われたわ。」
なんだよ神域って。本物のギャンブラーに当たったら普通に負けるわ、俺は人の領域でしかない…はずだし。
「…チッ、やってくれるぜ。優待者試験での策は、Aクラスへのダメージを減らすためだったのか。」
「いや、あの時言った事が殆どだぞ。後はせいぜい、Dクラスの人間がポイントで豪遊しても問題ない状態にしたかっただけだ。」
そもそも俺が動かんでも、有栖に動かれてたら速攻で終わっていた試験でもある。他の人からは俺の思い通りに動かしてるように見えて、その実バッチリ手加減されてるのでちょっと敗北感を覚えている。
「…で、どうする?俺を殴るか?一応殴られるつもりで来たが。」
「…落とし前に成り得るポイントを払った以上、今は見逃してやる。」
「…助かるわ。昔から苦手なんだよ、痛いのとか。」
「…度胸があるのか情けないのかどっちなんだ、テメェは。」
度胸はどっちかというと外付けだったりする。自分のためだったらどこまでも情けなくなれるし。
「一応お前も誘う事は考えたが………乗らないだろ?」
「たりめーだ、軍門に下る気は無え。喰い甲斐のある獲物が居なくなるってのもいただけねえ。」
「…お前のその闘争心は素直に尊敬出来るわ。」
目の前の獰猛な笑みを浮かべる男は、やはり油断してはいけないのだろう。他のクラスの連中が育ったとしても、こいつが一番厄介になるとしか思えない。話すべき事も話し終えたので、帰ると伝えて自分の部屋に戻った。気が変わったとか言われて殴られても嫌なので。
この後は密度の濃い1日だったのもあり眠くなってきたので、早めに寝る準備を進めた。寝る前にメールが届き、「夏休みの終わりに、一緒にプールに行きたい」と書かれていたので「分かった」と返してそのまま寝た。
ちなみに神域の天才は過言ではないです。八幡君が占いババアの存在で、自分以上の存在が居てもおかしくないと思っているだけなので。