新学期が始まり、おそらく平常運転だったのはBクラスだけだろう。様子を見に行ってる暇はないので予想になるが、多分DクラスとCクラスは5月頭のDクラス並の絶叫を上げているかもしれない。対照的にAクラスは4人移籍してきた影響で静まり返っていた。それでも自己紹介の時はなんとなくだが、桔梗とひよりに対してはちょっと男子がそわそわしていたように見える。俺は興味と困惑の目で見られ、綾小路は一部を除いて「誰?」みたいな目で見られていた。綾小路の実力を知ってる人は少ないから仕方ないが。
少しばかり窮屈になった教室の空席に4人で纏まって座った後、真嶋先生は体育祭の説明に入った。競技が多いのも気になるが、クラス毎に紅白に分かれての対決らしい。ちなみにAクラスはDクラスとのペアになるようだ。気まずい。桔梗も「あちゃー」みたいな顔をちょっとしているし。
それにしても種目が多いな。推薦種目まで含めたら最大12種目出場か。まあ昨日まで別クラスで実質外様みたいなものなので様子見しよう…と思っていたが。
「八幡くんと綾小路くんは、推薦種目全てに出場してください。期待していますよ?ああ、ペナルティの事なら気にしなくても大丈夫でしょう。学力に関しては他のクラスの影を踏むことはないですから。」
Aクラスのボスから直々に指令が下った。判断が早い。
「…新しいボスからご指名のようだぞ、綾小路。」
「お前もだろ。それにしても、少しは反対意見が出てくると思っていたが。坂柳のカリスマか、あるいは運動が苦手な生徒が多いのか…。」
「多分両方だろうな、反感を浮かべてそうな奴が居ねえし。…まあ負けない程度に力を発揮していけばいいんじゃねえのか?……高円寺と当たったら、あいつがやる気を出さないようにお祈りタイムだが。」
「ああ、あいつは自然災害みたいなものだからな。2位狙いが妥当になるだろう。」
言う様になったなあ、綾小路も。それはそれとして、俺たちに否は無いという事で全種目出場が決まった。
「ところで比企谷。遅いって事はないと思うけど、お前って走りはどうなんだ?」
「ああ、少なくとも泳ぎよりは得意だな。逃げ足の速さが唯一の自慢だし。」
「……もっと自慢できる事あるだろ。」
1時間目である程度の話し合いが行われ、2時間目は全学年の顔合わせを行うために体育館へ移動した。DクラスとCクラスの奴らが俺の顔を見てスッゲェ睨んでくる。まあそうなるよねって思うけど怖ぇよ。
3年生の先輩からのありがたいお言葉を聞いた後、各学年で方針についての話し合いの時間が設けられるようだ。葛城に「俺らが居たら纏まるものも纏まらんだろうから任せる」と告げて、有栖の横に控えた。
「ふふっ。熱烈な視線で見られてますねえ、八幡くん。裏切り者を見るような視線ですよ。」
「ようなっていうか裏切り者なんだけどな。…堀北は特に凄いな、絶対に問い詰めるという顔をしている。」
あっ、顔で「来い」ってジェスチャーしてきた。綾小路に事のあらましだけ言うと伝えたらOKが出たので、ぴったりと横にくっついていたひよりに離れて貰ってから堀北の方へ向かった。
「比企谷くん、どういう事か説明してもらうわよ。」
「…堀北、お前は理不尽に対してどう対処する?」
「…徹底抗戦するに決まってるけど、質問の意図が良く分からないわ。」
まあこれだけで分かるはずもない。堀北にある程度の納得をしてもらいたいがために、この質問をしただけだから。
「ある程度の同意が得たかっただけだ。そして今回の問題の根幹でもある。今から説明することを誰かに言ってもいいが、お前に得は一切無い。そして、絶対に動揺するな。クラスが揺れるからな。」
「…分かったわ。」
「事の発端は綾小路からの相談でな。船に乗る少し前に、茶柱先生から『本気を出さなければ退学させる』と脅されたんだってよ。」
堀北が目を見開いて驚いた。まあ、自分らの担任がそんな事言ってると思わんよね。俺も綾小路から話を聞いた時に頭を抱えたし。
「驚くな、ポーカーフェイスを貫け。…んで、自分の好きなように…自由にやりたいから何かいい手があれば助けてほしいと言われてな。だからとりあえず、元凶から離れてそう簡単に退学させるように働きかけなくなるかなって事でクラス移籍を計画した。」
「そんな大金、どうやって………。」
「ギャンブルで勝った、それだけだ。思ったより勝ったから、一緒のクラスになりたい奴も誘った。」
「…そんな事、出来る筈が無いわ………。」
「出来たから今こうなってるんだよ。」
茶柱先生の蛮行から、常識から外れた手段で自クラスを弱体化されて明確に弱っているように見える。でももう少しだけ話したい事があるから踏ん張ってほしい。
「…仮に茶柱先生にそんな権限があるとしたら、Aクラスになれなかった時に腹いせに退学にする事だって出来るって話でもあるしな。出来るかもしれないで逃げるなって言いたいかもしれんが、何考えてるのか分からなさすぎて怖かったしペナルティーも重いから、逃げる選択をした。…それにだ、堀北よ。」
「…?」
「理不尽には徹底抗戦するのは当たり前だよな?友達が訳の分からん理由で退学させられるかもしれないなら、徹底抗戦する材料としては十分だろう?」
そう言ったら堀北がちょっと慄いてる。いかん、ちょっと怒りが漏れていたか。言うべき事は終わったので、最後の仕上げとして堀北に学生証を出させ、優待者試験で得た3人分の200万ポイントを渡した。
「………施しのつもりかしら?」
「Dクラスでやるべき仕事の成果だったからな、それを提出しただけだ。…説明すべき事は全部言い終えたから戻る。じゃあな。」
まだ何か言いたそうな堀北を尻目に自クラスへ戻り、有栖の横に立った。決してDクラスには戻らないというポーズも少し含んではいる。無理だろうけど、恨むなら俺をDクラスに編入させた学校を恨んで欲しい。
「おかえりなさい、八幡くん。」
「…おう、ただいま。」
「Dクラスの方々は災難ですねえ。納得しようの無い理由で強いカードを3枚失ったのですから。」
嘘みたいだろう、誰もが見惚れそうなニッコニコの笑顔でこれ言ってるんだぜ。
「…言葉と顔が合っていないぞ。」
「すみません、嬉しさが零れてしまいました。…皆様は話し合いに行かれましたが、八幡くんはよろしいのですか?」
「流石に綾小路たちと違って、俺は元凶だからな。むしろあっさり和解した空気みたいになってる桔梗が怖い。…ひよりは俺よりも早くクラスに馴染めそうだから、安心を覚えたが。」
「帆波さんがクラスに溶け込めるように配慮してましたね。クラスの方々も本がお好きの方はそれなりに居ますので大丈夫でしょう。」
Cクラスから新天地に引っ張ってきたが孤立した、という事にならなくてよかった。したらしたでずっと隣に居させるつもりだったが。話し合いが終わったのか、クラス毎に集まってるようだが…なんか女子がじゃんけんし始めた。勝敗に一喜一憂しているようだが。
「…あいつら何やってんだ?」
「おそらくですが、ドラフトですね。くじの代わりにじゃんけんのようですが。」
「ドラフトって…二人三脚にしろ話し合いでペア決めるもんじゃねえのか?」
「Aクラスは運動能力で言えば、それほどの差はありませんからね。ああいう決め方でもまあいいでしょう。」
そういうもんなのか…とぼけっとしながら見ていたら最後に残った3人のうち、桔梗が負けてた。頭を抱えながら可愛い表情で「あぁー!」って言ってるが、アレマジで悔しがってるな。器用な子である。
「決勝は真澄と帆波か。何が何でも勝つって気迫感じるんだけど。」
「八幡くんと一緒に出たいのでしょう。他の男子には悪いのですが、八幡くんと一緒に参加するのとそうでないとでは天地ほどの差がありますので。」
「持ち上げすぎだろ。あいつらなら誰とやっても大抵勝てるだろうし。」
「…貴方は勝負が関わってくると途端に鈍くなる時がありますねえ。おっと、勝敗がつきましたね。帆波さんが崩れ落ちてますし。」
「にゃー!」と言いながら倒れるように床に転がったぞ、大丈夫か。勝った真澄は拳を天に突き上げている、ちょっとかっこいい。俺が見ている事に気付いたようで、真澄が小走りでこっちへ来た。
「…八幡、一緒に二人三脚に出てもらうわよ。」
「…そんなに凄まんでも断らんって。まあ、よろしくな。」
ちょっと不安の混じった表情から一転して、嬉しさを噛み締めたような表情になった。二人三脚のパートナー、男子よりも先に女子の方が先に決まるとは思わなかったが。ちょっと周りを見渡すと、綾小路と目が合い「俺とはどうだ?」って感じの気配を出してる、気がする。とりあえず保留で。
いつも通りのんびり書いてます。