綾小路や鬼頭と走ってた時の様子を見ていたのか、真澄も遠慮なく思いっきり走りよった。足が縺れて転ぶ危険性が高いから、もっと躊躇したほうが良いと思うのだが。終わった後、どいつもこいつも満足気な顔してるから言えないが。
「1人で走ってるみたいで、凄く走り易かったわ。…どうして綾小路と八幡はDクラスだったのかしら?Aクラスを見渡しても八幡たちほどやれる奴は居ないし…。」
「…まあ綾小路は分からんが、俺は中学時代の負債もあっただろうしな。中3の秋の終わり頃まで社交性皆無だったし。」
交流してる暇など無いと周りを気にしなかった俺が悪いが、周りと話が合わなかったのも理由の一つである。ラノベ読んでる奴もアニメ見てる奴も居なかったし、当時話題になってたドラマを俺は見ていなかった。そういう些細な事が原因だった。友達は欲しかったけど、自分から言い出せなかった奴でもあったのだが。
「多分だが、誰が相手でも1位を狙えそうだな。程ほどの練習で済ませて、他の練習に時間を当てても良いだろう。」
「…やだ、もっとやる。だって、こうやって一緒に協力してやれる事なんて少ないだろうし。」
ちょっと駄々っ子が入っているが、練習をサボりたいとかいうわけでもないので却下は出来ん。そんなにやらなくても真澄となら余裕をもって1位になれる気はするが。
「…あんまり長い時間は取れんぞ?」
「…うん。体育祭当日まで1日1回だけでいいから。」
「多くない?」
「減らした方よ。」
せいぜい3日に1回くらいやっときゃいいと思う。そんな俺の思惑が読まれてるのか、頭をぐりぐりしてきた。外だよ?大丈夫?周りからのジーっとした視線も感じるし、観念して受け入れた。
「今日は初回だから、後2回やっておきましょう?」
「…おう。」
キャンペーンか何かかな?と思いつつ後2回やって、ひとまず満足したのか緩んだ口元のまま真澄は別の練習へ移った。他に練習している奴らを見ると、綾小路も女子と二人三脚の練習をしている。女子が誰かなと見たら、たまにスパイとして諜報活動してるっぽい所を見かける事のあった子だった。
お礼を言ってるであろう綾小路とめっちゃペコペコしてる子の姿を見るに、二人三脚の練習は終えるようだ。それぞれの練習に分かれたであろう綾小路がこっちに来てるし。
「…綾小路は山村と組んだんだな。っていうか、速い奴と組むわけでもないんだな。」
「ペナルティ回避のため参加するらしいが、影が薄いとかでペアがまだ決まってなかったと言ってたな。」
「………そういえばお前ですら、たまに山村が偵察に来ていた事に気付いてなかったっけ。まるでくの一だな、あの子は。」
俺がそう言うと本当に気付いていなかったようで、大分驚いている。
「俺が気付けなかった、だと………。比企谷、お前は気づいていたのか?」
「本当に何となくだったんだが、自販機で飲み物を買おうと思ったら人の気配がかすかに感じてな。自販機の横を見たら、観葉植物の後ろに山村が立っててスッゲェビビった。俺以外の誰かにバレてない以上、忍者の末裔だって言われても俺は信じるぞ。」
それはそれでロマンあるし。ちなみにその時顔を覚えたからか、背景に溶け込もうとしている彼女を見つけられるようになった。仕事中だろうしCクラスの偵察だったから気付かないフリをしていたが。
「…目立たない姿は擬態だった、という事か。Aクラスも人材が豊富のようだな。」
「………いや、有栖に聞いたけど生まれつき人に見つけて貰えない子だったらしい。多分だけど、お前に誘ってもらえて嬉しかったんじゃねえかな。」
「………そうか。」
綾小路が山村から離れた時に、遠目ながら「あっ…。」って感じの寂しそうな顔してたし。顔を合わせて早々にそういう顔をさせるあたり、こいつは相当なタラシかもしれない。佐倉もこいつに気がある様子だったし。
「…せっかく一緒にやる事になったんだし、難しいかもしれんがコミュニケーションを取るのもいいんじゃねえかな。相手の趣味を聞いてみるとか、何が好きとか。ちなみに俺はやれる自信は無い。」
「無いのかよ。…だがお前の言う事も分かる。青春っぽい感じで悪くないし、なんとかやってみるさ。」
「おう。まあお前なら悪い事にはならんと思うぞ。ガンガン詰めるよりはやんわりと聞いてやるほうが良いタイプっぽいし。」
「なるほど、参考にする。」
それっぽく言ってるものの、俺は誰かを口説いた経験など無い。合ってるか分からんけどいいのかなと思いつつも、綾小路なら上手い事やれるだろうという気がするので良しとした。早速実践してみるようで、綾小路は山村の所へ戻っていった。
手が空いたので、自分でも過保護かなとは思うけどひよりの様子を見る事にした。運動はあまり得意じゃないとは聞いていたが、桔梗と一緒に練習している様子を見るに下から数えた方が早いという事が判明した。すでにヘロヘロだし。桔梗の顔を見ると首を横に振った。
「…ひよりちゃん、これからは普段も少しずつ運動しよ?」
「………はぁーい…。」
力弱い返事である。ひよりもやった方が良いのは分かっているだろうけど、運動をするより本を読むのが楽しすぎて時間を割いてこなかった結果が返事に表れている。やる気を出させるなら飴を出すのが一番手っ取り早いが、どうしたものか。
「ほら、八幡くんもひよりちゃんに何か元気が出るように言ってあげて?」
「お、おう…。ひより、運動が苦手なのは何となく分かるし嫌なのも分かった。けど、これからの学校生活でも必要な能力になる。少しずつでいいから頑張ろうぜ。…何か俺にして欲しい事や手伝ってほしい事があれば手を貸すから。」
「………ほっぺにキスしてください。そうしてもらえれば頑張れます。」
「ちょっと?ひよりちゃん?」
時折爆弾を落としてくるけど、とんでもない爆弾を落としてきよったな。ひよりの目を見ると、疲れの中に期待と逃げが見える。やってもらえたら嬉しいけどやって貰えなさそう、なら嫌いな事から逃げられる言葉を選んだって所だろうか。しかし俺も逃す気はない、ならやる事は一つである。誰かに見られてない事を祈りつつ、ひよりの頬にキスをした。
「………オーバーワークに気を付けながら頑張れよ?応援してる。必要なら手も貸すからな?」
「………は、はいっ…。」
キスをした後、聞こえないとか言い訳されないように耳元で伝えた。くすぐったかったのか、ひよりの顔が真っ赤になっていた。これでどうだろうと尋ねるように桔梗を見たら、笑顔だけど目が笑ってなかった。「誰がそこまでやれと言った」って感じの目である。
「やりすぎだよ、この女ッ誑し…!」
「………ダメなやり方だったか?彼氏ならこれくらいはやるもんかなって思ったんだが。」
「軽い気持ちでフルコース出して来るんじゃないわよ。……………私にも同じ事、して。」
ひより以上に桔梗は注目度が高いから、いろんな人に見られそうなのだが。しかしそんな事を気にするくらいなら最初から5股などするべきではない。顔を赤くしている桔梗に、ひよりの時と同じようにキスをした。
「………普段の桔梗がそうじゃない訳じゃねえけど、こうやって自分の感情を絞り出してお願いする時のお前って本当に可愛いよな。」
「…!あんた、それをやめっ………いや、やっぱりなんでもない。何も問題ないよ。………またお願いするからよろしくねっ。」
お気に召さなかったのかそうでないのか、よく分からんが問題は無いらしい。2人の顔が赤いのと、目が据わっているのは気になるが。
「…とりあえず、やる気出たか?」
「はい、今日は頑張れそうです。明日もお願いします。」
「そうだね、明日もやってもらえるならさらにやる気が出るね。…嫌とは言わないよねっ?」
「………おう。次からは、出来れば人目に付かないように頼む。」
恥ずかしくないわけではない、というかかなり恥ずかしいから断りたかった。だが、2人ともYESしか聞き入れる気がなさそうである。船の時と同じ笑顔してるのを見て、やるしかねえかと観念した。それはそれとして、こっちを興味深そうに見ている綾小路と、顔を真っ赤にしながらガン見してきている山村の姿が見えた。バッチリ見られてるじゃねえか。
このまま突っ立ってても仕方ないので、休憩は終わりという事で俺たちは練習に戻った。練習は問題なく終わったが、寝る前に有栖に今日の出来事について追及された。優秀な諜報員に見られていたが、そういう事も報告するのか…。「私たちにもお願いしますね」と言われて、有栖と帆波にも同じようにやってから寝る事になった。
ちなみに、後日それを聞いた真澄はめっちゃ拗ねた。同じ事をしてどうにか機嫌を直してもらったが。
八幡君が山村さんに気付けたのは本当に偶然です。「この観葉植物、何か変です…。」くらいの感覚で見つけました。