「早速ですが櫛田桔梗、比企谷八幡の落とし方を教えてください。」
森下さんに相談があると言われ、カラオケに連れてこられての第一声がこれである。何言ってんだこいつ、そして本当にアイツは…と思った。そもそも落とす手段とかこっちが知りたいくらいだ、付き合う前に色仕掛け紛いの事をやっても効果は薄かったし、結局落とされたのは私の方である。
「一応聞きたいんだけど、どうして私に聞こうって思ったのかなっ?」
「他の4人と違って櫛田桔梗だけがこの学校からの付き合いですからね、境遇が一番近い者が一番参考になると判断しました。ある意味アドバンテージ抜きで落としたとも言えますから。5人も6人も変わらないだろうと思ったので、私もお世話になろうかと。…それしか道もなさそうですし。」
…八幡くんが「大分ぶっ飛んだ奴」って言ってたのをようやく心から理解した。まともなら、彼女が居る男の彼女になるという発想はまず生まれない。私たちもまともな選択を取らなかったのでよく分かる。
「…一応聞きたいのだけど、八幡くんの事が好きなんだよね?」
「……………はい。」
誤魔化したらその時点で話を打ち切られると察したのだろう、ストレートに返事を返してきた。意外にも初心だったようで相当恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながらちょっと睨んできている。良く分からない子だと思っていたが、可愛げもあるようだ。ちょっとした嗜虐心が生まれそうだが、真面目な話なので抑える。
「正直言って正攻法だと厳しいのは確かだね。誤解してるかもしれないから言うけど、八幡くんは男女の関係には堅物と言ってもいいくらいには真面目だからね。」
「…俄かには信じがたい、と言いたいところですがそうなんでしょうね。所謂ラッキースケベを何度か故意に狙って比企谷八幡に倒れ込むようよろけたり倒れようとしてみましたが、そうなる前に肩を掴まれて未然に防がれましたから。」
「人の彼氏に何してるのかな?」
「良いじゃないですか、未来の私の彼氏でもあります。」
負けをまるで考えてないな、この女。横恋慕を狙っているなら確率は0だが、そういう訳でもないので勝算が無いとは言えないだろう。しかし、私には方法を考える義務も義理も無い………が、同じ人が好きな子の気持ちを無碍に扱うのも抵抗がある。…以前の私なら鼻で笑っていただろうけど、八幡くんに私も変えられたのだろう。悪い気はしないけど。
それなりに八幡くんに響きそうな作戦を考えてみたものの、どれもピンと来ない。普通に告白しても玉砕するだけだし、勝負で決めるとしても勝ち目は無い。「この間八幡くんが私の為に真剣に勝負してくれたんだー」と帆波ちゃんが言っていたが、信じられない方法で引き分けにして相手に諦めさせたらしいし。その後理由を説明して「俺が駄目だと思ったら躊躇せず捨てろ」と言って、「私から八幡を奪おうとしないで…」と拡大解釈した真澄ちゃんに泣かれて慌てふためきながらあやしてた男とは同じ人物とは思えなかったが。全員でバッチリ説教した結果、珍しく縮こまってた。
「…うん、考えてみたけど有効な策が全然浮かばないね。」
「…むう。」
「という事で、八幡くんの落とし方をみんなで考えて欲しいんだ。」
呼び出して事情を聞いてもらい、難題を突き付けた。なんだかんだ八幡くんが大きく関わる事なので皆真剣に考えているけど、有栖ちゃんですら難しい顔をしている。
「…成功の目があるとすれば、全員で説得するくらいでしょうか。それでも『これ以上の不義理はちょっと』って言われて断られそうですが。」
「思った以上に難敵のようですね、比企谷八幡は。…男子高校生は、可愛い女の子にすぐ食いつく生き物なのではないんですか。」
「他の男の子はどうなのか分からないけど、八幡くんは鋼鉄くらい硬い倫理観だよ。無人島で私と真澄ちゃんに挟まれながら雑魚寝したけど、真っ先にぐっすり寝てたし。」
「………他の男子なら襲ってそうな状況ですね。なんとなく色仕掛けは効果が薄いと薄々感じていましたが、ひょっとしてそういう事にあまり興味が無いんですか?」
「………そういうわけでもないかなー。」
頬を染めて目を逸らしながら帆波ちゃんは言った。昨日一緒にやる事をやってたので、私もつい目を逸らした。私たちの様子から勘付いたようで、森下さんは顔を赤くした。
「……………元気が過ぎる気もしますが、男性として健全で何よりとしておきましょう。…少し話が脱線しました。他に篭絡する手段を思いついたならどんどん言葉に出してください。」
そう言われたものの、誰からも妙案が出る事がなく沈黙が続く。こういう時だけ山内や池みたいに脳が下半身に直結してる思考になってくれれば…と一瞬考えたが、そんな八幡くんは見たくないという気持ちの方が遥かに強かった。とはいえ一応薬の力を借りるのも策なので提言はするか。
「………八幡くんが精神力でねじ伏せるかもしれないけど、媚薬を一服盛っちゃう?」
「………それも一応は考えたのですが、まず不可能でしょうね。怪しい素振りを見せても駄目でしょうし、見せなくてもおそらくバレます。『動きが完璧すぎてかえって怪しい』と言われてしまいそうで…。」
「くそぅ、とんでもない化け物じゃないですか。」
ため息をつきながら有栖ちゃんが言ってきて、森下さんが頭を抱え出した。考えても考えても八幡くんの弱点が見当たらないから無理もない。
「…何かに弱いとか、そういったものはないんですか?」
「…ひよりちゃんと真澄ちゃんには弱いよ?」
「くそぅ、私には適用されない…。」
2人以外に甘くないとは言わないが、2人には特に甘いと言える。八幡くんがテレビを見ている時や本を読んでいる時に、どちらかが膝の上に座ってるのが日常茶飯時である。八幡くんが抱き締めたまま寝落ちして、そのままソファーに一緒に寝転んでいるのはちょくちょく見て来た。最近では一緒にお風呂に突撃して、強引に今後一緒にお風呂に入る許可をもぎ取っていた。私たちも便乗した。
「…なんだかAクラスで卒業を迎えるよりも難しい気がしてきました。」
「…ところでまだ聞いてなかったんだけど、八幡くんのどこが好きになったのかにゃ?」
帆波ちゃんの言葉で、好きか否かだけ聞いたままだったのを思い出した。5人でじーっと顔の赤くなった森下さんを見て待つ。ぐぬぬといった感じの表情をしていたが、意を決して言ってきた。
「………良い意味で子供っぽいところとか、無茶苦茶な提案でも乗ってくれたりとか…普段目に力が無いくせに、たまに優しい目でこっちを見てくる時とか………『しょうがねえなあ』で済ませてくれるところ、ですね。」
「ベタ惚れじゃないですか。」
「私だけがそうなのも悔しいじゃないですか。仮に今回振られるとしても何度もアタックして隣に居座るつもりですが、一泡吹かせたいので相談してます。後クリスマスには一緒に過ごす予定です。ダメだった場合は1人クリスマスになります。」
結構無茶苦茶言ってるが気持ちは分かる。胸を押し付けるように抱き締めても、照れもしなかったクソボケだったし。後、なんか物凄く悲しい事言ってる気がする。なんでかは知らないけど、小さいクリスマスツリーの横で体育座りをしてるこの子がなんとなく想像出来ちゃったし。
この後も皆で考えてみたものの、有効な策が浮かばなかったのでとにかく告白しまくるという案になった。それでいいのかと言われそうだけど、それ以外浮かばなかった相手だからしょうがない。私たちは悪くない、八幡くんが悪い…わけでもないけど。
何気なく、初の八幡君不在での話になりました。だからどーだこーだ言うわけでもないですが。