2学期の特別試験が全て終わったからか、龍園の黒幕探しがさらに活発化しているらしい。聞くところによると、いろんな場所に出没しているそうだ。まるで熊だな、アイツは。あるいは、イマイチ足取りが掴み切れてないから、しらみつぶしに探しているのかもしれない。2学期からの綾小路はどうにも情報を正確に拾えているし的確な助言を送れているあたり、Dクラスに仲間か部下が居るのかもしれない。そこまで攪乱されていてなお、俺にまで注目した龍園を褒めるべきでもある。あと一歩及ぶかどうかは奴次第だろう。
ちなみに事実確認として綾小路にそんな存在が居るのか聞いてみたが、「さあ、何のことか分からないな…比企谷。」とぼかされた。万が一俺から洩れるのを防ぐためってのもありそうだが、手元に奇妙な冒険を持っていたあたりちょっと言ってみたかったのかもしれない。無理をして聞きたい事でもないので話を終わらせて、その日は俺も同じ漫画を読んで過ごした。
まあどう動くか分からんが、綾小路なら自分で対策くらいするだろうから干渉していない。俺が武力コマンドに乏しい事は綾小路も知っているし。なので終業式まで大きなイベントも無いだろうと思っていたが、今届いたメールを見る限りそういうわけにもいかないらしい。南雲先輩から生徒会の書類整理を手伝えという内容のメールだった。
書類が無駄に多いとか引継ぎ後に流れて来た堀北先輩分の仕事量がえげつないとか聞いていたが、生徒会役員でもなく入る気もない俺に送ってくるあたり、この時期の仕事量は本当に多いのかもしれない。「俺を助けろ」とかいう取り繕う気ゼロの言葉で届いてきてるし。お世話になってる自覚はあるので承諾した。その際に、助っ人を1人連れて行っても良いかと聞いたら快諾されたあたり余程道連れが欲しいと見える。生徒会室に向かったら、南雲先輩1人だったし。助っ人の顔を見た先輩は一瞬固まっていたが。
「…助っ人とは聞いていたが、一之瀬とはな。こないだの女の子だと思ったぞ。」
「森下は多分誘っても断るでしょうね、『森の声を聞くのに忙しい』と言われそうな気がします。事情を聞かれたので伝えたら手伝ってくれるようで、間違いなく俺より役に立つので遠慮なく頼みました。」
「南雲先輩、お久しぶりです。手が多い方が良いと思って志願しました。」
「ああ、助かる。じゃあ早速だが手伝ってもらうぞ、出来れば今日中にほとんど終わらせたい。」
その言葉とは裏腹に、想像よりもずっと書類は残っているようだ。指示された書類の枚数も相当な量である、見ちゃまずい書類を省いても山が出来ているあたり生徒会はブラックなんだと実感する。内心安請け合いし過ぎたかとちょっと後悔しつつ、帆波と一緒に黙々と書類整理を進めた。
山のような書類に四苦八苦しながらも減らし続け、目に見えて減ってきた時に南雲先輩から話しかけられた。
「2人ともよく手伝ってくれた、巻き込んだ甲斐があったぜ。」
「…にしても溜めすぎでしょう。南雲先輩なら余裕綽々で終わらせているイメージが有ったんですが。」
「…なんだかんだ堀北先輩たちが抜けた穴が大きくてな。本来の予定だとクリスマスかその次の日くらいまでに終わらせる予定だったんだが………なんとなく自分が働いているのに他の奴らが遊んでいるのを想像したらイラついたからお前らを使った。……………なあ、生徒会に入らないか?」
「堀北先輩にも言った事ですが、今の状態が一番自由に動けて性に合っているので。…それに、仕事をしながらクラス間対決とかしたくないですよ。言ってはなんですが、先輩の代より俺らの代の方が厄介な奴が多いですから。」
「………そうかもしれんな。」
絶対的な一強になってる気がしないのがその証左である。3年は堀北先輩が、2年は南雲先輩が実質的な一強だろう。そういえば、綾小路が先輩らしき変わった人に絡まれたらしい。只者ではなさそうだとは言ってたが。
「そういえば2年に鬼龍院っていう人が居るそうですが、どんな人なんですか?」
「お前らの代で言えば、高円寺が一番近い女だな。…ここだけの話だが、アイツが本腰を入れてたのならもっと苦戦してただろうな。」
「高円寺みたいな人が先輩にも居るんですね………っていうか女子だったんですね。なんか質問をのらりくらりと躱してたら『私相手にその対応、度胸もあるようだ。気に入ったよ。』って返ってきたらしいので、ずっとランバ・ラルみたいな性格の男の先輩かと…。」
「やめろよ、アイツの顔を見るたびにオッサンを思い出して笑っちゃうだろ。」
苦笑いの南雲先輩が携帯を操作して俺たちに写真を見せてきたが、武骨な感じがまるでない滅茶苦茶美人な女子だった。うちのボスみたいに、自分に絶対の自信を持っている目をしているが。それはそれとして、セットでオッサンの顔が浮かんでしまう。しばらく会いたくない先輩になりそうだ。
今回はこれで終わりで良いと言って、まだもう少し書類を消化していくつもりの南雲先輩に送り出された。第一候補であった帆波を心変わりさせた俺が言うのも違うかもしれないが、結構な重労働なので俺たちが手を出さなくても良いようにもっと人を入れてくれと切に願う。
「思った以上の仕事量だったな…。帆波から志願してきたとはいえ、付き合わせて悪かったな。」
「ううん、これも良い経験だったよー。今日ほど大変ってわけじゃなかったけど、ちょっと懐かしさも感じたかな。」
「その経験も踏まえて助っ人を頼んだのもあるからな。正直俺が一番の役立たずだったわ。」
今日の仕事ぶりを見てもそうだが、帆波に欠点なんて存在するのかと思うくらいである。甘さが消えてる今、リーダーをやるとしても相当頼りになるだろうな。まあ帆波にその事を伝えたら、
「有栖ちゃんが居る以上、私がやる必要は無いかなー。作戦とか策に良いアドリブ利かせるように動ける人が多い方がいいでしょ?」
と言われた。学力はほぼトントンで運動能力は俺の方が上だが過剰かもしれんし、人望と判断力を踏まえると俺は帆波の下位互換かもしれない。
「…八幡くん、ジーっと見つめ続けてきてるけどどうしたのかな?」
「………いや、以前『甘い』とかナマ言ってすみませんでしたって考えてた。」
「キリっとした顔でそんな事考えてたの!?」
キリっとした顔かどうかは兎も角考えてました。今更ながらに何様だったんだろうね、俺。とりあえず思ってた事をそのまま帆波に伝えた。
「…でも八幡くんも仲の良い人は増えたよね。南雲先輩と結構親しそうだったし。」
「あー…一応一悶着はあったけど、決着はつかなかったけど決着がついたからな。」
「どういう事?とんちかな?」
「南雲先輩に帆波を寄越せと言われた。勝負した。引き分けだった。南雲先輩は諦めた。以上だ。」
「いや、全然分からないよ!?ちゃんと分かるように教えてよー。」
腕にガッチリ抱き着きながらも、ちょっと不満そうな声で催促された。内心で腕に感じる柔らかさを堪能しつつ、実際にやった事を説明した。
「麻雀牌を用意するのが大変だったからトランプでやったが、1~9の数字を出し合って数字の大きい方が勝ち。勝った方がカードを回収して、最後に回収したカードの数字の合計が大きい方が勝利ってゲームを南雲先輩と1回勝負してな。多分だけど、俺が今までで一番強かったのはこの勝負の時だったと思う。」
「…引き分けだったのに?その結果で、南雲先輩もなんで諦めたのかな?」
「全勝負で全部引き分けたからじゃねえかな。ラスト2回はやった所で意味がねえから終わろうとしたら『折角だから最後までやるぞ』って、なんかスッキリした顔してた南雲先輩に言われたし。」
ちなみにあの後から調子に乗ってる様子が鳴りを潜めたと、朝比奈先輩からお礼を言われながら伝えられた。「手も足も出なかったが、良い物が見れた」との事らしい。まあ、普段の俺なら無理な芸当だっただろうし、運とはいえ間違いなく全力を出し切ったとも言える。
帆波は計算して確率に驚いた顔をして、その後なんか難しい顔をしている。コロコロ変わる表情は見てて飽きない。
「八幡くんは、どうして勝ちじゃなくて引き分けを狙ったの?そこまでの事がやれるなら、普通に勝つくらい簡単だと思っちゃうんだけど…。」
「いや、当人も居ないのに勝手に決める事でもないだろう。それに、俺が言ってきたからって帆波の意思を無視して諦めさせるってのも違うし。当然、俺が負けて南雲先輩にそう言われるのも違う。だから全力で挑んだ結果、引き分けに終わらせられた。」
「八幡くんも大分変わった考え方してるよね、変な所で律儀っていうかなんていうか…。そこが良いんだけど。」
「俺は帆波の事が大好きだし、帆波は俺の事が大好きだと信じているが『それはそれ、これはこれ』だからな。互いの意思を無視するとロクな事にならんだろう。」
抱き着かれる力が強くなった気がしたが、とりあえず納得して貰えたようだ。なんか普段より顔が緩んでるが、機嫌も良さそうなので問題は無いだろう。
ちなみに後ろの方からこっそりと俺らの様子を南雲先輩は見ていたようで、「リア充滅びろって言ってる奴の気持ちが分かった」と後日言われた。普段の先輩も女子に囲まれてるのはたまに見かけてるから人の事言えないと思うのだが、書類仕事で物凄い疲れて錯乱したと解釈した。
八幡君と南雲先輩がやったのは、有名な「ナイン」です。八幡君もかつてないほど本気で挑んできたのと、南雲先輩にそれが伝わってきたので南雲先輩は満足しました。