二人三脚は平和に終わった。むしろ、全然遠慮のない鬼頭が一番の難敵だったかもしれない。ぶっちぎりの1位ではあったが。
「…もう少し優しくしてくれてもいいんだぞ?転んだら危ねえし。」
「…比企谷相手には必要無いだろう。それに、障害物走の時に全くスピードを落とさなかったお前なら、この程度危険でもない。」
確かにやれなくはない事ばかりではあるが、鬼頭といい綾小路といい、俺への信頼が妙に厚い。そのうちマジの無茶振りが飛んできそうでちょっと怖い。
「…しかしここまでやり易いと、来年お前と組めなかった場合が少し怖いな。」
「あー……来年は綾小路とやるかもしれんしな。今よりもクラスポイントに余裕が出来る状態かもしれんし。」
「………そういえば体育祭を捨てる考えの奴に対してのお前は、底冷えするような恐ろしさだったな。」
「『運動を捨てて、学力面だけ頑張るのか。なんだ、Dクラスの中堅と大差ねえな。』って言ったくらいだが。そんなに大した事でもないだろう。」
「……その意見に反論した奴に『お前より優れている奴が頑張っている中、お前は頑張らないって事か。じゃあ、卒業する時のお前には何が残るんだ?』と追い打ちをしていたな。それをお前と目を合わせながら言われるのは相応に重い。比企谷の目は、たまに深淵のように暗く見える。」
「………ただの疲れ目なだけなんだが。」
昔頑張り過ぎた反動なのだろう、普段から眠そうとか疲れてそうってよく言われる目になってしまった。少し冷たい目をすると、場が凍り付くかのような冷たい目に見えるって言われてこっそりショックを受けていたりする。
解決策というか薄まる手段として帆波がプレゼントしてくれた眼鏡を掛ければ緩和されるらしいのだが、眼鏡を送ってくれた張本人から人前でつけちゃいけないと禁止されている。「女の子が群がるからダメ」という理由らしい。贔屓目で見過ぎだと思っているが、見た事の無いくらいマジな目で見られながら言われたので、素直に従っている。
「まあクラスメイトの体育祭に向けて頑張りは認めるが、今年の体育祭は下から数えた方が早いだろうな。残念ながら、全体的に見るとAクラスは他のクラスに比べて運動能力で劣ってるし。」
「…今回のクラス対抗は勝てないか。」
「今回は皮肉にも龍園のおかげで最下位は避けられそうだが、本来なら勝ち目は無い。…例年通りAからDで本当に優劣が決まるようなクラス分けをしているなら、体育祭を捨ててもいいって俺も言うんだが。俺らの代に限って、何故かA以外にも優秀な奴がちらほら居るからなぁ…。」
そもそも綾小路がDクラスにクラス分けされた時点でおかしい。テストの点数を全部50点に出来るような奴を、そもそも学校側がスルーしたというのもおかしな話だ。俺個人としては、生まれて初めて出来た念願の男友達だったから有難い事でもあったが。
「別に俺は鬼頭みたいに立派な夢がある訳でもねえから、Aクラスで終わろうがDクラスで終わろうがどうでもいいけどな。」
「その割には、誰よりも動いているようだが。」
「……舐めた口叩く以上、行動で示さなきゃ話にならんからな。」
実際の所7割で動いているので、手を抜いている事になるのだが。
騎馬戦の時間が迫り、葛城から何か良い手か気を付ける事は無いかと聞かれた。クラスメイトもちょっと期待した目で見てくる。しかし俺に名案など全く無い。綾小路にも目で聞いてみたが、首を横に振られた。となると、有効な策は一つしかないだろう。
「………良い手は無いな。精々龍園とかキレてる奴に絶対近寄らないとかそれくらいじゃねえかな。龍園はさっきの綱引きで分かったと思うけど、確実にイヤらしい手段を使ってくるぞ。龍園以外を削って、後は逃げ回って時間切れを狙うのがいいんじゃねえかな…。」
「見栄えは悪くなりそうだなぁ…。」
「俺もそう思う。ただこれが最後の競技って訳じゃねえから、怪我したら後の競技に響く。そう考えると、いっそ騎馬戦を捨てたいくらいだ。……それと、なんとなくだが俺の予想だと須藤が龍園に挑発されて、瞬間湯沸かし器になるから絶対に近づくな。特に葛城。」
「…何故近寄ってはいけないのか聞かせてくれ。」
「だってあいつも暴力に躊躇がねえじゃん。龍園に挑発されて頭に血が上ってたら、止めようとした奴を殴る可能性の方が高い…というか殴る。俺はあいつが6月にボコボコにしたCクラスの奴の顔を忘れてねえぞ。」
須藤があれから精神的に成長をしてるのであればこんな事を言う必要も無いのだが。今日の様子を見る限りでは変化の兆しは見えてないので、おそらくそのままだろう。
「葛城の人に対して思い遣りのある所は尊敬出来るが、今回はやめておいた方が良い。…つーか須藤が熱くなってる所に止めようとしたら『うるせえ!』の一言で騎馬ごと粉砕される未来しか見えないから、絶対近付くな。」
「………分かった、参考にしよう。」
俺の中での須藤への信頼は100%と言えるだろう。アイツは絶対にやらかすと信じている。なので口に出して言うつもりは無いが、散々暴れて貰って最後は龍園にやられるのを見守るのが今回一番良い作戦になる。同じ組ではあるけど同じクラスではないからね。
騎馬戦が始まり、予想通り須藤が大暴れしている。Cクラスの奴ら全員が鉢巻を取りにくく細工したかもしれないと予想もしていたが、鉢巻を掴んだら難なく取れているようなのでおそらく龍園だけだろう。戦況は一進一退だが、須藤の活躍により優勢に進められている。ちなみに俺たちは付かず離れずで逃げ回っていた。
騎馬の数も大分減り、白組は龍園の騎馬を含めて2,3騎になっていた。ちなみに騎手の綾小路に龍園を確認してもらっていたが、鉢巻を掴んでも手が滑るようにすっぽ抜けていたようだ。おそらくワックスか何かだろう。
「やっぱ無理そうだな。龍園のネチョってる鉢巻を無理に取りに行かない方がいいだろう。」
「ああ、そうだな。龍園の気持ち悪い鉢巻は取りに行くべきではないな。」
「…競技中にあまり笑わせてくれるな。」
綾小路と軽口を叩いてたら前を担当してる鬼頭が肩を震わせている。龍園の小細工に手も足も出ないのは事実で、何か言わないと気が済まないのでこれくらいは許してほしい。葛城の方もすでに逃げるために龍園から距離を取っている。良い判断だ。
敵の騎馬から距離を離しつつ須藤と龍園の一騎打ちを遠目に見ていたが、龍園のヌルヌル鉢巻の前に屈して敗北していた。シンプルだけど効果的だなと思いながらそのまま逃げ続け、時間切れで最後まで生き残って騎馬戦は終了した。ありゃあ龍園の鉢巻より龍園の髪の毛を掴んだ方が可能性あるわ。平和な学校生活が確実に遠のくだろうから不採用だろうけど。
テントに戻り、定位置になったボスの隣に座る。反対隣りには綾小路が座った。そのまま一緒に女子の騎馬戦を見ているが、押されてる様子を見るにどうやらAクラスの女子は男子以上に運動が苦手のようだ。今年はしょうがねえかあと思いながらDクラスの女子はどうかなと目線をずらしたら、堀北が集中攻撃を受けていた。
「堀北の奴、滅茶苦茶狙われてるな。」
「そうですね。堀北さんをデコイに後ろから攻めるのにちょうどいいでしょうから、こうなると思い予め帆波さんにも堀北さんが狙われると伝えてあります。今の帆波さんなら上手く立ち回ってくれるでしょう。」
「ああ、劣勢から五分くらいには持ち直せるだろう。…!?」
冷静な判断してるなーと思いながら聞いていたら、何故か綾小路がとんでもないものを見たような表情で驚愕している。疑問に思ってると指を前に出してその先を見ると、騎手を務めている山村が居た。
「………信じられない事だが、山村にやられた奴が鉢巻を取られたことにすら気付けていなかった。おそらく誰も山村たちを捕捉できてないぞ。」
「………有栖、あの子のあの動きも計算のうちなのか?」
「……………いえ。確かに頼りにしてはいますが、あそこまでとは…。」
じっくり見ると鉢巻を取る動作が上手いのもあるが、後ろを取られた相手が、鉢巻を取られた後も特に気付いていない。あの子、やっぱりくの一では?だがそれでも全体的な地力では負けてるのでまだ押されていたが、運動出来る組…というか帆波と真澄が堀北をデコイに大分働いて、女子の騎馬戦は引き分けで終了した。
午前中の競技の山場はここまでで、残った200メートル走は特に何かを仕掛けられる事もなく終わった。問題があったとすれば、一緒に走る奴に化け物を見る目で見られたのがちょっとショックだった事くらいである。
八幡君がのらりくらりと躱すことを選択しているのは、こういう事に関しては龍園君の方が上手だと理解しているからです。被害を最小限にという目標の元動いています。