11月に入った時点でのクラスメイトからの評価は「サイボーグみたいな男」と思われてるらしい。「本当にあんなメニューやってんのか?」と疑問に思って言ってきた奴と一緒に早朝のジョギングをした結果、その日のうちに「ナマ言ってすみませんでした。」と感情の無い声で謝ってきたからである。「1日置いてからまたやるけど、どうする?」って聞いたら首が取れるほど横に振っていた。その結果、畏怖を得た代わりに新たに友達が出来る気配が消えた。
ちなみに移籍組での人気は桔梗>ひより>綾小路>俺となっている。女性陣2人は言うまでも無く人気の出そうな要素ばかりで、綾小路は体育祭の活躍からちょいちょい人気が出始めている。俺は鬼頭と森下くらいである。2人居るだけ俺にしては良い方だし大して気にしてないが、格差はちょっと感じている。
11月も半分が過ぎ、問題作成にも一段落ついたようで桔梗を伴った有栖からカフェに誘われたので同行した。
「…Dクラスに居た頃は桔梗や綾小路と違って精力的に頑張ってきたとはあまり言えないが、今回さらに楽になって『こんなに楽していいのか?』って思ってるわ。」
「私はこれまでの特別試験で、特に何もしてきませんでしたからね。これでも少しは心苦しい部分もありましたよ、参加すらままならない体ですし。」
「たまに言葉に困る事言うよね、有栖ちゃん。…威厳を取り戻そうとしなくても、誰も有栖ちゃんを侮ってないから大丈夫だよ?」
両肘をついて顔を支えながら、ニコニコ笑顔で桔梗が言った。実際侮ってはいないし舐めてもいないだろうけど、可愛がりはまだまだ続行するつもりらしい。有栖は不服なのでジト目で見てきているが、文句は言わないあたりギリギリ受け入れられる事なのだろう。ちなみに桔梗は桔梗で「モチモチスベスベ肌、羨ましい…!」と悔しがりながら羨ましがってたりする。「お前も十分モチモチスベスベだろ」って言ったら「A5ランクとA4ランクくらいの差がある!」と言われた。正直、違いは未だによく分かってない。2人に顔を触らせてもらったけど全然分からなかったし。
「そういえば八幡くん、最近森下さんと親しくなさっているようですが…。」
「ん、ああ。そうかな…そうかな?」
「なんで疑問形なのかな?私から見ても森下さんが八幡くんに絡んでる時はイキイキしているように見えるし、八幡くんも楽しそうにしてるよっ。」
「…控えた方がいいか?」
彼女が居るのに別の女子と仲良くするのが嫌、という奴か。実際不義理と言われたらその通りなのだろう、人数を考えたら5倍は不義理だし。ダメと言われたら残念だが疎遠になるしかあるまい。
「いえ、八幡くんが止まっても森下さんが止まる気がしないので良いです。それに、八幡くんのそういう所は諦めていますから。」
「そうだね、よく分かるよ。身に覚えもあるからね。」
「………いや、遊び甲斐のある相手を見つけたってだけだろう。色気のある事やってるわけでもねえし。」
中々面白い考え方をする子だとは思っているが、向こうも俺が乗ってくると理解してるから提案をしてきてる節がある。
「…私みたいになる方になら賭けられるけど、有栖ちゃんはどう思う?」
「…賭けが成立しないでしょうね。自爆特攻すると決めた八幡くんを止めるのに『自分ではまだ無理』と言ってましたが、まだと仰った上に森下さんにしては珍しく目に力が宿っていましたからねえ。」
2人で俺に聞こえないように、内緒話をし始めた。2人とも「本当にこいつは…」という目をしているのが気になる。
「…こないだの放課後に森下さんが八幡くんにポーカーを挑んでてね。キリっとした目で『勝負です。貴方を倒せば私が学校最強です。』って。3回勝負してたよ。」
「…聞くまでもないのですが、勝敗は?」
「…八幡くんの全勝だったよ。最後はカードすら見てなかったね。……その後に『ぬわー!』って言いながら椅子を後ろに傾けてたらそのまま転びそうになって、慌てて八幡くんが肩をガッチリ掴んで持ち直させてたね。…その後何か言ってたみたいだけど、ちょっと雌の顔してたよ。こんな感じで。」
「…どうしてこう、私たちの想い人は人の心を掴むのが上手いんでしょうねえ?本人は全く意図していないのが猶更タチが悪いですよ。」
桔梗が有栖に携帯を見せている。何を言ってるのかは分からないが少し難しい顔をしているあたり、俺に文句があるのかもしれない。
「…直した方が良い事か?」
「いえ、八幡くんはそのままで…いいえ、そのままが良いです。」
「そうだね、そのままの方が恩恵があるからね。」
恩恵って何だよ。不満が全く無い訳ではないが許容出来て、呆れられてるようで得もあるから直すな、と………いや全く分からんわ。
頭を悩ませてると人影が差してきた。顔を上げるとクラスの王がいつもより少しマジな顔で立っていた。こいつがこの場に俺が居る事を知った理由は分からないが、噂を聞く限り何をしに来たのかは大体想像が付く。というか仮にも別クラスになった俺に聞きに来るとは、こいつのセンサーはどうなってんだ。
睨みつけてくる龍園をボーっと見る。桔梗は心配そうな顔をしているが、有栖はいつも通りの表情で紅茶を飲んでいる。「もう少し心配してくれてもいいのよ?」と思いつつも、しばらく静かな空気が場を支配していた。一旦諦めたのか、目線を切らずに舌打ちしてきた。
「チッ、相変わらず何を考えてるのか分からねえ目をしてやがる。…テメェじゃねえと分かっただけマシか。」
「…何を探してるのか知らんが、突っ立ってるだけならお店に迷惑だから何か頼むなり店を後にするなりしろよ。…あるいはパフェの美味しい店でビッグサイズのパフェを食うのもいいんじゃねえか?山田が知ってるはずだぞ。」
「………馬鹿やってる奴が黒幕なわけがなかったな。つーか黒幕だったら嫌になるな。」
「馬鹿は酷くない?俺も巻き込まれた側だぞ。」
俺の言葉を完全に無視して龍園は店を出て行った。去った後は少しずつ店の中も声が聞こえるようになり、龍園が来る前の状態に戻った。
念のため席を立ち周りを観察する。特に怪しい行動を取ってるとか動揺している奴が居ないのを確認して、机の下を確認する。特に怪しい物も付いてなかったので着席し直した。
「よし、問題はなさそうだな…。」
「…えっち。」
「…スケベですね。」
「えっ、何が?」
龍園の事だから盗撮や盗聴をしてきてもおかしくないなと念を入れただけなんだが。
「………女子の前で机の下を覗き見るのは流石に擁護できないかなっ。」
「………ごめんなさい。盗聴器の有無の確認がしたかったんです。他の物は見ては無いです、本当です。」
「………次からは何も言わずに行動に移すのはやめましょうね?」
駄目な子をあやすように注意された。全面的に俺が悪いから何も言えねえ。急に龍園が来たもんだから、警戒を優先してしまった。おのれ龍園…。
この日の夜に、皆から「見たいなら寮の中で」といった感じの説教を頂いた。なんかズレてる気もするが、大人しく「はい」と返事をした。付き合ってる相手だったからギリギリアウトで済んだだけで、他の女子相手だと完全にアウトだったので、俺なりに反省はした。
龍園からの絡みはこの一件以降は特に無く、12月の特別試験が終わるまで特に何事も無く過ごせた。ちなみにペーパーシャッフル自体は特に問題も無く、Bクラスに勝利した。風の噂だとCクラス対DクラスはDクラスが勝利し、どのクラスからも退学者は出なかったらしい。
ライブ感で書き続けているので、まあまあ今まで言ってきた事と食い違って来ています。