教室でも互いに名前を呼び合うようになった。まだまだ照れを隠せない藍を女子は興味深そうな目で見ている。俺は男子に羨んでる様なねめつけてる様な目で見られてる。トンチキな面を取り除いたら、藍は立派な美少女になるからな。男子の一人が羨ましすぎたのか「俺とお前で何が違うんだよぉ!」と言ってきたが、「うんのよさ」と伝えたらずっこけた。
「もう少しなんていうか、実力とか元々モテるとか納得しやすい理由をさあ。」
「いや、めぐり合わせが良かったとしか言い様がねえし…。学力は大差が無い、運動能力は俺の方が上かもしれんが決定的な要素でもない。人当たりは別に良いって訳でもないって考えたら後は運だけだろ。」
「…言っちゃ悪いけど、周りの奴を見下すタイプだってちょっと思ってた。」
「えっ、俺ってそんな風に思われてたの?………っていうか1人1人について全部把握してるわけでもねえんだし、舐めてかかるとか無理だろ。そこまで完璧な人間になった覚えは無い。」
龍園は探りを入れて「俺の敵じゃねえ」と判断しているらしいが、俺には出来そうにない。何時誰が覚醒して手強くなってもおかしくないだろう、ソースは俺。ちなみに有栖にそう言ったら「貴方のように台頭してくる方が、そんなに居るはずもないでしょう」と呆れられた。出会う前にやってきた事を話した時に、出来る出来ないより実行に移せてかつ達成出来る奴がまず居ないと言われたな。
「…っていうか、そもそも俺は元Dクラスだぞ。立ち位置考えりゃ見下すとか出来る訳ねえだろう。」
「…そういや比企谷ってDクラスだったな、櫛田さんや綾小路もだけどなんかDクラスっぽくなくて忘れてた。」
「そう言って貰えるなら、体育祭の頑張りは無駄じゃなかったな。」
「椎名さんは………なんでCクラスだったんだ?運動が出来ないのが足を引っ張ったのはなんとなく分かるけど、そこまで引っ張られるもんなのか?」
「………なんでだろうな、皆目見当もつかない。」
案外、生徒本人だけでなく親の経歴も評価に含まれていたのかもしれない。言っちゃ悪いがひよりの親父さんは売れない小説家さんらしいし、俺の両親は毎日夜遅くまで働いている社畜だから。憶測に過ぎないし大っぴらに言うような事でもないので、口には出さないが。
「俺ら以外にも堀北や、噂では体育祭以来勉強もちゃんとするようになって学力も伸びつつある須藤、一生眠れる獅子で居て欲しい高円寺とか居るな。これだけの面子が居るなら、あえて実力を隠してる奴も居るかもしれないな。」
「………ひょっとして、思った以上に俺らの代って戦力に差が無い?」
「例年だともっと早い段階で退学者が出てるらしいが、俺らの代は0人だから優秀なのは間違いないだろう。さらに、俺らは狙われる立場だから囲んで殴られる可能性もバッチリ有る。」
…というか堀北と須藤の場合は、今もなお助言を間接的に送り続けてる綾小路による影響もまあまあ有ったりする。「敵が弱いと舐める気持ちが生まれるから、ある程度の強さを持って貰うためにやっている」とは言っていたが、どっちかというと育成ゲーム感覚でちょっと楽しんでるな、アレは。
「…大分脱線したな。ぶっちゃけやれる事なんて自分磨いていくしかねえんじゃねえかな。何もせずただモテたいってのも虫のいい話だしよ。」
「……………ぐう。」
ぐうの音が出る時点でまだ余裕が有りそうだ。今後是非とも頑張って、クラスの星になってモテてほしい。別に俺は敵が強けりゃ強いほど燃えるタイプでもねえし、自分から行くタイプでもないのだから。
「2学期も終わりかー」と思いながら帰り支度をしていたら、ボスから同行を命じられた。何やら楽しいパーティがあるとの事らしい。綾小路と鬼頭も一緒に連れて行くあたり、まあロクでもないパーティなんだろう。
聞いてもニコニコして答えを言う気がないようなので深く考えるのをやめ、身長差の影響かうちのボスは宇宙の帝王感あるなと呑気してたら目的地に到着した。龍園とゆかいな仲間たちが高円寺を囲っている。っていうか結構な鉄火場だった。
「…ボス自ら情報収集かぁ。」
「それもありますが、最近の八幡くんはちょっと緩んでましたからねえ。喝入れも含んでます。…後は、お仕置きも。」
授業は真面目に受けていたが、それ以外の時間はボケっとしてたと言われたら否定は出来ない。お仕置きはおそらく、昨日の夜に藍に唆されて帆波がやってたような可愛がりを有栖にやった事だろう。命じた側も被害者も顔が真っ赤になっていた事は伝えておく。
それはそれとして、ライン越えスレスレの動きをしている辺り龍園は最後の詰めの作業に入っているのだろう。やっているかやっていないか、というよりは黒幕が出来そうな奴を締め上げるスタイルか。でなけりゃ高円寺には突っかからないだろう。クラス抗争とかマジで興味ない奴だし。
問答の後に龍園もそれを理解したようで、高円寺との会話を打ち切った。俺らも高円寺を見送って…と思ったら、高円寺がこっちに来た。
「あれから奇跡の再現は出来たかね、比企谷ボーイ?」
「………無理だな、二度と出来る気がしねえ。噂は噂として、与太話だったで流して欲しいんだが。というかよく信じる気になったな。」
「フッフッフ。他の者なら私も無理と断ずるが、比企谷ボーイなら話は別だ。…しかし、私の居ない場でそのような美しい光景を生み出した事はやはり頂けない。あの時は久々に怒りを覚えたよ。」
南雲先輩との勝負から2・3日くらい経った日にこいつから呼び出しのメールが届き、予定も無かったのでホイホイ行ったら胸倉を掴まれたのはバッチリ覚えている。「私の居ない所でそのような勝負をするのは無作法が過ぎるんじゃないかね?」という無茶苦茶な理論だった。まあまあキレてて怖かった。美しいものが好きとは言ってたし見ようによっては確かに美しい光景にもなるかもしれんが、突発的な勝負でもあったので勘弁してほしい。勝負と結果の理由を話したらある程度の納得をしていたが、次は見せる事と精進する事を約束させられている。なお、成長の兆しは全く見えていない。
「目が有るとしたら特別試験だろうな、内容にもよるけど。気長に待ってくれ。」
「仕方がないねぇ、あまり待たせないように。アデュー。」
そう言って高円寺は帰路に就いていった。気を取り直してどこまで話が進んだかなと視線を戻したが、全員がこっちを見ていた。勝手に話を進めてくれててもよかったのよ?
全員に呆れられつつも龍園に視線を向けるが、鋭さを感じない辺り俺は黒幕ではないと判断したらしい。というか綾小路に鋭い視線を一瞬向けてたので、最後の最後まで候補から外さなかったようだ。この様子だと、近いうちに衝突するやもしれない。
ちなみに有栖は特に何か言葉を発するわけでもなく成り行きを見守っていただけだった。後で聞いたら綾小路が龍園の様子を確認したかったらしく、カモフラージュになってほしいと頼まれていたらしい。結果はバッチリロックオンされているようで、ケリをつける必要があると言ってた。
時計の針をちょっと進めた回でした。