最近一番不安になってる事が食事事情だったりする。以前より不味くなったのではなくその逆で、ずっと美味しい食事にありつけるようになった。5人とも料理が特技に書けるレベルなのだ。料理をしない訳ではないが、皆と比べると俺は腕が落ちる。
「…凄ぇ、金取れるレベルで弁当が美味い。普段の飯から間違いないのは知ってたけどここまでとは…。」
「小町から教えて貰った事はちゃんと覚えてるから、今後も期待してもらってもいいわよ?」
「ふっふっふ、八幡くんの好みの味付けは覚えたからねー。どんどん私たち無しでは生きられない体にしてあげるよ?」
「むふー」みたいな感じで真澄と帆波が得意気に言ってきた。口に出すのは恥ずかしいので言わないが、胃袋はもう落ちている。帆波が言う様に完全に好みを把握されており、「もう作ってあげない」と言われたらアメリカの軍人がカレー粉を取り上げられるくらいのダメージになる。
「八幡くんって食べる事が結構好きだよね。有栖ちゃんたちにタカってるって噂になってでも山菜定食を避けてたよねっ。あれ羨ましかったなー、私はポイント節約しなきゃいけなかったから、弁当を作る時間の無い日は山菜定食を食べるしかなかったし。」
「…悪かった、食事のレベルを落とす事だけは耐えられなかったんだ。」
確かに同じDクラスなのに良い物を毎日食ってたのは腹が立っても仕方がないかもしれない。しかしそういう訳でもなく、桔梗は慌てた様子で弁解してきた。
「あ、ううん。ごめんごめん、責めたかったわけじゃないよ。どっちかと言うと、八幡くんが美味しい物を食べてる時って、無邪気な顔で嬉しそうにしてるなって。良い意味で気を抜けてるなーって。」
「……俺ってそんなに気の抜けた表情で飯食ってる?」
「普段の八幡くんと比べると顔が緩んでいて無防備ですね。私たちが作ったものを嬉しそうに食べてくれて、食べ終わった後のお顔がいつも満足気でお礼も言ってくれるので作り甲斐があります。」
桔梗とひよりの言葉に、自分がそんなに表情に出すタイプだったと初めて理解した。地味に恥ずかしいが邪気の無い笑顔で「それがいい」と言われてしまった以上、止める事も出来なさそうである。複雑な気分になりながらも、弁当を食べ進めた。時折生暖かい目で見られながら。
昼休憩も終わり、借り物競争の時間になった。先輩方の「今年も変なお題ばっかりに当たるんだろうか」というぼやきが休憩中に聞こえてたので、ちょっと不安になっている。
自分の番が回ってきて、どうせお題次第なので同じレースの奴らと足並み揃えて走る。お題を引いて一喜一憂…いや嘆いてる奴しかいねえな。全員お題チェンジしたし。同じように俺もお題を引いたら「眼鏡をかけた生徒会長」だった、随分ピンポイントなお題である。運動する時に眼鏡を外す派だったらヤバかったが、さっき見た時は眼鏡を掛けながら走ってたから大丈夫だろう。
3年Aクラスのテントに行き堀北先輩が居るか尋ねた所、独特の威圧感を出しながら来てくれた。お題の説明をして一緒に来てくれるように頼んだが、何故か一つ条件を出された。俺、一応同じ色の味方だよ?
「ここからゴールまでトラック半周を、俺と一緒に全力で走れ。勝負だ。」
「………文句はありますが、他の連中がまだ良いお題を引けてないようなので良いですよ。今出せる全力で良いのなら。」
俺の言葉に堀北先輩は頷き、エキシビジョンマッチみたいな対決をする事になった。借り物競争中に何故か生徒会長と1年生が横並びになって構えてる様子に周りがどよめいている。誰かに何かを借りるという事はここまで苦労するのかと思いつつ、藤巻先輩の合図で同時にスタートを切った。
先輩らしからぬ強引さだとは思ったが、一度勝敗を明確にしておきたかったか…あるいは堀北に自分は無敵の存在ではないと知らせたいのかもしれない。この先勝ち抜くには自分の力だけでなく、周りの力も必要だと。ギリギリの勝負からならそれが少しでも伝わるかもしれないと、先輩なりの不器用なアプローチかもしれない。………まあ、それにしては滅茶苦茶速かったが。この人最後のリレーでアンカーやるんだろ、馬鹿じゃねえのか余力残せよと思うくらいには。
借り物競争に絶対不要なレベルのスピードで1着ゴールを決めた。堀北先輩とは同時のゴールインっぽかった。呆気に取られている真嶋先生にお題を渡し、「どうしてそうなったんだろう」みたいな表情をされながらもOKが出て1位が確定した。
「堀北先輩、ありがとうございました。…先輩も馬鹿になる時があるんですね、競技がまだ残ってるのに、そこまで全力を出して走るにはまだ早いでしょ。」
「分かりやすい形でお前と毎朝の決着を付けるにはいい機会だった。…ペナルティもない真剣勝負だったからな。」
堀北先輩でもこう言うほどの試験が続くのか、嫌になるな。龍園や有栖あたりは喜びそうだが。…それにしてもなんかスゲェ睨んでくるな、9割くらいでやったのがバレたか?
「………お前や綾小路が同じクラスに居るのなら、と思っていたが。俺の予想を遥かに上回る立ち回りだった。俺も見通しがまだまだ甘い。」
「…俺以外の移籍者は兎も角、俺は不良品ですよ。道具として振舞う事も出来ずに、予期せぬ動作をしましたから。つまり、そんなポンコツの挙動を読むのは不可能って事です。」
遠回しだが先輩なら感づくだろう、移籍した理由に。珍しくちょっと苦い顔したし。これ以上無駄話する気もなかったので、テントに戻る旨を伝えて別れた。テントに戻り、しばらく休憩する…つもりだったが、この後4度借り物として駆り出された。ひよりには『一番一緒に居て楽しい人』として、帆波には『一番頼りになる人』として、真澄には『隣に居てほしい人』として。クラスメイトのコイツマジかという視線を浴びつつ、桔梗も俺に来て欲しいと言ってきた。
「俺、便利すぎじゃない?どのお題でも対応出来る気がしてきたぞ。…んで、お題は何だったんだ?」
「…着いてからのお楽しみって事でお願いするねっ?」
口に出して言いにくいお題なのだろうか、桔梗がそう言ってきた。今の桔梗の表情からはちょっと読み取れそうにない、こやつもポーカーフェイスは上手いから。ゴールに到着して桔梗が真嶋先生にお題を渡し、確認をしている真嶋先生の顔が呆れた表情をしている。
「…一緒にデートをしたい人か。比企谷、お前いつか刺されるぞ。」
「夏休みに占い師のお婆さんにも似たような事を言われましたよ。」
刺殺されててもおかしくないって言われたっけな。綾小路との関係性の疑いが晴れた今ではちょっと懐かしい。
「それで八幡くん、デートはしてもらえるのかなっ?」
「ん、ああ。デート自体はいいけど、プランとか全然立てられねえぞ。」
逆にそういうのを全部すっ飛ばして、なんで彼女たちと肉体関係を持っているのか。誰かと遊ぶ事をしてこなかったり、女慣れしている訳でもない俺が悪いのだが。読書が趣味の人間だからインドア派でもあるし。
「いいよ、八幡くんがそういうの苦手なのは知ってるからね。色々と行きたい場所とかやりたい事に付いて来てもらうつもりだから。時間のある時によろしくねっ?」
「おう、分かった。…真嶋先生、お題はクリアって事でいいんでしょうか?」
「あ、ああ。Aクラスの櫛田は合格とする。」
OKが出たので1位が確定した。桔梗の方を向いて、無言で片手を上げた。桔梗からのハイタッチを受けて一緒にテントに戻る。
「予め聞いておきたいんだが、デートで行きたい場所ってどこなんだ?」
「…どこなんだろうね?」
「…おいおい。」
「…しょうがないじゃない、私だって男の子と2人でおでかけした事ないんだから。八幡くんと一緒ならどこでも楽しめそうだから、どこでもいいかなって………。」
「…おう。」
頬を染めながらギリギリ聞こえるような声で言ってきた。こやつもデレる事が多くなったが、普段との様子と違ってこういう風に子供っぽくデレるから破壊力が高い。この後、互いに無言になったままテントで座った。俺は俺で結構照れ臭かったし。
四方綱引きは意外と善戦したが、やはりCクラスは力自慢が多い。Dクラスは須藤が居るなら話は違っただろうが、キレて離席中である。そのおかげだろう、どうにか2位で決着を付けられた。
2度目の二人三脚が近づいてきているが、真澄と最後の話し合いしておいたほうがいいかなと思ったので1人で座ってる所に呼びかけた。こっちを向いてぽんぽんと座るように催促されたのでそのまま座ると、俺の肩に顔を乗っけながら腕に抱き着いてきた。そして何人かが崩れ落ちてるのが横目で見えた。そこそこの回数見てきた光景だけど、このクラス大丈夫か…?
「…一応次の種目の相談に来ただけなんだが。」
「…いいじゃない、息を合わせるために仲良くするのも意味が有るわよ。」
すでに十分仲は良いと思う、と言うのは野暮か。
「…まあいいか。俺も言う事は一つだけだ、練習通りに俺を気にせずに走ればいい。1位を取って終わらせるだけだ。」
「気にせずは無理ね、信頼してるから遠慮もしてこなかっただけよ。…練習もご褒美があって楽しかったし。」
拗ねた真澄の機嫌を直すためにやった事を、毎日要求してきたからね。あれ大分恥ずかしいし今でも慣れない事なんだけど、やらないと梃子でも動く気なかったからね、君。
「ああいうのは俺の領分じゃないから当分勘弁してくれ…。」
「やだ、まだまだやって貰う。…そういえばさっきの借り物競争で桔梗にも連れられてたけど、お題は何だったの?」
「ん、ああ。デートに行きたい人ってお題だった。ついでに約束もしたな、日時はまだ決まってないけど。」
「…やって貰う事が増えたわね。」
ぎゅっと腕を掴む力が少し強くなる。しばらく女をとっかえひっかえするクソ野郎ムーブを外でもする事になりそうだな。同性愛者疑惑よりはマシだが。
ちなみに二人三脚の結果はぶっちぎりの1位だった、真澄が本気で走ってるのとあまり速度が変わらないので。最後のリレーは一番手で、須藤が吹っ切れた表情で戻ってきて一緒に走る事になった。負けてやるほど俺は優しくないので、後塵を拝してもらったが。ちょっとずつ他のクラスに抜かれたのもあったが、アンカーの綾小路がなんか同時スタートした堀北先輩と猛スピードで追い上げたので3位だった。総合結果は3位に終わり紅組の勝利だったため、全クラスがマイナスを食らって体育祭は終了した。
どうにか終わらせたといった感じです。